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スティーブン・フォスター・フェイバリッツ
夢見る人/バンジョウをかき鳴らせ/やさしいアニー/口ひげさえ/恋人よ窓
を開け/赤いバラよ、いつまでも/カイロへ行って/おお、レミュエル/懐かし
きケンタッキーのわが家/老犬トレイ/ドルシー・ジョーンズ/君はわが歌の女
王/グレンディ・バーク号/きびしい時代はもうやってこない/故郷の人々/あ
る人/おお スザンナ/やさしいリーナ・クレナ/ネリー・ブライ/金髪のジェニ
ー/ローラ・リー/草競馬/おやすみ、いとしい人/オールド・ブラック・ジョー
指揮:ロジェー・ワーグナー
合唱:ロジェー・ワーグナー合唱団
CD:東芝EMI TOCE-6410
時々フォスターの歌を無性に聴きたくなるときがあります。1年のうち必ず何回か起きます。そんな時、ロジェー・ワーグナー合唱団のこのCDを必ず聴くことにしているのです。それは、聴いた後の満足度が他のフォスターのCDより何倍も大きいからです。フォスターの歌を聴くと、故郷に帰って、少年時代に野山を駆け巡ったような、懐かしい気分に浸れます。日々の喧騒を離れ、人間の根源にある魂に直接響くような、何かがフォスターの歌には込められているのです。
それにしてもフォスターほど、人間や動物に対し優しい眼差しを向けた作曲家はいません。どうしてこんな優しさを、大人になっても持ち続けることができたのでしょうか。一般にアメリカ人というと、開拓者としての激しさとか、パイオニア精神を思い起こしますが、フォスターのように人間や自然や動物達に対する深い愛着を抱くのも、同じアメリカ人の中にはあるようですね。オバマ大統領の新しいアメリカは、フォスターの精神を、もっと世界に広めていってほしいものです。
ところで、フォスターの曲はあまりにも有名ではありますが、フォスターってどんな作曲家といわれると私自身あまり知らないことに気が付きました。そこでフォスターの経歴をみてみることにしたのです。フォスターは1826年にペンシルバニア州ローレンスヴィル(現在はピッツバーグ州に併合)の裕福な家に生まれています。そしてたった37歳の短い生涯に名曲を何曲も残しました。
しかもその短い一生は、必ずしも順風満帆ではなかったようで、死の時は洋服のポケットには、古ぼけた財布中に、38セントの硬貨と、1枚の小さな紙切れが残されていただけだったといいます。その紙には「親しい友人と優しい心の人たち」と鉛筆で書かれていたことを、このCDの解説書で横堀朱美氏が紹介しています。13歳で最初の曲を書いていますが、驚いたことに音楽はほとんど独学でマスターしたようですね。一時は「おおスザンナ」などが大ヒットして名声を得たようですが、晩年は失意のうちに孤独な死を迎えています。
このCDで合唱団の指揮をしているロジェー・ワーグナーは、年配の方なら名前をよくご存知でしょう。ただ、どういう経歴かはあまり知らないので、こちらも紹介しておきます。ロジェ・ワーグナーは1914年生まれのフランス人だったのですね。7歳のときに家族と共にアメリカに渡り、ここからアメリカとの付き合いが始まったのです。セント・ジョーゼフ教会の音楽監督などを務め、1947年に12声の混声合唱団「ロジェー・ワーグナー合唱団」を結成しました。確かこの合唱団は昨年も日本に来て公演を行ったようですよね。実に結成から60年以上が経過しているのです。このCDは、1990年にロサンジェルスのスタジオで、生前のロジェ・ワーグナー指揮の下に、それはそれは実に見事な合唱を聴かせてくれています。
フォスターが作曲したたくさんの曲たちは、優しさと懐かしさに溢れていますが、同時に聴いていると自然に生きる喜びが湧き起こってくるから不思議なものです。フォスターの歌なんてもう耳たこだなんて言わないで一度聴いてみてください。心の底から生きる勇気が湧き起こってきますから。(蔵 志津久)
フォスターは、私にとって日本の抒情歌と同じに空気みたいものです。
蔵 志津久