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アートネタなど日々のあれこれ

ジャズ・ロフト

2021-10-31 11:59:20 | 映画
Bunkamuraル・シネマで「ジャズ・ロフト」を見てきました。

写真家ユージン・スミスと彼と関わりのあったジャズ・ミュージシャンたちを記録したドキュメンタリーです。1950年代半ば、彼が住んでいたマンハッタンのロフトでは、気鋭のジャズ・ミュージシャンたちが夜な夜なジャム・セッションを繰り広げていました。ユージン・スミスは8年間にわたり膨大な量の彼らの写真とジャム・セッションのテープを残しました。刹那的、という言葉がまさに似つかわしい彼らの日々の記録をカメラは淡々と追っていきます…(以下、ネタバレ気味です)。

映画ではロフトを溜まり場にしていたミュージシャン達が紹介されています。セロニアス・モンク、ホール・オーヴァートン、カーラ・ブレイ、ズート・シムズ、…。個人的にはカーラ・ブレイの元気な姿をインタビューで見られたのが嬉しかったです。彼女が若かりし頃、ライブハウスでタバコ売りのバイトをしていたというのは初めて知りました。そこで演奏される曲を聴いて音楽を学び、タバコを所望する客には曲が終わるまで待っとけ、と言っていたとか。姐さん、さすがです…。セロニアス・モンクの当時の写真も。あの指を伸ばして弾く独特のスタイルです。彼がホール・オーヴァートンとタウンホールのコンサートに向けて打ち合わせやリハをする貴重な音源も紹介されていました。ホール・オーヴァートンは天才的な音楽教師で、スティーブ・ライヒのことも教えていたらしく、当時を語るライヒのインタビュー映像も。ユージン・スミスはジャズ・ミュージシャン達のなかでもズート・シムズが特にお気に入りだったようですが、今聴いてもとろけるような音色ですよね。彼の音が聴こえると、ユージン・スミスは決まってどこからともなく現れたのだとか…。

映画はユージン・スミス自身の人生も追っていきます。むしろ、そちらの方がメインかもしれません。彼の壮絶な人生と仕事ぶりも明らかにされています。膨大な仕事量、光と影の表現への異様なこだわり。彼は自分の写真をレンブラントの絵画に比していたそうです。狂気に近い没頭ぶりは、精神病院に辿り着いてゴールと語るジャズ・ミュージシャンのそれと重なります。彼は四人の子がいる家庭を持ち、郊外に美しい家を構えていたにも関わらず、「仕事に集中するために」全てを捨ててマンハッタンの薄汚いロフトに住み着きました。映画には彼の息子も登場します。あの「楽園への道」で妹を連れていた男の子ですよ…。幸せの象徴のように見えたあの写真の背後にあったものを知ると、胸が詰まるような思いです。ユージン・スミスは1971年にはロフトを離れ、水俣へと旅立ちました。ユージン・スミスの葛藤の時期、ジャズ・ロフトの8年間は、ミュージシャンの業と写真家の業がクロスした奇跡のような時間だったのかもしれません…。

この日は帰りにBunkamura Galleryで永井博「under  the Azure Sky」も見てきました(展示は既に終了しています)。大瀧詠一さんの「Long vacation」のジャケットのデザインをされた方です。鮮やかな青空を描いた作品の数々を見ているとこちらの心持ちも晴れてくるような…。一見、平坦とも見えた青空が実は細かいグラデーションになっていて、浮世絵や新版画を思わせます。中に一枚、これ欲しいなぁ、と思った作品があったのですが、やはり売約済みになっておりました…。

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いつまで見ててもつきない夢

2021-10-24 00:11:37 | 美術
ひさしぶりに横須賀美術館に行ってきました。

何となく、自分の中で海を見たいモードが続いており…観音崎観光も兼ねて行ってきました。例によって、まずは腹ごしらえ…ということで、観音崎自然博物館の隣にある「マテリア」でランチにしました。テラス席の目の前には海が広がります。名物のブイヤーベースと生プリンをいただきましたが、どちらも美味しゅうございました。ブイヤーベースにサザエがごろんと入っていたのも嬉しかったな。自然博物館にも立ち寄りましたが、昭和の風情が漂う展示。その後、観音崎灯台まで歩いて行きました。坂道がきつかったですが、ぜはぜはしながらたどり着き、灯台にも登り…太平洋が一望できましたよ…。

