弁理士の日々

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社会保障を問いなおす-全体像

2007-07-31 22:50:08 | 歴史・社会
中垣陽子著「社会保障を問いなおす」(ちくま新書)について、先日紹介しました。新書で、年金、医療・介護、少子化対策を網羅的に取り扱った本であるにもかかわらず、読み応えのある本です。
参議院選挙での各党の主張について、新聞で見る限りは詳しくフォローできないでいたのですが、7月28日(選挙前日)のNHK総合番組「決戦・党首駈ける」を見ていたら、野党の主張の中に中垣さんの提案を半分程度取り入れた主張がいくつも見られたのが印象的でした。

ここでは、本の中で印象に残った記述について、忘れないように書き留めておくこととします。

《現状-全体像》
わが国の社会保障給付費は、年々増加を続けています。その規模は2004年で86兆円に達しており、その中で増加を続けているのが年金(46兆円)と医療(26兆円)です。
ただし、86兆円という規模は、国内総生産に占める割合で見ると、先進国の中ではアメリカと並んで最低ランクです。
わが国の社会保障給付の中で、各国と比較して特に少ないのが、年金や医療以外の部分(障害者へのサービス、生活保護、失業給付、子育て支援)です。
わが国の制度は、高齢者への給付にかたよっています。高齢者年金と医療費のうちの高齢者部分、高齢者介護を足し合わせると、全体の7割に達します。他方、子育てへの給付はわずか3.8%に過ぎません。
わが国ではこれから、65歳以上の高齢者の数は、今後の20年間で1.4倍まで増える一方で、65歳未満の人口は0.8倍に減少します。
厚生労働省が2004年に発表した推計に基づけば、わが国の社会保障給付は2025年には152兆円、現在の1.8倍にまで増加します。

《中垣さんの基本的考え方》
「社会保障制度改革における最大の課題は、身の丈と安心感という、この一見両立しがたい二つのポイントをいかにして両立させうるかに尽きる。
公平は平等や安心感と対立することになる。社会保障制度を考える上では、まずは平等と公平を分けて考えることが重要なのだ。
社会保障制度のあり方を考える上で最も重要なポイントの一つは、公平と平等(=安心感)のバランスをどのようにとっていくか、そしてさらには、公平性の確保が難しい場合において、いかにして不公平感による国民の不満を極力小さくし、皆が納得できるよう制度設計するか、ということだといえるのである。
ある一定の家庭像や働き方などを想定し、その家庭像や働き方にとって最も望ましい制度をきめ細かく作り上げたとしても、社会の実態は政府の想定をはるかに超えて流動化し続け、制度からあぶれる人は増え続けるばかりだ。そのたびにいちいち制度を改めていこうとしても、必ずや後手にまわる。であればこそ、制度は、家庭とか働き方に関係のない、ニュートラルなものであるべきで、それは結果としてわかりやすく単純な制度であるはずなのだ。」

《年金制度改革の提案》
全国民に等しく、新たな基礎年金制度を導入します。原則一人7万円、一人暮らしの場合は9万円を支給し、財源はすべて消費税とします。支給額は賃金水準にスライドします。
これとは別に、任意加入の積立型年金を導入します。積立型ですから、運用益分を上乗せして確実に自分に返ってきます。また、平均寿命よりも長く生きた場合にもちゃんと年金をもらい続けることができます。

《子育て支援策の提案》
現在の子育て支援は、保育園の拡充などに充填が置かれていますが、あくまで共稼ぎが対象です。しかし、既婚女性の中で共稼ぎは決して多数派ではありません。また、保育園にかかる経費は膨大です。
そこで、子どもを欲しいと思うすべての家庭に等しく支援を行う意味で、中学修学以前の全ての子どもを対象に年額100万円を支給する「子育て支援金」制度の創設を提案します。


それでは、年金制度、医療・介護保険制度、子育て支援策のそれぞれについて、別稿でまとめます。
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