元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「第11回九州ハイエンドオーディオフェア」リポート(その4)

2014-04-03 06:32:30 | プア・オーディオへの招待
 展示されていたブランドはお馴染みのところが多かったが、それでもSPIRAL GROOVEELECTROCOMPANIET等いくつか新規出品のメーカーのモデルも聴くことが出来て、それなりに得るものがあった。

 逆に最も失望したのがSONYである。新型のプリメインアンプネットワークプレーヤーが紹介され、同社のスピーカーSS-AR2を使ってのデモが行われていた。説明するメーカーのスタッフの弁舌には熱がこもっていたが、肝心の音はまるで話にならない。何というか、音楽が鳴っているという感じが全然しないのだ。ただ単に音が出ているという状態に過ぎず、音楽を楽しく聴かせるキレとかコクとか明るさとか艶っぽさみたいなものは皆無。



 ならば聴感上の物理特性が凄いのかというと、そうでもない。寸詰まりでレンジも音場も広がらない印象を受ける。同じ部屋に海外の有名ブランド品も置いてあっただけに、大きく見劣りするのは仕方がないだろう。

 昔のSONYは良かった。70年代後半のSS-G7をはじめとするフロア型スピーカーは実に味わい深い“大人の音”だったし、バブル期に出したアンプ類は骨太な展開で所有満足度も高かったものだ。それだけに、今の体たらくにはガッカリである。だいたい、CDの考案元であるにもかかわらずCDプレーヤーを新たにリリースしていないというのだから呆れる。

 パソコン事業の“切り売り”をはじめ最近いい話を聞かないSONYだが、今回の低調なデモはそれを象徴しているかのような印象を受けてしまった。実に寂しい話である。

 最後に、会場で某大手メーカーのスタッフから聞いた話を紹介したい。最近はネットからダウンロードする圧縮音源が大手を振って罷り通っているが、そんな情報量を間引いたような音源しか聴いてこなかった若い者にちゃんとしたピュア・オーディオシステムの音を聴かせると、驚くことに彼らは拒否反応を示すのだという。

 いわく“音がいっぱい飛んできてコワイ”とか“声が生々しくてキモい”とか、そういうネガティヴなセリフが飛び交うという。もちろん、音楽活動をやっている若い衆(プロアマ問わず)は上質なオーディオシステムの音の良さを素直に認めるらしいが、そうではないその他大勢は良い音に接しても腰が引けてしまうとか。



 そのスタッフは“確かに情報量が小さい音を心地良いと思うケースがある。たとえばラジオ放送や昔のカセットテープの音は、長時間聴いても疲れない”とは言ったものの、それは良い音で聴ける装置(ステレオセット)が存在していることを承知した上で、ラジオやカセットはその“代用品”に過ぎないと皆が認識していた時代の話だろう。圧縮音源以外のソースがこの世に存在しないと思っている今の若い連中にとっては、ピュア・オーディオシステムは“得体の知れない何か”であっても仕方がない。

 もちろん、今さらこんな状況を嘆いてみても無駄であり、そもそも責任は市場縮小に手を拱いてきたオーディオメーカーの側にある。くだんのスタッフ氏に“では、メーカーとしては若い者達に対して啓蒙活動(?)みたいなことはやっているのか?”と聞いたら“東京と大阪で小規模なものは実施しているが、本腰据えてはやっていない”との回答を得た。

 まあ、どこも自分のところの“目先の利益”が大切だというのも分かるが、少しは市場の拡大というマクロな視点でビジネスを見直して欲しいものである。

(この項おわり)

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4 コメント

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ハイファイはキモいですか (プアーマン)
2014-04-04 12:42:22
それじゃますます若い者はオーディオから逃げていきますね
この辺はスポーツカーが嫌われているのと一緒かもしれません

若い者は年寄りや金持ちを若さで下克上できるものには飛びつきます
80年代のバイクブームも、当時の免許制度のせいで絶対に乗れなかった750をちぎることが可能な中型バイクを、若者の買える値段で出したことがその理由でした

