風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

『通し狂言 仮名手本忠臣蔵 第二部』 @国立劇場(11月14日)

2016-11-24 20:32:28 | 歌舞伎



尾上菊五郎:
 国立劇場開場50周年記念『通し狂言 仮名手本忠臣蔵』の五・六段目で、早野勘平を勤めさせていただきます。何回やっても難しい役ですが、初心に返り、新しい気持ちで勤めたいと思います。
 義太夫狂言である『忠臣蔵』の中で、六段目は世話物に近く、リアルとまではいきませんが、人物の内面を表さないと芝居が繋がりません。世話物では出演俳優のチームワークが必要ですが、六段目も同様で、一つのチームで芝居をトントンと運ぶことが大切です。それは、稽古を十分に積んでやり込まないと、表現できません。そういう意味で言うと、“心理劇”の要素がありますね。
 私は、いつも考えるんですが、勘平は、もし姑のおかやが騒ぎ立てたら、おかやを殺してでも忠臣として討入りにお供したいと願うほど、追い詰められている役ではないかと感じています。
 五段目は、様式美できれいに見せなくてはいけません。その後、六段目で、千崎にお金を渡したので意気揚々とした気分で勘平が帰ってきて、悲劇が始まる。その展開を細かく見せることができればと考えております。
 『忠臣蔵』は、(塩冶)判官様が切腹するまでの雰囲気がとても重くて、楽屋の中もシーンとしています。他の芝居と違いますね。また、切腹の場では、客席からは見えない場所に(塩冶の)家来がずらっと並ばなければいけないとか、家来たちのすすり泣きの声が難しいとか、色々な教えが伝えられています。その点は、私たち演じる側にとっても面白く、深いものだと思います。

中村吉右衛門:
 50周年という記念の公演に出演させていただけますこと、誠に光栄です。私も吉右衛門を襲名して今年で50年ですので、国立劇場が50周年を迎えることを忘れずにいました。
 七段目の由良之助は本当に難しいお役です。初代吉右衛門は晩年、花道の力弥に会いに行く間に、小唄をうたっていたそうで、そういう余裕を持ちながら、色気も必要であり、それでいて武士の魂を失わないという難しい役でございます。実父(初代松本白鸚)の舞台などを思い出しながら勤めたいです。
 七段目は、正直申しまして、手掛かりといいますか、どこをとらえて良いのかが難しいお芝居です。由良之助は、一力茶屋で様々な人と対面しながら、ずっと遊んでいるように見せます。後半は平右衛門とおかるの兄妹の芝居になりますが、最後の最後は由良之助が本心を明かして舞台を締めなければいけません。その難しさのため、今まで何度勤めても「ああこれだ」というところまでは行き着いておりません。今回はなんとかそういうものを掴み、舞台で表現したいですね。
記者会見より)

歌舞伎座で『元禄忠臣蔵』を楽しんだ翌日は、国立劇場で『仮名手本忠臣蔵』を。The日本の年末(11月だけど)
10月の梅玉さんの判官もものすごく観たかったのだけど、仕事が忙しくどーーーしても予定を入れられず・・・
そんな自分へのご褒美で、今回は奮発して一階席にしちゃいました。歌舞伎座に続き、こちらも中日でした。
なお国立劇場はちょうどこの11月で50周年を迎えるのだそうです。

【道行旅路の花聟】
菊之助のおかるは、恋心のままに軽率な行動をとるタイプの女性にはどうにも見えず、、、うーん。。
錦之助さんは、女で人生変わっちゃうタイプにちゃんと見え、そんなナヨ男な雰囲気が勘平ぽかったです。でももう少し“武士”を感じさせる勘平の方が私は好きかな。
思えば私が今まで心底楽しめた落人って梅玉さん&時蔵さんだけなのよね・・・。あまり好きな踊りじゃないのかも。
亀三郎の伴内は、なかなか楽しく見られました。

