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アートネタなど日々のあれこれ

オアシス:ネブワース1996

2021-09-27 01:12:21 | 映画
ヒューマントラストシネマ渋谷で「オアシス:ネブワース1996」を見てきました。

この映画は1996年8月10日と11日にイギリスのハートフォードシャー州ネブワースで開催されたオアシスのライブのドキュメンタリーです。このライブは2日間でなんと25万人を動員したという大イベントですが、四半世紀が過ぎた今、ギャラガー兄弟の総指揮で映画という形で甦ることになりました。オアシスといえば兄弟喧嘩でも世界的に有名ですが、兄弟で総指揮ってことは、今は仲直りしてるんだろうか…(以下、ネタバレ気味です)。

映画はライブの3か月前、ライブのチケットが発売されるところから始まります。まだインターネットが普及する前の時代、電話と行列で壮絶なチケット争奪戦が繰り広げられていました。主催者によると当時のイギリスの2%以上がチケットをゲットしようとしたのだとか…。待ちに待った当日、ファンのエキサイトぶりも凄いことになっています。一方、会場入りしたメンバーはリアムを初めとしてどこか飄々とした風情。いったいライブはどんなことになるのやら…。

と思ったら、もう最初から怒涛の展開でした。普段着みたいな白いセーターを着てステージに現れたリアムは髪型といい眼鏡といい、どこかジョン・レノンを彷彿とさせます。腕を後ろに回し、顎を上げたあの独特のスタイルで歌っていますが、声が凄く伸びています。オアシスは音源でしか聴いたことがなかったのですが、映像で見るとリアムの声って本当に前に飛ぶ声だったんだな、というのがよく分かります。地味な格好なのにとんでもなく華があるというかオーラがあるというか、まさに全盛期のスターですよ…。そんな弟を淡々と、しかし確実に支える兄のノエル。ところどころで当時の回想の突っ込みが入るのも面白かったです。ワンダーウォールはこの曲が25年後に受ける評価を知っていたら、もっと真面目に曲を作るんだった、そもそもワンダーウォールって何だよ…とか。リヴ・フォーエバーでそれまでインディーだった曲づくりから、多くの人に聞かせる曲づくりに開眼したとも言ってましたね。そして、この時がオアシスの、リアムの絶頂だったと…。当時の人々の熱狂の理由にも冷静に結論を出しています。

映画では、数々の困った言動でも知られるリアムの、思いのほかファン想いな一面も明らかにされています。宴のあと、再び現実へと帰っていくファンの姿…。何年、何十年経ってからも夢のように思い出し、エネルギー源になるライブってあると思うのですが、当時を振り返るファンの声からは、このライブがまさにそういうライブだったということが伝わってきます。音は儚く消えてもこうして思い出は残っていくのでしょうね…。


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木彫り熊の申し子

2021-09-20 10:06:37 | 美術
東京ステーションギャラリーで「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜」を見てきました。

不肖わたくし、藤戸氏のことは何も知らなかったのですが、この展覧会が評判になっていることを知って行ってまいりました。何かとお疲れ気味な今日この頃、熊にでも癒されたい、という気持ちがふつふつと湧いてきて…。

アイヌの両親のもとに生まれ、北海道で育った藤戸氏は、木彫り熊の職人だった父親の下で12歳の頃から熊彫りを始めました。父親が氏が彫った作品を見て、気に入らなければ火にくべてしまう…という、スパルタ教育を受けて育ったのだとか。会場に入ると、まずは迫力の「怒り熊」が。そして「熊と葡萄のレリーフ」に眼が釘付けになります。熊の毛並みの艶まで再現されていて、思わず触りたくなってしまう作品です。熊をメインに、鹿、狼、狐、鳥、そして人…さまざまな動物が登場しますが、どれも驚きの精巧さ。そして温かい…。なかには複数の動物が登場する作品もあるのですが…信じられないことにこれらの作品はすべて一木造りで造られています。デッサンすらせず、丸太に簡単な目印を入れるだけで、あとは一気に掘り出していたのだとか。もはや天才か、とかしか言いようのない感じですが、インタビューによると、本人は木の中にある像を掘り出してやっているという感覚らしいです…。熊以外彫ったことがなかったという氏の転機になったのが34歳の時に依頼によって制作した観音立像でした。慈悲深くも神秘的。人物像は多くはないのですが、アイヌの先人たちを彫った作品は素朴ながらも不思議な威厳に満ちています。意外なところでは海の生物も。なかでも甲殻類を彫った作品は自在置物並の精巧さで、細工師としても一流だったことが窺えます。80歳を超えてからの連作が「少年と狼の物語」。17歳の時、狼の剥製を見て、「狼を作りたい」と言ったら父親に熊も一人前に彫れないのに何を言ってるんだ、と一喝され、それ以来、狼を彫ることが目標だったそうです。この物語は川で両親とはぐれた人間の子どもが狼に助けられ、狼とともに成長していくという話ですが、動物とアイヌの和人との物語を残したい、という強い思いがこめられた作品を見ていると泣けてきそうです…。

この作品の完成の翌年、藤戸氏は2018年、84歳で亡くなります。「熊からすべてを教わった」と語る氏が最後に彫ったのも熊でした。自然を崇拝するアイヌにとって動植物は「カムイ」、なかでも熊は山のカムイ、なのだそうです。最後まで「アイヌであればこそ」の生き方を貫いた人生でした…。


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GENKYO

2021-09-18 14:36:56 | 美術
東京都現代美術館で「GENKYO 横尾忠則 原郷から幻境へ、そして現況は?」を見てきました。

この展覧会は横尾芸術の全貌に触れられる最大規模の展覧会ということです。出品作品数は何と600点以上!かなりボリューミーな展示らしい…ということで、鑑賞前にまずは腹ごしらえです。この日は近くの「田じま」で焼肉ランチにしました。お肉屋さんがやっているお店だけあって、さすがにお肉が美味しかったです。

お腹もふくれたところで会場へ。横尾氏は1980年にピカソの展覧会を見たことをきっかけに活動領域をグラフィック・デザインから絵画へと移しました。展覧会は「神話の森へ」から始まりますが、ここには1980年代の作品が並びます。試行錯誤のなかにも瑞々しさが窺えます。「リメイク/リモデル」にはアンリ・ルソーの作品を「変換」したという作品も。「滝のインスタレーション」は横尾氏が長年かけて集めた世界の滝の絵葉書によるインスタレーションですが、これが圧巻でした。壁と天井一面に絵葉書が貼られ、床が鏡面になっているのですが、まさにマイナスイオンが漂ってきそうな勢いです。「死者の書」には死をテーマとした赤い絵画の数々が。氏は早くから死に関心を抱いていたそうですが、少年時代の空襲の記憶が宇宙や輪廻転生といった大きな世界へとつながります。「Y字路にて」には代表作のY字路シリーズが。このシリーズ好きなんですよね…ノスタルジーと神秘性。Y字路がなぜか異界への入り口のようにも見えます。「タマへのレクイエム」は氏が15年間生活を共にした愛猫タマを描いた連作。本当にこの子のことを可愛がっていたのだな…ということが絵からひしひしと伝わってきて、猫好きとしては思わず目頭が熱くなってしまいます…。「横尾によって裸にされたデュシャン、さえも」はデュシャンの作品の細部を引用した作品。デュシャンも自分の作品が引用される日がくるとは思ってなかったかも…。「原郷の森」は近年の作品ですが、どこか飄々とした風情さえ感じます。そんなわけで、膨大な数の作品に圧倒された展覧会でしたが、圧倒されながらも終始不思議な楽しさを感じていました。アートでありながらエンタメ。どんな作品にも見る者を楽しませる何かが潜んでいたように思います…。

この日はひさびさに常設展の方にも行ってきました。「Journals 日々、記す」というテーマで社会や日常を照らし出すような作品をアンソロジーのようにして展示しています。とりわけ大岩オスカールがパンデミック下のニューヨークでの隔離生活の間に、日記のように描いたという作品のシリーズが印象的でした。非日常の中の日常…。また、マーク、マンダースの個展が期間短縮となったことを受け、「保管と展示」というタイトルで再構成されています。この常設展もコロナ下での展覧会の一つの姿なのかもしれません…。