灯台から横須賀美術館まで、てくてく歩いていきました。この美術館を訪ねるのも本当にひさしぶりです。「ビジュツカンノススメ」は、作品や横須賀美術館について深く知るための4つのキーワードで構成されています。「アトリエのひみつ」の章では洋画家・朝井閑右衛門の横須賀時代のアトリエを再現。不肖わたくし、氏のことは初めて知ったのですが、「猫の木のある交番」に心惹かれました…横尾忠則氏のY字路を思い出すような不思議な作品。「絵画とブックデザイン」の章は1920~30年代のモダニズム絵画や書画の装丁の展示。やはり、メインビジュアルにもなっている古賀春江「窓外の化粧」が目立ってます…青い空と女性の白い足の対比が印象的な作品ですが、海の見える美術館に似合ってますよね。「作品のつくりかた」の章では現代作家の制作方法や画材を紹介しています。内田あぐり「分水界」がダイナミック…。「美術館を探検」の章では美術館のサウンド・ロゴやピクトグラムを紹介。ピクトグラムをしみじみと眺める機会って、ありそうでなかなかないのですが、ここのピクトさんは可愛い…。

その後、「生誕100年 谷内六郎展」を見ました。氏の画業を約300点の原画や印刷物などで一挙に振り返るという回顧展ですが、実にボリューミーな展示でした。週刊新潮の表紙絵がずらりと並ぶさまも壮観です。ノスタルジック&ファンタジックな作品の数々ですが、氏が入院中のことを描いた絵は、どことなく趣が違っていましたね…。家族を描いた作品には独特の温かみがあります。氏の作品を見ていると、子ども時代の光と影を思い出します…。懐かしの昭和にタイムスリップしたような気分にしみじみ浸ってまいりました。思い返せば不思議な時代でしたよね。にしても、昭和も遠くなりにけり、です…。


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バンクシーって誰?

2021-10-16 00:25:22 | 美術
寺田倉庫G1ビルで「バンクシーって誰?」展を見てきました。

バンクシーの活動には興味がありますし、彼の映画も見ているのですが、展覧会に行くのは今回が初めて。今まで何回か開かれていた展覧会も何となくスルーしてしまっていました…が、今回は会場の作り込みがけっこう凄いらしい、という評判なので、行ってまいりました。

さて、例によって鑑賞前に腹ごしらえ…ということで、天王洲アイルにあるT.Y.HARBORへ。T.Y. バーガーをいただきました。肉肉しいパテとてんこ盛りのフライドポテトで、すっかりお腹いっぱいに…。その後、腹ごなしをかねてしばらく辺りをうろうろ…ひさびさに訪れた天王洲がすっかりアートの街に変貌していたことに驚きました。

「バンクシーって誰?」展では、世界中に散在するバンクシーのアートの代表的なものをテレビ局の舞台美術チームが再現しています。会場に足を踏み入れると、映画のセットのような空間が広がっています。いきなり驚きの「Aachoo‼」が。思いっきり傾いてます…22度の傾斜がある坂道をみごとに再現していますが、見ていると頭がくらくら…。会場にはストリートの雰囲気が満ちています。大きなマスクをかけたフェルメールの少女も。スパイ・ブースの再現も怪しげ…。「THE WALLED OFF HOTEL(世界一眺めの悪いホテル)」の再現には感動すら覚えました…バンクシーが出資したイスラエルの分離壁の真ん前にあるというホテルです。怖いけど、いつか泊まってみたい気も…。メインビジュアルにもなっている、パレスチナで石の代わりに花束を投げる男の絵も原寸大で再現されています。バンクシーはこの巨大な絵を実際に現地で危険に身をさらしながら描いたのですね…。「Giant Kitten」は一見、愛らしいネコの絵ですが、バンクシーがこの絵に込めた意味を知ってしまうと、もふもふ動画好きの不肖わたくし、耳が痛い…。防弾チョッキを着けた大きなハトの絵、かの有名な風船を飛ばす少女の絵も。彼の作品に一貫して感じるのは平和への願い…。そして、今回、再現展示のおかげでバンクシーのアートはやはり土地の文脈で見るものだということを思い知りました。というか、もはや描かれたものが作品というより、時には危険に身をさらしながら描くという行為そのものが作品だったりするのかも…。