だから、私も「50万円で買えるマークレビンソンキラー」なんてものが出たらば、オーディオの復権もあったかもしれないと思っていました

しかし、ハイファイな再生にアレルギーを感じるという市場調査の結果が出ているのなら、日本の業界はますます「圧縮音源を手軽に聞ける」機器の開発に進んでしまうでしょうね
残念なことです
コメント、どうもサンキューです。 (元・副会長)
2014-04-06 19:13:59
そのスタッフ氏とはかなり長時間話し込んでしまったのですが(笑)、彼が言うには、音楽活動どころか生の楽器をロクに聴いたことも無い若者が増えつつあるとか。

たとえば、彼が勤めるメーカーで市場調査のため20代の若い衆を対象に「生の楽器の音をよく聴くか?」という質問を投げ掛けてみたら、何と「中学生の頃に音楽の授業で聴いたピアノの音が最後で、それ以来聴いたことがない」といったような答えが少なからず返ってきて面食らったそうです。

これではピュア・オーディオのサウンドを「(自分には関係の無い)異質なもの。気色の悪いもの」だと感じたとしても、無理もないかもしれません。

とにかく「音楽鑑賞とはJ-POPのような音質劣悪なソースを圧縮音源を安手のイヤホンで聴くこと」であると思い込んでいて、生楽器のサウンドにもロクに触れたことのない層が増えつつあるのは間違いないようです。趣味のオーディオにとっては「市場が成立するための基礎の基礎」から揺らいでいるということでしょう。

問題は送り手に「基礎の基礎から市場を立ち上げなければいけない」という意識があるかどうかですね。現在の若者が生まれ育った家の居間には、もうステレオセットはありません。父親もオーディオセットは持っていません(若い頃には保有していたかもしれませんが、多くの場合、手放しているでしょう)。オーディオの良さを吹き込んでくれる親戚のオジサンも、たぶんいないと思います。

送り手側はピュア・オーディオがどうのこうとの言うよりも、音楽の楽しさや多様性を若い層に対してPRすることから始めないといけない状況なのではと感じます。

くだんのスタッフ氏とは他にもいろんなことを話し合ったのですが、機会があればいずれ紹介したいと思います。
Unknown (もり)
2014-06-01 21:19:55
食べ物なんかでも慣れていないとよいものを出してもまずいという事例は多いですね。まあハイレゾ商売などに現を抜かして自爆する身から出た錆でしょうね。
まあ一番の原因はソフトの質が劣悪すぎることでしょう。ハードの問題など超越してしまっている。
コメント、ありがとうございます。 (元・副会長)
2014-06-02 06:55:49
>食べ物なんかでも慣れていないと
>よいものを出してもまずい

昔、何かの雑誌で「(当時流行りだした)グルメ漫画で取り上げて欲しいネタ」を論じるような特集があったのですが、その中で「ただ劇中で美味しいものを紹介するだけではなく、ジャンクフードばかり食べて味覚が麻痺している奴に主人公がマトモな料理の何たるかを辛抱強く説くような内容だったら面白いだろう」という意見があって笑ってしまいました。しかし、不景気が常態化してしまった今は、それを笑えなくなったように思います。

昨今のJ-POPやそれをまた圧縮したような音源は、いわば音響の世界での「ジャンクフード」でしょう。今はその「ジャンクフードばかりに接して音に対する感性が育っていない者達」が若年層の中では大勢を占めているのかもしれません。

>ハイレゾ商売などに現を抜かして
>自爆する身から出た錆

良い音を良い音だと認知しない者が増えつつあると思われるのに、他人事みたいにやれハイレゾだDSDだとトレンドみたいなものを持ち上げるこの業界の姿勢は愉快になれませんね。

せめて、再生装置の質を上げると良い音で鳴ってくれるソフトがたくさん出回っていれば良いのですが、ラジカセやDAPで聴くことを前提にした低品質の音源ばかりが巷に溢れているというのは、暗澹とした気分になります。

それでは、今後ともよろしくお願いします。

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