<クラシック音楽CDレビュー>
~ルドルフ・ケンペ指揮シュターツカペレ・ドレスデンのR.シュトラウス:交響詩集~
R.シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」 Op.28
交響詩「ドン・ファン」 Op.20
交響詩「英雄の生涯」 Op.40
交響詩「ドン・ファン」 Op.20
交響詩「英雄の生涯」 Op.40
指揮:ルドルフ・ケンペ
管弦楽:シュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立歌劇場管弦楽団)
管弦楽:シュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立歌劇場管弦楽団)
CD:WARNER CLASSICS LC02822
(ルドルフ・ケンペ指揮シュターツカペレ・ドレスデン「R.シュトラウス:管弦楽作品全集」より)
◇
【ルドルフ・ケンペ指揮シュターツカペレ・ドレスデンの「R.シュトラウス:管弦楽作品全集」】
<CD1>
<CD1>
交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』 Op.30
交響詩『死と変容』 Op.24
歌劇『ばらの騎士』Op.59~ワルツ、
歌劇『カプリッチョ』Op.85~月光の音楽
交響詩『死と変容』 Op.24
歌劇『ばらの騎士』Op.59~ワルツ、
歌劇『カプリッチョ』Op.85~月光の音楽
<CD2>
交響詩『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯』 Op.28、
交響詩『ドン・ファン』 Op.20
交響詩『英雄の生涯』 Op.40
<CD3>
メタモルフォーゼン(23の独奏弦楽器のための)
アルプス交響曲 Op.64
<CD4>
交響詩『ドン・キホーテ』 Op.35
フランソワ・クープランのハープシコード曲による舞踏組曲
交響詩『ドン・ファン』 Op.20
交響詩『英雄の生涯』 Op.40
<CD3>
メタモルフォーゼン(23の独奏弦楽器のための)
アルプス交響曲 Op.64
<CD4>
交響詩『ドン・キホーテ』 Op.35
フランソワ・クープランのハープシコード曲による舞踏組曲
<CD5>
交響的幻想曲『イタリアから』 Op.16
交響詩『マクベス』 Op.23
交響詩『マクベス』 Op.23
<CD6>
歌劇『サロメ』 Op.54~7つのヴェールの踊り
組曲『町人貴族』 Op.60
バレエ音楽『泡立ちクリーム』 Op.70~ワルツ
交響的断章『ヨゼフ伝説』 Op.63
<CD7>
組曲『町人貴族』 Op.60
バレエ音楽『泡立ちクリーム』 Op.70~ワルツ
交響的断章『ヨゼフ伝説』 Op.63
<CD7>
ヴァイオリン協奏曲 ニ短調Op.8
家庭交響曲 Op.53
家庭交響曲 Op.53
<CD8>
ホルン協奏曲 第1番 変ホ長調Op.11
ホルン協奏曲 第2番 変ホ長調
オーボエ協奏曲 ニ長調
デュエット・コンチェルティーノ(クラリネット、ファゴット、弦楽とハープのための)
ホルン協奏曲 第2番 変ホ長調
オーボエ協奏曲 ニ長調
デュエット・コンチェルティーノ(クラリネット、ファゴット、弦楽とハープのための)
<CD9>
ブルレスケ ニ短調
家庭交響曲余禄Op.73
パンアテネの行列Op.74
チェロ:ポール・トルトゥリエ
ホルン:ペーター・ダム
オーボエ:マンフレート・クレメント
ヴィオラ:マックス・ロスタル
クラリネット:マンフレート・ヴァイス
ファゴット:ヴォルフガング・リープシャー
ピアノ:マルコム・フレイジャー
ピアノ:ペーター・レーゼル
家庭交響曲余禄Op.73
パンアテネの行列Op.74
チェロ:ポール・トルトゥリエ
ホルン:ペーター・ダム
オーボエ:マンフレート・クレメント
ヴィオラ:マックス・ロスタル
クラリネット:マンフレート・ヴァイス
ファゴット:ヴォルフガング・リープシャー
ピアノ:マルコム・フレイジャー
ピアノ:ペーター・レーゼル
指揮:ルドルフ・ケンペ
管弦楽:シュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立歌劇場管弦楽団)
管弦楽:シュターツカペレ・ドレスデン(ドレスデン国立歌劇場管弦楽団)
録音:1970~1975年、ドレスデン、聖ルカ教会
CD:WARNER CLASSICS LC02822(CD9枚組)
