aquamarine lab

アートネタなど日々のあれこれ

上野の春

2017-04-30 11:25:35 | 美術
ひさかたぶりに上野で展覧会のはしごをしてきました。

まず向かったのは国立西洋美術館のシャセリオー展。不肖わたくし、シャセリオーのことはこれまで知りませんでした。11歳でアングルに入門を許され、「この子はやがて絵画界のナポレオンになる」とまで言わしめた早熟の天才。しかし天才にありがちなことではありますが、37歳で夭逝。夭逝ですが、モローやシャヴァンヌにも大きな影響を与えたようで、彼らの作品も出ています。シャセリオーが師の影響を離れ「異才」の名にふさわしい画風を確立していくさまは興味深いものでした。この世の果てを垣間みるような、独特の幻想性。絵の前から動けなくなったのが、早すぎる最晩年の作品「東方三博士の礼拝」。神秘的な小品です。シャセリオー以外の作品では、モローの「若者の死」や、シャヴァンヌの「海辺の乙女たち」がとりわけ印象的でした。「若者の死」はシャセリオーへのオマージュだったのですね・・・。

その後、常設展示室の「スケーエン:デンマークの芸術家村」も見て行きました。月並みな表現ですが、心を洗われるような作品でした。陽光、そして海。とりわけアンナ・アンカーの作品に心惹かれました。ひとのしあわせって何?と思わずふりかえりたくなってしまうような・・・。

次に向かったのは、東京都美術館のブリューゲル「バベルの塔」展。会期始まったばかりだというのに、けっこうな混み具合でした。お客さんも比較的若手の方が多かったような。そんなわけで、前半の方は人の後ろからひょいひょい覗き込むような鑑賞になってしまいました。でも、結局、この展覧会はほぼ、ボスとブリューゲルの二人勝ちだったような気が・・・。ボスの特異な世界観が、どれだけブリューゲルやその他の芸術家たちに影響を与えてきたのかということを、あらためて見せつけられました。そのボスの真筆が2点、「聖クリストフォロス」と「放浪者」。苦しげな男の顔、背景の異様さに眼を惹かれます。ボスの影響を受けたブリューゲルの版画群もかなり変・・・ですが、眼が離せません。そして「バベルの塔」。小さい画面ながらも圧倒的な吸引力。神の逆鱗・・・。その他の画家の作品ではヨアヒム・パティニールの「ソドムとゴモラの滅亡がある風景」の前で動けなくなりました。燃え盛る焔の赤・・・。

それから、東京芸大美術館の雪村展へ。いきなり洋から和へ。ボス、ブリューゲルとは奇想つながりと言えなくもないかもしれません。「ゆきむら」ではなく「せっそん」(笑)。もう、雪村ワールド全開で、楽しく鑑賞してまいりました。解説の文章も面白く、気分を盛り上げてくれました。私が行ったのは前期ですが、まず「滝見観音図」に魅入られてしまいました。綺麗な観音様。「夏冬山水図」も趣深く。「呂洞賓図」は、何度見ても不思議な作品。「猿猴図」のお猿さんも可愛かったな。「金山図屏風」を見た時にはなぜか「バベルの塔」を思い浮かべてしまいました。なんか似てるような気が・・・。今回、雪村の影響を受けた人々の作品も展示されていました。光琳もけっこう影響を受けていたのですね。橋本雅邦の「登龍図」もシャープでかっこいい。狩野芳崖が記憶だけで再現したという「竹虎図」の模写がそっくりなのにはびびりました。ほんまかいな・・・。

最後に向かったのが、東京国立博物館。ここで小腹が空いたので、例によって甘いものをということで、今回は鶴屋吉信の柏餅を。皮が道明寺の柏餅って珍しい。おいしくいただきました。血糖値も上がったところで「茶の湯」展へ。閉館間際の時間を狙って行ったので、それほどの混雑にはあわずにすみました。日本中のお茶道具の名品をかき集めたんではないかというくらいの、お茶系展覧会の決定版みたいな内容でした。お茶碗にしても、国宝の曜変天目に油滴天目にという具合です。もう個々の作品についてあれこれ書く気も起きないくらい・・・。お茶室まで登場していましたね。茶の湯の歴史を名品をもとにあらためて振り返ることができました。足利将軍家〜千利休〜小堀遠州〜近代数寄者。派手系、地味系、面白系(?)を行ったり来たりしてきたのですね。お茶をいただくというシンプルな行為が、これだけの広がりを見せて行く、時には詰め腹切らされる者もいる。そんな茶の湯の豊かさと凄みを見たように思います。

