黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

「年間3,000人」の旗を降ろすべきではない?

2012-10-27 13:50:57 | 法曹養成関係(H25.1まで)
 『法曹養成制度検討会議』第2回会議の議事録が公開されていましたので,早速読んでみました。
http://www.moj.go.jp/content/000103552.pdf

 法曹人口問題に関し,法曹界全体の運命にかかわる重要な議論がされているわけですが,皆さんに通読して頂くには分量が多すぎるので,各委員が概ねどのような意見を述べているのか,黒猫の文責で要約してみます(なお,要約という性格上,発言内容の正確性は保障できません。発言の正確な内容を知りたい方は,各自議事録で確認して下さい)。

○ 清原委員(三鷹市長)
 具体的な人数については明言しないものの,少子高齢化に伴い過疎地を含めて各市町村で活躍できる弁護士を増やす必要性,司法試験の合格者数がここ数年2,000人であることを良い意味で尊重していく必要がある,法科大学院を中心とした法曹養成の経過により,裁判員制度が円滑に進んでいるなど,司法制度改革にいくつかの効果が現れているなどと指摘している。
 おそらく,大幅な減員をするべきではないという趣旨と思われる。

○ 伊藤委員(弁護士,元次長検事)
 今すぐに合格者3,000人という旗を降ろすべきではない。司法試験合格者を減らせという議論は,要するに弁護士が食べていけないというものであり,司法制度改革審議会の意見書に勝てるだけの理念はない。弁護士の数が大幅に増えたことによって,一部の弁護士は困っていても,やはり社会は喜んでいるんではないか。新しい法曹の質が落ちているかどうかを今語るには早過ぎるし,弁護士業務の改善や法教育的なことをもっとやれば,弁護士がもう少し増えても十分やっていけるのではないか。

○ 南雲委員(日本労働組合総連合会事務局長)
 具体的な人数については明言しないものの,潜在的なものを含めた社会のニーズに対応した人材を育成していく必要がある,特に労働分野では法曹に対する潜在的ニーズが大変大きいなどと発言していることから,おそらく大幅な減員をすべきではないという趣旨と思われる。

○ 藤田財務副大臣
 具体的な意見はないとするものの,公認会計士試験でもかなり高位で合格した人が就職できないという実態があり,弁護士,公認会計士,歯科医師,医師などは国家試験で国が資格を与えている以上,(そうした人の活用について)国家戦略としての総合的な取り組みが必要ではないか,という趣旨のことを述べている。

○ 松野法務大臣政務官
 年間3,000人という目標は見直すべき。医師も数をコントロールするという仕組みで制度設計を行っており,法科大学院にも相当の公費が投じられているので,ただ市場原理に委ねるというのは正直いかがなものかと思う。現在は2,000人くらいというのが現実の数字として出ており,これはこれで尊重すべきではないか。

○ 田島委員(社会福祉法人南高愛隣会理事長)
 3,000人という,10年前に出された数字がどこから出て来たのか,どうしても分からない。司法試験の合格者は年間500人という時代が長く続いていたので,その6倍ということだが,そのような需要を裏付ける資料はほとんど見当たらない。しかも,年間3,000人を目標にして,法曹養成の仕組みをすっかり変えてしまった。少子高齢化ということでいろいろなニーズは生じているが,具体的な仕事にはつながっていない。ニーズが仕事につながるような仕組みは全然作られていない。
 わが国の司法制度を守るためには一体どうあるべきかをしっかり検討しなければならないし,法曹に対するニーズに応えるために政府全体としてどのように取り組んできたかも検証する必要がある。司法制度のところだけで一生懸命やっていても,具体的なニーズはなかなか広がらないと思う。

○ 久保委員(元読売新聞東京本社論説副委員長)
 法曹養成制度を取り巻く現状,特に社会人志願者の減少は深刻な問題であり,現実論として当面は2,000人なり1,500人なりに抑えるという議論はあって然りだと思うが,年間3,000人という旗を今降ろすことには慎重であるべき。国民の日常生活の中で,潜在的あるいは未開拓の法曹需要というものはまだまだ多いと思われ,今後とも,国民の司法アクセスの向上や,法曹の活動領域の一層の開拓に向けて,あらゆる努力を続けていかなければならない。合格者3,000人というのは,そのシンボルとして掲げておいてもいいのではないか。

○ 井上委員(東京大学教授)
 需要の点については,確かに審議会の予測どおりのペースで増えてきているか,現実論として見直す余地はあると思いますけれども,大きな方向として審議会の提言が目指したところは間違っていなかったと思いますし,そういう方向に持っていくよう努めるべきで,ペースの問題はあるとしても,現状で2,000人しか受かっていないから3,000人という目標自体を下げないといけないという理屈は,私には納得がいかないところがあります。そういう意味で3,000人という目標は維持すべきではないかと思っています。

