元・副会長のCinema Days

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「午後8時の訪問者」

2017-04-29 06:25:55 | 映画の感想(か行)

 (原題:La fille inconnu)明らかに、監督の作風に合っていない題材だ。ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌは国際映画祭の常連で、各種アワードを獲得している俊英だが、その特徴はドキュメンタリー映画の製作で培われた深い人間洞察にある。ストーリーよりもシチュエーションや語り口で登場人物の内面をあぶり出し、観客の共感を得ようとするタイプだ。しかし本作は、サスペンス映画としてのプロットと明確な起承転結が要求される作品構成になっている。案の定、慣れていないことをやると全体的に空回りしている印象は拭えず、とても評価は出来ない。

 ベルギー東部のリエージュの郊外で診療所に勤務する若き女医ジェニーは、ある晩診療時間を過ぎて鳴ったドアベルに応じなかった。その翌日、近所で身元不明の黒人少女の遺体が見つかる。被害者は前日に診療所のモニターカメラに映っていた少女だった。彼女はどういう事情を抱えていたのか。誰かに追われていたのか。あの時、ドアを開けていれば彼女は死なずに済んだかもしれない。悔恨の情に駆られたジェニーは、亡くなる直前の少女の足取りを独自に探っていく。しかし思わぬ妨害に遭い、彼女は事件の闇の深さを思い知ることになる。

 曰くありげな設定ながら、終わってみれば大したことは無い。もちろん被害者の置かれた状況はシビアで、社会問題としては重いものがあるが、そこをクローズアップするならば別の筋立てが考えられたはずだ。

 監督自身は“これはサスペンス映画だ”と言っているらしいが、そっち方面での盛り上がりはほとんど見られない。そもそも、ヒロインが捜査に乗り出す必然性も感じられない。警察に任せておけば良い事案であり、彼女が何か新しい事実を見出して解決に繋がるような話も無い。かと思うと、ジェニーが直面している仕事上の課題が掘り下げられているわけでもない。

 ジェニーは脳疾患により半身不随になった所長の後を継ぐのかどうか、無愛想な研修医との関係はどう修復していくのか、いずれも明確な答えは出ていない。御膳立てだけがサスペンスで、その実サスペンスに成り切れていない及び腰の展開が続くうちに、こちらは退屈を覚えてしまった。

 主演のアデル・エネルは良い女優であることは分かるが、この映画では真価が発揮されていないように思う。ジェレミー・レニエやオリビエ・グルメといった他の出演者にも特筆すべきものは無し。通常ならばダルデンヌ兄弟の作品は大きな賞にノミネートされるものだが、本作に限ってはそうではないのは、観ていて何となく理由が分かるような気もする。

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