そんなわけで、半日の間に、4つの美術館で5つの展覧会を鑑賞してまいりました。バタバタでしたが、本当に贅沢です。いまどきの日本に生まれてよかったな、としみじみ思いましたよ。世界に誇る日本美術をはじめ、世界中の名品を、わずか半日で見ることができるわけですから。眼福、眼福・・・。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

JAZZ AUDITORIA

2017-04-29 22:39:49 | 音楽
JAZZ AUDITORIA@ワテラスに行ってきました。

今回聴いたのは、BLUE NOTE TOKYO ALL-STAR JAZZ ORCHESTRA directed by ERIC MIYASHIROです。まさに、オールスターバンド。いやもう凄かった凄かった・・・めちゃめちゃうまい人たちが集まると、めちゃめちゃうまいバンドになるということを目の当たりにしました。選曲もめっちゃ好きな感じ・・・steps ahead、ウェザリポ、ジャコパスビッグバンドなど。3 views of a secretとか、生で聴くともう、うるうるきてしまいます。そしてこの日、なんとピーター・アースキン様が一曲、降臨。日本一好きなドラマーの岩瀬立飛さんと、世界一好きなドラマーのピーター・アースキン様を一緒に見られて感無量でした。しかも無料で・・・(涙)。どの曲も素晴らしかったけど、とりわけ凄かったのがアンコールのドミンゴ。ベースの納浩一さんと立飛さんのコンビネーションが凄まじかった・・・。

明日のブルーノートの公演は、気づいた時には既に満席で諦めたのですが、今回、このメンツのライヴを無料で見ることができて、主催者&関係者さまの太っ腹ぶりにはひたすら感謝するしかありません。明日の公演はストリーミングでも見られるみたいです。こっちも見なくっちゃ・・・。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スラヴ叙事詩

2017-04-24 01:00:34 | 美術
国立新美術館で「ミュシャ展」を見てきました。

開催を知った時から、か〜な〜り、楽しみにしていた展覧会です。実際、行ってしまうと、今年のメインイベントが終わってしまったような寂しさが・・・。

会場に入ると、そこはもう「スラヴ叙事詩」の世界。思っていたよりも大きい・・・そして幻想的。特に最初の部屋と最後の部屋が圧巻でした。「原故郷のスラヴ民族」ほの青い光とおびえたような女性の眼。「ルヤーナ島のスヴァントヴィート祭」はダイナミックな作品。芸術の役割が象徴的に示されています。そして「スラヴ式典礼の導入」の飛翔感。中盤には凄惨な戦いを描いた作品が。とりわけ「ニコラ・シュビッチズリンスキーによるシゲットの対トルコ防衛」の炎の描写。「ロシアの農奴制廃止」の煙るようなクレムリンと茫然とたたずむ農奴達。「聖アトス山」「スラヴ菩提樹の下でおこなわれるオムラジナ会の誓い」に描かれるこの世ならぬ光。最後の「スラヴ民族の賛歌」はまさに絶唱・・・。

後半はおなじみのポスター作品のほかに挿絵や、スラヴ叙事詩のプロトタイプ的な作品も。とりわけ「ハーモニー」がかなりスラヴ叙事詩的でした。また「スラヴの連帯」「同胞のスラヴ」などの作品も。その他にも祖国のための仕事をいろいろとしていたようですが、そういった仕事は無償で請け負っていたようです。

今回、映像コーナーではミュシャの生涯を紹介する映像が流されていました。ポスター作品で有名になっていたミュシャは、50歳の時に、祖国のために生きることを決意、スラヴ叙事詩の制作にかかります。が、16年の歳月を経て完成した時には、世の流れがすっかり変わっており・・・冷ややかな反応しかかえってこなかったそうです。アートの潮流も変わってしまっていて、時代遅れの作品とみなされてしまいました。さらには、ゲシュタポに捕えられ、厳しい尋問を受けたのが祟って、間もなく亡くなってしまいます。ミュシャの心中がいかばかりのものだったか、想像するのも辛いことですが・・・その後、百年の歳月を経て、ここ東洋の島国で多くの人々に受け容れられていることが、黄泉のミュシャに届いていることを祈らずにはいられません・・・。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

