弁理士の日々

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キューバ危機に関連して

2010-12-21 20:34:37 | 歴史・社会
日経新聞の「私の履歴書」で現在連載しているウィリアム・J・ペリー氏(元米国防長官)の記事から、先日「ミサイルギャップとキューバ危機」としてここで取り上げました。

キューバ危機について私は、ロバート・ケネディ著「13日間―キューバ危機回顧録 (中公文庫BIBLIO20世紀)」から知識を得ています。ロバート・ケネディはキューバ危機のとき、司法長官として兄のジョン・F・ケネディ大統領を支えていました。そしてキューバ危機が米ソの全面戦争までエスカレートしなかった陰には、ロバート・ケネディの働きがあった、と言われています。

今回、あらためてロバート・ケネディの「13日間」をパラパラとめくってみたら、印象的な文章がありました。
1962年10月23日のことです。22日に全米に向けてテレビ演説し、米国民に危機の全容を公表した、その次の日ですね。会議を終えた後、大統領、テッド・ソレンセン(大統領顧問)、ケニー・オドンネル(大統領特別補佐官)、それにロバート・ケネディ司法長官が大統領の執務室に入り、すわって話し合っていました。
『なによりも大きな危険は誤算-判断を誤ることだ』
大統領は、第一次大戦の勃発が、ドイツ人、オーストリア人、フランス人、イギリス人たちが犯した誤算に基づき、戦争にはまり込んでいったように思われると述懐しました。大統領が直前に読んだばかりの「8月の大砲」(バーバラ・タックマン著)からです。
『米ソともキューバで戦争を賭けようとは望んでいないという点でわれわれの意見は一致していた。しかしなおかつ、どちらかの側が打った手段が“安全”“誇り”“メンツ”などの理由で相手方の反発を引き起こし、それがまた同じような安全、誇り、メンツなどの理由で再反発を招く、そして揚げ句の果てには武力衝突にまでエスカレートしてしまうこともあり得るのだ。大統領が避けようと望んでいるのはまさにこの点である。』『われわれは判断を間違えたり、読みを誤ったり、不必要にけんかを吹きかけたり、あるいは相手方を意図も予想もしていなかった行動路線に突然追い込むようなことをしようとしているのではなかった。』

このとき、ケネディ大統領を中心とする米政府の中枢は、「全能の幻想」にとらわれていなかった、ということがわかります。NHKスペシャル「日米安保50年」にも書いたように、
『「全能の幻想」とは、自国だけの「一方的行為」で、国際問題や紛争が、すべて片づくと考える妄想である。国際政治はつねに、対他的行動であって、相手方の出方に依存していること、を無視することである。』
永井陽之助著「平和の代償 (中公叢書)」(p73)に出てきます。

こういう文章を読むと、どうしても尖閣問題を思い出してしまいます。
日本政府が無為のまま、那覇地裁が中国人船長の勾留を延長することに政治的判断を行わず、その結果として“安全”“誇り”“メンツ”などの理由で中国の反発を引き起こしてしまいました。
あの当時、尖閣問題~初動のいきさつにも書いたとおり、管内閣は内閣改造の真っ最中であり、「岡田氏も幹事長就任が決まってからは『それは次の大臣がやること』と仕事に手をつけなかった。前原氏も、直後に控えた国連総会の準備しか頭になかった」という状況だったようです。
一番大事なときに、『判断を間違えたり、読みを誤ったり、不必要にけんかを吹きかけたり、あるいは相手方を意図も予想もしていなかった行動路線に突然追い込むようなことをしようとしていないか』の判断を放棄していたと言えるでしょう。

今の民主党政権はとにかく「外交オンチ」なのですから、当面は外交に関して「政治主導」を諦め、とにかく外務省の言うことに耳を傾けて外交方針を立てるべきでしょう。
外交の何たるかがわかってから、外交についての「政治主導」に着手すべきでしょう。
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