弁理士の日々

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昭和陸軍の研究

2007-02-22 21:21:30 | 趣味・読書
保坂正康著「昭和陸軍の研究 上下」(朝日文庫)を読み終わったところです。
昭和陸軍の研究 上 (朝日文庫)
保阪 正康
朝日新聞社

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昭和陸軍の研究 下 (朝日文庫)
保阪 正康
朝日新聞社

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上下各600ページ以上という大著でした。

イントロとして昭和陸軍建軍の歴史をざっと見た後、張作霖爆殺事件から始まり、第二次大戦の敗戦、そして敗戦後にまで範囲は及びます。

この本は、昭和陸軍について詳細に述べた通史ではありません。著者の保坂氏が直接インタビューしあるいは文通して得た当事者の証言が本の中心となっています。あとがきによると、500人余に取材したとのことです。そのような、保坂氏が自分で集めた一次史料を中心に据えていることから、表題にも「研究」の文字が入ったのでしょう。

まえがき
「本書は、昭和陸軍はなぜ多くの錯誤を犯したのか、その解明を試みた書である。
 そのために、昭和陸軍とはどのような組織だったか、指導部に列した軍人はどういう理念、思想をもってこの組織を動かしたのか、そして近代日本の終着点ともいうべき太平洋戦争は、何を目的に、いかなるかたちで戦われたのか、という疑問を土台に据えて、関係者の証言を求め、可能な限りの資料を集め、それを整理し、その実像をえがくことに努めた。あわせて昭和陸軍は、近代日本史のなかに、あるいは二十世紀という時間帯にどう位置づけられるのかも考えた。」

このような執念を持った日本人がいたことを、われわれは幸運であると思わなければならないでしょう。こうして、第二次大戦を指導し、戦った本人たちの直接の証言が集められました。同じ人のところに足繁く通って信頼を得た上で本音を聞き出し、あるいは文通を重ねて同じく本音を聞き出しています。
昭和陸軍の動きについて全体を満遍なくとらえるのではなく、保坂氏がインタビューした人に関する事象に記述が偏っていますから、この本のみから昭和陸軍の全体を知ることは不可能ですが、しかしこの本でしか知ることのできない事実がまたたくさんあります。

一人の人間が直接自分の足で収録できる情報の量には限りがあります。
昭和陸軍の全貌に関する情報を、それも当事者が存命中に収録することは、極めて重要な日本民族としての仕事と思います。そしてそれは、一人二人の個人が行うのではなく、お金をかけ、多くの人数で行えば、短時間で有効な仕事ができることは明らかです。
日本ではそれがなぜできないのでしょうか。
日本政府自身が、先輩達の失政を白日に曝すことを嫌い、くさい物に蓋をする隠蔽体質を持っているからでしょうか。
政府ではなく、民間の研究機関や大学が行っても良いのです。そのような研究にはお金が集まらないのでしょうか。

中国や韓国と日本が共同で歴史研究を行うという話がときどき出ますが、そのようなことを始める前に、まず日本自身が歴史上の事実をできるかぎり公平かつ正確に収集することが第一です。それさえきちんとできれば、よその国から言われっぱなしになることはないはずなのですが・・・。

通史ではない、というものの、この本は昭和陸軍の足跡を丹念にたどっており、これからはリファランスとして使うことができます。別の書物を読んでいて「あのとき何があったのか」調べる必要が生じたとき、まずはこの本を紐解くことによって解決を得ることができそうです。
コメント
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