弁理士の日々

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発明の単一性とシフト補正禁止の審査基準案

2013-03-10 16:36:42 | 知的財産権
特許庁が公表した「発明の単一性の要件」、「発明の特別な技術的特徴を変更する補正」の審査基準改訂案等に対する意見募集から、
特許・実用新案 審査基準「第Ⅰ部第2章 発明の単一性の要件」(案)<PDF 1,182KB>
特許・実用新案 審査基準「第Ⅲ部第Ⅱ節 発明の特別な技術的特徴を変更する補正」(案)<PDF 202KB>
特許・実用新案 審査基準「第Ⅸ部 審査の進め方」新旧対照表(案)<PDF 183KB>
を読んでいます。

まず「発明の単一性の要件」ですが、いやはや読みづらい文章ですね。一時は解読を諦めようかとさえ思いました。気を取り直して読み進めた結果、以下のように単純化できるように思います。

---審査対象に加える発明は以下のとおり。---
A.請求項1から直列に審査を行い、(1)特別な技術的特徴が発見された場合には、発見された特別な技術的特徴と同一の又は対応する(注3)特別な技術的特徴を有する発明(基準案5ページ3.1.2.1(4)の後半)、(2)及び直列に審査を行った発明

B.請求項1に記載された発明の発明特定事項を全て含む(注1)同一カテゴリーの請求項に係る発明(基準案5ページ3.1.2.2(1))(注2)

C.特別な技術的特徴に基づいて審査対象とした発明について審査を行った結果、実質的に追加的な先行技術調査や判断を必要とすることなく審査を行うことが可能である発明(基準案6ページ3.1.2.2(2))
例えば当該箇所の(i)~(v)のいずれかに該当する発明

D.請求項に係る発明間に特定の関係がある場合(基準案8ページ4.1)
(物とその物を生産する方法、物とその物を使用する方法、方法とその方法の実施に直接使用する機械など)

(注1) 発明の「発明特定事項を全て含む」場合には、当該発明に別の発明特定事項を付加した場合に加え、当該発明について一部又は全部の発明特定事項を下位概念化した場合や、当該発明について発明特定事項の一部が数値範囲である場合に、それをさらに限定した場合等も含まれる。

(注2)ただし、請求項1の課題と追加された特徴の課題との関連性が低い場合、請求項1の技術的特徴と追加された技術的特徴との技術的関連性が低い発明、を除く。

(注3)「対応する特別な技術的特徴」については、基準案3ページ2.2(3)参照
---以上---

基準案の順番に従って上記A~Dを記述しましたが、一番広いのはBですね。BとDでだいたいケリがつくように思います。それと、Aにより、特別な技術的特徴が発見された場合には、対応する特別な技術的特徴まで拡大することができます。


次にシフト補正です。

---以下の文章に集約できるようです---
補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される全ての発明が、補正前に新規性・進歩性等の特許要件について審査が行われた全ての発明の後に続けて記載されていたと仮定したときに、「第Ⅰ部第2章 発明の単一性の要件」の「3.1 審査対象の決定」に照らして発明の単一性の要件以外の要件についての審査対象となる補正後の発明を、第17条の2第4項以外の要件についての審査対象とする。(基準案2ページ3.1.2 具体的な手順)
---以上---

「発明の単一性の要件」における上記Bと(注1)から、許容される補正範囲を考えてみましょう。
[例1]
(補正前)
請求項1:α  (特別な技術的特徴なし)
請求項2:α&β  (特別な技術的特徴なし)
(補正後)
請求項1:α&γ
(判断)補正前に請求項3にα&γを記載していたら審査対象になるのだから、上記補正は許される。ただし、αとγの関係が上記(注2)に該当しないこと。

[例2]
請求項1:α  (特別な技術的特徴なし)
請求項2:α&β  (特別な技術的特徴なし)
(補正後)
請求項1:α’(αを減縮した発明)
(判断)α’は、上記(注1)により発明の「発明特定事項を全て含む」場合に該当するので、例1と同様に補正は許される。

取り敢えず、私が以前から改善してほしいと考えていた部分は、今回の審査基準の改訂で改善されることが間違いないようです。
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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
B.請求項1に記載された発明の発明特定事項を全て含む (TB)
2013-03-11 02:03:11
 まさしく御解説の通り
「一番広いのはBですね。BとDでだいたいケリがつくように思います。」
と、思いました。
 AやCは、現在の審査基準とのつながりを強調するために、無理に残った記載のようにも・・・(素直に過去を否定したら、分り易くなったでしょうに。役人の性でしょうか?)
 この改訂版から勉強する弁理士受験生とかは大変ですね。
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細かいところでの範囲 (snaito)
2013-03-11 19:52:48
TBさん、コメントありがとうございます。

CやDで審査対象になる、あるいはシフト補正でないとして補正が許されるのはどのような場合に限られるのか、という点については、ちょっとわからないところがあります。
Aで直列に審査した中で特別な技術的特徴が認められた発明のみを対象としてCやDでの拡張が許されるのか、それとも、直列以外でも、Bで審査した中で特別な技術的特徴が認められた発明についても、さらにその発明とCやDの関係がある発明まで発明の単一性とシフト補正規制に引っかからずにクレームアップできるのか、といった点については、慎重に見極める必要があるような気もします。
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