【五段目、六段目】
最初の嵐の音で、「おお、これは私の好きな段であった」と思い出しました。あの始まり方、何度聴いてもワクワクします
菊五郎さんの勘平は、真ん前で見ても完璧な至芸でありました。決まり事を決まり事に感じさせない動きの自然さに感情が当たり前に伴っていて、最初から最後までその美しさにじっと見入ってしまった。なぜか勘平の透明感が前回よりも一層増していて、今回の勘平、見ているだけで胸が詰まる心地がしました。
最初に笠から顔を見せたときの若々しさと、そうであるがゆえの儚さ。前回もここの菊五郎さんを綺麗だなぁと感じたことを覚えていますが、今回は壮絶なほど。ここの菊五郎さん、本当に30前後の青年に見えるのよね。
そういえば一階席は五段目の火や火薬の匂いがちゃんと届くんですね。値段が高いだけあるわ。。。といっても歌舞伎座の半額ですが。
六段目の勘平に強く“武士”を感じたのは、前回と同様。
東蔵さんのおかやは台詞をちょっと間違えておられましたが(魁春さんが台詞を言えなくなっていた)、菊五郎さんの勘平との組み合わせはやっぱり好きです。そして前回よりパワーアップしておられた^^;けど、私は前回くらいの方が好きかも。
菊五郎さん&菊之助カップルの別れ場面は、菊五郎さん&時蔵さんのときにあった18禁な空気はやはり皆無でありました(うん、わかってた・・・)。
團蔵さんの源六、魁春さんのお才、今回もよかったです。松緑の定九郎も。

【七段目】
吉右衛門さんは少しお疲れ気味に見え、杮落しのときの若々しさ、お伽噺のようなゆったりとした華やかさが少々減っていたのは寂しく感じましたが(「水雑炊~」もさらりと流れ。その前の「獅子身中の虫」は変わらずお見事で大拍手でした)、一方で昼行燈のときも見え隠れする由良之助の厳しさのようなものが増してるように感じられ、一瞬の視線にドキリとすること幾度。あの四段目の吉右衛門さんの由良之助から繋がっている感じは今回の方が強く受け、四段目の最後に彼がひとり心の奥で決めたであろう覚悟がこの七段目に続いているのだな、とより強く感じました。
しかし改めて、仁左衛門さんの綱豊卿、菊五郎さんの勘平と同じく、吉右衛門さんの由良之助は本当に至芸ですねぇ・・・・・。あんなに自然に大袈裟でなく、一力茶屋での由良之助の微妙な心情が表されているのだものなぁ。さらに遊ぶご家老さまの色気と大きさまで。もう私には吉右衛門さんが由良之助本人にしか見えないです。はぁ・・・・・・・・。
そうそう、今回の見立てでの反応を見て、前回のときの吉右衛門さんはやっぱり素でウケてたのだなとわかりました笑。
平右衛門(又五郎さん。初役なんですね)&おかる(雀右衛門さん)は、まるっこい体型が本当の兄妹みたいで、掛け合いもテンポよく、とても楽しめました。又五郎さんは平右衛門の実直さのようなものがよく出ていて、ちょっとホロリとしてしまった。もっとも私は飄々とした梅玉さんの平右衛門も大好物なのですが。雀右衛門さんのおかるも前回より更に進化されていて、こちらにもホロリ。
三人侍の亀亀兄弟もよかったです。特に亀三郎
今回は全体的に杮落としのときと比べて、リアルな雰囲気を感じた七段目でした。でもどちらかといえば、私はゆったりとした雰囲気の七段目の方が好きかも。
3年前にやった『忠臣蔵形容画合』も、また観たいなぁ。役者まで最高に贅沢な本気のパロディでしたよね^^

