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ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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[韓国語の流行語]韓国社会で今年も続いている<甲の横暴>とは何か?

2014-05-05 19:59:55 | 韓国の時事関係(政治・経済・社会等)
 この「甲の横暴(갑의 횡포)」という言葉。韓国では昨年5月頃からよく使われるようになりました。「甲乙問題(갑을문제)」というようにも用いられます。
 昨年の韓国の流行語ですが、今もふつうに使われているようで、1つ前の記事でリンクを張ったKBSを批判したブログ記事(→コチラ)でもこの言葉が使われていました。

 で、意味はというと・・・。
 甲は甲乙の甲。商業上の契約書で、韓国でも日本同様当事者双方を通常単に「甲」「乙」と略称しますが、慣用的に相手側の「生殺与奪権」を握っている強者の側が「甲(갑.カプ)」、生きるために膝を屈しなければならない弱者の側が「乙(을.ウル)」とされています。書類上は甲乙関係ですが、実質的には上下関係、主従関係といったものです。
 この「甲」に属する者がその地位と力を利用していろんな場面で引き起こしているひどい行状(=갑질)のことを「甲の横暴」といいます。

 「甲乙関係」という言葉はすでに盧武鉉大統領の頃からあったそうですが、とくに「甲の横暴」が注目されたのは、昨年4~5月有力企業の関係者の「横暴」事件が相次いでメディアで大きく報道されてからです。
 それが次の3つの事件でした。

①大韓航空機内でのポスコ常務による女性乗務員への暴言・暴行事件
 2013年4月15日、仁川からロサンゼルスに向かう大韓航空機内ビジネスクラスで、ポスコエネルギー常務のA氏はラーメンを要求。ところが持ってきたラーメンが「塩辛い」等々クレームをつけて作り直しを何度も求めたり、「なぜラーメンを持ってこないのか」と雑誌で女性乗務員の目の上部分を殴ったり、・・・とあまりに非常識な言動の数々。着陸後、機長からの通報により出動したFBI要員が「入国後の拘束捜査」か「米国入国放棄後帰国」かの二者択一を迫った結果、A常務は数時間後の韓国行きの便で帰国した。
 ・・・ネットでは「ラーメン常務(라면 상무)」で通うになり、検索すると彼の画像(+ラーメン)までヒットします。当然ですが、こんなことでポストを外されるとは何とアホな・・・。

②プライムベーカリー会長がロッテホテルで駐車場担当支配人に対し暴言を吐くとともに財布で頬を叩いた事件
 4月24日ロッテホテルの駐車場で、会長の留めた車が他の車(国会議員の車等)の進入を妨げているため移動を要求したところ、会長は約15分間暴言を浴びせ続け、持っていた財布で3~4回、入っていたカードが10mくらい飛ぶほど強く支配人の頬を叩いた。
 ・・・プライムベーカリーは資本金5億3千万ウォンの中小企業ですが、伝統慶州パンや天安名物クルミ菓子を生産・販売してKTX等に納品している会社です。
 この事件が4月30日新聞で報じられると(→コチラ.韓国語)、「第二のラーメン事件か?」との反響をよび、ネチズンの非難が殺到して不買運動が始まり、90%を占める納品先のKORAIL(韓国鉄道公社)観光開発が同社製品の仕入れの一時停止を発表して、・・・と事態は拡大。ついには会長が廃業を宣言するに至りました。ネチズンの間では「廃業とは暴言よりひどい!」との声もありましたが・・・。
 その後どうなったか、私ヌルボ、ちょっと調べてみました。すると、今年2月の「ヘラルド経済」の記事(→コチラ(韓国語))に、同社は廃業せずこっそり営業を続け、資金難に遭いながらも現在も操業中だとか・・・。

③南陽乳業の営業社員が代理店の店主に<製品押し込み>(製品の購入強制)をした事件
 南陽乳業は、粉ミルク類50%、牛乳類25%、醗酵乳類32%のシェアを占める等、各種乳製品を生産する代表的な乳加工企業。この会社の営業社員が、販売代理店の店主に製品を買うことを強要する声が録音され、インターネットで公開されて不買運動が広がり、売り上げは35%下落、株価も急落。同社社長は、5月9日国民に対し謝罪した。(参照→「中央日報」(日本語版)。)
 ・・・この事件については、「ハンギョレ」(日本語版)でも5月7日以降継続して関連記事を載せています。5月8日の記事では、南陽乳業が本社次元で<製品押し込み>を指示していたこと、また7月9日の記事では、<押し込み>による売上が過去6年半で6,000億ウォンにも達していたことが伝えられています。
 その後、元代理店主が南陽乳業会社の「押し付け営業」による被害の補償を求めて訴訟を起こし、10月にソウル地裁で「被害全額(2086万ウォン)賠償」との判決が下されました。(→「東亜日報」(日本語版)。)
 ※この南陽乳業をめぐる問題については<レイバーネット>に諸情報が掲載されています。たとえば「南陽牛乳は悪くてソウル牛乳はいいのですか?」という記事(→コチラ)では傷んだ牛乳をめぐる製造元のソウル牛乳とのやりとりを紹介しつつ、代理店に責任を負わせようとする本社の姿勢を批判しています。(流通期限が迫った製品などを代理店に強制的に押しつけるという、南陽乳業と同様の構造があるようです。)
 ※この南陽乳業事件については、NHKでも報道されたそうです。(→コチラ参照。) 韓国社会のありようを象徴する問題と見たのか、日本にも相通じる問題と見たのか・・・。

