弁理士の日々

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6月18日東電報告書(3)3号機

2011-06-29 23:04:13 | サイエンス・パソコン
東電が6月18日に公表した「地震発生当初の福島第一原子力発電所における対応状況について」のうち、今回は3号機について読み込んでみます。報告書の29ページから37ページまでです。

3号機は、地震発生直後から、交流電源を喪失しても圧力容器を冷却し続けることのできる機能(隔離時冷却系(RCIC))が作動し、津波来襲後もその機能が継続して生きていました。その後、12日11時36分に何らかの理由で隔離時冷却系がストップし、替わりに高圧注水系(HPIC)が起動しました。そして13日2時42分にこの高圧注水系がストップするまで、圧力容器内には十分な水が供給され続け、圧力容器内水位は常に燃料棒頂部よりも上にあったと評価されています(5月23日東電報告書(5)3号機)。
問題はその後です。
消火系ラインから消防車によって圧力容器内に淡水注入を開始したのは、13日9時25分です。2時42分から9時25分まで、実に6時間以上、圧力容器には冷却水が注入されないまま放置されました。この間に、圧力容器内の水位は急速に下がり、ついには燃料棒が全露出するに至りました。図3.3.1.1(5月23日東電報告書)から明らかです。
なぜ、淡水注入開始がこんなに遅れたのでしょうか。

地震発生以降、圧力容器内の圧力は主蒸気逃し安全弁(SRV)によって圧力調整され、7MPa(70気圧)程度に調整されています。消防車やディーゼル駆動消火ポンプは吐出圧力が低いので、このような高圧の容器内に冷却水を注入することができません。そのため、消防車などで冷却水を注入する際にはその前に、主蒸気逃がし安全弁を「開放」として圧力を1気圧近くまで下げる必要があります。
ところが、主蒸気逃がし安全弁を動作させるためには電源が必要ですが、既に1、2号機の計器復旧のために所内のバッテリーを集めた後であり、バッテリーの予備がなくなっていました。そこで発電所対策本部にいる社員の通勤用自動車のバッテリーを取り外して集め、中央制御室に運んで計器盤につなぎ込み、9時8分に主蒸気逃がし弁を開けて圧力容器の急速減圧を実施したというのです。図3.3.1.10(5月23日東電報告書)に圧力容器圧力の推移が記録されています。
6時間以上も3号機圧力容器に冷却水が供給されなかった最大の原因は、この主蒸気逃がし弁を開くことができなかった点にあるようです。
さらに、1~4号機側で使用できる消防車は1台しかなく、その1台はすでに1号機で使用中です。3号機では、5/6号機側との連絡通路について、土嚢の設置やガラ除去によって復旧に努め、やっとのことで5/6号機側にあった消防車を3号機まで運びました。また、福島第二で待機していた消防車1台を福島第一に移動して使用可能としました。
3号機はディーゼル駆動消火ポンプも保有していましたので、もし主蒸気逃がし弁の作動が消防車の到着よりも早かったとしたら、消防車到着までの間はディーゼル駆動消火ポンプで淡水を注入したことでしょう。
ホウ酸水注入系は高圧注水が可能であり、地震後に到着した電源車からホウ酸水注入系までの電源つなぎ込みが完成すれば注水は可能でしたが、度々の余震による作業中断・避難や劣悪な作業環境のため、復旧は間に合いませんでした。

13日9時25分に消防車による淡水注入を開始して以降、12時20分に防火水槽の淡水が枯渇し、13時12分に海水注入を開始しました。また、14日1時10分に海水源の逆洗ピット内の海水が枯渇したため消防車を停止、3時20分に再開しました。
14日11時1分に3号機原子炉建屋が水素爆発して海水注入中止。16時30分に海水注入を再開しました。

3号機の隔離時冷却系と高圧注水系がともにダウンしたのは13日2時42分です。このときまでに、主蒸気逃がし弁を作動させるためのバッテリーの収集が間に合っていれば、即座にディーゼル駆動消火ポンプを用いて淡水注入を開始することができたでしょう。それができず、6時間以上も冷却水が供給されず、燃料棒は全露出の状況にまでなりました。誰かがもっと早く気づいてバッテリー収集を開始するという機転を機転を利かせていたらなあ、と悔やまれます。
それがあって、さらに「十分な量の海水が注入される」という条件さえあれば、ひょっとしたら、3号機の建屋水素爆発も起こさずに済んだかも知れません。
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