犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

辞書の話~コスモス朝和辞典

2007-05-25 15:07:33 | 辞書の話
 コスモス朝和辞典は不幸な辞典です。

 1988年に発刊されたのですが,翌89年に韓国で大規模な正書法の見直しが行われたため,刊行3年にして改訂版(第2版)発行を余儀なくされました。
 89年の改訂は,大根(ムウ무우→ムのような基本語の綴りの変更,動詞語尾ウムニダ읍니다→スムニダ습니다のような変更を含む大規模改訂だったため,旧式の綴りを放置しておくわけにはいかなかったのでしょう。

 そして,第二版の発行後2年で,前述小学館「朝鮮語辞典」が発刊された。

 語彙数,用言活用表の見やすさ,コラムの充実…。どれをとっても「朝鮮語辞典」は「コスモス」を凌駕していた。アドバンスはほとんど価格の安さのみ。

 でも,コスモスにはコスモスならではの美点があります。

 それは,別売のカセットテープ。これは,コスモスが独自に選定した重要語845語について,韓国語,その対訳,例文(韓国語のみ)が収録されている。私は,自分の実力が中級レベルに達したときにテープを購入し,通勤の行き帰りにこれを聞くことで韓国語のリスニング練習をしました。

 例文の語彙も,この辞書の収録語10000語(とその派生語を含む計18000語)に制限しているため,見出し語よりも例文中の語彙のほうが格段に難しいというようなことも少なく,学習者に対する配慮が行き届いている。

 いくつかの例文は,今も復唱できるくらいです。その中で印象に残っている例文があります。

メプタ맵다①(唐辛子,こしょう等が)辛い②煙たい,(目に)しみる

の第二語義の例文として

キョンチャルクァニ ソン チェリュタン ネムセガ ノム メウォ
警察官の撃った催涙弾のにおいがとても目にしみる。

 催涙弾…。

 日本人にとっては軍事専門用語のように感じられますが,80年代韓国においては日常語だったのですね。

 私が韓国に赴任した96年以降,実際に催涙弾の「辛さ」を体験したのは,一回だけ。労組の大規模デモが行われているそばをバスで通り掛かったとき,バスの窓から異臭が漂ってきた。乗客は急いで窓を閉めましたが時すでに遅し。目がしょぼしょし,涙が出る。鼻水も出て,喉がやけるように痛い。
 戦闘警察(機動隊)が使用した催涙弾のガスでした。

 きっと韓国の386世代にとって,チェリュタンネムセは青春の匂いなのでしょう。

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