 このようなことが次々と発生して、ネチズンたちだけでなく一般国民の間にも、「社会的地位の優越感に浸って他の人々を無視する「甲」の会社の社員の言動で会社自体の姿がよくわかる。その代価は必ず支払わなければ」という反応が噴出したのです。

 こうした声が高まる中、進歩性向の「京郷(キョンヒャン)新聞」は5月6日~6月17日<甲の横暴 乙の涙(갑의 횡포 을의 눈물)>と題した連載企画記事を掲載しました。
 これは各業界の「甲乙問題」の実態を具体的に取材した、なかなか力の入った連載でした。
 そこで取り上げられている「甲乙関係」は次のようなものです。

[甲] 大手百貨店 [乙] テナント
[甲] 大手のパンチェーン店本社 [乙] フランチャイズ店店長
[甲] 運輸会社(ex.CJ大韓通運) [乙] 所属宅配ドライバー
[甲] コンビニチェーン本社(ex.GS25) [乙] フランチャイズ店店長
[甲] 建設会社 [乙] 下請業者
[甲] TVショッピング会社 [乙] ベンダー
[甲] 総合酒類卸売業者(麹醇堂系) [乙] 販売代理店等
[甲] 銀行 [乙] 中小企業
[甲] 大手の乳業会社(南陽乳業) [乙] 販売代理店
[甲] 有力な外資系の産業用ソフトウェア製造会社 [乙] 小規模なソフトウェアの販売代理店
[甲] 有力テレビ局 [乙] 番組制作会社
[甲] (音楽の配信を扱う)音源流通社・通信社 [乙]ミュージシャン等々多くの音楽産業関係者


 ・・・私ヌルボ、これらに目を通して思ったのは、本社とフランチャイズ店をめぐる問題、大手企業と下請の間の問題等々、日本と共通するものがほとんどということ。(日本では、[甲]大型スーパーチェーンと[乙]納品業者というのもあるなー。たぶん韓国にも?)
 ただ、記事に書かれた具体的事例を見ると、日韓の商業上の慣行や「常識」の違いもあるようです。
 しかし、日本では「乙」から「甲」への接待やプレゼント等はどれくらいあるものなのか、ヌルボはその方面のことは全く疎いので、なんとも書きようがありません。
 また「甲」から「乙」へのいろんな押しつけの実態もよくわかりません。
 上記「京郷新聞」の連載記事中には、たとえば百貨店のテナントの化粧品会社社員が店内の掃除を百貨店側から命じられたり、宅配で原因不明の配達事故も無条件で宅配ドライバーに責任転嫁されるとか、さまざまな事例が紹介されていますが・・・。

 一応、このあたりは違うかも、と思ったのは韓国では日本に比べると「地位のある人はエラそうにふるまう」傾向が強いということ。上述の①や②の常務や会長のふるまいもその例では・・・。ずっと以前何かの本で、韓国では社長が朝早く出勤して掃除なんかしていたら馬鹿にされるということを読みました。

 もう1つは、日韓の「緻密さ」の違い。これも「京郷新聞」の記事(→コチラ)で紹介されている日韓のコンビニのフランチャイズ店加盟手続きの比較を見ればわかります。日本が説明・面接・先輩店長との話等を経て3~6ヵ月をかけて開店するのに対し、韓国はその多くを省略して2週間(!)~2ヵ月で開店するという早さ! 店主が十分な情報を持つことにくく、「甲」に有利な契約がなされる可能性も高いというわけです。
 また、この記事の見出しには「共生(공생)の意識なく、関連法律ばかり多い」とありますが、もしかしたら、この「共生」や、「共存共栄」といった理念の点にも差がある、かどうか・・・? これについてはさらに検証してみないと正確なところはわかりませんが・・・。
 しかしこれらのことは、もしかして「日本は韓国よりずっと(?)マシ」だとしても、そのことを胸を張って言えるようなものでは全然ありません。いうまでもないことですが。