CD:WARNER CLASSICS LC02822(CD9枚組)
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今回のCDは、ルドルフ・ケンペ指揮シュターツカペレ・ドレスデンによる、CD9枚組アルバム「R.シュトラウス:管弦楽作品全集」(WARNER CLASSICS LC02822)から、第2番目のCDを聴いてみることにする。このCDアルバム「R.シュトラウス:管弦楽作品全集」は、1970年~1975年にドイツ、ドレスデンの聖ルカ教会において録音されたものであるが、これまで未使用の新発見オリジナル・アナログ・マスターよりリマスタリングされた音源であるために、現役の録音と遜色ない高音質に仕上がっているのが嬉しい。いずれも曲も、R.シュトラウス演奏の王道とも言うべきもので、その正統的な堂々とした演奏内容は比類がない。それに加え、R.シュトラウスの管弦楽作品を網羅している点でも貴重な録音である。ルドルフ・ケンペは、オーケストラからバランスよく最高の音を引き出させる天賦の才に恵まれていた。惜しまれるのは、同世代の指揮者ヘルベルト・カラヤン(1908年―1989年)が1954年の初来日以降、11回も来日しているのに対して、ルドルフ・ケンペは一度も来日経験がなったことであろう。
指揮のルドルフ・ケンペ (1910年―1976年)は、ドイツ、ドレスデン出身。ドレスデン音楽大学ではオーボエを学び、1929年ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のオーボエ奏者となる。1935年ケムニッツとヴァイマルの歌劇場指揮者。1950年ドレスデン国立歌劇場音楽監督に就任。その後バイエルン国立歌劇場音楽監督を務めた(1952年―1954年)。1954年渡米してニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の指揮者。1960年バイロイト音楽祭に初登場し、1963年まで4年間「ニーベルングの指輪」を指揮。1961年ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者。チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団首席指揮者(1965年―1972年)。1967年ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者。1975年BBC交響楽団の常任指揮者を兼任。指揮ぶりは、オーストリア・ドイツ楽派の正統を受け継ぐもので、自身がオーボエ奏者であったことからもあり、オーケストラのバランスを重視し、明快な表現力には定評があり、日本においても、録音を通して多くのファンを有していた。
指揮のルドルフ・ケンペ (1910年―1976年)は、ドイツ、ドレスデン出身。ドレスデン音楽大学ではオーボエを学び、1929年ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のオーボエ奏者となる。1935年ケムニッツとヴァイマルの歌劇場指揮者。1950年ドレスデン国立歌劇場音楽監督に就任。その後バイエルン国立歌劇場音楽監督を務めた(1952年―1954年)。1954年渡米してニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の指揮者。1960年バイロイト音楽祭に初登場し、1963年まで4年間「ニーベルングの指輪」を指揮。1961年ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者。チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団首席指揮者(1965年―1972年)。1967年ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者。1975年BBC交響楽団の常任指揮者を兼任。指揮ぶりは、オーストリア・ドイツ楽派の正統を受け継ぐもので、自身がオーボエ奏者であったことからもあり、オーケストラのバランスを重視し、明快な表現力には定評があり、日本においても、録音を通して多くのファンを有していた。
