ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

産婦人科医と小児科医の集約化の問題点

2006年09月13日 | 地域周産期医療

日本産科婦人科学会が行った調査で、全国の大学病院と関連病院に常勤する産婦人科医が最近2年間で8%減り、分娩取り扱いをやめた関連病院も相次いでいることが判明しました。常勤産婦人科医の総数は2003年4月には5151人でしたが、2005年7月には4739人に減りました。分娩を取り扱う関連病院も2003年の1009病院から2年間に95病院(9.4%)減少しました。

少ない産婦人科医がそれぞれ別の病院に点在していると、多くの人手を必要とする産科救急にどの病院も適切に対応できなくなってしまいます。高次産科医療ができる病院が少なくなってしまえば、妊産婦死亡や周産期死亡は確実に増えてしまいます。産婦人科医数が激減している現状の医療環境において、産科医療の質を確保するためには、各医療圏内の限られた人数の産婦人科医を集約化して、産科救急にきちんと対応できる地域医療体制を確立する必要があります。

小児科でも公立・公的病院の医師不足は全国的に深刻な状況にあり、小児科医の拠点病院への集約化が緊急の課題となっていると聞いています。

最近、地域や診療科ごとの医師不足を解消するための「新医師確保総合対策」が、厚生労働省、総務省、文部科学省の3省でまとめられ公表されました。その中で、小児科・産科の広く薄い配置を改善し、集約化・重点化を推進することが明記されています。

厚生労働省は、医師確保総合対策費として、平成19年度予算で約1029億円を計上して、各都道府県に「地域医療対策協議会」を設置し、小児科医と産科医を都道府県単位で集約化・重点化する方針を打ち出すなど、医師不足、偏在を解消する対策に本腰を入れ始めました。

小児科と産科とでそれぞれの特殊な事情があると思いますが、集約化する場合には小児科および産科の集約先病院を連動させることが非常に重要だと思います。同じ医療圏の中で、小児科の集約先病院と産科の集約先病院が別々であれば、せっかく集約化しても全く意味がありません。各都道府県において、置かれた状況は全く違うので、小児科・産科の集約化のあり方を検討する「地域医療対策協議会」を開催し、両科でよく協議して、各医療圏で集約化する病院を調整してゆく必要があると思います。小児科・産科を集約化する病院(周産期母子医療センター)では、分娩件数や緊急手術件数が大幅に増えることが予想されますので、助産師や麻酔科医も同時に同じ病院に集約化する必要があります。

また、集約化により、小児科医や産婦人科医が撤退していなくなってしまう病院や自治体、地域住民の反発が当然予想されます。出産のための宿泊施設の整備,さらには道路整備、ヘリコプター搬送システムの充実などが行政側の課題になると考えられます。

長野県の産婦人科の状況:
 
最近3年間だけで29人の産婦人科医が県内の2次病院から離任し、最近5年間で県内の分娩取り扱い施設が20施設減少しました。さらに、「近い将来に分娩を中止する可能性がある」とアンケート調査に回答した施設が、分娩取扱い施設の約3割にあたる15施設に上っており、分娩を取り扱う施設は今後もさらに減り続けてゆくであろうと予測されます。(県産婦人科医会)

****** 朝日新聞、2006年08月25日

小児・産科医師の集約化へ補助金 患者拠出の病院支援

 小児科や産科の医師不足対策で、厚生労働省は来年度、特定の中核病院に医師を集中させる「集約化」に本格的に乗り出す。医師が足りない地域の病院が入院患者を中核病院に委ねることを条件に、高齢者医療など他の分野に転換するための費用を国が一部負担する。地域の医師確保策を後押しするのが狙いで、来年度予算概算要求に関連費を盛り込む。ただ、地方には集約化で医師が引き揚げられることへの懸念もある。

 厚労、総務、文部科学の3省は昨年8月、医師不足が深刻な産科や小児科の医院や病院に入院する患者を中核病院などに集め、医師一人ひとりの負担を軽くするなど、集約化・重点化の推進を決めた。各都道府県に、今年度中に対策の必要性を検討し、具体策をまとめるよう求めた。

(中略)

 厚労省が補助対象に想定しているのは、中核病院との連携が期待される山間部やへき地の自治体病院や民間病院など。重点化に協力して小児科や産科の入院患者を受け入れない代わりに、高齢者介護など地域のニーズにあった分野に切り替える場合、必要な医療機器やベッドなどの設備整備費の一部を国が負担する。

 厚労省は当面、自治体病院など公的病院を中心に集約化・重点化を進める方針だが「補助制度を充実させ、将来的には民間病院にも協力を仰ぎたい」としている。

(朝日新聞、2006年08月25日)