風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

クリスチャン・ツィメルマン ピアノ・リサイタル @サントリーホール(2016年1月13日)

2016-01-14 19:27:18 | クラシック音楽
仕事をしていてですね、ふっと「ツィメルマンのシューベルトをもう一度あの順番で生で聴きたい」と思ってしまったのですよ。ええ、それは強く。先日のみなとみらいでの21番が少々消化不良だったのと、あのキラキラなピアノの音をサントリーホールの特別感の中で聴いてみたい、という気持ちもあり(完璧主義のピアニスト様の努力を無にする客)。そこで直前に超良席を格安で譲っていただけることになったので、行ってきました。
そして痛感しましたよ。
いい演奏に出会いたければ「数行け」っつうことなのね、と。。。
芸術の神様は私のお財布事情なんぞ一切考えてはくれないのね、と。。。

以下、例のごとく、あくまで超素人の個人的な感想でございます。

【7つの軽快な変奏曲 ト長調】
今夜もそれはそれは楽しげに弾いていました
あらためて、こんな究極なまでに磨き上げられた美しい音で、こんなに可愛らしい子供の落書きのような曲(13歳にしてはあり得ない完成度なのでしょうけれど)が演奏されるのを生で聴くことができるとは、これこそ究極の贅沢といえるのではなかろうか、と思いながら聴いておりました笑。

【ピアノ・ソナタ 第20番 イ長調 D.959】
全体として息を止めて聴き入ってしまったのは横浜の方で、三楽章までは「今日はあまり調子がよくないのかな?」とも思ったりしながら聴いていたのだけれど、四楽章がとても良かったのです。思わず微笑みながら聴いてしまった。具体的にどこがどうとは言えないのですが、演奏から受ける印象、色が今夜はとても明るかった。前回だって十分に明るかったのだけれど、それでも横浜ではほんの少し感じられた影のようなもの(これも決して嫌いではありませんが)が今夜は完全に消えていた、ように聴こえた。短調の転調も、主題が途絶えながら聴こえるあの部分も、全てが明るかった。「ああ、シューベルトはこの曲を作った頃にはもう自分の運命を“納得“していたんだな」と感じた。そうでないとこんな曲を作れるわけがない、と。諦念を超える強い何かをこの時にはもう持っていたんだな、と。
そして、よかったな、と思ったんです。そういうシューベルトに対してと同時に、今夜こういう明るい演奏をしているツィメルマンに対しても。
まあ実際にシューベルトがどうであったかとか、ツィメルマンがどういう気持ち&解釈で演奏していたかはもちろんわかりませんけれど、そう感じさせてくれた今夜の演奏だったんです。そしてこういうシューベルトも私は大好きだなと感じることができた。この最終楽章を聴き終えたとき、黄金色の光の中にいるような、雑念の全くない爽快な気持ちになっていました。
ツィメルマンの20番、私は本当に好きだなぁ。。。。

【ピアノ・ソナタ 第21番 変ロ長調 D.960】
20分間の休憩後。
さてツィメさんはこの空気のまま行ってくれるかしら?と少しドキドキしながら迎えた21番。

ああ、よかった!行ってくれた!

第一楽章から、横浜のときに受けた印象とは違いました。基本的な演奏はもちろん一緒なのでしょうけれど、演奏から見えてくる絵がより明確だったように私には感じられました。より安定していたと言えばいいでしょうか。それは二楽章、三楽章とずっと維持されて、四楽章が始まる頃には「もういいや。この楽章でこの人が私の好みと違う演奏をしたとしても(てか、するのはわかっているけれども)、このまま最後まで連れていってくれるならそれでいい。そこへ行きたい」と心から思ってしまっていた。
四楽章。今夜も、ソーの超強音や熱い演奏は、もちろん横浜と同じでした。ただ、横浜で私が最も気になってしまった「重さ」が消えていた。私にはそう感じられた。この21番でも、今夜は演奏から受ける印象が圧倒的に明るかったのです。子供が遊んでいるようなメロディのところも、しっかりめな音に変わりはないけれど、今夜はとても軽やかで愉しげで温かだった。そして20番の最後に連れて行ってくれた場所から、更に向こうの景色を見せてくれました。最後に見せてくれたあの明るく幸福な光。あれが見られただけで、今夜来てよかった、と心から思った。

そういえば今夜は一度、例のソーが隣の音と混濁しておりました。ご本人は全く気にしてない様子でしたし、私も気になりませんでしたが、彼ほどのピアニストでもああいうことってあるんですねぇ。他にも鳴っていない音などが横浜よりも多かった気もしましたが、そういうことを全部超えた、素晴らしい演奏でした。ブラボー!