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水の波紋2021

2021-09-12 14:56:49 | 美術
「水の波紋展2021」と「パビリオン・トウキョウ2021」を見てきました(この展覧会は既に終了しています)。

1995年の水の波紋展からはや四半世紀…。不肖わたくしも当時、ガイド片手に青山じゅうを駆けずり回った記憶があります。本当に懐かしいな…。都市部での地域巻き込み型展覧会というのは当時まだ珍しく、宝探しのような楽しさが新鮮でした。あれから四半世紀、世の中も東京の街並みもそれなりに変わってきましたが、今度はいったいどんな発見があるのやら…。今回はパビリオン・トウキョウもセットで見られることだし…。

スタートは渋谷区役所第二美竹新庁舎にある草間彌生「オブリタレーションルーム」から。靴を脱いでお部屋にあがり、白い壁や家具に丸いシールをぺったん…観客参加型の水玉部屋です。新庁舎には竹川宣彰「猫オリンピック」も。いやもう猫がたくさん…猫好きにはたまらんです。そこから青山通りへ出ると、藤原徹平「ストリートガーデンシアター」に平田晃久「Global Bowl」が。ビルの谷間に木で造られたものがあると何だかなごみますよね…。次はののあおやまへと向かいます。フランツ・ウエスト「たんこぶ」はなかなかのインパクト。くじら公園の梅沢和木「くじら公園アラウンドスケープ画像」は過ぎ去りし時の流れを思わせる作品。青山通りをひたすら歩き、神宮外苑にたどり着きます。そびえ立つ(?)のは会田誠「東京城」。ネーミングとは裏腹に一抹のアイロニーすら感じさせる作品。それにしてもよくこんな所に造ったなぁ…。だいぶ歩いてお腹も空いたので、近くの「青山indigo」でランチにしました。ここのハンバーガーはパテが肉肉しくて美味しい…。

さて、今度は青山通りを逆に歩いてワタリウム美術館へ。パビリオン・トウキョウの作品の紹介と、アーティスト自身の解説映像が。4階にはクリスチャン・ボルタンスキーの作品も。7月に亡くなったのですよね…。ここには坂本教授とアピチャッポン・ウィーラセタクンのコラボ作品も。海の映像に眼が釘付けになってしまいます…。美術館の向いの空き地には真鍋大度+ライゾマティクスの作品も。中止になったイベントなどの特徴をAIで抽象化し光として表示したというインスタレーションです。そこから神宮前3-35-5の空地へと向かいます。ここにある不思議な「作品」を見ていると、美術館の中にあるものだけがアートではないのだよなぁ…としみじみ思います。そう言えば26年前にも同じことを感じたなぁ…それこそが「水の波紋」が教えてくれたことなのかもしれません。そしてビクタースタジオ前の藤森照信「五庵」へ。せっかくだから中にも入ってみます。ミニマムな空間って何とも言えない楽しさがありますよね。二階から外を眺めていると思わず昼間っからビール飲みたくなってしまいましたよ…。

そして今度は原宿に向かいます。歩きくたびれたところでおやつに。「果茶果酒」でフルーツ豆花をいただきました。豆花って初めて食べたけど美味しい…。最後は代々木公園で藤本壮介「Cloud pavvillion」を見ました。雲の下で若いカップルが写真撮影していて何だか微笑ましかったです。そう、この展覧会、全般的に客層が若かったんですよね…前回の「水の波紋」の頃の自分と同じ年頃の若者がこうして楽しんでいるのを見ていると嬉しくなってしまいます。長年にわたって楽しみと刺激を与えてれたワタリウム美術館さんに感謝…。


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夏のめぐろ能と狂言

2021-09-06 00:42:37 | 舞台
「夏のめぐろ能と狂言」を見てきました。

能と狂言…もう何年も見ていなかったのですが、とあるところからご招待をいただき、息子と二人で行ってまいりました。息子にとっては日本の伝統芸能は初めての体験です。今どきの小学生男子はいったいどんな反応を示すことやら…。

