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アートネタなど日々のあれこれ

笙づくし

2022-01-30 01:43:46 | 音楽
サントリーホールブルーローズで「笙づくし」を聴いてきました。

笙奏者、宮田まゆみさんのリサイタルです。実はわたくし、笙の音が大好きで、一時期お稽古に通っていたこともあるくらいです。今回のリサイタルでは何と豊英秋氏、石川高氏との夢の共演が実現…笙好きにとってはもうたまりません…ということで、世情騒がしいなかですが、いそいそと行ってまいりました。

今回のプログラムは中世の古譜を元にした「調子」と「入調」の全曲と、笙族のための現代曲との二本立てになっていました。前半は「甦る古譜」で、平調と双調の「調子」と「入調」を演奏していました。平調の調子は最初に習う曲なのですが、今回は古譜を元にしています。ひさびさに笙の生音を聴くと、何だかもうすっかり夢見心地に…。宮田さんの笙の音は細くてしなやかな強い糸のようです。途中、ご本人のMCも入りました。宮田さんが出演されたコンサートは何度か見ているのですが、いつ拝見しても年齢不詳のお綺麗な方、佇まいもとてもチャーミングです…。

後半は「現代の笙」です。最初の曲は芝祐靖作曲「笙独奏のための匏竹のたわむれ」。途中、わらべうたのようなフレーズもあり、心がなごむ曲でした。二曲目は近藤譲作曲「舞曲」。この曲は宮田さんの委嘱によって作曲された作品だそうです。この曲から豊氏の笙と石川氏の竽が加わります。笙族の三重奏を見るのは初めて…三本の光の柱が天に向かって立ち昇るような曲でした。最後の曲は川上統作曲「魂交」。この曲で宮田さんが「モ(たけかんむりに母)」に持ち替えます。ずいぶん大きな楽器です…笙の2オクターブ下の音域を持つこの楽器は深海のような音色の印象から「モ」と名付けられたそうです。先の二曲は比較的穏やかな曲でしたが、この曲は現代音楽らしい響きの曲です。魂交というのはハタ科の最大の魚の名前だそうですが、スケールの大きな曲…奏者の方々の演奏も素晴らしく、終演後もなかなか拍手が鳴りやみませんでした。結局、アンコールはなかったのですが、皆、アンコールを聴きたかったんだろうな…私自身もこんなに生音に飢えていたということをあらためて思い知りました。笙のお稽古もいつか再開したいのですが、子育てが一段落したら、と思っているうちにいつの間にか長い歳月が過ぎてしまいました。それにしても子育てが一段落するのっていったいいつなんだろう…。

さて、例によって、鑑賞後はほっと一息、ということで近くの「HARIO CAFÉ」に寄ってきました。ドリップコーヒーをいただきましたが、苦味と酸味のバランスがよく、美味しゅうございました。その後、しばらくあたりを散歩しながらふと見上げると空が青みを増していたような…春の兆しですかね…。
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平松礼二の世界

2022-01-29 00:51:39 | 美術
郷さくら美術館で「平松礼二の世界」を見てきました。

日本のみならずドイツやフランスなど世界的に評価されている日本画家、平松礼二氏の個展です。作品は国内外で「現代の琳派」と称されているそうですが、その名にふさわしい華やかかつスタイリッシュな作品の数々でした…。

1階の会場に入ると屏風の大作が並んでいます…豪華絢爛かつ緻密。「日本の祈り・花が咲く」は霊気が漂ってきそうな作品。「路・野菊讃」は金地を背景に小さな野菊が無数に描かれ…平松氏は野菊がことのほかお好きなのだとか。どことなくお人柄が窺い知れます。「花山 Japan」も山肌を埋め尽くす花々を見ていると気が遠くなりそう…。「路」シリーズは幻想的な作品群。とりわけ「夕の夢の中で」はノスタルジック。「New York」シリーズは打って変わってスタイリッシュ。「NEW YORK- WHITE MOON」の夕空に白く輝く月。2階の会場は琳派風の作品が並びます。「モネの池・夢春秋」はモネの池に日本の草花が描かれた斬新な作品。メインビジュアルにもなっている「ジヴェルニー藤の宴」は琳派に通じるようなデザイン性。3階の会場は日本の風景を描いた作品。「梅之季」を見ていると「ガラスの仮面」の紅天女の里を思い出しました…。「さくら・ジャポン」の無数の桜の花弁にはもはや茫然…これを描き切るのにいったいどれほどの時間がかかったのでしょうか…画家の執念すら感じました…。平松氏の作品を見ていると、桜や紅葉が無性に懐かしくなります…春の桜花、秋の紅葉に耽溺したい心持ちって、もはや日本人のDNAに組み込まれているのでは…と、そんなことすら思ってしまいました。

