風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

内田光子 with マーラー・チェンバー・オーケストラ 協奏曲の夕べⅡ @サントリーホール(11月8日)

2016-11-10 18:59:18 | クラシック音楽

 「K.453(第17番ト長調)とK.503(第25番ハ長調)はクリーブランド管弦楽団とレコーディングしたばかりの曲目だったことに加えて、マーラー・チェンバー・オーケストラと共演した直近の作品でもあります。クリーブランドとはモーツァルトのピアノ協奏曲のレコーディングを何度か行っていますが、この2曲はぜひとも録音しておきたかった作品です。両作品には強い関連性があり、私は素晴らしいプログラムだと思います。K.503はモーツァルトのピアノ協奏曲の中では最も雄大な曲です。ベートーヴェンの〝皇帝〟に匹敵するスケール感を持つ、ということができるかもしれません。一方、K.453は大変軽やかで表面的には異なっていますが、実は第2楽章は心の底深くにおいてK.503とつながっていると思います」
(内田光子:毎日新聞「内田光子モーツァルト弾き振り 〝本質を捉えた解釈者〟が協奏曲に新たな光」


4日に続き、来日ツアー最終日のサントリーホールに行ってきました。

今回一連のモーツァルトのピアノ協奏曲(19番、20番、17番、25番)を生で聴いて、光子さんのモーツァルトの魅力がようやく理解できたような気がします。
例えばペライアの演奏からは音楽や作曲家の“想い”が伝わってくるように感じるけれど、光子さんの演奏からは“曲そのもの”の美しさが伝わってくるのだね。
明るいところは明るく、暗いところは暗く、深くあるところは深く、軽やかなところは軽やかで、可愛らしいところは可愛らしく、音の色彩の変化がとっても繊細で豊か。光子さんが精製に精製を重ねた末のその曲の最も純度の高い部分をそんな音色で「ほら」って見せてもらえると、まるで絵巻物を見ているように「曲そのもの」から立ち上る物語が見えてくる。聴いている私達にはまさにそれこそが作曲家が描こうとした絵であり、その解釈以外はあり得ないように感じられてくる。きっと作曲家が楽譜に書いたものを完璧に音にしたらこうなるのだろうと、これこそがその曲の本質であるように感じさせられる、そんな演奏。もちろんそれも一つの解釈、方法にすぎないことは承知しているけれど。
先日20番を聴いたときに光子さんの音から感じたものについて「風景」という言葉を私は使いましたが、それは今夜も同じで。その演奏から私が感じるものは「直接的な人間の感情」ではなく、「音色や音の流れが語る感情」(こちらのが客観的)で、それが時に直接的な感情以上にひどく魅力的に感じられたのでした。
一方で、そういう演奏であるがゆえに、聴く人によっては(私がそうであったように)一見醒めたような機械的な印象を与えてしまうのではないかしら。「ただの綺麗な完璧な演奏」、そんな風に受け取られかねないタイプの演奏だと思います。

そんな不純物が徹底的に排除された世界はモーツァルトにひどく合っていて、「モーツァルトの音楽そのもの」を聴いているような、そんな錯覚を覚えました。まぁ贅沢を言えば、演奏に隙がなさすぎるところが欠点とは言えるかもしれませんが。
モーツァルトの音楽って本当に美しいんですね。これまで私はその美しさを十分にはわかってはいなかったように思う。無垢な純粋さ、子供のような素直さ、そこに織り込まれる悲しみの感情も全てが美しくて。あまりの美しい世界に、このままここで死ねたら最高に幸せだろうな、と思ってしまった。英語に"perfect day"という言葉があるけれど、まさにそんな風に感じられた夜でした。

31日にはペライアのハンマークラヴィーアに「もう何もいらない」と感じ、1日にはあのウィーンフィルとの演奏以上にも感じられたツィメルマンのベト4を聴けて、そして4日と今夜は光子さんの天上のモーツァルト。こんな短期間でこんな幸福な思いをしてしまって、、、明日あたり私は事故ってサクっと逝ってしまうのではなかろうか。
そしてもちろんどのピアニストの演奏が正しいとか間違っているとかはなく、違いはそれぞれの個性で。技術だけでなくそういう「表現したい世界」をはっきりと持っている人達が、一流のアーティストと呼ばれる人達なのだなぁ、と改めて感じたのでした。

【モーツァルト: ピアノ協奏曲第17番 ト長調 K453】
本日の演奏について。感じたことはほとんど上に書いちゃった。
ピアノもオケも冒頭から全開でしたね。今日は私の体調がよかったのと、このオケの音に慣れたことも大きいかも。
細かいことを言えば今夜もたまに「?」という部分はありましたが(17番の一楽章の急に音量を下げるところで光子さんが「小さく…」と指示してたけど十分には下がりきっていなかったり、どこか忘れたけどピアノとオケの音が混乱してるように聴こえたり)、でもとてもいい17番でした。
演奏を終えて舞台袖に引っ込むときの光子さん、やったぜ!的な笑みをされていた

【バルトーク: 弦楽のためのディヴェルティメント Sz113】
4日の武満と同様に指揮なし、立奏。
きゃー、曲も演奏もめちゃくちゃかっこよかった
こちらも私は初めて聴く曲でしたが(クラシックに全く詳しくないもので)、有名な曲なのですね。隣の方が「俺、これ好きなんだよねー」と嬉しそうに仰っていました。
モーツァルトの合間にこういう曲を入れると、どちらの良さも引き立ちますね。本当に素敵。
このオケ、音や演奏自体がすごく私の好みというわけではないのだけれど、演奏が自由で伸び伸びとしていて、なにより本当に雰囲気がいい。P席への挨拶も、皆さんニコニコの笑顔でしてくれました^^

(休憩)

【モーツァルト: ピアノ協奏曲第25番 ハ長調 K503】
盛り上がって楽しかった!素晴らしかったですね~。あれから通勤時も25番のメロディが頭に浮かんじゃってます。
光子さん、とても楽しそうに演奏されていましたね。オケを含めた音楽としての「完成度」という面からだけ見ればもしかしたらCDでの演奏の方が上かもしれないけど、ライブでしか味わえない熱を伴った素晴らしい演奏会でした。光子さんが何かのインタビューで「録音よりも一度きりのライブの緊張感が好き」と仰っているのを読んだことがありますが、確かにライブお好きそうに演奏されますよね。

【モーツァルト:ピアノソナタ第10番ハ長調 K330 第2楽章(アンコール)】
ツアー最終日のアンコールは、やっぱりモーツァルト。
今夜も、会場に広がる光子さんのピアノの音をたっぷりと堪能した、幸せなひとときでした。そしてこの演奏の後の客席の方達の拍手待ち時間の完璧さときたら・・・。
オケがはけた後にもう一度出てきてくれた光子さん、やっぱりかっこよかった♪光子さんのこういう姿を見るのも、私にとって一つの楽しみになっています。ああいう知的でエレガントですっきりとした女性になりたい。

ペライアから始まり光子さんまで。最初は短期間にピアノの演奏会が集中しすぎで泣きたくなったスケジュールですが、短期間で聴いたことで見えてくるそれぞれの良さを思いっきり感じることができ、最高に贅沢で濃密な9日間でした。皆さん、本当にありがとう!!!


※コントラバス君もお疲れさまでした

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