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アートネタなど日々のあれこれ

松濤散歩・ふたたび

2019-07-31 19:00:49 | 美術
松濤でひさびさに展覧会のはしごをしてきました。

最初に向かったのは戸栗美術館の「青のある暮らし 江戸を染める伊万里焼」です。伊万里焼は初の国産磁器だったのですね。17世紀に誕生し、上流階級に使用されていたものが、18世紀には庶民にも広まっていったということのようです。白地に青が涼しげなうつわたち。見ているだけで爽やかな気分になってきます。食器や日用品が中心ですが、中には面白いものも。「東海道五十三次文皿」には、まるで双六のように五十三の宿風景が描かれています。なぜか力士を描いた大皿というのもありました。かと思えば、駒が伊万里焼でできている将棋盤が。伊万里焼でできた引戸なんてのもありました。ところで、この展覧会は太田記念美術館との共同企画らしいです。ということは、太田記念美術館に行けば、ここで展示されていた伊万里焼を描いた浮世絵が見られるということでしょうか。そっちも何だか気になります・・・。

続いて向かったのが、「華めく洋食器 大倉陶園100年の歴史と文化」です(この展覧会は既に終了しています)。その名のとおり、大倉陶園の100年の歩みを追った展覧会です。大正8年に大倉父子によって創設された大倉陶園は、当時の高級洋食器が海外製品で占められていたことから、国産製品の育成を目指しました。後には、皇室用のお誂え食器も製造するようになります。大倉陶園の白磁は思わず、あっと声をあげそうになるくらいの驚きの白さです。陶器のような白い肌というときの陶器って、こういう陶器のことなのでしょうか。白磁に青の染付けを施した食器も。染み渡るような青です。とりわけ青いバラを描いたものが美しゅうございました。これでもかというくらい、華やかな食器の数々・・・思わずため息が出てしまいそうです。マイセンの影響を受けた動物シリーズもありました。入り口近くには立派なオウムが鎮座ましています。あくびするかわいい猫ちゃんもいて、思わずお家に連れて帰りたくなってしまいましたよ・・・。お誂え食器の数々も。現天皇陛下のお箸染めで使われたというクマちゃんの小さな食器がラブリー。昭和天皇のためにつくられたという「ヒドロ虫目呉須絵替り皿」には意表を突かれ、思わずガン見してしまいました。大倉陶園は戦争で工場が焼失するも、間もなく復活しました。最近のものではオテル・ドゥ・ミクニのための食器シリーズが、攻めてる感満載です。紫陽花も七夕も艶やか。100年の間を通じてみごとなものをつくり続けてきた大倉陶園、「良きが上にも良きものを」との心意気はひしひしと伝わってきました。

そんなわけで、ひさびさの松濤美術館めぐりを楽しんでまいりました。日頃、なにげなく使っている食器ですが、実はこんなに豊かな世界が広がっていたのですね・・・。
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どこかでもないどこかへ

2019-07-26 18:42:39 | 美術
ちひろ美術館で「ショーン・タンの世界展 どこでもないどこかへ」を見てきました。

数年前に「アライバル」を買ってファンになり、この展覧会も開催を知ったときから楽しみにしていました。ちひろ美術館はかなりひさしぶりなのですが、ずいぶんと綺麗になっていて、びっくりしました。さて、例によって、鑑賞前に腹ごしらえ・・・ということで、まずは館内のカフェへ。すきっ腹状態だったので、欲張ってスコーンとイチゴのババロアとアイスティーを頼みましたが、どれも美味しゅうございました。とりわけイチゴのババロアが絶品。思わず、んま~、と声をあげそうになったくらいです。これまでの人生で食べたイチゴババロアのなかで一番おいしかったかも・・・。