○ 鎌田委員(早稲田大学教授)
 弁護士会を中心に合格者数を減らすべきという主張がなされており,その論拠は現実のニーズがないこと,信頼できる法律家に法律事務を任せるべきであるものと理解しているが,現実には司法に対する社会のアクセス障害はなお広範に残されている。その状況を打開して行くための解決方法について,様々なニーズに応えるための弁護士像を新たに構築していくということも審議会意見書の内容をなしていた,そのあたりのコンセンサスを是非作ってもらいたい。

○ 国分委員(医師・東北大学名誉教授)
 医学部では,卒業生がほぼ全員医師の国家試験に合格することを前提にして教育を行っているが,法曹の世界で司法試験合格者数が目標に到達しなかったというのは,医療費のように財政的な裏付けがないからであって,現実の合格者数には需要を意識した設定があってよいのではないか。また,司法試験の合格率が25%しかないというのは,法科大学院の卒業と司法試験委員会の要求レベルにギャップがあるということであり,これを埋める努力をしない限り問題の解決にはならない。
 法科大学院の学生数は多すぎるのでもっと絞り込むべきであり,また新しい活動領域を開きたいといっても,簡単に開けるものではない。医師の分野では,大学や大学病院で勤務医として専門分野のトレーニングが行われ,専門医制度の重要な役割を果たしているが,法曹の世界でも活動領域の拡大を目指すには,法科大学院におけるスペシャリストの養成が必要になってくるのではないか。

○ 岡田委員(消費生活専門相談員)
 今後弁護士人数を減らすべきなのか,現状で良いのかという点について考えはまとまっていないが,消費者問題に詳しい弁護士へのアクセスは未だに東京でも困難であり,弁護士数の少ない地方では願ってもかなわないことである。相談者の中には弁護士でなく司法書士を紹介してくれという人も少なくなく,弁護士に対しては未だに敷居が高いという認識である。事件が少ない,裁判,訴訟事件が減っているということをもって紛争が減っているというのではなく,紛争は増えているというこの実態を是非認識して弁護士のニーズということも検討しなければいけないのではないかと思う。

○ 宮脇委員(北海道大学公共政策大学院長)
 3,000人という数字は,政策的な目標なのか,あるいはもっと上位の概念だったのかを明確にする必要があり,政策議論のシンプル化が必要。ニーズについては,地方自治体におけるニーズはかなりあるが,自治体自身がそのニーズについて認識していないというところがかなりあると思う。

○ 翁委員(株式会社日本総合研究所理事)
 人数については明言せず。
 国内需要だけを考えれば,今後も低成長の時代が続いていくとも考えられるが,リーガルサービスのニーズという視点とは分けて考えるべき。高齢化に伴うリーガルサービスの増加,国の成長戦略,グローバルな競争激化といった動きを十分に踏まえて,丁寧にニーズを探っていくという経てやっていくことが必要。海外では隣接専門職種がいなかったりするので,国際比較についてはもう一度見直してはどうか。

○ 丸島委員(弁護士)
 法曹人口だけを増やしても,三陸や浜通りに自然と弁護士が増えていくというわけではなく,司法過疎地域の解消は,人口増だけではなく日弁連の公設事務所や法テラスのスタッフ事務所など,必要な仕組みや財政措置が合わさって対策を進めてきたもの。弁護士人口の増加にかかわらず,過払い請求以外の民事事件は増えておらず,行政訴訟も年間千数百件が二千件余りになっただけで,ドイツの数万件と比べればはるかに少ない。人口の問題だけではなく,国民が利用しやすい仕組みの検討をしないと,全体としてバランスの取れた司法改革にはならないのではないか。
 3,000人という目標設定は,現実には既に破綻している。年間2,000人を少し超えたところで維持しているのも,法曹志願者の層が年々薄くなっていることを考えると無理があるのではないか。公認会計士試験の合格者数についても大幅な見直しが行われており,新規法曹の数についても一定数の下方修正はせざるを得ない,そこからもう一度仕組みを作り直し前進させていくということを,きちんとメッセージとして出していく必要があるのではないか。

○ 田中委員(明治大学教授,元札幌高裁長官)
 法科大学院志願者が大きく減少しているという,そのことをもって現在の法曹養成の制度そのものが崩壊しつつあるといった意見も出されているが,この点はやや性急な考え方であると思っている。この社会の様々な領域で法の支配を担う法曹を養成するための社会的インフラとして設立された法科大学院の果たすべき役割が大変重要なものであるという基本的な考え方は,現在も全く変わっていない。一国の教育制度については目まぐるしく変えて良いというものではなく,法曹人口の問題についても法科大学院の存在意義を十分に踏まえて考えていく必要があるのではないか。