会場では平松氏のインタビューも上映されていました。面白かったのが渡仏の時のエピソード。氏はそれまで洋画にも外国にも興味がなかったのですが、ある画廊の方に外国…それもパリで受ける絵だから行ってこい、と背中を押されフランスへ向かったそうです。そこでモネの絵に出会い、足が震えるほどの衝撃を受けたのだとか。作品はパリで評価され、後にフランス共和国芸術文化勲章も授章されました。画廊の方の炯眼にも恐れ入りますが、人の運命ってどんなきっかけで動くかわからないものですね…。

さて、例によって、鑑賞後はほっと一息…ということで、中目黒の駅近くの「オニバスコーヒー」に寄ってきました。ハンドドリップのエチオピアをいただきましたが、フルーティーなフレーバーで美味しゅうございました…。
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モンク

2022-01-23 11:55:46 | 映画
ヒューマントラストシネマ渋谷で「モンク」「モンク・イン・ヨーロッパ」を見てきました。

言わずと知れたジャズ・ジャイアント、セロニアス・モンク。奇人変人が綺羅星の如く居並ぶジャズ界のなかでもひときわ変人として知られるモンク。今年が没後40年なのだそうです。というわけで、彼の円熟期のドキュメンタリー2作が同時公開されています(以下、ネタバレ気味です)。

「モンク」「モンク・イン・ヨーロッパ」、ともに1968年の作品です。「モンク」はモンクが自身のカルテットを率いてヴィレッジヴァンガードやコロムビアレコードのレコーディングスタジオでセッションをする模様を収録しています。モンクが演奏している姿を映画館の大画面で見られるというのはなかなか感慨深いです…。強烈にスイングというかドライヴする独特のグルーヴ感、そして唯一無二のハーモニー感覚…本当に普通にコードを押さえるっていうことは絶対しないんだな、ということが映像で見るとよく分かります。かと思うと、サックス奏者に譜面のこの音はDなのかCなのかと問い詰められ、どっちでもいい…とか答える場面も。圧倒的な演奏を繰り広げるモンクですが、なぜか突然くるくる回り出したりも…そして実は猫屋敷の住人でもあったようです。

「モンク・イン・ヨーロッパ」は1968年のヨーロッパツアーの記録です。もの珍しげにあたりを見回すモンク、ホテルマンと微妙にかみ合わない会話を繰り広げるモンク…モンクの素顔も窺い知れます。バンドのメンバーはフィル・ウッズを始め、そうそうたるメンツです…が、リハではやはり譜面をめぐって混乱する場面も。ライブの本番になるとメンバーの演奏も素晴らしく、モンクのピアノも強烈です…モンクは常に右足でリズムを取りながらピアノを弾くのですが、その踏み方が凄いんですよね…まるでドラマーのようです。そして、ライブの場面でも絶対に普通にコードを押さえるということはしないです…おそるべし。こちらの映画にはマスコミのインタビューの場面もありました。演奏と作曲とどっちの方が大事か、と聞かれたモンクの答えは、どっちも、でした。

どちらの映画も音楽ドキュメンタリーには珍しく、本人や関係者のインタビューはあまりなかったです…が、あの強烈な演奏、オフのチャーミングな佇まい、そして独特の空気感…モンクはやはり存在そのものが絵になる男でした…それにしても、ラストの笑顔が可愛かったなぁ…。
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新しい海