お腹もふくれたところで、ショーン・タンの世界へ。最初に日本未発売の「内なる町からきた話」の原画がありました。作品を一目みた瞬間、頭の中が異次元にトリップ・・・。色とりどりの蝶を描いた作品が印象的でした。旅行先の風景を描いた小さな油絵のシリーズも。東京のホテルを描いたものもありました。現実に存在する風景なのに、彼の手にかかるとなぜか違う星の風景のように見えてしまいます。そして、「The Arrival」の原画の数々も。あらためて見ると気が遠くなりそうなくらい緻密です。試行錯誤の跡もうかがえます。ショーン・タンの初めての絵本「ロスト・シング」のアニメーションも上映されています。奇妙で可憐なロスト・シング。私たちが忙しさのなかで見失ってしまったものはいったい何だったのでしょう・・・。そのほかの過去の作品の原画の数々も展示されています。会場にはショーン・タンのアトリエの再現コーナーもありました。ここに彼からの最新のドローイングも届くそうです。ショーン・タンの言葉も展示されていました。インスピレーションが降りてこないときも、まずは描いてみる、「線を散歩させる」のだとか。インタビューの映像も流れていたのですが、日本のファンに向けたメッセージもありました。特に、アートを志す人に向けて「創造すること、制作することを楽しむこと」「癖のあるもの、変なものこそが大切」というようなことを言っていたのが心に残りました。

美術館では「ちひろが描いた日本文学」の展示もありました。ひさびさにちひろさんの作品を見て思わずしみじみ・・・子どもの頃からファンだったので。若い方も作品に見入っていて、やっぱりちひろさんの絵って普遍だったんだなぁ・・・と、感慨深かったです。ちひろさんの言葉も紹介されていました。「もっとも個性的なものが本当のもの」というような言葉もあって、何だかショーン・タンとちひろさんが時空を超えてつながったような気がしたのでした。
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青・蒼・碧

2019-07-23 18:52:19 | 美術
郷さくら美術館で日本画「青・蒼・碧」展を見てきました。

このところ異様とも思えるくらい、青空の見えない日々が続いています。せめて絵の中だけでも青を拝みたいものだわ・・・と思い、行ってまいりました。ぐるっとパスも買ったことだし。日本画で古くから使われている「青」に焦点を当て、青が使われている作品ともに青色の画材も紹介するという展覧会です。

「生命礼賛」は伸びやかな作品。屏風いっぱいに青が広がります。「さざ波」はじっと見つめていると水面が揺らぐよう。「碧山」は萌えるような緑が鮮やか。「木漏れ日」は柔らかな緑が印象的。動物たちも愛らしい。「金魚」は涼しげな作品です。金魚の透け感が素敵。「魚棚駅前商店街」はファンタジックで楽しい。「湖畔静夜」はしんと静まり返った夜の湖畔の空気感が伝わってきそうです。郷さくら美術館ならではの桜の作品の展示もありました。「蒼い桜」は桜色と蒼の対比が幻想的。「宵のくち」ははんなりした風情・・・京の桜でしょうか。

画材の紹介や青・蒼・碧の解説もありました。ひとくちに、あお、といってもいろいろなあおがありますね。それにしても、本物の青い空が見えるのはいったいいつになるのでしょう・・・。

さて、例によってアートと言えば甘いもの(何のこっちゃ)ということで、美術館の目の前にある「VITO」に行ってきました。色とりどりの華やかなジェラートは40種類もあるらしい・・・どれを選んだらよいかわからなくなってまごまごしていたら、スタッフのお姉さんが「味見してもいいですよ~」と声をかけてくださいました。さんざん迷って、結局、ピーチのジェラートを選びました。フルーティーかつ、さっぱりしたお味で、美味しゅうございました。
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ウィーン黄金時代

2019-07-19 20:32:39 | 映画
シネスイッチ銀座で「クリムト、エゴン・シーレとウィーン黄金時代」を見てきました。

今年は世紀末ウィーン関連の展覧会が相次いでいますが、さらには映画まで。展覧会のおさらいも兼ねて、見に行ってきました。ウィーンのさまざまな美術館・博物館をめぐりながら、その黄金時代を解説する映画です。コメンテーターはノーベル医学・生理学賞を受賞したカンデル博士など、その道の専門家が多数。クリムトとシーレの名がタイトルになっていますが、絵画の世界に留まらず、ウィーン世紀末の文化状況を幅広く扱った内容でした(以下、ネタバレ気味です)。

