風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

ボリショイ・バレエ団 『パリの炎』 @東京文化会館(6月15日)

2017年06月18日 14時34分02秒 | バレエ


当初は行く予定のなかった『パリの炎』。
しかし先日のあの『白鳥』を観てから、一幕二場のチュージン&スミルノワのアダージョと白鳥達の姿がチャイコフスキーの旋律とともに寝ても覚めても仕事をしていても頭から離れず、使いものにならない廃人状態になってしまい(幸せな廃人だったが)、「ボリショイのメンバーってまだ東京にいるのよね・・・」と思うといてもたってもいられず、チュージンは観られないことはわかっていても仕事を無理して東京千秋楽の当日チケット(ぴあ)を買ってしまったのであります。退社して走ってセブンでチケットを受け取って電車に飛び乗って開演時間ギリギリに到着。今回ほど上野東京ラインに感謝したことはなかった。

さて、感想ですが、先にネガティブな部分を書いちゃいます(素人がエラそうに申し訳ありません…。でも覚書なので正直に書きます)。
①器械体操のような振付の良さが私にはわからなかった・・・。義勇軍の登場ののっけから「!?」となった(^_^;) ああいうのを見慣れていないせいもあると思いますが。
②音楽の魅力がイマヒトツ・・・。『愛の伝説』のような暗く情熱的な不協和音爆発なわけでもなく、『ドンキ』のようにアホらしくなるほど楽しいわけでもなく、『白鳥の湖』のようにうっとりするような魅力的なメロディーが満載なわけでもなく、これといった特徴が感じられませんでした・・・。あ、でも二幕冒頭の民衆を鼓舞するバスクの踊りのところは楽しかった。
③なにより、本筋と直接関係のない一幕後半の劇中劇が私にはあまりにも、あまりにも長く感じられた・・・・・ あの構成のアンバランスさは何事・・・。マルガリータ・シュライネル(女優)はジゼルのときより良かったですし、ダヴィッド・モッタ・ソアレス(俳優)も綺麗に踊っていたけれど、メインストーリーと直接関係がないのでとにかく長く感じる・・・。はっきり言うとタイクツ・・・。ここで私のテンションも集中力も底辺まで下がってしまい、おそらく一幕の山場なのであろう「ラ・マルセイエーズ」が遠くから聴こえてくるところも気持ちは沈んだまま(しかもテープ音)。。。
この劇中劇部分はせめて半分の長さにして、そしてその時間をフィリップ&ジャンヌの恋をもう少し丁寧に描くとかにまわしてほしいです…。

ですが、二幕は楽しかったです。
というか、あそこまでダダ下がり回復不能レベルまでになっていた私の気分を引き上げたイワン・ワシリーエフ(フィリップ)の客席を巻き込むエネルギーの凄さに吃驚。

Q:今回、東京で『パリの炎』を踊っていただけますことを、心から楽しみにしています。『ドン・キホーテ』や『スパルタクス』に次ぐあなたの代表作だと思っていますが、フィリップとあなた自身との共通する部分はどのようなところでしょうか?
A:男らしく、雄々しく強い性格、それと、現状に甘んじることなく、何かに抵抗して、殻を突き破って自分や社会を変えていこうとする革命的な意志でしょうか。
Q:『パリの炎』はテクニック的な部分が注目されやすい作品ですが、他のあなたが伝える魅力はどこでしょうか?
A:ドラマ性とエネルギー、でしょうね。いくらアクロバティックに派手に踊って見せても、心の底からほとばしるエネルギーが感じられなければ、空疎な踊りになってしまうでしょうから。
(Japan Artsインタビューより)