2022-01-15 23:43:55 | 美術
東京都現代美術館で展覧会のはしごをしてきました。

例によって、鑑賞前に腹ごしらえ…ということで、この日は清澄白河の駅近くの「深川 釜匠」に寄ってきました。深川めしを頂きましたが、丼いっぱいのご飯の中にあさりがゴロゴロ…ふっくら炊かれたあさりが美味しゅうございました。けっこうボリューミーなのですが、前もって持ち帰り用にラップを下さるという気の利きよう…さすが下町のお店です。あさりが大好きな子供たちのために一部を持って帰りました。その後、少し足を伸ばして清澄庭園をお散歩…天気のいい日だったので、とても気持ちよかったです。この庭園、さながら別天地の趣がありますね…。

さて、腹ごなしもすんだところで美術館へ。最初に見たのが「ユージ―ン・スタジオ 新しい海」です。不肖わたくし、ユージ―ン・スタジオのことは今回、初めて知りました。何でも平成生まれの作家の個展は東京都現代美術館で初めてだそうです。「White Painting series」はただの白いキャンバスかと思いきや、人々の接吻の跡が重なっているのだとか。続く「海庭」で度肝を抜かれます。さすがにこの発想はなかった…これ、うちにも欲しい…とつい思ってしまいました…絶対、無理だけど。「善悪の荒野」は「2001年宇宙の旅」にインスパイアされた作品ですが、何と映画の終盤のシーンに現れる部屋を原寸大で再現、破壊、消失したオブジェによるインスタレーション。やることが凄いです…。「ゴールドレイン」は金銀の粒子が雨のように降り注ぐという作品。いつまでも見入っていたい美しさ。「夢」はドビュッシーの「夢」をピアノで空弾きする映像を繋いだ作品ですが、これを見たら無性に「夢」を弾きたくなり…家でひさびさに楽譜を引っ張り出して弾いてしまいましたよ…。それにしても、本当に世界観が好きなタイプの作家さんで、出会えて嬉しかったです…新しい海を見つけたような…。

「Viva Video! 久保田成子」は約30年ぶりという大規模な個展です。彼女の生い立ちにまで遡り、初期から晩年までの活動を多数の資料とともに紹介しています。彼女は元々、彫刻家を志していましたが、大学卒業後に東京の前衛美術コミュニティに参加した後、1964年に渡米、フルクサスの活動に参加します。当時、際どい作品も発表したりしていますが、彼女はとにかく腹が据わっているのです…。その後、ヴィデオと出会い、代名詞となるヴィデオ彫刻の作品を生み出します。ヴィデオ+彫刻ってまさに彼女じゃないとできないことですよね…。「三つの山」は今見てもスタイリッシュ。80年代になるとヴィデオ彫刻がさらに進化し、動きが加わります。「ナイアガラの滝」は、複数のモニターの前にシャワーが置かれ、滝のように水が滴り落ちるという作品。これが一台家にあると癒されそう…いや、置く場所ないけど…。「スケート選手」は伊藤みどりさんをモデルにした作品ですが、面白くもなつかしい。「韓国の墓」は夫のナム・ジュン・パイクの故郷である韓国の墓をモチーフとしてますが、光り輝くように美しく…。ナム・ジュン・パイクといえば、「セクシュアル・ヒーリング」という作品も。パイクが脳梗塞で倒れ、リハビリをすることになるのですが、セラピストはなぜかグラマーな美女2人組。妻としてはなかなか複雑な心境かと思われますが、しっかり作品のネタにしています。マーヴィン・ゲイの同名曲をBGMに、美女に挟まれニコニコ顔の旦那さんが映像作品となりました…。作品も資料も半端ない数の展覧会で見る方も大変でしたが、エネルギーをもらったようです。彼女はこんな言葉も残していましたね…「時は流れ、過ぎ去るものは常に美しい」。

「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」アートと音楽の交差点から革新的な作品を発表しているクリスチャン・マークレーの国内初の大規模な個展です。音楽、アート、マンガ、映画、グラフィティ…さまざまなメディアを越境するユニークな作品の数々。「リサイクル工場のためのプロジェクト」は東京のリサイクル工場で制作されました。ゴミがリサイクルされ、視聴覚を刺激する作品へと生まれ変わる過程が作品になっています。代表作の一つである「ビデオ・カルテット」は古今東西の映画から音にまつわるシーンを集めて作ったコラージュ作品ですが、聴いたことのないような音楽が出現…。「サラウンド・サウンズ」は漫画のオノマトペを引用した無音の映像インスタレーション。オノマトペの文字がアニメ―ションで降り注ぎます…。視覚と聴覚の交差というテーマの現在進行形をこれまでにない規模で見られた展覧会でした。