 一部うまく要約しきれなかった話もありますが,大体こんなところでしょうか。
 フォーラム時代から大して変わっていない検討会議の顔ぶれからして,元々あまりまともな議論は期待していませんでしたが,委員の中には丸島委員や医師の国分委員など,現状に関しまともな問題意識を持っている人も見られるものの,未だに空虚な司法改革の理念なるものを振り回し,弁護士需要の「潜在的ニーズ」という言葉を多用して非現実的な増員論を唱え続ける人が多いのには怒りを禁じ得ません。
 このように,政府で空疎な議論が続いている間に,現実の方はさらに悪化しています。最近聞いた話では,最近の司法試験合格者の中には,下位合格では就職先が得られないということで,上位合格を狙って司法試験を再度受け直す人も少なからず存在しているらしいです。
 まだ事実関係の裏付けは取れていませんが,仮にこれが事実であるとすれば,年間約2,000人という現状の合格者数は既に空洞化していて,成績上位でなければ実質的に不合格と変わらないという認識が受験者の間にも着実に広まりつつあることになります。未だに年間3,000人という旗(マニフェスト)の維持を訴え続ける人がこの話を聞いたら,一体何とコメントするのでしょうね。 

8 コメント

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いじめ反対! (西汽船南港乗船券販売所・関汽交通社 )
2012-10-27 21:57:30
西汽船南港乗船券販売所・関汽交通社

連合・サービス連合傘下の労働組合

関汽交通社社員さんへ

いじめ行為、嫌がらせ行為やめてください。

プライバシー等の人格権侵害行為もやめてください。

裁判所は、結論として、申立人らに対する面談強要の禁止、
申立人らの自宅前の道路の立入禁止、申立人らの監視の
禁止、申立人らのつきまといの禁止を命じた。

 その理由についてであるが、被申立人らの追尾行為、
それらが申立人らの生活の平穏、プライバシー等の
人格権侵害に該当することが明白であると述べ、
したがって、申立人らは、面談禁止、監視、付きまとい等
の禁止を求めることができるとした。

安心して、働きたいが労働者の要求です。

全国で有名になるまでがんばるぞ!

関西汽船南港乗船券販売所・関汽交通社
Unknown (Unknown)
2012-10-28 18:35:07
司法試験って、合格しても再度受験できるものなんですか!?
Unknown (Unknown)
2012-10-29 14:12:39
結局のところ、世の中全体が、貧しくなったために、弁護士もあおりをうけているんじゃないの?
親の世代と同じくらい稼げる仕事は、医師ぐらじゃないか?
Unknown (Unknown)
2012-10-29 20:40:11
戦時中の大本営とはこういうものだったんでしょうね。
Unknown (Unknown)
2012-10-29 21:52:48
お偉いさんが責任を取りたくない心境はいつの時代も同じですよ(呆)
Unknown (通りすがりの廃人)
2012-10-30 16:08:24
上智ローは面接だけで入学できるらしい。
あばばばばば
Unknown (誰かを傷つける独白)
2012-10-30 16:53:35
少数派の悲哀
(北道海男 at 10/24 13:58)
俺が一生の間に一度は言ってみたい言葉が2つある。
① 俺のおかげで合格した。
② 俺の生きがいはお前に勉強を教えてやることだけだ。
この2種だ。
普通の感覚を持ち合わせていれば、とても恥ずかしくて口にできない言葉である。
一回でいいから言ってみたいものだ。どれだけ対象や周囲から失笑・軽蔑されたとしても。
さて、②はもう賞味期限切れだからいいとして、張成沢については、ここ2回の授業で、standardについての罵詈雑言が目につく。
「standardをやめて自分の旗の下に集まれ」
と言わんばかりだ。
俺は、断然、間違った見解だと思っている。
何より、俺はstandard幹事だ。ただでさえ回を追って減っていく受講者・・・解説の講師の先生との気まずさに耐えなければならない。余計なことを言うな、という個人的な恨みもある。
話が逸れた。
各自論点を潰しておかなければ試験に対応はできない。ただでさえ、学者教員しか基礎科目を教えてはならない制度の中で、ここの学者教員は馬鹿揃いだ。まともなのは指折りしかいないのだ。論点を自学しなければ葬り去られてしまう。それを補強するのがstandardだ。
負担過多だからstandardを廃止せよ、と寝ぼけた提言をしてご満悦になっているようだが、下らないレポートを課し続けて学生の時間を喰い荒しているのは張成沢、君自身じゃないのか。
張成沢は、10分に1回は冒頭①の言葉を恥ずかしくもなく吐く。
この時点で彼の自信の無さとその裏面にある厚顔無恥さ、羞恥心の無さが顕れている。
首都圏の多数の合格者の情報から敢えて遠ざかり、自分に都合のいい情報をかき集めてそれを時代の趨勢だと誇張するのである。それを真に受けざるを得ないのが、少数派の悲哀だ。
彼を早い段階で葬り去らないと、俺たちは枕を並べて討ち死にだ。
俺は、張成沢の自律神経破壊に動く。
Unknown (Unknown)
2012-10-31 05:18:52
大本営の軍人は、自分が前線部隊に出て行く覚悟があったぶん、あいつらとは雲泥。
大勢の人に難行苦行を強いて、権力を握るわずかな大幹部が小奇麗な拠点で好待遇を貪り続ける恥知らずぶりは、軍人よりも旧オウムみたいなインチキ宗教のほうが近いでしょ。