チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」(1982年10月17日デジタルライブ録音)
指揮:エフゲニー・ムラヴィンスキー
管弦楽:レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
CD:ビクター音楽産業 VDC-25025
ムラヴィンスキーの指揮は、曲に真正面から取り組み、少しの曖昧さも許さない、誠に厳格であるにもかかわらず、一方では人間みに溢れ、そして雄大でおおらかな包容力に満ちたものであった。今の指揮者には求めることが難しい資質をふんだんに持った偉大なる指揮者だったのである。そのムラヴィンスキーが振った1枚のライブ録音のCDがこのチャイコフスキーの「悲愴」交響曲である。
第一楽章から一種異様な緊張感が漂い、ただ事ならざる陰鬱な雰囲気を醸し出す。それが第2楽章では、人が遥か昔を偲びながらこれまでの人生を回顧するような、しみじみとした心情を描ききる。さらに第3楽章に入ると、第1楽章と同様、すざましいほどの緊張感に包まれ、怒りとか絶望感とかが炎になって立ち上っていくようだ。そして、第4楽章は、第2楽章と同様に静かな中での絶望感とかやりきれなさを心の奥深く仕舞い込み、最後はすすり泣くようにして全曲を締めくくる。
凡庸な指揮者が「悲愴」を指揮すると、1-4楽章がただただ暗く一本調子に終わってしまうことが多い。ところがムラヴィンスキーは4つの楽章の一つ一つの輪郭それぞれはっきりと描き分けて、我々の前に提示してくれる。チャイコフスキーは、人生の苦しみとか悩みとかを、これほどの大きなスケールで描いたのだと改めて感じさせてくれる、ムラヴィンスキーでしか為し得ない名演奏のCDとなっている。
このCDは、レニングラード放送局に秘蔵されていたライブ録音で、ビクターが15年もの年月をかけた末に、同放送局の許可を得てCD化したという。ムラヴィンスキーの専属エンジニアのシュガル氏が秘蔵していたマスターテープを基に直接CD化してあるため、今から27年前の録音にもかかわらず、鮮明な音質でムラヴィンスキーの指揮ぶりを聴くことができる貴重なCDだ。(蔵 志津久)
全く右も左も分からぬ初心者ながら、1960年録音に戦慄し、貴サイトで見たこの盤を聞きたいと思っておりました。
先般、新宿の販売店で手に取り、もうすっかり愛聴盤になりました。
ご案内に感謝します!
ムラヴィンスキーの曲に対する集中度は想像を絶するものがあります。こんな凄い指揮者は当分出てこないかもしれません。
蔵 志津久