絵巻マニア列伝

2017-04-07 08:47:29 | 美術
サントリー美術館で「絵巻マニア列伝」を見てきました。

不肖わたくし、この展覧会のことはノーマークでした。が、六本木あたりで、ふと時間が空いたこともあり、これ幸いと行ってまいりました。

この展覧会ですが、かつての「絵巻マニア」たちの鑑賞の記録から構成されているという、なかなかに異色の展覧会です。そのマニア達の名はといえば、後白河院、花園院、後崇光院&後花園院、三条西実隆、足利歴代将軍、松平定信など・・・。

まずは後白河院。言わずと知れた超有名人。常に権力闘争でお忙しい方だったという記憶がありますが絵巻マニアの代表でもあったのですね。ここには「病草紙」が。この時代にも不眠の女っていたんですね。国宝「法然上人絵伝」も。いまだに色鮮やか。「九相図」これ、けっこう怖いです・・・。次は花園院。子どもの時から絵が大好きだったらしい。「春日権現験記絵」「石山寺縁起絵巻」などの有名どころに加え、「矢田地獄縁起絵巻」も面白く・・・。そして、後崇光院&後花園院親子。親子揃って絵巻好き、親子で貸し借りなどもしていたようです。ここでは何といっても「玄奘三蔵絵」が素晴らしい。今回、けっこうロングバージョンで見られたのも嬉しかったです。洞窟の壁にお釈迦さまが見えちゃう場面とかも見られました。かと思えばかの「福富草紙」も。時を超えて語り継がれるおならの話。室町時代の三条西実隆は絵巻プロデューサー的な存在でもあったようです。「桑実寺縁起絵巻」は海の描写が綺麗だったな。「地蔵堂草紙絵巻」は僧侶の魂の叫びが笑えます。足利将軍家にとっては、草紙は文化的方策の手段でもあったようですが、中にはとんでもなく絵巻好きの将軍もいたらしい。その名も足利義尚。強烈すぎるお母ちゃんからの現実逃避もあったのでしょうか・・・。そして最後は、松平定信。ここには150点近い絵巻から素材を集めたという「古画類聚」が。まさにマニアの所業です・・・。

そんなわけで、絵巻の世界をとっぷりと堪能してまいりました。不肖私めも、この展覧会のおかげで、今頃になって絵巻の面白さに少々目覚めたというところでしょうか。というのも、今まで絵巻の鑑賞といっても、ほんの一部分を見るだけだったり、長めの展示であってもお客さんの流れにのってチラ見する、ということがほとんどでしたが、今回は人少なめの環境で、ロングバージョンの絵巻を見られたからです。やっぱり絵巻はひとりでひっそり、時系列を追って見ることができてなんぼだなぁ、とあらためて思いました。そして、この展覧会に登場したマニア達のマニアぶり。いつの世もハマる人はハマるのですね。今でいうなら、コミケに並ぶ若者たちみたいのものでしょうか。おまけに絵巻マニア達にはわが国最高の地位もあったのです。そんなよしなしことをつらつら考えていると、黄泉から、かの絵巻マニア達の声が聞こえてきそうな気がしました。うぃ、らぶ、え・ま・き・・・(爆)。

帰りにミッドタウンの「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」でお茶していくことにしました。たまには贅沢しちゃえ〜、ということで「デギュスタシオン」を注文。6種のケーキがちょっとずつ、の品です。色とりどりのケーキが綺麗に並んでいます。どれもおいしゅうございました。とりわけ抹茶味のものがおいしかったかな・・・。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