【バックステージツアー】
今回のイープラスのチケットには、終演後のバックステージツアーなるものが付いていました。幕見以外で歌舞伎を観たのが久しぶりだったので少し疲れてしまい、一瞬帰ろうか迷ったのですが、参加してよかったです。ものすごーーーく楽しかった
舞台にちょっと上がらせてもらえるくらいかなと思っていたら、思いのほか盛り沢山で。
終演後のロビーに集合して客席に再入場すると、舞台の上はすっかり「終演後」。七段目の大道具は左右に片づけられ、小道具も所定のケースに納められて、広~い回り舞台が全部姿を現しています(直径は花道とほぼ同じ長さなのだそうです)。この完全に“現実”な光景だけで、もう感激。ほんの15分前までそこは完全なる仮名手本の世界だったのに。やっぱり舞台というのは多くの人の手によって作り上げられている“夢”なのだなあ、と。
使い捨てスリッパに履き替えて、早速花道の上を歩いて舞台へ。またもや感動。たった今まで勘平やおかるや由良之助が歩いていた道を今自分が歩いてるなんてー。一方で、七三あたりでは妙な緊張感も。花道にしても舞台にしても、そこに立つと下から見ている以上に客席がとっても近い。こんなに近くから劇場中の視線を一身に集めて演技するなんて、役者さんってすごいわぁ・・・。気分も相当いいだろうとは思いますが。
その後は、回り舞台に乗っかって360度回してくださったり(早・・・っ)、触れないことを条件に大道具の傍にも好きに行かせてもらえて(七段目の桃色の二重舞台や道行の桜や菜の花が目の前に・・・)。やっぱり演目が『仮名手本』だとバックステージツアーもテンション上がります
他にも、セリってあんなに細かく分かれているのだなぁとか、床が年季入ってるなぁとか。
舞台から上を見上げると、天井から所狭しと吊された数々の書割と無数のライト。以前読んだ本で羽左衛門さんが定九郎の死体のときの気分について「まともに天井を見ると吊り物がいっぱいあるでしょ。これが落ちてきたらどうしようと思うと怖いですよ。いつも頭の上には同じに物があるわけだけど見てないでしょ。死んでこうやって上見てると怖いもんです」と仰っていたけれど、これか!と納得。
舞台袖では、スタッフ用の壁の注意書きが楽しかったです(回り舞台で非常事態が起きた場合の対処法とか、「整理整頓」とか、「ここでの声は客席に聞こえます」とか)。天井からはなぜか道成寺の鐘もぶら下がっていた。黒御簾の中にも入れてもらえて、内側からは舞台や客席がハッキリ見えました
急な階段を下りて、今度は奈落とすっぽんを下から見学。これは剥きだしのエレベーターそのものですね(乗せてはもらえませんでした)。TVで見たことはあったけど、やっぱり自分がその場に立つと役者さんの裏での動きをリアルに想像できてワクワクしました。
最後は通路を通って鳥屋へ。この通路は花道の真下にあたり、楽屋から花道に出る役者さんが通る道なのだそうです(この通路沿いにすっぽんエレベーターがある)。赤い絨毯が引かれてはいるけど完全に舞台裏な雰囲気。
舞台から下の階に下りる階段と、そこから鳥屋に上がる階段があり得ないほど急だったんですが、高齢の役者さん達もあの階段を上り下りされているのだろうか・・・。鳥屋の階段の下にはお手洗いがあって、妙に納得してしまったり(絶対必要よね、と)。
鳥屋の壁に貼られた、花道を使う役者名と出の時間の書かれたタイムテーブルも、興味深かったです。
スタッフの方が「最後は花道に出る役者さんの気分をご体験ください」とチャリン♪と開けてくださった揚幕を抜けて、花道へ出て(ぱぁっと視界が開けて舞台と客席を見渡す眺めにも感涙)ツアー終了。ほんとーに楽しかった!また機会があったら参加したいです^^

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2 Comments

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Unknown (mihana 223)
2016-11-27 11:57:45
ご無沙汰してます。
mihana と申します。

と言っても、わかりにくいと思いますが、中島みゆきさんや谷山浩子さんの記事の時だけ、わいて出てくる者です。

クラシックや歌舞伎は、不勉強で疎いもので、、、f(^^;
でも、このバックステージツアーの記事は、大変面白かったです。
楽しませていただきました。(^^)v
歌舞伎がわこらない私ですが、うらやましくなりました。(^^)
楽しい記事をありがとうございました。(^-^)
mihanaさま (cookie)
2016-11-27 21:39:51
いつもコメントありがとうございます!

クラシックや歌舞伎も機会がありましたら、ぜひ(*^_^*)
どちらも気軽に楽しめる娯楽です♪
(あ、クラシックはお値段があまり気軽ではありませんが^^;)

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