この日はWHAT MUSEUMの大林コレクション展も見てきました。大林剛郎氏が長年かけて収集したコレクションを3つのテーマに沿って展示しています。「安藤忠雄 描く」は氏の平面作品の展示ですが、スケッチを見ていると頭の中を覗き込んでいるよう。「都市と私のあいだ」はアーティストの都市を捉えた写真の展示です。ひさびさに野口里佳さんの写真が見られて嬉しかったな…。「Self-History」は大林氏のコレクションの紹介です。コンセプチュアルな作品が多めですが、ドイツの現代写真や人体表現を扱った作品も。ペーター・フェルドマンの0歳から101歳までの101人のポートレイト写真とか、ライアン・ガンダーの壊れたネオンとか刺激的な作品も…。大林氏は自分のコレクションを絶えず変化していく動的なものとしてとらえているのだそうです。ゆく川の流れは絶えずして…というフレーズがふと頭に浮かんでは消えていきました…。


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サウンド・オブ・メタル

2021-10-11 01:31:39 | 映画
ヒューマントラストシネマ渋谷で「サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ」を見てきました。

今年のアカデミー賞では6部門にノミネートされ、音響・編集の2賞を受賞、特にサウンドデザインが秀逸と評判の映画です。難聴者の音の世界をはたして映画でどのように再現するのでしょうか…(以下、ネタバレ気味です)。

メタルバンドのドラマーのルーベンが、恋人のボーカリスト、ルーと一緒にトレーラーで移動しながらツアーをしている最中に突如、突発性難聴に襲われます。病院に行った時には既に両耳の聴力は2割程度しか残っておらず、人工内耳の手術をするには4~8万ドルが必要と告げられます。ルーベンはルーに勧められ、ろう者を支援するコミュニティに参加しますが、そこは外界からは遮断された牧歌的な社会でした。次第に環境にも馴染み、なくてはならない存在になっていったルーベンですが、外界でのルーの活躍を知り、ある決心をします。

映画ではルーベンに聞こえる音の世界が音響で再現されています。実は私も突発性難聴になったことがあるのですが、まさにこんな感じでした。高音域の耳鳴りがうっすら聴こえ、外界の音は水に潜ったときのように聴こえるのですよね…。私の場合は発症してすぐに病院に行き、薬をもらって治ったのですが、これが続いていたらと思うと想像するだけで辛いです。映画では人工内耳で聞こえる音の世界も再現されています。聞こえはするけれど、やはり元通りというわけにはいかないのですね…。

ところで、この映画には「聞こえるということ」というサブタイトルがついています。聞こえること、そして聞こえないことについて、これまでになく向き合わされる映画です。日々ささやかな音からどれだけの幸せを得ていたか、一方で音を聞くのは耳からだけではないということも…映画ではろう者の人々がピアノの振動を聞く場面もありました。そして何よりも、聞こえないことによって得られる平穏があるということを初めて知りました。その時、外界が全く違ったものに見えるのかもしれません。思い出したのが大好きなろう者の写真家、齋藤陽道さんの写真です…あの見たこともないような透明な美しさは、ラストシーンでルーベンが見た世界に通じるものがあるのかもしれませんね…。
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シベリアの空

2021-10-10 00:23:17 | 美術
神奈川県立近代美術館葉山で「生誕110年 香月泰男展」を見てきました。

先日、「シー・イズ・オーシャン」という映画を見たのですが、その後、不肖わたくし、無性に海が見たくなってしまい…絵も見たいし、海の見える美術館に行きたいな、と思いついたのがこちらの美術館。今は香月泰男のシベリア・シリーズが全点見られるそうだし…ということで、早速、行ってまいりました。例によって、鑑賞前に腹ごしらえですが、この日は葉山マリーナの中にある「青羅」へ。オーシャンビューの高級中華ですが、頼んだのは五目焼きそばと春巻き(笑)。どちらも美味しかったです。中国茶がポットでサーブされたのも嬉しかったな…。