19世紀末から第一次世界大戦までのウィーンのサロン文化と芸術の爛熟ぶりがつまびらかに解説されています。第一次世界大戦が終わった1918年、ハプスブルグ帝国の終焉と時と同じくして、クリムトとシーレが相次いで亡くなりました。決して長くはない期間ですが、この時に生まれたものが、現在へと至るその後100年にわたる、現代思想、現代芸術の源となっているのでしょうか・・・。クリムト、シーレ、マーラー、シェーンベルグ、フロイト、ヴィトゲンシュタイン・・・これらの人々がほぼ同時期に同じ都市に存在したというのは、奇跡を通り越して空恐ろしいことのようにすら思えます。秩序と調和は崩壊、不安と混沌の時代へ。キーワードはエロスとタナトス?その大きなうねりが、作品という形をとって現れ出たようにも見えます。芸術も思想も突出した人物の才能がもたらすもの、と思ってしまいますが、やはり時代の産物でもあるということを目の当たりにさせられた映画でした。

さて、例によって鑑賞後は遅めのランチ、ということで銀座にある「麦とオリーブ」に行ってきました。おやつに近いような時間帯だったので、並ばずにすみました。お腹がすいていたので特製トリプルSOBAを頼みました。フォトジェニックかつ具沢山なラーメン。とりわけスープが美味しゅうございました。蛤がのっていたのも嬉しかったな。今度はつけ麺も食べてみたいものです・・・。
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魂がふるえる

2019-07-16 19:41:54 | 美術
森美術館で「塩田千春 魂がふるえる」を見てきました。

塩田千春さんの過去最大規模の個展ということで、開催を知ったときから楽しみにしていました。「魂がふるえる」というサブタイトルから、はかなげで繊細なものをイメージしていたのですが、ずっとずっと力強いものでした。か細く見える糸も、寄り集まれば強靭なものにもなるのかも・・・。この展覧会の感想を言葉にするのは本当に難しい・・・というか、言葉にすることに意味があるのか、とすら思わされてしまうような展覧会でした。でも、言葉にしないと思い出はいつか消えてしまうものだから・・・。

エントランスへ向かうエレベーターの頭上に白い船のようなオブジェが吊り下げられていますが、それを見ているだけで、魂がふっと軽くなるような、不思議な心持ちがしました。「不確かな旅」の燃えるような赤い糸。「小さな記憶をつなげて」はおとぎの国のよう。窓の向こうには東京の街並みが広がります。個人的に一番インパクトが強かったのは「静けさの中で」。ピアノ好きとしては胸の痛くなる光景です。塩田さんが子供の頃、近くの家が火事になり、ピアノが焼け出されていたのだとか。最後の「集積:目的地」はふと天国をイメージしました。いくつもの魂が、さまざまなギフトが詰め込まれたスーツケースを授けられて、地上に降り立っていく・・・。会場には塩田さんの言葉もいくつか。一番、心に残ったのは死ぬということは溶け込んでいくこと、というような言葉でした。そう考えれば死も恐ろしいものではなくなりそうですよね・・・。

本当に、渾身の展覧会でした。塩田さんというと世界的に活躍するアーティストというイメージが強いのですが、それよりもなによりも、懸命に生きる一人の女性だったんだな、ということが胸に迫ってきました。同時代を生きるものととして、見ている側も力をもらったように思います。ありがとう、塩田さん・・・。どうかお体を大事にして、活動を続けていただきたいものです。

展覧会を見ていると、なぜか無性に甘いものがほしくなり・・・帰りにヒルズの中にある「ジョエル・ロブション」でケーキとコーヒーをテイクアウトして食べました。選んだケーキはモワルー・ショコラ・アメール。ビターで濃厚なチョコレートケーキ。でも口溶けはふわっと軽くて、美味しゅうございました。
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Lemon

2019-07-15 20:41:42 | 音楽
今さらですが、米津玄師「Lemon」を聴きました。

不肖わたくし、今どきの音楽にはすっかり疎くなってしまい、米津さんのこともお名前と、紅白で評判になっていたらしい・・・ということは知っていたものの、曲の方は聴いたことがなかったのですが、例によって、9歳の息子の熱烈なリクエストにより購入。テレビのカラオケ番組で難曲として紹介されていたのを見て、挑戦したくなったらしい。私も一緒に番組を見ていたのですが、この曲はもしかして鍵盤から作ったのか?というくらいの難しさだったので、いや、これは素人がちゃんと歌うなんて無理だから、と息子には言い聞かせたのですが・・・。

