行雲流水

阿島征夫、一生活者として、自由に現代の世相を評す。時には旅の記録や郷土東京の郊外昭島を紹介する。

老楽(おいらく)国家への道

2011-11-12 22:47:51 | Weblog

昨日は大震災からの復興と日本社会の向かうべき道と題したシンポジウムに出た。1ドル=50円になるという説で有名な浜矩子氏がこの中で、成熟社会をむかえ、世界一の債権国家となった日本は老楽国家を目指せと提言した。同日に野田首相がTPPに参加表明をしたが、同氏はTPPみたいな囲い込みは古くさいと切って捨てた。

高齢日本には成長戦略はいらない、協調して豊かさを分かち合う成熟戦略が必要だとする。戦後の日本は集権的な管理による成長で成功してきた。アジアの新興国が今その段階で日本はそれを今更マネをすることはない。この繁栄した日本で、非正規社員の問題や格差問題が起きているが成熟度を如何にうまく運営して分かち合う社会を創ることが復興への道でもある。多様性の小宇宙からなる老楽国家を目指せと示唆する。

同席したパネラーの広井良典氏は人口減少社会における定常型社会を提案した。資源・環境制約の中で、成長を目標としなくとも十分に豊かな社会は実現するとしてコミュニティの重要性を指摘した。小宇宙としてのコミュニティはローカルな多様性が重要で、真の豊かさを追求し、「幸福度」指標を経済発展モデルの指標とすべきだとする。ちなみにこの指標ではブータンがアジアで最も幸福度が高い。

エネルギー環境分野を切り口にコミュニティでの電力自給をとりあげたのがパネラーの植田和宏氏で、デンマークの例を紹介した。デンマークの農村では農家3軒が組んで風力発電をして、稼いでいるので農業外収入と電力自給が実現している。農機具メーカーが風力発電機を製造し、輸出するぐらいの技術力を有し、分散ネットワーク型の電力供給がコミュニティを支えていると報告した。

豊かさを分かち合う老楽国家を如何に実現して行くか、大枠は出されたが具体的な課題が残されたわけだ。分権管理型の自律的コミュニティでグローバル化へのアンチテーゼとして出されたローカル化が幸福度を上げるヒントなのだろうか、日本中に小宇宙としてのブータンを殖やす前に、大震災地域に先ず実現できたらすばらしいことだ。

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複雑怪奇オリンパスの粉飾

2011-11-10 18:25:39 | Weblog

先日、このブログで企業小説みたいだと書いたが、ついに露見した。登場人物はワンマン前会長と財務担当役員、告発した英国人社長、舞台はケイマン諸島、協力した投資ファンド群、1000億円以上の損失額の飛ばし、まさに事実は小説より奇なりだ。原因は20年前のバブル期の財テクの失敗で、長い間よくも隠しおおせたものだ。天網恢恢疎にして漏らさずこれから司直の手で全てが明らかになる。

日本企業特有の内々で何とか処理をして、臭いものには蓋という手法は国際的にひんしゅくをかい、信用を失墜する。日本の企業統治機構に何らかの欠陥があることが認識されるがそれ以前に問題は人にある。オリンパスを担ってきた代々の役員達は株主、顧客、従業員に対し責任を有するとの自覚がなく、自分の保身が会社を守ることにつながると勘違いしたことだ。

株価は4分の1になり株主は怒り、従業員は会社存続への不安をいだき、いったん失った信用を顧客から取り戻すことは容易ではない。オリンパスという企業をここまで貶めた犯罪者達は実刑を逃れられないが、それで済むことではない。生活がかかっている従業員や関連企業のために、早期の再建が望まれるが、経営の透明性と企業行動規範をどう実現するかが再建の鍵を握る。

不祥事が起きると、よく社外取締役を入れろという声がでるが、オリンパスのような場合正論を唱える社長でさえ解任されるのであるから社外取締役では歯が立たなかった。かたちばかりに大物を社外取締役にむかえている企業もあるが、ご意見を聞くだけのことだ。
企業統治機構を大胆に変えることも考えられる。例えばドイツ型では執行役員会の上に監査役会を置き、監査役会は株主と従業員代表から構成され、執行役員の選任、解任を含む大きな権力を持つ。

今回、オリンパスの監査役は何の役にも立たなかったし、監査法人も臭いものを指摘した監査法人は契約解除され、引き継いだ監査法人は今のところノーコメントだ。

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イタリア人にIMFランチが食べられるか

2011-11-08 15:00:10 | Weblog

ギリシャ財政危機が世界第8位の経済大国イタリアにまで影響しようとしている。格付け会社のイタリア国債の格下げで、欧州中央銀行がイタリア国債を買い支えているにも拘わらず価格が下がり、国債金利は7%に迫ろうとしている。イタリアの財政赤字はGDPの4.6%だから日本に比べればはるかに健全なのだが信用不安を払拭するには財政再建しかなく、ベルルスコーニ首相はIMFに財政再建への監視を要請した。

ここで思い出すのは1997年7月にタイで始まったアジア通貨危機で、アジア各国の急激な通貨下落(減価)現象で、米国のヘッジファンドを主とした機関投資家による通貨の空売りによって惹起された。成長の原資を短期の外国からの借入金で賄っていたアジア各国は外資の引き上げで外貨が底をつき、大きな影響を受けた。

アジアの市場に異変を感じたムーディーズは、1997年7月に、韓国の格付けをA1からA3まで落とし、同年の11月には更にBaa2にまで格を落とした事で、一挙に外資が引き上げ、韓国に衝撃が走った。12月12日時点で韓国の抱えていた民間短期対外債務残高は320億ドル、外貨準備高は10月末の223億ドルから12月2日には60億ドルまで減少し、まさにデフォルト寸前の状況にまで追い込まれた。これによりIMFへの支援を要請し、日米欧の民間銀行に対する債務返済繰り延べ(リスケジューリング)を要請すると伴にGDPの3%以内の抑制や厳しい財政緊縮策などのIMF介入を受け入れた。

新任早々の金大中大統領によって海外からの証券投資に対する規制が緩和され、対外証券投資の流入が促進され、国際収支は安定を取り戻した。一方成長を抑える緊縮政策は企業の整理解雇が相次ぎ、不評を買ったが、韓国国民は「朝鮮戦争以来、最大の国難」「IMF危機」として、貴金属の供出を行い、昼食は各レストランで「IMFランチ」と称する普段より倹約したメニューが登場し耐乏生活ムードが流行った。

イタリア人が韓国で流行ったIMFランチを口にするだろうか?イタリアは都市国家群が1861年明治時代のちょっと前に統一された国で、旅行すれば判るがかなりの地方分権が残っているし、地方にはそれぞれの料理があるごとく豊かで個人個人の伝統的な生活はかたくなに守られてきた。国内にはそれなりの富裕層と技術蓄積を持つ高付加価値の製品を製造する中小企業もあり、ユーロが下落すれば息を吹き返すことが可能だ。

しかし、IMFの要求する財政再建に手をつければ国民生活には大きな影響が出る。医療費が無料というのも今では珍しい国で、これらが手をつけられ、さらに年金の削減改革ともなると反発が大きく、現政権では難しい。まして韓国のようにIMFランチを食べて耐乏生活などといった国民の協力は期待できない。イタリアの友人は定年が来るのを指折り数えて待っているので定年延長への反発は日本人が想像できないほどだ。

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ギリシャ悲劇?喜劇?第二幕パパンドレウの大芝居

2011-11-05 18:51:41 | Weblog

ギリシャ議会は5日、パパンドレウ内閣に対する信任案を賛成多数で可決した。これにより、EUの対ギリシャ支援策の実施を危うくし、ユーロ圏経済危機の深刻化を招きかねない解散・総選挙は回避されたという報道が流れ、欧米だけでなく新興国までもホッとしたのではないだろうか。

それにしても小国ギリシャにG20が振り回されている様は喜劇に近い。この喜劇は演出がパパンドレウ首相、主演はサルコジとメルケル、観客オバマ、胡錦濤、他、劇場はカンヌ

1,小田原評定でようやく決めたギリシャ支援策だが、肝心のギリシャでは国民の反対が強く、与野党拮抗している議会で受け入れられる見通しもなく、内閣不信任案が出されれば可決してしまう情勢、

2,ここでパパンドレウは支援策の受け入れ可否について国民投票を実施すると発表し、サルコジ、メルケルをはじめG20の首脳の度肝を抜くことに

3,サルコジとメルケルはパパンドレウを呼んで、その国民投票はEU脱退か否かの投票と見なし、結論が出るまで1ユーロも支援しないと迫った。これはパパンドレウの筋書きどおり

4,パパンドレウはそれを持って帰って、与野党国会議員にEU脱退の是非を迫り、国民投票でEU脱退をすれば、さらなる危機がギリシャに迫ることを知っている国会議員はパパンドレウを信任し、国民投票は回避された。

5,3の段階で、パパンドレウはサルコジとメルケルに筋書きを示して協力を求めた可能性が強い。結果的にはパパンドレウはギリシャを救ったことになる。

6,ギリシャの信任投票では、与野党議員の協力を取り付けるために、パパンドレウが首を差し出し、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ作戦が功をそうした。

しかし、この喜劇はまだ終わりそうもない。第三幕に乞うご期待か

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上滑りのTPP議論、冷静な議論を

2011-11-03 22:17:38 | Weblog

ここのところ何かの会合があるとTPPのことが話題になるが、友人皆さんの感想はよく判らないねーだ。シンガポールが発案した自由経済圏構想で、見本はユーロゾーンだ。環太平洋の国々が対象だから、米国と日本が入らなければ成り立たない構想といえる。これから具体的なルールを作るわけだから今のところ海のものとも山のものとも言えないから「判らないねー」となる。

