犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

慰安婦問題と想像力

2007-05-12 10:18:25 | 慰安婦問題

 またもや慰安婦問題で韓国の言論が騒いでいます(→リンク)。ソウル大学社会学教授が,ルース・ベネディクトの『菊と刀』まで持ち出して,中央日報にコラムを寄稿している。曰く,

「生存する慰安婦たちの血なまぐさい証言」
「歴史で人よりもっと確かな証拠がどこにあるか」
「動員の強制性を立証する歴史的文献を探してみろと強弁する姿」
「犠牲者たちのあらゆる証言があふれ出ても」

 またか,という感じです。
 被害者の証言だけで容疑者を罰する裁判所がどこにあるか。被害者の証言が二転三転していたり(→リンク),あきらかに史実と合わない内容が含まれていれば(→リンク),なおさらのこと証言を疑うべきなのに。ソウル大学教授がこんな裁判のイロハも理解していないとは,あきれてしまいます。


「ソウル大チョン・チンソン教授がオランダ国立記録物保存所で日本軍による強制動員事実を立証する公式文件を見つけ出して国内に知らせた」

 オランダ女性の事件は,日本の軍規に違反して不法な連行が行われたもので,日本軍もその違法性を認識したため慰安所を3カ月で閉鎖し,なおかつ戦後の戦勝国による軍法会議では死刑を含む極刑の判決が下され,執行された「戦争犯罪」であることは周知の事実(→リンク)。この事件が,朝鮮半島での「慰安婦強制連行」とどのような関係があるのか。

 韓国が本当に「慰安婦問題の真実」を明らかにしたいならば,加害者の証言,すなわち甘言を弄して女性をだました朝鮮人女衒,現地で実際に慰安所を経営した朝鮮人業者たち,あるいは娘を売った親たちの証言を求めてしかるべきでしょう。そしてまた,ちっとも「血なまぐさくない証言」にも注目し,戦場の慰安婦の実像を明らかにすべきです。
 ビルマで慰安婦をしながらためた貯金の返還を日本の郵便局求めた文玉珠ハルモニの場合,貯金額は2万6千円以上。そのほかに故郷に5000円の送金をしていた。日本人将校のお気に入りになり,いろんなものを買ってもらったそうです。これのどこが「血なまぐさい」のか。


 日本を代表するコリアンウォッチャーの田中明は『物語 韓国人』(文春新書2001年)のあとがきで次のように書いています。

「従軍慰安婦が政府の強制動員によるものでないのは、当時の空気を少しでも吸った人なら、誰でも知っていることである。だから『文藝春秋』92年7月号の「対決・日韓経済摩擦」という座談会で韓国人の出席者が、また、同誌93年3月号で退任間際の盧泰愚大統領が、口を揃えたかのように「従軍慰安婦問題は日本の言論機関が騒ぎ出し、韓国人の反日感情に火をつけた」と迷惑そうに語っている。
 だが反日日本人が編み出したあまたな画策の一つだったこの問題に、韓国側がすぐ乗ったうえ、かつて慰安婦だった老女まで動員して運動を「盛り上げ」ようとしたのは、何ともあざとくあさましく、多くの日本人に「韓国人はいやらしい」と思わせ、その評価を限りなく落とさせた(この手のことをマスコミは取り上げないが、心ある人は気づいているはずである)。あれは人間の正常な倫理的羞恥感覚の、限界を超えるものだった。当時、私は日本人慰安婦についても、同じ様なことが起こるのかとハラハラしたが、日本はそこまでは落ちていなかったのでホッとしたものである」

 植民地に生まれ,幼少期を韓半島で過ごした田中明と違い,私は当時の空気が吸えるような世代ではありません。しかし,本は読める。当時の手記,小説を読めば韓半島出身の売春婦がたくさん出てくる。
 そして,現代韓国の現状も知っている。キーセン観光を外貨獲得の手段として利用し,売春禁止の法を作りながら売春婦に対する国家次元の定期的性病検査を行って事実上黙認し,売春の取り締まりを強めれば大量の売春婦が日本へ,米国へと大挙して繰り出す。
 もっと貧困だった植民地時代,生活のために売春をせざるを得なかった気の毒な女性は,比率的にもっと高かったことが容易に想像できます。悲しいかな,「強制動員」などしなくても,いくらでも集まったのです。


 そういう当時の現実を認めたくないというのはわかりますが,それでは真実はわかりません。

 都合の悪い歴史を隠したがるという傾向は,私の見るところ,日本よりも韓国のほうに著しい。朝鮮時代の恥部の一つ,奴 婢(→リンク)についてはほとんど研究がなく,調べようにも調べられない。つきつめて調べちゃうと,研究者自身,奴 婢出身だということがわかっちゃったりして都合が悪いということもあるのでしょう。現存の「族譜」(家系図)は大半が近年の捏造です。今や国民の大部分が「両班」出身ということになっています。


