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アートネタなど日々のあれこれ

サウンド・オブ・メタル

2021-10-11 01:31:39 | 映画
ヒューマントラストシネマ渋谷で「サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ」を見てきました。

今年のアカデミー賞では6部門にノミネートされ、音響・編集の2賞を受賞、特にサウンドデザインが秀逸と評判の映画です。難聴者の音の世界をはたして映画でどのように再現するのでしょうか…(以下、ネタバレ気味です)。

メタルバンドのドラマーのルーベンが、恋人のボーカリスト、ルーと一緒にトレーラーで移動しながらツアーをしている最中に突如、突発性難聴に襲われます。病院に行った時には既に両耳の聴力は2割程度しか残っておらず、人工内耳の手術をするには4~8万ドルが必要と告げられます。ルーベンはルーに勧められ、ろう者を支援するコミュニティに参加しますが、そこは外界からは遮断された牧歌的な社会でした。次第に環境にも馴染み、なくてはならない存在になっていったルーベンですが、外界でのルーの活躍を知り、ある決心をします。

映画ではルーベンに聞こえる音の世界が音響で再現されています。実は私も突発性難聴になったことがあるのですが、まさにこんな感じでした。高音域の耳鳴りがうっすら聴こえ、外界の音は水に潜ったときのように聴こえるのですよね…。私の場合は発症してすぐに病院に行き、薬をもらって治ったのですが、これが続いていたらと思うと想像するだけで辛いです。映画では人工内耳で聞こえる音の世界も再現されています。聞こえはするけれど、やはり元通りというわけにはいかないのですね…。

ところで、この映画には「聞こえるということ」というサブタイトルがついています。聞こえること、そして聞こえないことについて、これまでになく向き合わされる映画です。日々ささやかな音からどれだけの幸せを得ていたか、一方で音を聞くのは耳からだけではないということも…映画ではろう者の人々がピアノの振動を聞く場面もありました。そして何よりも、聞こえないことによって得られる平穏があるということを初めて知りました。その時、外界が全く違ったものに見えるのかもしれません。思い出したのが大好きなろう者の写真家、齋藤陽道さんの写真です…あの見たこともないような透明な美しさは、ラストシーンでルーベンが見た世界に通じるものがあるのかもしれませんね…。
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