それでも反対論者と賛成論者が口角泡を飛ばす勢いで、互いに恐怖感を煽っているからお化け論が出て来る。先日のNHK日曜討論でも米の自由化で日本の農業は全滅するとか、地方経済は壊滅だとか反対論者の脅迫はすごい。賛成論者ではアジアの活力が取り込めるとか、参加しないと製造業が弱体し、雇用が減るという論拠が多い。

本日の朝日朝刊では、独自のブランド米をフランスに輸出している庄内の農民がカリフォルニア産あきたこまち(2.5キロ11ユーロ)に対し、17ユーロで競争可能と冷静そのもので、農業団体の幹部や反TPP国会議員の脅迫がでたらめで他に目的があるのではと疑いたくなる。

これまで、古くはバナナ、グレープフルーツの輸入拡大時に、ミカン、リンゴが全滅すると農業団体は主張したが、今では日本のリンゴは立派な輸出品だ。最近ではウルグアイラウンド対策で6兆円を農業に注ぎ込んだ。またもや、巨額の対策費を取ろうというのでは、6兆円の使い道を再吟味することが必要だ。

名だたる老有名人が身に染みこんだ米国アレルギーを発揮して噴飯ものの議論をしている。典型が「米国の意のままにされるので、国民健康保険が廃止される」とか「遺伝子組み換え食品が入ってくる」等と脅迫に近いことを言っている。
また既得権を守ろうとする医療業界も反対している。国民のことより自分たちの利益を先ず守ろうとし、新しい国際ルール作りには参加することさえ拒もうとする。

土俵に上がらなければ相撲は取れない、相手が強そうだから止めようでは不戦敗と同じだ。交渉というのはお互いの言い分を聞いて、妥協して初めて成立するものだ。初めから相手の言うことに従うのでは独立国家といえない。冒頭書いたように、TPPは米国と日本抜きでは実効性がないのだから、堂々と交渉すれば良い話だ。中身が判った段階で国会の批准が求められるので交渉内容が不充分であれば再交渉すれば良い。脅迫は止めて冷静な議論が必要だ。

親米、反米、親中、反中などといった背景も見え隠れする議論もあり、そうした政治的な意図にも要注意だ。少子高齢化で縮小しつつある日本にとって、環太平洋という貿易ゾーンは市場の拡大という面をとっても一つのチャンスだ。中国や韓国が入りたければ拒む理由はない。ユーロゾーンの例だと日本のように高付加価値の機械類を生産しているドイツにとってはプラスに作用している。

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パナソニックとソニーの挫折は経営者の判断ミス

2011-11-01 14:27:18 | Weblog

日本をというより世界を代表するエレクトロニクスの雄2社が挫折している。パナソニックは今通期4000億の赤字を予想、ソニーもテレビ事業の赤字体質からサムソンとの液晶パネル事業の合弁を解消するという。いずれも家電の代表テレビでの挫折が原因だ。

原因はいろいろ挙げているが、端的に言って、パナソニックの場合はプラズマにこだわり巨額の投資を新工場建設に向けたこと、ソニーはリスク分散をした安心感から、サムソンとの合弁で巨額の液晶新工場を建設したことが原因だ。いずれも経営者の判断ミスと言わざるを得ない。薄型液晶テレビのコモディティ化で予想をこえる液晶パネルの価格低下、とプラズマの競争力低下があったとはいえ、リスクを伴う巨額の投資には慎重であるべきだった。

何故、この2社が巨額の投資に踏み切ったのか?世界をリードしているという自負がプライスリーダーたり得るという奢りにつながったのではないか。大量の生産能力をバックに他社を蹴落とせると思ったのではないだろうか。ところが自分たちの予想以上にパネルの市場価格が下落し、赤字覚悟で生産せざるを得ないところまで追い詰められ、リストラをしなければならなり、また多くの労働者が辛い目にあうことになる。経営者の責任は大きい。
参考までに2007年にパナソニック(当時は松下)の発表内容の一部を掲載する。

「松下電器産業株式会社(社長:大坪文雄)と東レ株式会社 (社長:榊原定征)は、プラズマディスプレイパネル(以下、PDP)の新たな生産拠点として、両社の合弁会社である松下プラズマディスプレイ株式会社(以下、MPDP社)の第5工場を、兵庫県尼崎市(現工場隣接地)に建設し、世界最大の量産体制を更に拡大します。
新工場は、2007年11月に着工し、2009年5月に第一期の稼動を開始する予定です。投資額、約2,800億円で月産100万台(42型換算)を生産する世界最大のPDPの量産工場となり、投資生産性についても第1工場比で5倍以上と世界最高の投資効率となります。圧倒的な生産規模とコスト力で、世界における薄型大画面市場をリードします」

今後の大型液晶テレビ事業は他社が追随できない技術力のある製品か、パネルや部品を市場から最低価格で調達して組み立てに徹するか2つの道しかないだろう。

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