黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

弁護士になったら・・・死んでお詫び?

2012-01-21 19:31:55 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 このブログでは,1日に2回も記事を投稿するのはかなり異例なのですが,他の弁護士さんのブログを読んでいるうちにとても看過できない記事が見つかりましたので,紹介することにします。

http://www.veritas-law.jp/newsdetail.cgi?code=20120121133229

 上にリンクを貼った記事は,武本夕香子弁護士の2012年1月21日付け『ある修習生の話』ですが,これによると同弁護士は,最近会った司法修習生との間でこんな会話をしたそうです。

修習生;「1800万円の借金を抱えています。」
私(武本弁護士);「凄い金額ですね。」
修習生;「修習生になるまでに生活費と学費で1500万円、修習生になって貸与制に移行したので、300万円が上乗せされて、1800万円になりました。」
私;「弁護士になってからの返済が大変ですね。」
修習生;「死ねば何とかなるかなと思って・・・。親には相続放棄をしてもらったら良いと思います。」
私;「死んでも何も解決はしません。死ぬなんてこと考えないで下さい。」
修習生; 「奨学金関係の学費ローンの場合、保証人への追求はしないと聞いているので、保証人になってもらっている親には相続放棄をしてもらったら迷惑を掛けないと思います。」
私; 「そう言う問題ではないでしょう。それに、保証人に追求しないとは限らないし、こんなことのために死んでどうするんですか。」

 その後の会話内容は割愛されていますが,その修習生は終始笑って答えていたそうです。

 事情の分からない人のために,一般的な背景事情について解説します。
 司法試験の受験資格を得るためには,基本的に法科大学院を修了する必要があります。法科大学院を修了するためには多額の学費が必要であり,親が裕福で1000万円くらい余裕で出してくれるという人ならいいですが,そうでない人は多額の借金をする必要があります。
 そして,法科大学院もなんとか入学者を確保する必要があるため,司法試験に合格すれば法曹として明るい未来が待っているなどといった,虚偽とまでは言えないにしろかなり事実を歪曲した宣伝で入学者を集め,学費を現金で確保できない人には奨学金制度の利用を勧めています。
 こうして,法科大学院に入学した人の多くは,奨学金による多額の借金を抱えており,途中で学費や生活費などが足りなくなった人の中には,サラ金などからの借金を余儀なくされる人もいます。こうして,法科大学院を修了した人の多くは,既にその時点で多額の借金を抱えることになり,この修習生のようにその額が1500万円に達しているような人も珍しくないようです。
 そして,昨年から司法修習生の給費制は廃止され,貸与制に移行することになりましたので,国から貸与される学費が約300万円上乗せされて,この修習生は合計1800万円の借金を抱えることになりました。
 しかし,無事に修習を終えて弁護士資格を得ても,今の状況では借金を返済できるようになる保障はどこにもありません。親が弁護士になっていてその跡を継げるか,または法科大学院生時代から大手渉外事務所の内定をもらっているなどの例外的な場合でない限り,月給20万円くらいでも「給料」のもらえる法律事務所に就職できる人はまだ幸せな方です。
 多くの修習生はそのような就職先すら見つからず,何十軒もの法律事務所を訪問して就職活動をしても大抵は成果無し。しかも,彼らは学生ではありませんから,昼間は司法修習でずっと拘束されており,就職活動は修習が終わった後の夜に行うしかありません。そんな調子では修習に身が入るはずもなく,二回試験で落とされる危険も頭の中をよぎっていることでしょう。
 司法試験の大手予備校である伊藤塾のサイトには,「携帯電話と情報端末さえあれば弁護士の仕事は可能」などとたわけた事が書いてありますが,独立に必要な最低限の備品も揃えられないようでは,依頼者の信頼を得られないといった問題以前に,裁判所関係の仕事は事実上不可能です。まともに独立開業しようと思ったら,やはり数百万円単位の開業資金を用意する必要があります。そうなったら,また借金しろというのでしょうか・・・?
 もちろん,この修習生が「死のう」というのはさすがに極論で,奨学金は取り立てがあまりないので払えないなら簡単に踏み倒せるとか,司法修習が終わった後に自己破産して免責をもらってから弁護士登録するといった方法も可能ですが,親を保証人にしている場合には保証人の責任を追及されるおそれがあります。
 それでこの修習生は,奨学金関係の学費ローンの場合,(本人が死んだ場合に)保証人への追求はしないと聞いているので,自分が死んで親に相続放棄をしてもらえば,何とか親に迷惑は掛けないで済むだろうという結論に至ってしまったのでしょう。
 この修習生がその後どうなる(どうなった)かは分かりませんが,仮に本当に死んでしまった場合,この修習生は死んで何を詫びるのか。司法試験に合格できたのですから法曹としての資質に不足しているわけではありませんし,奨学金を踏み倒すといった発想をしない以上,法曹としての倫理感にも不足するところはおそらくないでしょう。弁護士になるという選択をしてしまったことを「死んでお詫びする」と解するしかないのです。
 もっとも,業界事情を知らない人の中には,このような話を聴いた弁護士に対し,どうして自分の事務所で雇ってあげないのか,就職先を紹介してあげないのかなどと非難する人がいるかも知れません。しかし,そんな感じで修習生の面倒を見てあげられたのは,せいぜい57期(合格者数1200人程度)あたりの時代までで,今では一人面倒を見てあげたら,噂を聞きつけた修習生が我も我もと押し掛けてきて,収拾の付かない事態に陥ってしまうでしょう。今は過当競争と不景気の影響で,そもそも新人を雇う余裕なんて無い弁護士が大半だという事情もありますが。

 前述したような修習生を取り巻く事情の中では,この修習生の話が彼一人の特別な話だとは誰も断定できないでしょう。私も,ただでさえ修習生時代にストレスで精神を害し,1年間修習を休むことになってしまった人間ですから,ここまで極限的な状況に追い込まれていたら自殺を選択したかも知れません。1人2人くらいではなく,統計上の数字になってしまうくらいの自殺者が出てもおかしくはないでしょう。
 こういう話を聞いて,せめて司法修習生の給費制は何とか復活すべきだと考える人もいれば,そもそも法科大学院制度を何とかしなければ問題は解決しないと考える人もいるでしょう。私は後者です。
 私は今まで,法科大学院は法曹になろうとする人に対し莫大な金銭と労力の無駄を強いる制度だという趣旨の主張を繰り返してきましたが,それは必ずしも適切ではありませんでした。むしろ法科大学院は,法曹になろうとする人を騙して借金漬けにして,自殺や社会的破滅に追い込む制度であると言わなければならないでしょう。
 いま,消費税の増税論議の中で,財政破綻を避けるために消費税の増税は避けられないが,増税に国民の理解を得る前提として,公務員の削減や給与カットなどを含め,徹底した政治改革・行政改革を行う必要性が説かれていますが,その行政改革の中には,法科大学院制度の即時廃止も含まれなければなりません。
 既に各方面からかなりの批判が挙がっているにもかかわらず,学者や文部科学省の官僚達が法科大学院を守ろうとしているのは,学者にしてみれば法科大学院をなくせば自分達のポストがなくなるからであり,文部科学省の官僚達にしてみれば自分達の重要な天下り先が無くなるからです。これほどあからさまな税金の無駄遣いをなくせない政府に,真の意味での行政改革など出来るはずがありません。

9 コメント

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Unknown (宇都宮)
2012-01-21 21:27:09
だからどうしたんですか?
法曹の増員のペースは絶対に緩めてはならない。
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どうして立ち上がらないの (貧乏人)
2012-01-22 06:28:04
私が不思議で仕方がないのは
そんなに危機的な状況に陥っている人が大勢居るのなら、なんでデモとか直接行動を起こそうとしないのか、ということです。無責任に増員しろ増員しろもっと弁護士が必要だと喚き続けてる恥知らずの法律事務所に「じゃあ俺たちを雇え!」と幟とプラカード持って押し掛けてやればいいでしょうに。事務所よりも本人の屋敷のほうが効果的かも知れない。最も効果的なのは愛人のマンション前での座り込みらしいけど。警官呼ばれる? 呼ばせてやればいい。みっともなくて呼べないと思いますけど。アルジャジーラでも呼べば、生中継してくれるかも知れない。東大教授だか渉外弁護士だか、コネとハッタリだけで威張って金儲けしている権力犯罪者どもに、世界規模で究極の恥辱を与えてやれるんだから、やってみる価値は有るでしょう。所詮駄目でもともとじゃありませんか。

パキスタンの弁護士協会は、団結して軍事政権への抗議デモを決行した実例があります。もちろん逮捕も怖れずに。どうして日本の弁護士は、大物から修習生にいたるまで、こんなに弱腰で迎合的なんでしょうか。仕事への誇りがないんでしょうか? 強い者には媚び諂って利権のおこぼれに与ることしか頭にないんでしょうか? 武見太郎以来の日本医師会とどうしてそこまで違うんでしょうか?
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Unknown (通りすがり)
2012-01-22 07:27:15
既に合格した修習生が増員反対デモをやったら自己矛盾を来すし(しかも反対すべき相手が不鮮明)、「雇え」デモをしたところで大手といっても中小企業規模に過ぎない法律事務所が元から雇用吸収力などない。
給費制継続という枝葉末節に争点が矮小化されるのも、まあ致し方ない面がありますわな。
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Unknown (Unknown)
2012-01-22 11:51:40
法曹激増教の教義によれば、聖戦の過程で殉死した場合は、テミスの元で天国に行けることが約束されています。
したがって、このままのペースで増員しても、何ら問題はありません。
教義に従って、法曹の増員のペースは絶対に緩めてはなりません。
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Unknown ()
2012-01-25 00:22:46
保証人も同時に自己破産して、全部終わってから弁護士登録するしかないように思う。
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事後報告になりますが・・・ (マンボス)
2012-02-22 14:22:21
黒猫さん

はじめまして。
無職・司法書士試験受験生のマンボスと申します。
貴ブログは時々参考にさせていただいております。
司法修習生さんもかなり厳しい状況にあるようですね。
拙ブログでも紹介させていただきました。
黒猫さんの承諾もなしに、事後報告の形になったことをお許しください。
今後も貴ブログを楽しみにしております。
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Unknown (マルモ)
2012-04-12 20:48:01
弁護士資格を取る→自己破産申し立てを行う
→免責を受ける→弁護士になる。

これからのトレンドはこれです。

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Unknown (働く気あるのかな)
2012-12-29 08:58:55
あのう…月給二十万円なら資格無い警備員でも稼げますって…例えば弁護士資格あるなら警備会社に雇ってもらえばすぐに出世しますよ(笑)
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Unknown (Unknown)
2012-12-29 14:21:05
一番いいのは、こんな世界目指さないことだね。
借金負わなくていいし、普通の生活ができるし。
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