さて、お腹もふくれたところで美術館へ。今年が生誕110年となる香月泰男の展覧会です。展示は制作年順で、氏が東京美術学校に入学した頃の作品から始まります。色彩も豊かで抒情的な作風の作品が続きます。梅原龍三郎の影響を受けたと思わしき作品も。そして、1948年の「埋葬」に眼が留まります。この作品がシベリア・シリーズの2作目になるようです。その後、氏がシベリア・シリーズを本格的に描き始めたのは1959年からでした。戦争とシベリア抑留時代を描くのには戦後10年以上の歳月が必要だったということでしょうか…。それまでの作品とは打って変わった黒と黄土色の世界。「涅槃」は黄泉の光景のよう。「黒い太陽」からは輝かしい太陽すら黒く見えるほどの絶望を感じます。「復員」は地獄からの生還のようにも見え…。声なき咆哮が聴こえてきそうな作品の数々。シベリア・シリーズには氏の言葉も添えられていますが、その淡々とした調子からかえって戦地の過酷さが伝わってきます。一方で、シベリアの広大な自然を描いた作品もありました。そこに束の間、美を見出すことが救いだったのかもしれません。1969年の「青の太陽」も忘れ難い作品です。その後、亡くなる1974年までシベリア・シリーズを描き続けることになりますが、展覧会では同時期に描かれたシリーズ以外の作品ともあわせて展示されています。ささやかな幸せを描いた作品の数々。没年に描かれた「雪の朝」になぜか胸を衝かれるような思いがしました…。

コレクション展の「内なる風景」では、香月泰男展にちなんで氏と親交のあった人の作品や、戦争に向き合った作品が展示されていました。松本竣介「立てる像」には強烈に目が惹きつけられます。澤田哲郎「シベリアの密葬」は静かな悲しみを感じる作品。戦争がもたらすものを画家たちが作品という形で伝えてくれていたのですね…。

帰りに近くの海岸に寄り、ひさびさに砂浜に座って海を眺めました。いい年こいて子どものように波に足を突っ込んでみたり…。波音の聴ける距離で海を見たのはいったい何年ぶりだか思い出せないくらいですが、やっぱり海はいいですよね…また海の見える美術館に行きたいなぁ…。
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ボンクリ・フェス2021

2021-10-08 00:02:52 | 音楽
「ボンクリ・フェス2021」に行ってきました。

昨年に引き続き二回目の参加です。今回は昼のスペシャル・コンサートから聴きました。1曲目は藤倉大「芯座」。筝の独奏の曲ですが、雅な響き…。山崎阿弥「粒と波」は「声」で構成された作品。毎日、あたり前のように発している声ですが、こんなにも多様な響きを生み出せるものだったとは。東野珠美「円環の星筐」は笙と尺八の合奏の曲で、豊かな響きの作品。東野さんの笙の音からは立ち昇る光の柱が見えるよう…。ヤン・バング&藤倉大「Night Poles River」は電子音楽の作品。作曲者も演奏者も不在の状態で演奏される、ある意味ボンクリらしい作品です。ジョージ・ルイス「Shadowgraph5」では藤倉さんもリモートで参加、そしてノマド・キッズも登場。自由な響きの曲です。八木美知依「桃の実」は粋な作品。女性4人による筝と歌の曲ですが、奏者たちが女神さまのように見えましたよ…。マリオ・ディアス・デ・レオン「2匹の蛇の祭壇」はアルト・フルート2本の絡みが2匹の蛇が絡み合うさまを想起させます。大友良英さんの新作では再びノマド・キッズが登場。「あまちゃん」のテーマのような賑やかでシアトリカルな曲。最年少と思わしきお嬢ちゃんが鍋蓋シンバルを一生懸命、叩いていて、勢いあまって落っことしちゃったりする様子がとても可愛らしかったです。大友さん曰く子どもを投入することで不確定な要素を持ち込めるのだとか。最後は藤倉大「infinite string」。ザ・現代音楽みたいな強度のある作品です。アンサンブル・ノマドの演奏もみごと…。

