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弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

シフト補正禁止の運用(2)

2007-01-08 12:36:17 | 知的財産権
前回、以下のような場合について論じました。

[補正前の特許請求の範囲]
請求項1:発明A
請求項2:発明A+B(構成Aに構成Bを付加した発明)
[発明の詳細な説明]
構成Aを下位概念の構成A’とすると好ましい点が記載されている。

拒絶理由通知で、請求項1は①引用文献1と同一発明、②引用文献1の発明に周知技術を付加したに過ぎない、③引用文献1と2を組み合わせて容易に発明できる、という拒絶理由を示され、請求項2には拒絶理由がつきませんでした。
出願人は、請求項1を発明A’に減縮する補正を行えば特許になると考えました。

《第1の疑問》
この場合、出願人が「補正前の請求項1は特別な技術的特徴を有している」と審査官を納得させることができれば、請求項1をA’とする補正が認められます(詳細は前回)。
拒絶理由に承服しているのに、出願人は上記のような主張が可能なのでしょうか。

前々回記載したように、
(1) 新規性を有しない発明 ・・・・・特別な技術的特徴-なし
(2) 進歩性を有しない発明
(2)(a)《一の先行技術に対する周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではない場合や、単なる設計変更であった場合》・・特別な技術的特徴-なし
(2)(b)上記(a)以外・・・・・特別な技術的特徴-あり
という原則があります(発明の単一性の要件の審査基準の3ページ(注3))。
そうとすると、出願人は、「補正前の請求項1は上記(1)でも(2)(a)でもない」ということを主張し審査官を納得させればいいということになります。
逆に言うと、審査官がそのように納得しない限り、望むような補正は認められないということです。

《第2の疑問》
上記では、「新規性を有しない発明は特別な技術的特徴を有しない」と書きました。しかし本当にいつでもそうなのでしょうか。
例えば、当初請求項で「温度範囲:500~2000℃」と規定したところ、引用文献1に温度520℃の例が記載されており、新規性なしとされました。しかし引用文献1は発明の目的・課題が本願発明と異なります。
本願明細書中に好ましい範囲として700~2000℃との記載があります。このように補正すれば、引用文献1との関係で新規性も進歩性も具備します。
上記のような場合、当初請求項の500~2000℃の範囲内に、700~2000℃という特別な技術的特徴部分が内在している、と表現することもできます。
そう考えると、たとえ新規性を有しない請求項であっても、その請求項が包含する範囲内に特別な技術的特徴が内在していれば、シフト補正禁止の運用において、この請求項については特別な技術的特徴を有している、と扱ってもよろしいのではないでしょうか。
この点についても特許庁の見解を確認したいです。また、「そのとおりです」との見解が得られ、審査基準が書き換えられるとしたら、やはり意見書で「新規性を否定された請求項1には特別な技術的特徴が内在する」点を主張して審査官を説得する必要が出てくるのでしょうね。

審査実務、意見書作成実務で、本当に上記のような対応が求められることになるのでしょうか。求められるとして、意見書を受けた審査官は、再度の拒絶理由通知、あるいは拒絶査定において、補正前の請求項1の特別な技術的特徴の有無をどのように判断したか、という点を明確にするような審査実務になるのでしょうか。
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Unknown (通り縋り)
2007-01-08 20:10:43
いつも拝読しています。

第2の疑問の論旨については、ちょっと無理があるというか、特許庁側が認めないような気がします。

仮に、請求項1のA「温度範囲:500~2000℃」が、A’「温度範囲:700~2000℃」を包含するから、特別な技術的特徴を有するとしてしまうと、
 請求項1:A
 請求項2:A+B
 請求項3:A+C
  ・・・・
 請求項26:A+Z  (B,C・・・Zは、Aとは別種の構成)
新規性・進歩性の無いAを共有するだけで、これら全請求項が単一性を有するということになってしまいます。
多分、こういう使われ方をする可能性のある論理は、運用上認めてくれないと思います。

それに、新規性・進歩性を有する部分が内在すればOKとするということは、
 請求項1:「メモリを有するコンピュータ」
 請求項2:「メモリ及び停電時のデータ退避装置を有するコンピュータ」
のようなクレームも、明細書中に新規性・進歩性を有する新型メモリ(例えば、一電子シャット・オフメモリ等)が記載されていれば、
メモリという構成を有する点で特別な技術的特徴を有することになってしまい、
ボンゴレさんの挙げたような特定事例のみに限定することはできないと思います。
返信する
Unknown (通り縋り)
2007-01-08 20:17:23
(蛇足的補足)
AをA’とする補正が許される根拠として、Aに特別な技術的特徴の存在を認めるなら、
当然、AとA+Bの間にも、特別な技術的特徴が共通していると認めざるを得ないから、ということです。
返信する
どこまで許すか (ボンゴレ)
2007-01-08 22:36:10
通り縋りさん、コメントありがとうございます。
おっしゃるとおり、私の提案したように例外を許すと、そもそも37条の改正の趣旨から外れてしまうのですね。

一方で、出願当初請求項が
 請求項1:A
 請求項2:A+B
 請求項3:A+C
のとき、AをA’として特許化できるのであれば、分割出願せずにそのように補正できる途をぜひ確保したいです。
一つの方法としては、
「請求項1のAをA’とすることによって特別な技術的特徴が実現するのであれば、そのような補正を許す。その代わり、請求項2、3についてもそれぞれ「A+B」を「A’+B」に、「A+C」を「A’+C」に補正しない限り、請求項2、3については特許を認めない」
といった取り扱いがあり得るでしょうか。
一般的な表現を使えば、
「審査を行った請求項のうち、補正前の請求項が特別な技術的特徴を有しないものであっても、その請求項を減縮することによって特別な技術的特徴を有することになるのであればその補正を許す。そしてその請求項を請求項1とし、下位クレームについては補正後の請求項1の発明特定事項をすべて含む発明でなければならない」
といったところでしょうか。請求項1の減縮は、限定的減縮(特17条の2第4項2号)に限るとしてもよろしいです。

もう少し議論を深めないといけないですね。
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