そして、アマゾンからCDが届き・・・息子は例によって夢中です。私もどれどれ、と聞いてみました。「Lemon」はたしかに名曲ですよね・・・評判になるのもわかります。しかしながら、なぜか個人的にはカップリング曲の方が気に入ってしまい・・・けっこうマニアックな音楽をつくる方だったんだなぁ、と。とりわけ「クランベリーとパンケーキ」。あの独特のサビが頭のなかでぐるぐる回ってしまいます。きっと生まれながらのメロディメーカーみたいな方なんでしょうね。するとある日、息子が「ママ、このCDでLemonは何番目に好き?」と聞くので、「ママは2番目かな~」というと、「僕は3番目なんだよ~」。息子も「クランベリーとパンケーキ」が気に入ってしまったらしく、「ヒッピヒッピシェイク♪」と日々呪文のように呟いています。

と、ここまでなら、かっこいいとは思いつつもハマるところまではいかない・・・という感じだったのですが、ふとセットになっていた武道館のライヴのDVDを見てみたら、これがもう、めちゃくちゃかっこよかった・・・。こんなにノリノリのライヴをする方だったのですね。サポートのベースの方も・・・「爱丽丝」のベース、めちゃくちゃかっこいいし。この歳になると、なかなかご新規さんのアーティストには心が動かなくなってしまうのですが、ひさびさにライヴで見てみたいなと思う方に出会いました。とはいえ、チケットはとんでもない激戦なのでしょうね。そのうち息子の方が行きたい、と言い出すかもしれん・・・。

ところで米津さん、なんとなく、たたずまいが森広隆さんにも似てる気がしたので、もしやと思って調べてみたら、やっぱりうお座でした!で、もうちょっと占ってみたら・・・アートで成功している方って、どの道に行っても成功していただろうけど、たまたま選んだのがアートだった、みたいな人と、ザ・アーティストみたいな人におおむね分かれますが、米津さんは典型的に後者のパターンっぽいです。そういえば、ジャケットの綺麗な檸檬の絵も米津さんの手によるものだったのですね・・・。

そして、後日、親子でLemonのカラオケにチャレンジしてみました。言うまでもなく、二人とも撃沈・・・(爆)


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パドマーワト

2019-07-11 19:42:28 | 映画
アップリンクで「パドマーワト」を見てきました(この映画館での上映は既に終了しています)。

不肖わたくし、数年前にひょんなことから「恋する輪廻」を見て以来、すっかりディーピカ―・パードゥコーン嬢のファンになってしまい・・・美人と可愛いの中道系では世界一だと思います!・・・ディピ嬢が伝説の美女を演じるということで、いそいそと行ってまいりました。まだ、上映自体は続いているようなので、なるべくネタバレしないようにいたします・・・。

インドでは誰でも知っている(らしい)伝説を元にした映画です。13世紀末、西インドの小国、メーワール王国に嫁いだ王妃パドマーワティ(ディピちゃん)に、第二のアレキサンダー大王と異名をとる北インドのスルタン、アラーウッディーン(ランヴィール・シン)が横恋慕し・・・というお話なのですが、3時間近くがあっという間に過ぎていきました。
インド史上最高の製作費で描く究極の映像美という惹句にふさわしい、豪華絢爛さ。ときどき、これはCGだな・・・ともろ分かりな場面もありましたが、それもご愛敬。何といってもディピちゃんが美しい!「恋する輪廻」の時よりも、さらにしっとり感が加わった感じで、惚れ惚れしてしまいます。この映画は絶世の美女をめぐって国同士が争うというお話なので、ヒロインには絶対的な美貌が必要になりますが、ディピちゃんの美貌はそれに値します。悪役のアラーウッディーンの振り切れっぷりもまたみごとでした。夢に出てきそうなワルっぷり。インド映画にしては、ダンスが少なめな感じもしましたが、パドマーワティを中心とする女ダンスの華やかさ、アラーウッディーンを中心とする悪者ダンスのキレキレぶり、どちらも凄かったです・・・。