旅するシルクロード

2017-04-06 00:24:56 | 映画
ル・シネマで「ヨー・ヨー・マと旅するシルクロード」を見てきました。

世界的チェロ奏者のヨー・ヨー・マが、「音の文化遺産」を世界に発信するために立ち上げた“シルクロード・アンサンブル”とそのメンバーを追ったドキュメンタリー。東西を超える音楽家達を通して、音楽とは、文化とは、人生とは、そんなことを考えさせられる壮大なドキュメンタリーでした。(以下、ネタバレ気味です)

登場するメンバーは、ヨー・ヨー・マに加え、中国の琵琶奏者、イランのケマンチェ奏者、シリアのクラリネット奏者、スペインのバグパイプ奏者、日本の尺八奏者など。祖国での過酷な過去を背負っている者もいます。奏者として一流の彼らでさえ、なぜ音楽するのか、という自問自答を続けていました。「音楽は銃弾を止められない、腹も満たせない」と言いつつも、文化の力を信じ続ける強さ・・・。

そして、彼らの中核をなすのがヨー・ヨー・マ。音楽エリート中のエリート、というイメージでしたが、彼もいろいろな批判を受けていたのですね。若い頃は「(自分の)声がない」ということを言われていたりもしたのだとか。そして、ツアーのプレッシャーに苦しんでもいたそうです。信じられん・・・。そんな彼にとってもシルクロード・アンサンブルは必然だったのかもしれません。何といってもアンサンブルのメンバーとノリノリの曲を演奏する顔の嬉しそうなこと。クラシックの曲を演奏している時よりもよほど楽しそうに見えてしまったりもして・・・。とはいえ、やっぱりクラシックの曲の演奏も素晴らしい。バッハの無伴奏チェロ組曲、メシアンの「世の終わりのための四重奏曲」、ダンス付の「白鳥」・・・。

シルクロードを通じて東西の音楽家が行き来していなかったら、ヨーロッパの音楽も中国の音楽(?)ももっと違ったものになっていただろうというような言葉もありました。そんな距離や時代を超えてしまうのが音楽、ということを彼らの演奏は目の当たりに、というか耳の当たりにさせてくれます。月並みな言葉ですが、音楽は時代も土地も超える、そして、権力はいつか消えるけれど、文化はその力を信じる者がいる限り、永遠に続くのかもしれない・・・そんな希望を与えてくれる映画でした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

並河靖之 七宝

2017-04-04 23:59:46 | 美術
東京都庭園美術館で「並河靖之 七宝」を見てきました。

この展覧会も開催を知った時から楽しみにしてきた展覧会です。並河靖之の七宝作品はこれまで何度となく眼にしてきましたが、回顧展は初めてだったんですね。それにしても庭園美術館でこの展示ってハマりすぎです・・・。

展覧会は前半が名品セレクション、後半はほぼ並河靖之の人生の足跡を辿るような構成になっています。途中、同時代の七宝作品もいくつか含まれてはいましたが。下絵なども多く出ていて、充実した展示になっていました。並河の七宝というと、黒くキラキラしたイメージですが、初期の作品は少し濁った色をしていたのですね。そして下絵からは、相当、綿密に計画されたデザインだったということがわかります。作品はといえば、今さら言うまでもないくらいの緻密な美しさ。艶やかに蝶が舞う「桜蝶図平皿」、桜花が零れるような「花蝶図飾壷」。展覧会のメインビジュアル、琳派を思わせるような「藤草花文花瓶」。同じく藤を描いていても、バックの紺と藤の薄紫のコントラストが美しい「菊御紋章藤文大花瓶」。並河作品の最後を飾る、山水画のような趣の「楼閣山水図香炉」。並河以外の作品では粂野締太郎の「群蝶文蓋付小壷」の超絶技巧っぷりが印象的でした。

今回の展覧会では、並河靖之の人生の歩みも紹介されています。意外に挫折も多い人生だったのですね。作品のクオリティが低いと言われて突っ返されたり、デザインに新味がないみたいなことを言われたり、最後は工場を閉鎖することになったり。元々は武家の出、素人だったはずの並河がどれだけの苦難を乗り越えて、ここまでの作品を生み出すことになったかということを、あらためて思い知らされました。

そんなわけで、期待通り、いや期待以上の展覧会で、最初から最後まで溜め息をつきっぱなしでした。外に出ると本物の桜が五分咲きくらいになっていました。ようやく春ですね・・・。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする