ずいぶんと古新聞になってしまいましたが、2月24日に以下のパネルディスカッションを聴講してきました。日本弁理士会研修所主催です。
「近時の進歩性判断の傾向」パネルディスカッション~最近の知財高裁判決をめぐって~
パネリスト
塚原 朋一氏(早稲田大学大学院教授、知財高裁前所長)
小椋 正幸氏(弁理士、前特許庁審判部主席審判長)
渡部 温氏(弁理士)
片山 英二氏(弁護士・弁理士:阿部・井窪・片山法律事務所)
濱田 百合子氏(弁理士:栄光特許事務所、元東京地裁調査官)
西島 孝喜氏(弁理士:中村合同特許法律事務所)
井上 学氏(弁理士:株式会社 日立製作所)
モデレータ
渡邉 一平氏(弁理士)
パネラーのほぼ全員の共通認識として、以下のような認識があるようでした。
・平成5年頃に低かった進歩性判断のハードルが、平成12年以降に高くなり(厳しくなり)、それが最近また低くなる(緩くなる)傾向にある。
・進歩性を判断するに際し、やはり「後知恵」を排除することが必要である。
パネリストの塚原氏は、退官して大学院教授になってから、今までの知財高裁における進歩性判断のロジックに問題を感じたようです。
まず、知財高裁が勧めた進歩性判断の実質的修正として、「H18.6.29.紙葉類識別装置判決」(pdf)」を挙げ、「狼煙(のろし)役」であった、としています。私も2006-10-06に進歩性判断の最近の動向で取り上げ、『実は、上で紹介された平成17年(行ケ)10490号(紙葉類識別装置)については私も勉強会で勉強しまして、「ひょっとしたら、厳しくなりすぎた進歩性の判断について、揺り戻して適正化していくのではないか」と期待を抱いた一人です。』と書きました。
この判決は塚原裁判長のものではなく、篠原裁判長のものでしたが、塚原氏は「狼煙役」として評価したわけです。この判決によって、進歩性を否定した審決を取り消そうとする姿勢を現し、進歩性を否定するときは丁寧な理由説示を求めることとなりました。
塚原氏は、「同一技術分野論」を問題として挙げました。本件発明と主引用文献との相違点を明確にした後、その相違点について記載した副引例が見つかったとき、その副引例が本件発明と同一技術分野に属していたら、当業者はその副引例記載を参酌して本件発明を想到することは容易である、とする理論であるようです。
塚原氏はこの「同つい技術分野論」について、『同一技術分野路のの手法は簡易判別法 確定判断法は改めて必要』と言及しています。
現在の知財高裁の状況について、「飯村コート」が話題になりました。現在、知財高裁第3部の飯村裁判長は、「後知恵を排除すべき」と判示した判決を大量生産しています。
この件は渡部温弁理士の発表にもありました。無効審判に対する審決取消訴訟の判決を知財高裁の部ごとに解析した結果です。平成22年について見ると、
2部 3部
有効審決の取消件数 3/3 2/16
無効審決の取消件数 0/9 3/9
ということで、「2部は特許権者に厳しく、3部は特許権者に優しい」という相違がきわめて顕著だというのです。
われわれ知財関係者の立場としては、「判断が部ごとに異なるのは困る。どの部に配点されるかで特許権の運命が変わってしまう」ということで困惑します。パネルディスカッションでも「知財高裁全体で判断を統一できないのか」という意見が出たのですが、塚原氏のコメントは「今それをやると飯村コートが潰されるだろう」ということで、このまま自然に任せる方が権利者のためには有利であるようです。
パネルディスカッションの議論全体を通して、以下のようなことは言えそうです。
1.「進歩性の判断で後知恵を排除すべし」との方向について反論する人はいなかった。
2.「最近の知財高裁は進歩性のハードルを下げた」という共通認識がある。
3.知財高裁の部によって判断の基準がばらばらという現実がある。
「近時の進歩性判断の傾向」パネルディスカッション~最近の知財高裁判決をめぐって~
パネリスト
塚原 朋一氏(早稲田大学大学院教授、知財高裁前所長)
小椋 正幸氏(弁理士、前特許庁審判部主席審判長)
渡部 温氏(弁理士)
片山 英二氏(弁護士・弁理士:阿部・井窪・片山法律事務所)
濱田 百合子氏(弁理士:栄光特許事務所、元東京地裁調査官)
西島 孝喜氏(弁理士:中村合同特許法律事務所)
井上 学氏(弁理士:株式会社 日立製作所)
モデレータ
渡邉 一平氏(弁理士)
パネラーのほぼ全員の共通認識として、以下のような認識があるようでした。
・平成5年頃に低かった進歩性判断のハードルが、平成12年以降に高くなり(厳しくなり)、それが最近また低くなる(緩くなる)傾向にある。
・進歩性を判断するに際し、やはり「後知恵」を排除することが必要である。
パネリストの塚原氏は、退官して大学院教授になってから、今までの知財高裁における進歩性判断のロジックに問題を感じたようです。
まず、知財高裁が勧めた進歩性判断の実質的修正として、「H18.6.29.紙葉類識別装置判決」(pdf)」を挙げ、「狼煙(のろし)役」であった、としています。私も2006-10-06に進歩性判断の最近の動向で取り上げ、『実は、上で紹介された平成17年(行ケ)10490号(紙葉類識別装置)については私も勉強会で勉強しまして、「ひょっとしたら、厳しくなりすぎた進歩性の判断について、揺り戻して適正化していくのではないか」と期待を抱いた一人です。』と書きました。
この判決は塚原裁判長のものではなく、篠原裁判長のものでしたが、塚原氏は「狼煙役」として評価したわけです。この判決によって、進歩性を否定した審決を取り消そうとする姿勢を現し、進歩性を否定するときは丁寧な理由説示を求めることとなりました。
塚原氏は、「同一技術分野論」を問題として挙げました。本件発明と主引用文献との相違点を明確にした後、その相違点について記載した副引例が見つかったとき、その副引例が本件発明と同一技術分野に属していたら、当業者はその副引例記載を参酌して本件発明を想到することは容易である、とする理論であるようです。
塚原氏はこの「同つい技術分野論」について、『同一技術分野路のの手法は簡易判別法 確定判断法は改めて必要』と言及しています。
現在の知財高裁の状況について、「飯村コート」が話題になりました。現在、知財高裁第3部の飯村裁判長は、「後知恵を排除すべき」と判示した判決を大量生産しています。
この件は渡部温弁理士の発表にもありました。無効審判に対する審決取消訴訟の判決を知財高裁の部ごとに解析した結果です。平成22年について見ると、
2部 3部
有効審決の取消件数 3/3 2/16
無効審決の取消件数 0/9 3/9
ということで、「2部は特許権者に厳しく、3部は特許権者に優しい」という相違がきわめて顕著だというのです。
われわれ知財関係者の立場としては、「判断が部ごとに異なるのは困る。どの部に配点されるかで特許権の運命が変わってしまう」ということで困惑します。パネルディスカッションでも「知財高裁全体で判断を統一できないのか」という意見が出たのですが、塚原氏のコメントは「今それをやると飯村コートが潰されるだろう」ということで、このまま自然に任せる方が権利者のためには有利であるようです。
パネルディスカッションの議論全体を通して、以下のようなことは言えそうです。
1.「進歩性の判断で後知恵を排除すべし」との方向について反論する人はいなかった。
2.「最近の知財高裁は進歩性のハードルを下げた」という共通認識がある。
3.知財高裁の部によって判断の基準がばらばらという現実がある。
容易とは何か、
進歩性のハードルが上がった/下がったとはどういうことか、
そのあたりの根本的理解・分析が日本においては全くなされていないように思われます。個別具体的なケースの研究は多くともそれから帰納的一般論が論じられることもない。日本の進歩性研究は実に空しく、ばかばかしいとしか思えませんが、いかがですか?
私は職業柄、自分が代理人を務める出願案件で特許査定を勝ち取ることを責務としている者ですから、現時点での進歩性判断の具体的動向から目を離すことができません。
一方、進歩性の判断動向が時系列的に振れることは法的安定性に欠けるため、何とか妥当なレベルで一定に保持されるべきです。そのためには、おっしゃられるように一般論が論じられる必要がありますが、現時点では日本における進歩性の議論がそこまで到達していません。特に「後知恵排除」を実現できるロジックを見つけることが急務ですが、それが見つかっていないのが現状です。