そして、この映画には衝撃の結末が待っています。映画の冒頭で異例ともいえるほど、長い断り書きのテロップが流れるのですが、それだけ、政治的、宗教的、動物愛護的(?)にデリケートな面があるということでしょう。このテロップである程度、結末は予想できてしまうのですが、そのはるか上をいく展開でした。今の時代では伝説として受け取ってしまいますが、類することは世界各地で起こっていたものと思われます。これを映画にしてしまうことについては、賛否両論あると思いますが、それが戦争の現実なのですよね・・・。

ところで、この映画のパドマーワティとアラーウッディーンはついに相まみえることありませんでしたが、その後、ディピちゃんとランヴィール・シンはなんと夫婦になったという・・・アラーウッディーンの悪者っぷりをさんざん見せつけられた身としては、な~~~に~~~、と思ってしまいますが、いや、おめでたいことです。ディピちゃん、お幸せに・・・。
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Lifetime

2019-07-06 11:23:00 | 美術
国立新美術館で「クリスチャン・ボルタンスキー Lifetime」を見てきました。

開催を知ったときから、ずっと楽しみにしていた展覧会です。なにげにファンなものですから。過去最大規模の回顧展、かつご本人が「展覧会を一つの作品のように見せる」と語っていたとか・・・。

たしかにこれまでの集大成のような展覧会でした。個々の作品を見る、というよりは、気配を感じる展覧会だったような気がします。まずは“DEPART”と書かれた電光文字がお出迎え。会場はうす暗く、心臓音が響きます。それだけでもう何だかどきどきしてしまいます。ボルタンスキーといえば、なモニュメントの数々も・・・。「死んだスイス人の資料」も、自分自身もいつかはあちら側の人になるのだな、ということを想起させられます。そして、今回はなんと新作が。その名も「幽霊の廊下」。ちょっと高校の文化祭を思い出してしまいましたが(笑)。その先の大きな展示室には、どーんと大きな「ぼた山」が待ち構えています。黒い服は炭鉱夫のイメージらしい。その上には「スピリット」がゆらゆらと揺れています。数年前に東京都庭園美術館で見た「アニミタス」の新しい作品もありました。このシリーズ好きなんですよ・・・じっと見ていると不思議と心が落ち着きます。「ミステリオス」はクジラの言葉を聴こうという作品。波の映像はいつまでも見入っていたい感じです。「黄金の海」からは草いきれのような匂いも。これも含めて作品なのでしょうか。「黄昏」は消えゆく生命を思わせます。かと思うと「来世」と漢字で書かれた電光文字が。一瞬、昭和な風情が漂います・・・いやでも、今度生まれ変わっても、ボルタンスキーの作品にまたどこかで出会いたいものです。最後は“ARRIVAL”の電光文字に見送られて、旅の終わりです。

ところで、この展覧会に関連して、美術館の地下1階で「クリスチャン・ボルタンスキーの可能な人生」が上映されています。50分ほどの映像ですが、これからの人がいらっしゃったら、ぜひ見て行ってほしいです。かなり作品理解の助けになると思います。のっけから「芸術家は嘘をつく」的なことを言っていたりして、いかにも一筋縄ではいかない感じなのですが(笑)。「D家のアルバム」とか、会場では何となくぼーっと見てしまいましたが、その背景にあるものを知ると胸を衝かれるような思いがします。ボルタンスキーにとって、アートは死に抗う試みらしいです・・・。
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フィーバー・ルーム

2019-07-04 23:45:12 | 舞台
フィーバー・ルーム@東京芸術劇場に行ってきました。

昨年、遅ればせながらアピ映画のファンになり、ローザスの公演に行った時にこの公演のことを知り・・・前売り券は入手できなかったのですが、当日の抽選にチャレンジして、何とか当日券をゲット。

例によって、舞台が始まるまでに、腹ごしらえ・・・ということで、劇場近くの「宮崎亭」でランチにしました。宮崎牛のハンバーグランチにしましたが、お肉が柔らかくてジューシー。お塩で食べるというのも新鮮。美味しゅうございました。

