aquamarine lab

アートネタなど日々のあれこれ

北斎づくし&富士山づくし

2021-08-19 00:51:23 | 美術
東京ミッドタウンホールで「北斎づくし」を見てきました。

北斎づくし、とはなかなかにインパクトのあるタイトルですが、北斎の生誕260年を記念し、「北斎漫画」「冨嶽三十六景」「富嶽百景」の全頁・全点・全図を一挙に展示するというまさに前代未聞な展覧会です。この展覧会は世界一の北斎コレクターとして知られる浦上蒼穹堂の浦上満氏の全面協力によって実現しました。会場に入ると床から壁から天井からぶら下がるバナーから、一面北斎だらけ…驚きの展開ですが、会場構成を手掛けたのは田根剛氏。展示は「北斎漫画」から始まりますが、全15巻の全頁、トータル500冊883頁分の原本が並ぶさまは実に壮観です。こうやって書いているだけでも気が遠くなりそう…。珍しいところでは書袋や木箱まで。木箱にはちゃんと15冊分の中身も。こんなん初めて見ましたわ…。漫画も摺りのいい状態のものを展示していて、やはり綺麗です。同じ頁の初摺りと後から摺ったものを比較するコーナーもあるのですが、比べて見るとさらに違いがよくわかります。描かれているのは人・動物・植物・風景などなど多岐にわたります。五巻は建物特集なのですが、田根さんはこの巻がお気に入りなのだとか。巻の全体を通して見ることができるとおそらく北斎の頭の中では脈絡があったのだろうなぁ…ということは何となく伝わってきます。それにしてもやはりとんでもない仕事量…さすがは画狂人。次のお部屋は「富嶽三十六景」。円形の部屋にぐるりと46枚が展示されています。バックの臙脂色の壁ともあいまってシックな空間になっていました。あんな富士やこんな富士…今さらながら画力のみならずアイデアの豊富さに驚かされます。読本の挿絵の部屋も。水滸伝に椿説弓張月。漫画というか劇画のようなダイナミックな作品。ここには江戸の聖☆おにいさんも…。最後の部屋は「富嶽百景」。北斎75歳頃の作品だとか。全てモノクロの作品群は洗練されていてスタイリッシュでさえあり…グラデーションの諧調も美しい。珍しい初版本もあり、北斎の言葉もありました。110歳過ぎたらもっとうまくなって一点一格生けるが如き絵が描けるはずと…。画狂老人卍、おそるべし…。

この北斎づくしに関連してフジフィルムスクエアでは「富士山づくし」が開催されていたのでそちらも見てきました。「冨嶽今昔三十六景」は北斎と4人の写真家の作品とを並べた展覧会です。岡田紅陽氏の富士はモノトーンでどこか懐かしい。千円札の裏の富士も氏の写真が元になっています。白籏史朗氏の富士はダイナミックで力強い。竹内敏信氏の富士は花や木との組み合わせの妙が面白く…。大山行男氏の富士は雲が美しい。オーロラを纏ったような写真も。織作峰子氏の写真展は「Hommage to Hokusai」。富嶽三十六景が描かれたポイントを巡り撮影した箔にプリントしたそうです。こちらは女性的な穏やかな富士。箔のきらめきが繊細な光を放ち…とりわけダイヤモンド富士の写真が美しかったです。撮る人によってこうも表情を変える富士…魅力は尽きないようです…。
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日本画 GOLD++

2021-08-10 00:20:28 | 美術
郷さくら美術館で「日本画 GOLD++」展を見てきました。

この展覧会は光の表現としての黄金:GOLDをさまざまな作品で紹介するという展覧会です。金箔や金泥、基底材などの素材によって放つ光も変わるのだとか…。1階の会場に入ると森田りえ子「秋華」が。明るい金地に色とりどりの菊…天に向かって生命が立ち昇るかのようです。小倉亜矢子「燃えんとす」に描かれているのは真っ赤なダリア。暗めの金地にほとばしる鮮烈な赤。佐藤晨「春宵」はミミズクの真ん丸お眼々がかわいい。「木漏れ日」も好きな作品です。静かな森に佇むのは二羽の鳩…瑞々しくも神秘的な緑です。3階は人物像と動物画ですが、ここには加山又造の「洋猫」が。トルコブルーの瞳が印象的な猫ちゃんはシャム猫ですかね…。猫と言えば金木正子「ねこもよう」にも白猫や三毛猫がたくさん…猫好きにはたまらない作品です。作者は24年間一緒に暮らした愛猫を亡くした悲しみのあまりこの作品を描いたのだとか。平木真理「Monkey Race」はなんと子猿がダチョウに乗ってレースをする図を描いた面白い作品。金といってもいろいろ、そして日本画といってもいろいろあるのですね…。

