弁理士の日々

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進歩性の歴史と現状と展望

2007-07-01 21:17:26 | 知的財産権
社団法人日本知財学会主催の第5回年次学術研究発表会(東京大学本郷キャンパス)から、
「進歩性の歴史と現状と展望」
日本弁理士会協賛セッション<6月30日(土)10時~12時>
を聴講してきました。

発表メンバー及び発表内容

竹居信利氏(弁理士) 我が国の進歩性の条項制定の経緯、制定前の判例
杉本由美子氏(弁理士) 進歩性の規定導入時の審議会の審議経過
江藤聡明氏(弁理士) 他国における導入の経緯、進歩性判断の理念等
小川勝男氏(弁理士) 米国におけるHindsight排除の理念、リッチ論文等
池山和生氏(弁理士) 審査基準のH12改正についての検討
伊藤孝夫氏(弁理士) 審決、判決の検討
奥山尚一氏(弁理士) 米国KSR事件判決についてのコメント及び我が国審査への影響
1年前の第4回でも、弁理士会は「進歩性はいかにあるべきか」というテーマでセッションを開きました。

今回の発表者は、全員が弁理士会の特許委員会委員です。事前に委員会で検討を加えた上での発表だったようです。テーマを「歴史、ハインドサイト、現状と展望」に限定しましたが、それでも上記のような盛りだくさんの内容ですから、2時間という時間内では駆け足で発表するのが精一杯で、質疑までは到りませんでした。

《後知恵(ハインドサイト)》
進歩性の判断にあたっては、まず本願発明を理解します。そして本願発明の特徴点をキーワードとし、関連する公知文献を探し出します。本願発明が完成する前だったらとてもアクセスしないような文献でも、本願発明をキーワードとしたら検索に引っかかってくるでしょう。
そしてそのような文献が見つかってしまうと、「これら文献に記載の技術を組み合わせたら、当業者であれば容易に本願発明を想到し得る」という気分になってしまうのです。このような傾向を後知恵(ハインドサイト)と読んでいます。コロンブスの卵ともいいます。
本願発明前だったら、ポイントとなるキーワードがまだ誰にも知られていないのです。もしそれら文献に到達し、連想から本願発明に到達したのであれば、それでも進歩性を認めて良いと思います。
ここに、進歩性判断の難しさがあります。

知財学会第4回学術研究発表会でもこのあたりが話題になりました。
日本弁理士会研修所の主催パネルディスカッション「化学発明の進歩性」(本年2月21日)でも、やはり後知恵が話題になっています。
今回の発表会では、
・米国では、グラハム判決を受け、後知恵に落ち込まないように運用されている。
・昭和35年改正特許法で進歩性の規定が導入されるとき、コロンブスの卵的発明を否定しないようにとの議論があった。
・日本の審査基準でも、平成5年審査基準では「事後的に分析すると、容易に発明できたと見える傾向にあるから注意する」との留意事項が示されていたが、平成12年改訂審査基準で削除された。
といった点が紹介されています。

それでは、現在の日本の裁判実務で、本来特許すべきなのに後知恵で無効とされた事件は実際にあるのだろうか、という点が気になります。私自身判例を当たったわけではなく、今回のような研究会でも実は曖昧です。


今回の発表の中で、今年3月に「(無効)審決は後知恵に陥っている」として進歩性を認めた審決取消判決2件が紹介されています。
平18(行ケ)10211
平18(行ケ)10422
この2件については、よく勉強して今後紹介していきたいと思います。

特許庁審判部が主催して進歩性検討会が行われ、今年3月に報告書が発表されています。この内容についても、特に《後知恵(ハインドサイト)》がどのように取り扱われているかという点を中心に、今後紹介します。
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