プログラムは「仕舞」「狂言」「能」の順でした。仕舞の演目は「巴」「井筒」「融」。「巴」は長刀を持って舞う勇壮な演目。巴御前のことは息子も知っていました。幽玄な「井筒」、渋めな「融」と続くのですが、ふと隣を見ると息子は早くも寝落ち…いくらなんでも早すぎです。続く狂言の演目は「鍋八撥」。人間国宝の野村万作翁がシテの浅鍋売、息子の萬斎氏が目代、孫の裕基氏が鞨鼓売りを務めます。お話はといえば、目代が市を立てるにあたり、一番乗りしたものを市の代表として免税することになったのですが、一番の座を巡って鞨鼓売と浅鍋売が熾烈な(?)バトルを繰り広げるというものです。途中、跳んだり跳ねたり、はたまた側転したりというアクションシーンもありますが、御年九十歳の万作翁も果敢にアクションに挑みます(さすがに側転はしていませんでしたが…)。親子孫の共演だけあって、息の合った演技でしたが、とりわけとぼけた風情の万作翁のたたずまいが何ともチャーミングでした。寝入っていた息子を途中で起こし、あらすじを教えてやると、どうやら話の筋が飲み込めたようで、時々笑いながら、身を乗り出すようにして見ていました。ようやく目覚めたようです…。最後は能。演目は「羽衣」。あの羽衣伝説の能で、天女のシテが桃色の衣を持って優美に舞います。まぁ綺麗…と思いながら眺めていたら、隣の息子は途中でどうやら飽きはじめたようで、まだ?と聞いてきます。終演予定時刻になっても序破急の急に入っている感じがしないので、どうなっているのだろう…と思っていたら、約二十分押しで終わりました。終わってから息子に今日はどうだった?と聞いてみると、狂言は面白かったけど…という返答。まあ小学生男子なんてそんなもんですかね…。

そんなわけでひさびさに能と狂言を堪能してまいりました。思えば息子がまだまだ小さかった頃、アートを解する雅なお子ちゃまに育てよう、と志を立てたものですが、歳月が流れるにつれ、すっかり忘れ去っておりました。いまだ雅なお子ちゃまにはほど遠いわが息子ですが、まあ今回は、狂言は面白いと思ってくれただけでもよしとしましょう…。

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サマー・オブ・ソウル

2021-09-05 11:59:40 | 映画
シネクイントで「サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)」を見てきました。

これも公開を知った時から楽しみにしていた映画です。ウッドストックが開催された1969年、160キロ離れた場所で開催されたハーレム・カルチャラル・フェスティバルのドキュメンタリーです。スティーヴィー・ワンダー、B.B.キング、マヘリア・ジャクソン、スライ、ニーナ・シモン…スターたちが一堂に会するまさに夢のようなステージ。集まった観客は30万人以上とも言われています。フェスの映像はあったものの、黒人主体のイベントということで陽の目をみることはなく、50年もお蔵入りになっていたようです。この映画の監督はなんとクエストラブ。映画監督でもあったのか…(以下、ネタバレします)。

オープニングはスティーヴィー・ワンダーのステージ。スティーヴィー、当時19歳(!)、まだ少年のような雰囲気で初々しいです。ドラムを叩きまくっていましたが、やはりうまい…。B.B.キングは既に大御所の風格。フィフス・ディメンションには長めの尺が割かれていました。マリリン・マックーもかわいかったなぁ…。「輝く星座」誕生のエピソードも紹介されていましたが、本当にドラマのような話ですよね。マヘリア・ジャクソンとステイプル・メイヴィスの共演はもう圧巻…。マヘリアの歌う姿はもはや人間離れしています。神が与えた声。そして、スライ&ファミリー・ストーンも登場、会場は異様な高揚感に包まれます。スライは見た目地味なのに謎のカリスマ性があるのですよね…。白人や女性が混じったバンドは当時としては画期的だったようですが、女性トランぺッターが本当にかっこよかった…。かと思うと、スティーヴィーが再登場。今度は憑かれたようにクラヴィを弾きまくっています。ジャズ系では、マックス・ローチとアビー・リンカーンのコンビも。マックス・ローチというとチャーリー・パーカーとの共演のイメージが強いのですが、活動家的な面もあったのですね。ニーナ・シモンはまさに女王の貫録。実はこんなに激しいパフォーマンスをする人だったとは…。そして締めはスライのあの曲。まさに会場ごと昇天しそうな勢い…。