R.シュトラウスの交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」は、1895年に作曲された。14世紀の北ドイツの伝説の奇人ティル・オイレンシュピーゲルの物語を、シュトラウスの巧みな管弦楽法で音楽化した作品であり、副題は、「ロンド形式による昔の無頼の物語」。弦楽器による親しみやすい短い前奏で始まるが、これは昔話の「むかしむかし……」を表すテーマ。続いてホルンによるティル・オイレンシュピーゲルの第1のテーマが出た後、クラリネットでティルの笑いを表すテーマが示される。好き放題にいたずらを繰り返すティルの活躍が描かれるが、突如小太鼓が鳴り響き、ティルは逮捕される。金管によるいかめしい裁判のテーマが奏される。ティルは裁判を嘲笑しているが、やがて彼は死の予感におびえて金切り声を上げる。ついに死刑の判決が下り、ティルは絞首台に昇らされ、敢えない最期を遂げる。このCDでのルドルフ・ケンペの指揮ぶりは、メリハリの利いた明快な表現でティル・オイレンシュピーゲルの生涯をリスナーに分かりやすく語り掛ける。そこには一点のあいまいさもなく、しかも表情豊かに演奏するので、リスナーは思わず朗読に引き込まれるように聴き込んでしまう。弦楽器と管楽器、それに打楽器が見事というほかないバランスを保って演奏される。「ティル・オイレンシュピーゲル」について、これ以上の完成度は到底考えられないような完璧な演奏内容だ。それにしてもオーケストラの奏者一人一人の技術的高さには、正に脱帽ものである。
R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」は、1887年から1888年にかけて作曲された。同曲は、理想の女性を追い求めて遍歴を重ねるスペインの伝説上の人物、ドン・ファンを主題としたニコラウス・レーナウの詩に基づいている。ドン・ファンは、モーツァルトも歌劇「ドン・ジョバンニ」で取り上げているほど、昔からヨーロッパで広く知られた存在。冒頭、情熱的な弦の上昇音型で「悦楽の嵐」のテーマに続き、木管の下降音型で理想の女性を表すテーマが出る。そして、女性を追い求め、満たされぬドン・ファンの苦悩と焦燥が描かれていく。最後は、ドン・ファンの悲劇的な死が暗示される。このCDでは、特に管楽器の活躍が目立ち、それによって演奏全体が分厚ものに仕上がっている。この曲は、ともするとドン・ファンの遍歴を強調するあまり、曲自体がだらだらとした印象を与えかねないが、ルドルフ・ケンペの指揮は全く違う。細部に至るまで緊張感がみなぎり、起伏に富んだ表現が印象に残る。それにしてもホルンをはじめとして豊かに鳴り響く管楽器群がこれほどまでにリスナーの心に訴える演奏を聴かせる録音も珍しい。これは、ルドルフ・ケンペがドレスデン音楽大学でオーボエを学び、そのキャリアをスタートさせたこととは無縁ではなかろう。このCDは、物語性ばかりを強調した、これまでの「ドン・ファン」のイメージを一新させ、音楽的な豊かさを包含したスケールの大きい新たな「ドン・ファン」像をリスナーの前に提示した画期的な録音と言える。
R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」は、1898年に作曲された、R.シュトラウスの交響詩の最後の作品。副題に 「大管弦楽のための交響詩」とあるように、演奏するには105名から成る4管編成のオーケストラが必要となる。この曲の「英雄」とはR.シュトラウス自身を指すと言われているが、作曲者本人はそれを認めてはいない。R.シュトラウスは、ベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」に因み、この曲を「英雄の生涯」と名付けたが、ベートーヴェンの「英雄」とは異なり、R.シュトラウスの「英雄」とは、剣を持った若い剣士の物語。曲は6つの部分(英雄/英雄の敵/英雄の伴侶/英雄の戦場/英雄の業績/英雄の隠遁と完成)から成り、全体は切れ目なく演奏される。このCDで、ルドルフ・ケンペは、「英雄」の力強さを思う存分前面に掲げた指揮ぶりを披露する。この演奏を聴くと、R.シュトラウス自身というより「若い剣士の物語」ということの方が当てはまるように感じられる。この曲でのルドルフ・ケンペの指揮は、物語性に富んだ演奏となっており、あたかもオペラを思い起こさせるような演奏に仕上がっている。この演奏も、数ある「英雄の生涯」の録音の中でも、その存在価値を遺憾なく発揮した貴重な録音であるということができよう。(蔵 志津久)