ワシリーエフって生で初めて観ましたが、まずスターオーラが半端ないんですね(ドヤ顔が全く嫌味じゃない不思議)。天性のエンターテイナーなのだなあ。そしてふわついていない力強くてしなやかな踊りは私の大好きな熊哲の踊りと似ていて、観ていて本当に楽しかった。体が柔らかいのか背の逸らし方も綺麗。バスクダンスも結婚式も、会場大盛り上がりでした。キャラクター的にも、ドンキの映像を観たときに「床屋の息子っぽい!」と感じたので今回も貴族に対する平民ぽさを期待していったら、期待をはるかに超えたガラの悪さで笑。

調べてみるとこのマルセイユ義勇軍というのはかなり急進的、狂気的な人達だったようで(その出自はもちろん一般の民衆や農民達)、彼らがテュイルリー宮襲撃の際にパリへ向かうときに歌っていたという現在のフランス国歌でもある「ラ・マルセイエーズ」も、その歌詞の血生臭さといったら相当です。

行こう 祖国の子らよ
栄光の日が来た!
我らに向かって 暴君の
血まみれの旗が 掲げられた
聞こえるか 戦場の
残忍な敵兵の咆哮を?
奴らは我らの元に来て
我らの子と妻の 喉を掻き切る!

武器を取れ 市民らよ
隊列を組め
進もう 進もう!
汚れた血が
我らの畑の畝を満たすまで!
(wikipediaより)

おお、今夜のワシリーエフのフィリップになんともピッタリな歌詞ではないですか!
革命って一旦動き出すと最初の理想やら正義やらは熱気の中にうずもれていって、血が血を呼び狂気化し、もはや理屈や思想ではなく民衆の「エネルギー」そのものが意志となって時代を動かすようになる。言い換えればそういう狂気と勢いがなければ、体制を覆すなどということは成し遂げられないのだと思う。
義勇軍のフィリップを含めたダンサー達、断頭台に連行される貴族の人達を本当に楽しそうに笑って見ているんです。ざまーみろ!という風に。でもアデリーヌまでも断頭台にかけられる展開になって、フィリップは初めて悲痛な表情にはなるのだけれど、それでももう誰にも民衆の熱狂を止めることはできない。その現象をその中心にいるフィリップはおそらく誰よりも理解し体で感じてしまっているから、自分の命を張って止めることは諦めているように見えた。
そしてエネルギーの塊のワシリーエフは、そんなこの作品に本当にピッタリでした。踊りも体力の限界まで踊ってくれましたねえ。結婚式のPDDの後だったか上手の袖にはける直前に「この人このまま心臓発作で死んじゃうんじゃ」というくらいのヤバイ表情をしていたときがあって、ツイッター情報によると袖で倒れ込んでいたそうです。スタミナの配分計算とか全くしないで最初から全力で踊ってくれてる感じだったものなあ。幕の最後の方は足が十分に動いていなくて「ん?手抜きか?」と一瞬思いオペラグラスで見たら、すぐに違うのだわと気付きました。もう限界まで踊っていたのね。スタミナ切れても踊る!踊れなくても踊りまくる!その気持ち、ちゃんと客席に伝わりましたよ。ありがと~!!
王子タイプを踊れるダンサーは数いれど、こういうタイプを踊れるダンサーって本当に貴重だと思う。

クリスティーナ・クレトワ(ジャンヌ)。ジャンヌダルクのような役なのかと想像していたら、意外に女の子らしい振付なんですね。兄のジェロームが軍服を着ているのを羨ましがって「私も着たい!」と言ってみたり。主役を踊るにはもう一歩地味に感じられるのが残念だけれど、素朴な太陽のような笑顔が可愛かったです(*^_^*) 踊りも上手!

