ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

帝王切開、なぜ増える 20年で1.6倍に

2006年09月18日 | 出産・育児

骨盤位、前置胎盤、常位胎盤早期剥離、胎児ジストレス、回旋異常、児頭骨盤不均衡、分娩停止、前回帝王切開、子宮破裂、などなど様々な理由で帝王切開が行われている。

骨盤位、出血が始まる前の前置胎盤、前回帝王切開などの場合は、陣痛が始まる前に予定で選択的帝王切開が行われる。

常位胎盤早期剥離、子宮破裂、前置胎盤で大量の出血が始まった場合、胎児ジストレス、回旋異常による分娩停止などの場合は、予定外の緊急帝王切開が行われる。

特に、常位胎盤早期剥離や子宮破裂などの場合は、全く予期せずに突然発症し、発症後30分以内(できれば十数分以内)に帝王切開で児を娩出しなければならないし、出生直後より新生児科医による児の蘇生処置が必要となる。母体もきわめて危険な状況となるため、麻酔科医による全身麻酔による管理が絶対に必要となる。

また、分娩経過中に、子宮破裂、癒着胎盤などによる大量出血が始まった場合には、母体の救命のために、緊急大量輸血、全身麻酔下の緊急子宮摘出手術なども必要となる。

従って、産科病棟では、24時間365日、いつでもただちに帝王切開や子宮摘出手術などが実施できるように、常に緊急手術スタンバイ状態を維持していなければならない。産婦人科医、小児科医、麻酔科医が院内に常駐していることが望ましい。さらに、いつでも大量の輸血が可能であることが望ましい。

しかし、産婦人科医、小児科医、麻酔科医は、どこでも不足しており、これらの条件を満たすことができる施設は未だに数少ないのが現状と考えられる。今後、各医療圏において十分に協議し、安全で安心できる分娩環境を、段階的に整備してゆく必要がある。

****** 朝日新聞、2006年9月18日

帝王切開、なぜ増える 20年で1.6倍に

 秋篠宮妃紀子さまが6日、帝王切開で悠仁(ひさひと)さまを出産した。厚生労働省の抽出調査に基づく推計では、この20年あまりで国内の帝王切開件数は約1.6倍に増えた。全体のお産数は約2割減っており、帝王切開が占める割合は7%から15%に上がった。背景には、初産の高齢化でリスクの高いお産が増える一方、経膣分娩(いわゆる自然分娩)での予期せぬ事態を避けたい医療者側の思惑があるようだ。

(中略)

 帝王切開には、紀子さまのように母子の状態によって計画的に行う場合と、経膣分娩に時間がかかりすぎるなどして急きょ行われる場合がある。母親の意識を残す局所麻酔が多く、最近は術後の見た目を考えて、おなかを横に10センチほど切るケースが増えている。入院は10日から2週間程度。5日ほどで退院する経膣分娩よりは長くかかる。

 部分前置胎盤や骨盤位(逆子)、以前に帝王切開で出産している場合の判断は、医師によって異なる。

 聖路加国際病院(東京都中央区)では、入院が長くなる、出血が多ければ輸血が必要、次のお産も帝王切開になる率が高まるといったリスクを説明するが、それでも帝王切開を希望する母親が増えているという。

 厚労省のデータによると、02年は国内のお産の約15%が帝王切開だ。元愛育病院長で主婦会館クリニック(東京都千代田区)所長の堀口貞夫さんは「6~7人に1人のお母さんはおなかに傷がある。ちょっと異常な事態」と心配する。

 高齢出産などリスクの高いお産が増えているのも事実だが、お産をめぐる医療訴訟の増加や、産科医やお産を扱う医療機関の減少で不確定要素が多い経膣分娩を避ける傾向が強くなっていることも原因だという。米国立保険統計センターの統計(03年)によると、訴訟社会米国での帝王切開率は27.5%に達している。

 麻酔など医療技術の進歩で帝王切開の安全性は確実に増した。帝王切開は「管理できるお産」という考えは、医師だけでなく、親の側でも増えている。「裁判で『帝王切開をしていれば事故は防げた』という判例が増えれば、経膣分娩を怖がる医師がいても一概に責められない」と堀口さん。

 日赤医療センター(東京都渋谷区)の杉本充弘産科部長は「逆子の経膣分娩などは医師に経験と技量が必要だ。お産が減り、熟達した医師が減って、お産の現場での医師教育も出来なくなっている」と指摘する。

 「増加は好ましくないが、必要なケースもある。その場合、お母さんの心に傷を残さないことが重要」と杉本さんはいう。同センターでは、母子に危険が無ければ、帝王切開で取り上げた赤ちゃんはすぐに母親に抱かせる。夫が手術に立ち会うこともできる。杉本さんが担当する帝王切開の8割は夫立ち会いという。「帝王切開は第二の産道。ただ安全なだけでなく、よりよい帝王切開をする責任が医療側にもある」

(以下略)

(朝日新聞、2006年9月18日)