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◇クラシック音楽◇NHK-FM  「ベストオブクラシック」 レビュー

2013-01-29 10:38:39 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

 

<NHK-FM  「ベストオブクラシック」 レビュー>

 ~フランス政府芸術文化勲章受勲ソプラノ歌手 サンドリーヌ・ピオー ソプラノ・リサイタル 東京~

フォーレ:「水のほとりで」「月の光」「ゆりかご」「夢のあとに」
メンデルスゾーン:「夜の歌」「新しい恋」「眠れる瞳に宿る光」「魔女の歌“もうひとつの五月の歌”」
ショーソン:「昔の恋人」「魅惑と魔法の森で」「時の女神」
リヒャルト・シュトラウス:「あすの朝」「ひめごと」「夜」「セレナード」
ヴァンサン・ブーショ:「絞首台の歌」         
プーランク:「モンパルナス」「ハイド・パーク」「C」「華やかな宴」                
ブリテン(編曲):「柳の園のほとり(イギリス民謡)」「なぐさめる人もなく(イギリス民謡)」「なにゆえイエスは(アパラチア地方の民謡)」 
プーランク:「パリへの旅」「ハートのクイーン」「歌曲集“おとめの花”」から第3曲「きづた(木蔦)」

ソプラノ:サンドリーヌ・ピオー

ピアノ:スーザン・マノフ              

収録:2012年9月20日、東京・王子ホール

放送:2013年1月18日 午後7:30~午後9:10

 最初のフォーレの歌曲は、フォーレ30歳から42歳の間に作曲された曲。フォーレは、その作曲家人生のほとんどに渡って歌曲を作曲している。ここでの「水のほとりで」「月の光」「ゆりかご」「夢のあとに」は、作曲家として充実した生活を送っていた時代の作品だけに聴き応えがある。ソプラノのサンドリーヌ・ピオーは、何かメゾソプラノに近いような、力強い歌声が印象に残る。陰影のある、しっとりとした音質は、フランス歌曲、特にフォーレの歌曲にはぴたりと合う。「月の光」は、伴奏のスーザン・マノフの美しい音色に乗って、夢幻の空間を彷徨うような名唱を聴かせてくれる。「ゆりかご」「夢のあとに」に入ると、その傾向はますます加速され、ドイツ歌曲では得られない、絹のように柔らかい詩的な空間が目の前に浮かび上がる。サンドリーヌ・ピオーの歌声は、単なる表面的な美しさだけではなく、奥行きの深い、深遠な美しさなので、その曲の持つ特徴を的確に表現して、リスナーを魅了して止まない。

 メンデルスゾーンは、生涯に約70曲の歌曲を作曲している。私はメンデルスゾーンの宗教合唱曲のレコードを聴いて、その明快なメロディーとハーモニーの豊かさに聴き惚れた経験を持つ。ここでは、「夜の歌」「新しい恋」「眠れる瞳に宿る光」「魔女の歌“もうひとつの五月の歌”」の4曲歌曲が歌われた。サンドリーヌ・ピオーの歌唱は、フォーレの時と比べて、もう少し日の光が差し込んできたような、幸福感に溢れたものに変わった。この辺を聴くと、オペラ歌手の片鱗が窺えるようでもある。メンデルスゾーンの曲の持つ、歯切れの良い明快さが、誠にうまく表現されていたと思う。ショーソンは、「昔の恋人」「魅惑と魔法の森で」「時の女神」の3曲。ショーソンに入ると、再び、フォーレの世界のような幽玄な詩的世界が辺りを覆う。しかし、ここでのサンドリーヌ・ピオーの歌唱は、フォーレの歌曲にはない、妖艶さを遺憾なく醸し出す。声の質も一層くぐもったものに変わり、フランス歌曲の真髄を聴かせてくれ、堪能することができるのだ。スーザン・マノフのピアノ伴奏も実に巧みに雰囲気を演出する。

 リヒャルト・シュトラウスの歌曲は、「あすの朝」「ひめごと」「夜」「セレナード」の4曲。これらは、それまでのフランス歌曲に変わり、ドイツ歌曲である。そこをフランスのソプラノのサンドリーヌ・ピオーがどのように歌いこなすのか、興味津々。結果は、歌唱法をがらっと変えて、ものの見事にリヒャルト・シュトラウスの愛をテーマにした歌曲の世界を巧みに歌い切った。もともと、フランスの演奏家がドイツ作品を演奏すると、ドイツの演奏家以上にうまく演奏することがある。ピオーはその一人なのだろう。オペラ歌手としての表現力が特に印象的。それにしても、スーザン・マノフのピアノ伴奏が、うまいったらありはしない。プーランクの歌曲は、「モンパルナス」「ハイド・パーク」「C」「華やかな宴」の4曲。プーランクは、わが国おいては、あまりポピュラーな作曲家とは言えない。特に歌曲においては。今回、ピオーの伸びのある歌声で聴いてみて、私は、フォーレともショーソンとも違う、一種独特の雰囲気に戸惑ったのは事実。ただ、ところどころに現れる、絵も言われぬ美しさに一瞬心が奪われた。これには、ピオーの歌唱力が大いに影響していることは、間違いないことであろう。

 今回のサンドリーヌ・ピオーのソプラノ、スーザン・マノフのピアノ伴奏のリサイタルを聴いて、久しぶりに歌曲の良さを味わうことができた思いがする。ソプラのサンドリーヌ・ピオー(1965年生まれ)は、フランスのソプラノのオペラ歌手。パリ音楽院において声楽を学ぶ。これまで主にヨーロッパにおける古楽復興の立役者たちとの共演で、バロック・オペラにおいて高い評価を得る。近年においては、18世紀の音楽だけでなく、ウェーバーのような19世紀ロマン派音楽、さらには、ドビュッシーやブリテンなど20世紀の音楽にまでレパートリーを拡げ、世界各地でリサイタルを開催。2006年にフランス政府より芸術文化勲章を受勲。ピアノのスーザン・マノフは、アメリカ、ニューヨークに生まれる。マンハッタン音楽院とオレゴン大学で学ぶ。ドイツ歌曲とフランス歌曲のピアノ伴奏において人気ピアニストの一人。世界各地でリサイタルを開き活躍。また、室内楽奏者としても実績を持つ。現在、パリ国立高等音楽院教授。      

 


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