 過去の「真実」に迫るには,地道な資料調査と少しばかりの想像力が必要です。想像力がないのは能力の問題だから仕方がないとしても,資料調査(読書)をしないのは知的怠慢です。
「従軍慰安婦問題」で日本政府を糾弾する韓国の若い世代,日本の「良心的市民」は,知的怠慢をとがめられても仕方がない。


 軍隊があり,慰安所があり,兵士がいて,娼婦がいて,業者がいた。納得ずくで来た女性もいれば,(それとは知らされずに)親に売られた者,業者の甘言に騙された者,暴力的に拉致された者がいる。慰安所を要請したのは日本軍だった。その話に乗った業者,女衒には朝鮮人が多かった。慰安所を利用した兵士には少数ながら植民地出身の者もいた。娼婦には,朝鮮出身者を上回る数の日本人女性がいた。
 この全体をさして,日本一国が全面的に悪く,朝鮮は一方的な被害者だ,などとどうして言えるのか。過酷な条件の中で働き,受け取った軍票が敗戦で紙切れになった場合もある。一方,貯めたお金を定期的に送金し,親孝行をした者もいる。時には客である兵士との間に恋愛が芽生えたことさえ…。


 在日韓国人でありながら,慰安婦の取材を続けるうちに「従軍慰安婦が必ずしも悲惨ではなかったこと」という事実に突き当たり,想像力豊かな文学作品を生み出したつかこうへい。

「パパは作家として、国としての歴史的事実よりも、一人の人間の小さな事実、そのときのその人の心の動きに興味があるのです。何かそこに希望を見つけないと、書いてはいけないと思っています。
 従軍慰安婦のテーマは、7年前に『娘に語る祖国』を書いたときから、いつかはお芝居にしてみたいと思っていました。でもなかなか完成できないでいます。
 はじめは、虐げられた従軍慰安婦を主人公に何か希望のもてる話を作りたかったのですが、取材していくうち、従軍慰安婦が必ずしも悲惨ではなかったことを知りました。また、二等兵の辛さも知り、筆が止まっているのです」
「パパが弱い立場の人のことを考えるようになったのは、もしかしたら、パパが韓国人としてこの国で生きていることからくるのかもしれません。
 相手の立場への想像力のことを教養というのです。
 これからパパのする話を想像力を逞しくして聞いてください」

 かくして、満州の帝国陸軍二等兵と朝鮮人慰安婦の間に芽生えた恋物語が始まります。(つかこうへい『娘に語る祖国』「満州駅伝」従軍慰安婦編,光文社,1997)

 敗戦後,進駐軍の周辺には慰安所が作られ,日本の貧しい女性たち売春に従事しました。いわゆるパンパン(参考)です。

 井上ひさしの『東京セブンローズ』(文藝春秋,1999)では,このパンパンが大活躍します。

 敗戦後,日本を占領したGHQは,諸悪の根源は「漢字仮名まじり」という奇怪な日本語の表記体系にあると考え,漢字を追放,いっそのことローマ字化してしまえと画策を始める。主人公の扇子屋はあらゆる手立てでこれを阻止しようとするが,うまくいかない。その陰謀を粉砕したのが,主人公の娘を含む7人のパンパンたち。彼女たちを文字通り身を挺して日本語を守った! 



 ハルモニをひっぱりだしてきて,事実はなんだ,証拠はなんだ,だれに責任があるなどと殺伐とした政治ショーをするんじゃなくて,こんなふうに想像力の世界で扱うべきなんじゃないでしょうかね,慰安婦問題は。


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4 コメント

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世界大学ランキング (スンドゥプ)
2007-05-13 11:35:41
というのがあります。どういう基準か良く知りませんが、ここで韓国の大学の評価が低いというのは、これを読むと納得できちゃいます。
学問でノーベル賞を貰った人がいないと言う話も聞きましたが、これも妙に説得性があると感じてしまいます。
学校は大人の都合の良い人間を作る場所という考えがあるとしたら、道は長いと感じます。
返信する
翻訳の質 (犬鍋)
2007-05-13 22:18:20
が低いというのも気になります。

http://www.chosunonline.com/article/20070502000018
返信する
同感です (スンドゥプ)
2007-05-14 11:28:04
私が購読している日本語版の業界紙は、明らかに韓国語のニュースを翻訳ソフトを使って訳し、固有名詞を訂正しただけのもの。表現はまともな日本語になっていません。意味はかろうじてわかりますが。
海外の著作の翻訳なら、日本語になったものを韓国語にした方が、まだましな感じがします。
でも根本は「まっ、こんなもんでいいかっ!」という翻訳に対する姿勢ではないかと思います。
新聞記事にハングルの誤植が多いのも。推敲してない。
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翻訳ソフト (犬鍋)
2007-05-15 00:52:05
韓→日よりも日→韓のほうが、いくぶん精度が高いような。
でも、ここ2~3年、翻訳ソフトの質は向上したと思います。私はいつも下訳に利用しています。
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