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アートネタなど日々のあれこれ

夢のクチュリエ/柔らかな舞台

2023-03-13 00:35:59 | 美術
東京都現代美術館で「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」を見てきました。

不肖わたくし、ディオールのみならずハイブランドとはほとんど無縁の人生を送っておりますが、見るのはけっこう好き。ディオールの展覧会が華やかな空間演出で評判になっているらしい…ということで、いそいそと行ってまいりました。この展覧会はパリ装飾芸術美術館で成功を収めた後、世界を巡回しています。日本展ではディオールと日本との特別な関係にも焦点を当て、建築家の重松象平氏が日本文化へのオマージュとして展示空間をデザインしていますが、まさに夢のような空間でした…私がこれまでに見た展覧会の中で一番華麗だったかもしれません。実際に行ってからけっこうな日数が経ってしまっているのですが、いまだに夢でも見ていたような思いです(以下、ネタバレします)。展覧会は13のセクションで構成されています。「ディオールと日本」には日本の影響を受けた作品が並びます。北斎の海の柄のドレスも。圧巻だったのが「ディオールの夜会」。現美の巨大な吹き抜けのアトリウムを生かした展示は、プロジェクションマッピングによるうつろう空の映像ともあいまって、後々まで語り草になりそうな壮麗さでした。そして、真白のモックアップで囲まれた「ディオールのアトリエ」、ミニチュアのファッションアイテムが虹のようなグラデーションを成す「コロラマ」、日本庭園のような空間に花をモチーフにしたドレスが並ぶ「ディオールの庭」。星が煌く宇宙のような空間にきらびやかなドレスが並ぶ「ディオールのスターとジャドール」。真紅の壁と天井をレディ・ディオール埋め尽くす部屋も。最後の「ディオールの世界」には民族衣装の影響を受けた作品が並びます。ディオールのドレスを撮影した高木由利子氏の写真や、ディオールの歴代のCMの映像を流す空間もありました。ファッションは夢、ということを圧倒的な展示で思い知らされます…。世界中を席巻するディオールですが、創設者のクリスチャン・ディオールの活動期間は実はわずか10年ほど。でも、女性の美を讃え愛したその魂は今もなお脈々と受け継がれているのです…。

そして、「ウェンデリン・ファン・オルデンホルフ 柔らかな舞台」も見てきました(展覧会は既に終了しています)。映像を軸に実験的な作品を制作するオランダのアーティストです。台本なしで、参加者たちがアートやジェンダー、植民地主義などの社会的な問題について対話する様子を作品にしています。日本で撮影した新作と代表作5点を映像インスタレーションの形で展示していました。新作「彼女たちの」は奇しくもともに1951年に夭逝した林芙美子と宮本百合子を題材にしていますが、二人についての造詣の深さに恐れ入りました…。「オブサダ」はポーランド国立映画大学の女子学生たちが、女性の立場から映画制作について対話をしていますが、ここでもジェンダーの問題が根強く残っているようです。「ヒア」には改修工事中のアーネム美術館(オランダ)で音楽や詩で自分を表現する若い女性たちが登場します。「FRED」というガールズバンドがかつてオランダの植民地だったインドネシアの伝統的な音楽や彼女たちのオリジナルを演奏しますが、音楽も詩も美しい。展覧会の作品を全部見ると4時間くらいかかるのですが、気づいたらほぼ全部見ていました。柔らかい映像、淡々とした対話が続くだけの作品なのですが、なぜか引き込まれてしまうのです。映像のマジックか、編集の妙か…。そして、この展覧会、無料で頂けるパンフレットも秀逸でした。約40頁で作品解説やインタビュー、対訳も載っている充実したもので、読みごたえがありました。

そんなわけで、ほぼ一日現美で過ごしたわけですが、ディオールとオルデンボルフ、方向性は違えど、どちらもある意味、女性性がキーになっていたというのが面白かったです。時に夢や憧れの対象であり、時に差別の対象でもある女性。なかなか一筋縄ではいきませんね…。
コメント
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