最後に「Journals 日々、記す vol.2」も見てきました(現在は閉室しています)。今回は久保田成子展にちなんでか、フルクサスの展示もありました。かと思うと、三島喜美代さんの陶作品が。やはり生で見ると迫力がありますね…。衝撃的だったのが康夏奈(吉田夏奈)さんの作品。「花寿波島の秘密」を見上げていると龍宮城にいるような不思議な心持ちに…彼女の言うところのbeautiful limitという概念も興味深いです。そして、昨年に亡くなったボルタンスキーの作品が切ない…。

そんなわけで、現代アートでお腹いっぱいになりましたが、帰りに「ARiSE COFFEE ROASTERS」に寄ってきました。こぢんまりしたアットホームな雰囲気のお店です。店主おすすめのドミニカを頂きましたが、これがめちゃめちゃ美味しかった…これまで飲んだコーヒーで一番だったかも…一日の疲れがぶっとびました…。
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ポリネーター

2022-01-14 23:08:59 | 美術
ワタリウム美術館で「梅津庸一展 ポリネーター」を見てきました。

美術家・パープルーム主宰の梅津庸一氏の個展ですが、その活動領域は絵画、パフォーマンス映像、陶芸作品、キュレーション、非営利ギャラリー運営と多岐にわたり…ちなみに「ポリネーター」という言葉には植物の花粉を運んで受粉させる媒介者という意味があるのだとか…。

2階は「多孔質の夢」。会場に足を踏み入れると、パステルカラーの空間が広がります。男性のヌードを描いた絵に一瞬、ドキッとしますが、綺麗な絵です…思わず、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」が頭の中で鳴ってしまいましたよ…。陶作品の「パームツリー」は謎の生物のようにも見え…かと思うと、「霞ヶ浦航空飛行基地」などの戦時中の学生と思わしき男性をモチーフにした作品も。作者の大おじにあたる方なのだそうです…。高尾山にジャムを塗る、セカンドオピニオン」は作者らしき男性が登場するビデオ作品ですが、何かの儀式を見ているかのよう…。3階は「第17話、血液、太陽いっぱい」。漫画のようなドローイングや扇のような形をした陶作品が並びますが、陶作品は何と「花粉濾し器」でした…。4階は「新しい日々」。インスタレーション「黄昏の街」は展示室の中央の台にたくさんの陶作品が並び、その周りを幻想的な陶板作品が取り囲みます。4階を出ようとした時、黄色の壁に書かれた「光の降る花粉」という言葉が見え、窓から金色の光が射し込みました。不思議な瞬間でした…。地下の会場は「ポリネーターの落し物」。大量の陶作品は遠い海から流れ着いた漂着物のよう…。

展覧会を見に行ってから、けっこうな日数が経ってしまっているのですが、今になって思い返しても、ふわんとした夢でも見ていたような…綺麗で繊細で危うくてどこか生々しい…そんな作品たちが気配として記憶されるような、不思議な展覧会でした…。

鑑賞後、何となく一息つきたくなり、「on Sundays」で休憩…コーヒーを飲みながら、2021年に起こったあれこれにぼんやりと思いを馳せておりました。ほんとにいろんなことがあったなぁ…。
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民藝の100年

2022-01-11 01:19:57 | 美術
東京国立近代美術館で「民藝の100年」を見てきました。

この展覧会は柳宗悦没後60年記念の展覧会ということです…そして、民藝運動が始まってから約100年。民藝名品展みたいな展開になるのかと思いきや、400点を超える作品で民藝運動の歴史を丹念に掘り起こすという非常に重厚な展覧会でした。思い出したのが、約10年前に同じく東京国立近代美術館で開催された「美術にぶるっ!」(←今見ても斬新なタイトル…)の「第2部 実験場1950’s」。いまだに私の中では伝説の展覧会です。近代の歴史と美術の関係性を膨大な資料を通じて解き明かすというのは、国立近代美術館ならではの仕事ですよね…。そして、東京都国立近代美術館は柳宗悦に名指しで批判された過去がありました。「近代美術館は、その名称が標榜している如く、「近代」に主眼が置かれる」と。この展覧会は当時の柳宗悦の問いに対する返答というチャレンジでもあるようです…。