映画では当時のアメリカの状況にも触れられています。象徴的なのがキング牧師の暗殺とアポロ11号の月面着陸ですが、陰と陽のギャップが大きい、まさに激動の時代でした。そして黒人が「ニグロ」から「ブラック」に変わった時でもありました。時代の激しいうねりの中からとてつもないエネルギーを持った音楽が生まれる、ということを目の当たりにさせられた映画でもありました。当時と状況は違うものの、今もある意味、激動の時代といえるのかもしれず…。

さて、例によって鑑賞後は甘いもの…ということで、この日は西村フルーツパーラーに寄ってまいりました。頼んだのは大好きな桃のパフェ。さすがの美味でございました…。
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音楽堂のEIC

2021-09-04 23:58:20 | 音楽
アンサンブル・アンテルコンタンポラン@神奈川県立音楽堂に行ってきました。

アンサンブル・アンテルコンタンポラン(EIC)は現代音楽をやらせたら世界一なのではという凄腕集団です。彼らのコンサートに行くのはこれで3回目。1回目は1995年のブーレーズ・フェスティバル、2回目は2013年のラ・フォル・ジュルネ。今回は8年ぶりの来日ですが、サントリーホールのコンサートはチケット取れない&都合が合わないで、ひさびさに神奈川県立音楽堂まで行ってきました。音楽堂は木のホールで、比較的デッドな音になるのですが、ここでキレッキレの彼らの演奏を聴いたら果たしてどういうことに…。

プログラムは前半が比較的最近の曲、後半が現代音楽のクラッシック(?)で、アラカルト的な構成でした。指揮は作曲家でもあるマティアス・ピンチャー。大らかで表情豊かな指揮です。そして木のホールのデッドな音のおかげで演奏のクリアさがより際立って聴こえていました。1曲目はグリゼイの「2つのバスドラムのための「石碑」」。舞台の両端には2台のバスドラム。聴こえないような振動から始まり、一方のドラムの振動がもう一方のドラムを鳴らすようにして、不思議な響きが連続します。不肖わたくし、生音を聴くのは約9か月ぶり、その間はもっぱら配信やら動画やらで音楽を聴いていたのですが、音楽は空間を震わすものであり、耳だけでなく肌でも聴くものだったということをあらためて思い出しました。2曲目はアンナ・ソルヴァルズドッティルのHrim(霜)。彼女は今、アイスランドで「ビョーク以来」という評価を受けている作曲家だそうです。タイトルどおり、霧に包まれた風景を思わせるような幽玄な曲。EICならではの弱音の素晴らしさに圧倒されます。3曲目はミケル・ウルキーザの「さえずる鳥たちとふりかえるフクロウ」。1998年、スペイン生まれの作曲家の曲です。これが本当に面白い曲でした。おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさで、終わった時に思わず笑みがこぼれてしまいます。こういう曲をこの精度で演奏できるのは世界広しといえどもEICだけなのでは…。

後半はブーレーズの「アンセム1」から。ヴァイオリンのソロの曲です。ソリストはジャンヌ=マリー・コンケー。精緻でありながら余裕のある演奏です。5曲目は一柳慧の「タイム・カレント」。各楽器がさまざまなタイミングで動きながら独特のうねりを感じさせる曲。最後はリゲティの「13人の器楽奏者のための室内協奏曲」でしたが、これが白眉でした。とりわけ最後の楽章では、全ての楽器の凄腕ぶりが明らかに…。鍵盤のお二人も凄かったですね…出番は多くはないのですが、ピアノのディミトリ・ヴァシラキスの演奏はこんなピアノ聴いたことない、という感じでした。結局、お客さんたちも大盛り上がりでなかなか拍手も鳴りやまず…短いアンコールもありましたね…。

そんなわけで、ひさびさの生音を世界最高水準の演奏で楽しんでまいりました…そう、楽しかったんですよ…EICはいつ聴いてもうまいのですが、今回が一番楽しそうだったような気がします。現代音楽というと眉間にしわ寄せて聴くイメージですが、めちゃうまの人たちが演奏するとこんなに楽しいんだ、としみじみ思いました。何より演奏している側が楽しそうだし…。コロナ禍のなか、風のように駆け抜けていったEICの皆さん、また近いうちに来てくれないかな…。


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