その後は「ノルウェーの部屋」へ。アイヴィン・オールセット、ヤン・バング、ニルス・ペッター・モルヴェルがパンデミックで来日できなくなったため、ライブ映像の公開です。私の大好物のECMっぽいサウンド…とりわけニルス・ペッター・モルヴェルのトランペットはケニー・ホイラーを彷彿とさせるサウンドで、いつまでも聴いていたい感じ…ですが、途中で移動して本條秀英二さんのアトリウム・コンサートを聴きにいきました。「涅槃」を演奏していましたが、三味線がシタールのように響く不思議な曲。終わった後は芸術劇場の中にある「ベル・オーブ」で早めの晩御飯(東京Xのグリルが美味しかった)の後、「筝の部屋」へ。八木美千依さんの筝と本田珠也さんのドラムのセッションですが、これがめちゃめちゃかっこよかった。エレクトリック筝ってあんなにいろいろな音を出せるものだったのですね。荒れ狂う海の深みはしんと静か…というような、激しさと安らぎを同時に感じる演奏でした。最後は「大人ボンクリ」。大ホールで電子音楽をガチで聴くというのは初めての体験でしたが、ホールも楽器、ということを思い知らされましたよ…。全8曲でしたが、牛島亜希子「屈折光線」のギターの響き、マヌエラ・ブラックバーン「Ice breaker」の氷の響き、ハリス・キトス「アヴァリス」のコインの響きなどが印象的でした。ラストの及川潤耶「Bell Fantasia」はドイツで収録した鐘の音による祈りのシンフォニー。この作品を平和への祈りとして共有できたら、という作者のメッセージも。大ホールが一瞬で伽藍になりました…。

そんなわけで、今年も新しい音に耳をひらかれる体験を目いっぱい楽しみました。こういう楽しみがあるのも平和があってのことですよね…願わくばこういう日々がこれからも続いていきますように…。
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シー・イズ・オーシャン

2021-10-02 09:18:20 | 映画
ヒューマントラストシネマ渋谷で「シー・イズ・オーシャン」を見てきました(この映画館での上映は既に終了しています)。

海を深く愛する9人の女性のドキュメンタリーです。女性たちの年齢、国籍、職業はさまざま。サーファー、ダイバー、ダンサー、海洋生物学者、そしてサーファーの母…。この映画の監督も女性ですが、海が女性的なルーツを持ち、人々が海をSHEと名付けたというインドネシアの伝説に触発されてこの映画を製作したのだとか…(以下、ネタバレ気味です)。

この映画のヒロイン的存在なのが14歳の少女、チンタです。バリニーズの彼女は父親の夢だった、ハワイのオアフ島のパイプラインを乗りこなすサーファーになることを夢見て日々奮闘しています。はじけるような笑顔が愛らしい彼女は父親をも驚かせる天性の才能を持ち、果敢に世界の壁に向かって挑みます。ココ・ホーはサーファー一家に生まれた若手サーファー。若くして注目を浴びる存在になりましたが、地元で家族とともに過ごし、海に向かう時は自分を取り戻すのだとか。オーシャン・ラムジーはサメ保護活動家でありフリーダイバー。ひとは彼女を「サメの魔術師」と呼ぶそうです。彼女の活動を見てサメに対する認識が全く変わりました。「ジョーズ」の影響でサメってもっぱら怖いものと長年思い込んできましたが、実はこんなにおとなしくて賢い生き物だったのですね…。アンナ・バーダーはクリフダイビングの欧州チャンピオン。彼女はこの競技に初めて挑んだ女性です。断崖絶壁から海に飛び込む姿は見ているだけで恐ろしいのですが、凄い勇気…。アンドレア・モーラーはビッグウェーバーであり、救急救命士の顔も持ちます。海がもたらす喜びも悲しみも知る彼女が使命感をもって海に向かう姿が凛々しい。ケアラ・ケネリーはジェンダーを超えようとするプロサーファー。見た目も気性も男前の彼女は、命に関わるような大怪我を負いますが、恐怖に立ち向かって見事にカムバックします。ローズ・モリーナはフリーダイバーでありダンサー、ヨガ教師でもあります。彼女が水中で舞う姿は夢のように美しい…。ジニー・チェッサーは伝説のサーファー、故トッド・チェッサーの母。息子を海で失い、自身も癌になるという悲しみを癒したのは海と友人でした。海は命を奪いもするが、命を取り戻してもくれると語ります。シルビア・アールは海洋生物学者であり探検家。米国初の女性主任科学者でもあり、単独潜水の世界記録も持つというスーパーウーマンの彼女は80歳を過ぎた今も海に潜ります。「タイタニックは深さ4kmに沈んでる。そこまで行った人間は3人だけ。月は12人も歩いている」のだそうです…。

海の美しさ、そして海を愛する女性の強さに終始、圧倒された映画でした。映画では環境問題、SDGsにも多少触れていますが、女性は海を守る存在でもあるのかもしれませんね。海に魅せられ、時には憑かれたように海へと向かう女性たち…不肖わたくしもこの映画を見たら、たまらなく海を見たくなってしまいました。そうだ、海へ行こう…。
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