2階は「桜百景vol.24」。一年を通じて満開の桜の作品だけを展示するという展示室です。ここには松原亜実「春麗」が。2年前の桜花賞受賞作品で、その頃から気になっていたのですが、ようやく実物を見ることができました。藍の空に透ける花びらの表現がみごとです。岩井尚子「汀の宴」はデザイン化された花片の表現がユニーク。名古屋剛志「月華」はスタイリッシュな作品。満月と満開の夜桜。月の中心には黒アゲハ。中島千波「目黒川櫻花爛漫」はダイナミック…今はまだ真夏ですが、目黒川の桜が懐かしくなってしまいました…。

さて、例によって鑑賞後は甘いもの(←またかい)ということで、美術館近くの「ミニチュアガーデンカフェ」に寄ってきました。隠れ家的な雰囲気のカフェです。季節限定のクラフト・チョコレートソフトクリームをいただきましたが、さっぱりめのチョコとフランボワーズソースのバランスが絶妙で、美味しゅうございました。ここでは広島のBean to Bar専門店rit.から取り寄せたというレコード型やカセット型のクラフト・チョコレートも売っていました。ジャケットも独自にデザインしているらしく、お洒落でしたね…。


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発見の道

2021-08-01 01:51:12 | 美術
東京都美術館で「イサム・ノグチ 発見の道」を見てきました。

イサム・ノグチの作品はこれまで何度となく目にしていたので、この展覧会は行こうかどうしようか迷っておりましたが、サカナクションの山口さんがゲストで出ていた日曜美術館の特集を見ていたら行ってみたくなり…東博とはしごして行ってきました。

この展覧会では山口さんがセレクトした音楽によるサウンドツアー(音声ガイドから流れてくる音楽を聴きながら鑑賞する)があったので、試してみました。山口さんはインスピレーションで曲を選ぶのではなく、ノグチが聴いたかもしれない音楽、ノグチに影響を与えたかもしれない音楽から選んだそうです。ノグチはけっこう音楽通でもあったらしく、選ばれた曲はジャズ、現代音楽、邦楽などさまざま…。作品が制作された時代の音楽を聴きながら作品を鑑賞するという体験はなかなかに新鮮で面白かったです。

さて、展覧会の方はというと、思いのほかお洒落な展示空間になっていて、若手女子の姿も目立ちます。会場に入ったところには150灯もの「あかり」によるインタレーションがあり、幻想的な空間に。展示は全体的にスペースの使い方がうまいという印象です。展覧会は「彫刻の宇宙」「かろみの世界」「石の庭」の3章構成になっていました。第1章「彫刻の宇宙」は40年代から80年代までの彫刻作品が「あかり」を取り囲むように展示されています。比較的シンプルでありながら力強い作品の数々。作品が宇宙へとつながっていくような、そんな力を感じます。展覧会のタイトルにもなっている「発見の道」は晩年の作品ですが、彼はこのタイトルにどんな思いを込めたのか…。第2章は「かろみの世界」。切り紙や折紙からインスピレーションを得て制作されたという金属の彫刻がメインになっています。ユーモラスな作品も多く、タイトルと見比べるとクスっと笑えるものも。色鮮やかな大型遊具「プレイスカルプチュア」も独特の存在感が。第3章は「石の庭」。ノグチの制作拠点でもあった香川県牟礼地町の野外アトリエに残された石彫作品が展示されています。もはや禅の境地のような研ぎ澄まされた感覚。牟礼のアトリエの映像も流されていましたが、ずっと見つめていたいような不思議な空気感です。二つの国の間で揺れ動いた心が最後に行きつく先はここだったのでしょうか….。そして、最後の章のサウンドツアーには武満徹の「巡り―イサム・ノグチの追憶に―」が…。

ところで、サウンドツアーには解説のリーフレットがついているのですが、これが秀逸で読みごたえがありました。ノグチの人生と音楽史を対比した年表とか、ノグチの旅した土地と世界音楽分布が載った地図なども。ノグチがフリーダ・カーロと恋人だったことは知っていましたが、李香蘭(山口淑子)と結婚していたということは初めて知りましたよ…。解説によるとノグチの音楽趣味は「17世紀のバロック音楽から日本の雅楽に至る広さ」だったのだとか。いやはや、広い…。
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