【アンコール:シマノフスキ 9つの前奏曲 op.1-1 ロ短調】
5日に亡くなったブーレーズ氏へ捧げられたアンコールで、先日の水戸でもあったそうです(ツィメルマンでは珍しいらしいですね)。しかし追悼なら、横浜でやらなかったのはなぜなのか。本当にこの人は客に色々な想像を巡らせさせるピアニストですねぇ^^;
シマノフスキって私はおそらく初めて聴いたのではないかと思いますが、ツィメルマンの演奏にものすごく合っていたように感じられました。あまりに素敵だったので、シューベルトより合ってるんじゃ・・・と思ってしまったことはナイショ笑。オールシマノフスキプログラムとか、いつかやってくれないかしら。
本当につくづく、こんなに人間的な演奏をするピアニストだとは思わなかったなぁ。そしてこんなに熱いのに、音は美しいのだものなぁ。生で聴くことって本当に大事ね。光子さんのときも思ったけれど、“音の体温”だけは生で聴かないと絶対にわからない。

アンコールの後も再び拍手で呼び戻されて、最後は白髪の日本人(よね?)のオジサマとご登場。というより、ニコニコ笑顔で舞台に連れ出そうとするツィメルマンと、謙虚に遠慮し続けるオジサマ。仕方ないからツィメルマン一人舞台中央に行って、でもやっぱり諦められずにオジサマを呼ぼうとしたり。それを笑って遠慮しているオジサマだったり。そしてハグする二人だったり。目の前で繰り広げられている温かな光景に私も思わずニコニコ あのオジサマは一体どういう方だったのでしょう。
※追記:ジャパンアーツ会長の中藤泰雄氏だそうです(延子さま、教えてくださりありがとうございました!)

ところで、ツィメルマンって、演奏中にペダルの音が結構聴こえますよね。全く気にはなりませんが。でも弱音が弱くなっていって消えかかって、最後にペダルを上げる?ときに、少し音が濁るのは前回も今回も気になってしまった。せっかくの美しい弱音なのに、あれはなぜなのだろ~?
それと、先日も今夜も低い女性の鼻歌のような音が時折聴こえて、これも結構気になってしまったのだが、あれは本当に謎。ツィメルマンのピアノって普通のと違ってああいう音がするのか?と、ピアノをつい見ちゃったけど見てもわかるわけはなく。ツィメさんって演奏しながらハミングするらしいけど、ハミングってメロディに合わせてするものよねぇ。私が聴こえたのはメロディにはのっていなかったから、ハミングの音ではないよなぁ。・・・耳の老化現象か?でも光子さんのときは聴こえなかったわ。うーん、気になる。。。

とにもかくにも。
ツィメルマンさん、今夜は最高の夜を本当にありがとう
カテコでの綺麗な綺麗な笑顔も忘れません!

※そうそう、アメリカでは演奏しません宣言の件。先日の記事の引用元のLosAngels Timesの記事により詳しく書かれてありました。当初予定されていたブラームスを休憩後に突然ポーランドのGrazyna BacewiczのピアノソナタNo. 2に変更し演奏して、そして「Before playing the final work on his recital, Karol Szymanowski’s "Variations on a Polish Folk Theme," Zimerman more typically sat meditatively on his bench for a moment.  Twice he leaned toward the keys and almost began to play, but then turned to the audience saying he hadn’t planned to speak but decided he could not keep silent.」と。自分も他人も適当に誤魔化すということができない、まっすぐな性格の人なのだなぁ。


さて、来週はシカゴ響!!!
楽しいといいな~♪ 何気に楽しみにしているのが2日目のヒンデミットだったりするのですが、さてどうでしょうね?
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2 Comments

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オジサン (延子)
2016-01-18 11:13:56
横からすみません。オジサンとおっしゃっている方は、ジャパン アーツの会長の中藤泰雄氏です。1978年の初招聘以来、ツィメルマンは日本の恩 人と言って信頼されているそうです。
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延子さま (cookie)
2016-01-18 12:29:45
おお、あのオジサマ(オジサンではないデスヨ笑)はそのようなお方だったのですね!
それなのにとても謙虚で素敵な方でしたね。あの光景、ちょっと感動してしまいました。
お教えいただきありがとうございました(^_^)
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