 さて、上述のように昨年以来メディアを賑わした「甲の横暴」をめぐる諸問題ですが、前掲の今年2月の「ヘラルド経済」の記事(→コチラ)の記事によると、昨年いろいろ世論に叩かれた「甲」の各社にとっては、その間の売上高の減少は「通り過ぎる雨に過ぎず」、「甲」と「乙」という名称は変更しても根本は変わることなく今に至っているということです。

 以上、韓国での甲乙問題について相変わらず長々と書きました。
 例のセウォル号沈没事故も同様ですが、事件自体も、そこに至る経緯や報道&世論、事後のことも含めて、なんだかなー、やっぱりなーという感じです。

 また、以上のことをいろいろ調べていく中で、印象づけられたことの1つが「感情労働者」という言葉です。
 営業社員や各種のお客さん相手の労働者の場合、「お客様は神様」という原則(?)のため理不尽な目にあっても憤懣等を表情や行動に表すべからずとされる労働者のことで、たとえば今彼らのための心理的ケア等が必要だ、というようなことです。
 ※<レイバーネット>の関連記事→コチラ
 感情労働については近年日本でもいろいろ本も刊行されていて、正面から取り組むべき問題ではありますが、「営業スマイル」が得意な日本人と、感情を抑えることが必ずしも美徳とはされない韓国ではそれなりの「温度差」といったものがありそうです。(日本人は、商品に対する当然の苦情も言わない人が多いからなー。その点も韓国人とは違いますね。)

 さらに、この感情労働関連では、韓国では困り者の客のことを「손님(ソンニム.お客様)」ならぬ「손놈(ソンノム.客奴)」という新語もあり、オドロキの実例もいろいろあるのですが、それについてはまたいずれ、ということにします。


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5 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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下請法 (ソウル一市民)
2014-05-05 21:14:26
 ご存じかと存じますが、近年日本では下請法の適用が厳格化され、当局による調査も頻繁に行われていますが、韓国には同様な法律や規制などはないのでしょうか(自分で調べればいいのですが…)。
 もっとも法律があっても罰則が厳しくなければ有名無実化してしまうのも確かではあるものの、日本では上記の通り、10年ほど前(?)から一定の規模を超える企業に対して相当厳しく取締りが行われるようになっており(そのため対象企業の管理業務は非常に煩雑になりました)、甲から乙へ圧力をかけることは難しくなっています(もちろん煩雑ではあっても、こうした方向は望ましいことですけれども)。
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私この事件と甲乙問題という言葉を (小笠原功雄)
2014-05-06 00:01:15
2013年五月の日経ビジネスオンラインの記事で読みました。無料会員登録制ですが、記事名は「韓国で横行する押し込み販売~相次ぐ代理店の自殺 大企業の横暴に、朴槿恵大統領が立ち上がる」URLは、
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20130527/248677/
日本とは特に絡めていないようでした。
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下都給法 (ヌルボ)
2014-05-06 01:04:56
韓国では、下請法のことを下都給法(ハドグッポプ)というのですね。
しかし、日本の下請法との比較までは私も手が及んでいません。

昨年の5月以来懸案になっていた公正取引法改正案(いわゆる南洋乳業防止法案)は、ちょうど昨日(5月5日)のメトロソウルの記事によると5月2日に国会を通過したとのことです。→
http://www.metroseoul.co.kr/news/newsview?newscd=2014050500078

とはいうものの、記事に書かれているように、「この条項は、現行の下請法と大規模小売業法にも明記されているが、実効性が低いという評価を受けている」ということで市民団体は強く反発しているとか・・・。

4月14日の報道でも、公正取引委員長はこの法案に対して「本社が代理店自体を排除するおそれがある」という理由で反対の意を表明しています。 →
http://www.fnnews.com/view?ra=Sent0701m_View&corp=fnnews&arcid=14041421052265&cDateYear=2014&cDateMonth=04&cDateDay=14

今後、はたしてどういうことになるやら・・・。
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日経の記事 (ヌルボ)
2014-05-06 01:20:34
小笠原さん、ありがとうございました。
日経ビジネスオンラインの記事は見逃していました。
いろいろと多角的な視点からきっちり書かれている記事ですね。

小笠原さんのブログは、以前たしか吉田とし関係の記事を拝読したことがありました。
その他も、韓国漫画関係をはじめ興味深い記事がいろいろありますね。

純情漫画誌「PARTY」は知りませんでした。今度韓国に行ったら立ち読み(?)して来ようかなと思います。

アニメ「Green Days~大切な日の夢」は私もK's Cinemaで観ました。 ※関連記事 →
http://blog.goo.ne.jp/dalpaengi/e/90e1626ed892cefbfb97fcad8aacce54
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恐縮です (小笠原功雄)
2014-05-07 11:07:37
ご参照、ご感想いただきありがとうございます。昨今はご紹介したビジネス専門サイトのコメント欄ですら、韓国関連記事には感情的な(=非経済学的な.笑)コメントが集まるようになって残念です。
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