さて、お腹も膨れたところで開演。劇場の裏口(?)のようなところを通って、真っ暗な場内へ。途中入場も途中退場もNGということで、いったい何が起こるのか、ワクワク感が募ります。

ところで、この舞台は日本では再演だそうです。再再演の可能性もなくはなさそうだし、作品の性質上、ネタバレ厳禁な気もするので、なるべくネタが割れないように書きたいとは思いますが・・・。

最初はいかにもアピ映像という感じですが、中盤以降、驚きの展開が待っていました。なかなかに名状しがたい体験です。そう、まさに鑑賞というよりは体験。私は創世記の光景をイメージしました。そして、思いました。この場に居合わせた観客たちはみな同じ船に乗る旅人なのかも、と・・・。

帰りに公演のパンフレットを手渡されました。入場ではなく退場のときというのがおしゃれです。無料なのにもかかわらず充実した内容でしたが、なかでも佐々木敦氏との対談が読み応えがありました。そこで、あの光の正体を知り、さらに驚愕・・・。

ところで、この「フィーバー・ルーム」というタイトル、タイ語の原題では「光のない都市」のことだったようです・・・。
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ウィーン・モダン

2019-07-02 18:46:41 | 美術
国立新美術館で「ウィーン・モダン」展を見てきました。

今年はやはり日本におけるオーストリア年だったのかしらん、くらいに充実した展覧会でした。というか、日本とオーストリアの国交樹立150周年記念だったんですね。しかも、ウィーン・ミュージアムが改装中のため、大盤振る舞いということのようです。モダンといっても、展示は何と偉大なるマリア・テレジアにまで遡ります。彼女とその息子、ヨーゼフ2世が啓蒙主義に基づいた統治を行ったことが、モダンの発端なのですね。その後に続くビーダーマイヤーの時代は、人々の関心は私的領域に向かいました。ここではシューベルトも登場。ヴァルトミュラーの絵画もなごみます。次はリンク通りの章。クリムトが皇帝賞を受けたという「旧ブルク劇場の桟敷席」が。ウィーンの都市計画が映像で再現されています。以前、オーストリアを旅行した時のことを思い出しました・・・。

で、ようやく真打登場、世紀末ウィーンです。まずはオットー・ヴァーグナーのコーナー。重要人物の割には、具体的な作品のイメージがなかったので、その仕事を知るいい機会になりました。「聖レオポルト教会」はどこかタージ・マハルを彷彿とさせます。続いてクリムトの初期作品が。「愛」は幻想的な作品です。なぜか青木繁の黄泉平坂を思い出しました。そして、ウィーン分離派。「第1回ウィーン分離派展ポスター」は検閲前と検閲後のバージョンが並べてあります。ある登場人物の局部が描かれているかいないかの差のようですが・・・。今回の目玉の一つともいえるクリムトの「パラス・アテナ」は妖しい作品・・・闇を背景に右手にはヌーダ・ヴェリタス、胸にはあかんべをする顔が描かれています。クリムトの素描も数多く出ていますが、いや、エロいです。生涯にわたるパートナーだったエミーリエのコーナーもありました。写真やドレス、愛用品などなど。この展覧会のメインビジュアルの「エミーリエ・フレーゲの肖像」も。青を基調としたアンニュイな肖像。しかし、エミーリエ本人は今ひとつ気に入らなかったらしいです・・・。そして、エゴン・シーレの作品の数々。あの特徴的な自画像。枯れかけたひまわり。縦長のひまわりを見て、つい北斎晩年のひまわりを思い出しましたが、シーレの作品はどれも死の匂いがするような気がします。素描にも目を奪われます。何というか、線が強い・・・。続く表現主義のコーナーにはココシュカの作品がいくつか。なにげにファンなので嬉しかったな・・・。最後は「芸術批評と革新」ですが、ここにはなんとシェーンベルクが描いたベルクの絵が。現代音楽好きは思わずガン見してしまいそう・・・。

そんなわけで、本当に盛りだくさんな展示でした。そして、この展覧会を見たことで、上野のクリムト展、目黒のウィーン・グラフィック展がつながったような気もします。この時代は音楽家も多士済々。本当に、芸術にとっていい時代だったのですね・・・。
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