展覧会は「民藝」の発端から始まります。柳宗悦を含む「白樺」の面々がロダンに熱烈なファンレターを送ったところ、ロダンからお礼に作品が送られ、それを見に来た浅川伯教が手みやげとして持参した朝鮮白磁を見て柳宗悦が工芸品の魅力に開眼…という話ですが、目覚めた後の柳宗悦の活動が凄かった…単に工芸品を収集するのみならず、「運動」へと展開するのです…。名もなき人々の手仕事をピックアップするには、相当な眼力と胆力が必要ですし、説得力のある言葉で人々にそのよさを伝えるためには相当な言語力も必要になりますが、それらすべてを兼ね備えていたのが柳宗悦でした。展覧会では「美術館」「出版」「流通」という三本柱を掲げた民藝のモダンな「編集」手法についても触れていますが、柳宗悦は最強の編集者でありプロデューサーであったのかもしれません…。そして、その活動範囲は日本全国から海外へと及びます。膨大な数の作品からは、こういう用の美的なものは時代も地域も超えて存在するのだということを目の当たりにさせられます。「芸術」というとある意味、時代の華という面があるやもしれませんが、「民藝」的なものは人間の存在そのものについてまわるというか…。「民藝館の方は、展示する品物に、別に「近代」を標榜しない」という」という柳宗悦の言葉があらためて思い起こされます。そもそも「近代」とか「美術」という言葉がいったい何を指しているというのか…70年も前の柳宗悦の言葉が、今を生きる者にいまだに問いかけているようです…。
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昭和水墨画壇の鬼才

2022-01-09 23:57:58 | 美術
大倉集古館で「篁牛人展」を見てきました。

不肖わたくし、篁牛人のことは何も知りませんでした…それもそのはずというか、ごく最近になって再評価されるようになった画家だそうです。メディアで取り上げられていた作品を見て、面白い絵だなぁ…と思い、行ってまいりました。しばしご無沙汰していた大倉集古館にも行ってみたかったし…。

ひさびさに訪れた大倉集古館、ずいぶんきれいになっていてびっくりしました…いつの間にかエレベーターも設置されていたし。会場に入ると、メインビジュアルにもなっていた「天台山豊干禅師」が。この絵に描かれている大きなもふもふの虎さんを一目見たくて私はやって来たのですよ…ありえないポージングを決めている虎は漫画のようでもありますが、篁牛人は岡本一平の作品も好んでいたようです。元々お寺に生まれたこと、中国古典にも造詣が深かったこともあって、そうした題材を描いた作品が多いのですが、恐ろしげなものを描いていても、どこか慈愛とユーモアが作品の底に流れているようです。

篁牛人は富山県の生まれ、実家は浄土真宗の寺院でした。富山の売薬組合で図案家として仕事をする傍ら絵も描いていましたが、40代半ばで戦地に召集され、復員後は水墨画で生きていく覚悟を固めます。渇筆という独自の技法で描いていますが、戦地で少ない墨で絵を描くためにこの技法に辿り着いたという説も。先を切った筆を使って和紙に墨を擦りつけるようにして描くことで、独特のコントラストと勢いが生まれ、唯一無二の絵の世界が成立します。ただ、渇筆で作品を制作するためには高価な越前麻紙が必要になります。「天台山豊干禅師」は水墨画を描いて間もない頃の渾身の作で、非常に大きな作品ですが、芳しい評価は得られず、資金もなくなり、その後の作品は小さめサイズになりました。そして、50代半ばで家庭があったにもかかわらず放浪の旅に…当時は試行錯誤も重ねたようで、シュールっぽい「抽象画」やピカソの影響が丸わかりの「しゃれこうべと牛の顔」といった作品も。長らく不遇の時期が続きますが、60歳を過ぎて最大のチャンスに恵まれました。パトロンとなる森田和夫医師との出会いです。その後、再び大きな絵で本領発揮するようになりました。代表作ともいえる「老子出関の図(部分)」にはもっぱら大きな牛が描かれていますが(老子を描いた右半分は後年発見)、牛の重みがどーんと伝わってきそうな絵です…牛だけに。このボリューム感の表現は他の人には真似できない感じです。しかし、70代半ばに長年の飲酒も祟って脳梗塞で倒れ、約10年後にこの世を去ります。比較的似た画風で描き、交流もあった棟方志功が世界的に有名になる一方、生前は不遇ともいえた篁牛人ですが、没後30年以上経った今になって脚光を浴びているのですから、芸術家の人生って分からないものです…one and onlyの何かがある人にはそういうチャンスもあるということなのでしょうか…。