アレクサンドル・スモリャニノフ(ジェローム)もやはり地味なのでどうしてももう少し花が欲しいと思ってしまうのだけれど、一幕のジャンヌとの可愛い兄妹のPDDは本当に平民の善良な兄妹に見えて、革命の闇を深く考えずに軍隊に憧れて入隊してしまうその朴訥な姿が二幕のラストの彼と対比されることになり、それは非常によかったと思います。アデリーヌがギロチンにかけられた後の目を見開いたショック状態の演技も純朴そうな彼だけに本当に可哀想だった。そんな兄に同情する気持ちと義勇軍とともに進んでいこうとする気持ちが旗を手にフィリップ達と行進するクレトワの表情によく表われていました。アデリーヌ役のアナ・トゥラザシヴィリも貴族の品の良さが出ていて、役によく合ってた。

イーゴリ・ツヴィルコボールガール侯爵。おお、もうちょっと野獣系かと思いきや、素敵だ!エロだろうがなんだろうがこの侯爵になら襲われてもいい!と思ってしまった笑。ちゃんとアデリーヌのパパに見えたし。踊るシーンが少ないのは残念。そしてツヴィルコの侯爵が素敵なほど、当初キャスティングされていたチュージンの侯爵も観てみたかった、とも思ってしまうのでありました。。

以上、好みでない部分も山ほどある作品ではありましたが、やっぱり初めて観る作品は楽しかった。
ところでこの作品って、どう捉えるべきものなのでしょう。Japan Artsの紹介では「多くの犠牲を重く受け止めつつ、民衆は新しい未来へと歩みだす」と書かれていたけれど、そういう明るいラストにしては最後のフィリップ達の表情が気になるのよね…。アデリーヌの首を抱いて地面に蹲るジェロームを踏み越えて行進していくフィリップ達。あれ、集団の狂気の表情をしていたように見えました。ワシリーエフだけなのかなと思ったら、前日のラントラートフもそういう演技だったようですし。
特権階級を否定した市民革命の光と闇をそのまま描いているとして、あのラストは「それでも市民は前に進む」という光部分を強調しているというよりも、「革命の狂気」という闇の部分を強調しているように私には見えたのだけれど、実際のところはどうなのだろう。ラトマンスキーによる改訂がどういう部分なのかは調べていませんが。そしてプーチンさん肝いりの「ロシアの季節」というロシア政府主催イベントの皮切り公演の東京トリを飾ったのがこの演目なわけですが、プーチンさん的にこれはOKなのだろうか。だとしたらどういう理由によるのだろう。「民衆に自由を与えるとこういうことになるんだ、よく見ておけ」というメッセージだったりして・・・震。
そうそう、処刑された王妃達の手足が空中を飛びまくっていて、バレエでこんなシーンを観るとは(歌舞伎ではしょっちゅうだけど)、なかなか衝撃的でした。それともあれは生身の人間ではなく人形という設定なのかな。

写真は、Japan Artsのツイッターより。
次回は2020年とのこと。オリンピックイヤーですね。
楽しみに待ってま~す!!!


ワッシー笑。
アナの元気な笑顔が嬉しい(あのラストの後だけに)。
なおワシリーエフは現在はミハイロフスキー劇場バレエの所属で、今回のボリショイ来日にはゲストダンサーとしての出演でした。でも下記インタビューにもあるとおり今でもボリショイの舞台にはしょっちゅう出演しているそうで、元同僚達とも仲良しみたいですネ


クレトワと(^-^)

イワン・ワシリーエフのインタビュー
アナ・トゥラザシヴィリとゲオルギー・グーセフのインタビュー

※ダンサー達の生年ってwikipediaに結構情報があるんですね。便利。

Flames of Paris | Natalia Osipova & Ivan Vasiliev | Bolshoi Ballet 2010 (DVD/Blu-ray trailer)


Pas de Deux from Flames of Paris - Natalia Osipova and Ivan Vasilev


"Flames of Paris" Bolshoi theatre Danse basque 27.09.14 Танец Басков

クレトワのジャンヌ、ツヴィルコのフィリップ。てかこの動画上げてるのツヴィルコ本人?
ワシリーエフと踊ると迫力不足に感じられたけど、クレトワ、悪くないですね~。

ジャンル:
ウェブログ
Comment   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« ボリショイ・バレエ団 『白... | TOP | ロパートキナ引退 »
最近の画像もっと見る

post a comment

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Recent Entries | バレエ

Similar Entries