東京ミッドタウンホールで「北斎づくし」を見てきました。
北斎づくし、とはなかなかにインパクトのあるタイトルですが、北斎の生誕260年を記念し、「北斎漫画」「冨嶽三十六景」「富嶽百景」の全頁・全点・全図を一挙に展示するというまさに前代未聞な展覧会です。この展覧会は世界一の北斎コレクターとして知られる浦上蒼穹堂の浦上満氏の全面協力によって実現しました。会場に入ると床から壁から天井からぶら下がるバナーから、一面北斎だらけ…驚きの展開ですが、会場構成を手掛けたのは田根剛氏。展示は「北斎漫画」から始まりますが、全15巻の全頁、トータル500冊883頁分の原本が並ぶさまは実に壮観です。こうやって書いているだけでも気が遠くなりそう…。珍しいところでは書袋や木箱まで。木箱にはちゃんと15冊分の中身も。こんなん初めて見ましたわ…。漫画も摺りのいい状態のものを展示していて、やはり綺麗です。同じ頁の初摺りと後から摺ったものを比較するコーナーもあるのですが、比べて見るとさらに違いがよくわかります。描かれているのは人・動物・植物・風景などなど多岐にわたります。五巻は建物特集なのですが、田根さんはこの巻がお気に入りなのだとか。巻の全体を通して見ることができるとおそらく北斎の頭の中では脈絡があったのだろうなぁ…ということは何となく伝わってきます。それにしてもやはりとんでもない仕事量…さすがは画狂人。次のお部屋は「富嶽三十六景」。円形の部屋にぐるりと46枚が展示されています。バックの臙脂色の壁ともあいまってシックな空間になっていました。あんな富士やこんな富士…今さらながら画力のみならずアイデアの豊富さに驚かされます。読本の挿絵の部屋も。水滸伝に椿説弓張月。漫画というか劇画のようなダイナミックな作品。ここには江戸の聖☆おにいさんも…。最後の部屋は「富嶽百景」。北斎75歳頃の作品だとか。全てモノクロの作品群は洗練されていてスタイリッシュでさえあり…グラデーションの諧調も美しい。珍しい初版本もあり、北斎の言葉もありました。110歳過ぎたらもっとうまくなって一点一格生けるが如き絵が描けるはずと…。画狂老人卍、おそるべし…。
この北斎づくしに関連してフジフィルムスクエアでは「富士山づくし」が開催されていたのでそちらも見てきました。「冨嶽今昔三十六景」は北斎と4人の写真家の作品とを並べた展覧会です。岡田紅陽氏の富士はモノトーンでどこか懐かしい。千円札の裏の富士も氏の写真が元になっています。白籏史朗氏の富士はダイナミックで力強い。竹内敏信氏の富士は花や木との組み合わせの妙が面白く…。大山行男氏の富士は雲が美しい。オーロラを纏ったような写真も。織作峰子氏の写真展は「Hommage to Hokusai」。富嶽三十六景が描かれたポイントを巡り撮影した箔にプリントしたそうです。こちらは女性的な穏やかな富士。箔のきらめきが繊細な光を放ち…とりわけダイヤモンド富士の写真が美しかったです。撮る人によってこうも表情を変える富士…魅力は尽きないようです…。