さて、例によって鑑賞後は甘いもの…ということで、オークラの「オーキッドルーム」に寄ってきました。そうですよ、この時のために茶菓子付き鑑賞券を買っていたのですよ…。ラグジュアリーな空間でいただく苺タルトと紅茶は、ひさびさの非日常感ともあいまって、たいへん美味しゅうございました…。
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光の系譜

2022-01-08 23:59:05 | 美術
三菱一号館美術館で「印象派・光の系譜」を見てきました。

年々、印象派の絵画の展覧会を見に行くことが少なくなっていたのですが、この展覧会はレッサー・ユリィの作品が評判になっていることを知り、行ってきました。不肖わたくし、彼のことは今回、初めて知りました…画像で見ても不思議な魅力のある作品ですが、生で見ると果たしてどういうことになるのでしょうか…。

この展覧会ではイスラエル博物館が所蔵する印象派の名品が展示されています。イスラエル博物館のコレクション展を見るのは初めてですが、なんと約50万点の所蔵品があるそうで…その中から選りすぐられた69点が遠路はるばる来日しました。「水の風景と反映」の章では水景を描いた作品が並びます。クールベの「海景色」は海鳴りが聴こえてきそうな作品。セザンヌの「川のそばのカントリーハウス」の瑞々しさ…セザンヌというと山のイメージなので、水を描いた作品が新鮮です。そして、レッサー・ユリィの「風景」が。夕暮れ時と思わしき水景ですが、独特のオレンジ色に眼が惹きつけられ、しばし佇んでしまいました。「自然と人のいる風景」の章には印象派らしく陽光に照らされた風景を描いた作品が並びます…ピサロの「エラニーの日没」の空の綺麗なグラデーション、ゴッホの「プロヴァンスの収穫期」の空の青と麦畑の黄の鮮やかな対比…そのなかでゴーガンの「ウバウバ(炎の踊り)」が文字通り異彩を放っています…暗闇に揺らめく妖しい炎。「都市の情景」の章にはレッサー・ユリィの「夜のポツダム広場」が。開幕初日に絵葉書が売り切れたという例の作品です。雨の夕暮れ時、暮れなずむ蒼に建物から洩れる光の橙が滲みます…。「冬のベルリン」も瀟洒ながら、冬独特の光と湿度を感じさる作品。この感じ、誰かに似ている…と思い出したのが、ソール・ライターの写真です。それにしても、彼の作品には謎の磁力があります…もし私がとってもお金持ちだったら買い集めてしまいたくなるだろうな、とつい思いましたよ…。そして、2階に降りると今回の展覧会の目玉、「睡蓮:水の風景連作」が。モネの睡蓮の当たり年といわれる1907年の睡蓮3点が展示されています。もう至福の空間ですよ…。実はモネは精神が不調になると、出来がいまいちな作品を切り裂いていたそうです。いや、睡蓮、切り裂いちゃダメでしょ…、と思いますが、私たちがこれまで目にしてきた睡蓮は最終選別を生き残ってきた睡蓮たちだったのね…との思いを新たにしました。最後の「人物と生物」の章にもレッサー・ユリィの「赤い絨毯」が。絨毯の赤、壁と空のグレー、編み物をする女性の背中が何かを語っているような…この空気感がやはりたまらんです。そんなわけで珠玉のコレクションを堪能してまいりました。まだまだ世界には知らない美術館も、知らない素晴らしいアーティストもたくさんいますね…これだから展覧会めぐりはやめられません…。

さて、例によって、鑑賞後にはランチということで、丸の内ブリックスクエアの中にある「o/sio」でふわとろ卵コクミートをいただいてきました。名前に違わぬコクのあるミート、ふわとろ卵との組み合わせも絶妙で、美味しゅうございました…。


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