黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

地方大学で進む法学教員の「超高齢化」

2013-03-10 19:04:24 | 法科大学院関係
 日弁連法務研究財団では,2012年度法科大学院認証評価事業として,久留米大学法科大学院に対する認証評価を行い,同年9月26日,同大学院に対し「不適合」の認定を行いました。これに対し,久留米大学法科大学院は10月24日,評価に対する異議申立てを行い,2013年2月21日,異議申立てに対する財団の回答があり,2月27日,異議申立書と回答書が財団のホームページで公表されました。

<関連資料>
久留米大学大学院法務研究科(法科大学院)に対する評価報告書
https://www.jlf.or.jp/work/dai3sha/kurume_report2012.pdf
久留米大学法科大学院による異議申立書
https://www.jlf.or.jp/work/dai3sha/igi-kurume-moushitate-2012.pdf
異議申立てに対する回答書
https://www.jlf.or.jp/work/dai3sha/igi-kurume-kaitou-2012.pdf

 認証評価結果に対する異議申立てというのは,法科大学院関係では別に珍しい出来事でもないのですが,一連のやり取りの中で若干注目に値するお話がありましたので,御紹介します。

 久留米大学法科大学院が不適合評価を受けた理由の一つは,同大学院における民事訴訟法の専任教員について,「担当科目に係わる研究業績が不足しており,教育実績も十分でなく,本基準における専任教員の数に算入することはできない」とされ,これにより同法科大学院においては,2011年度と2012年度の2年間,評価基準を満たす民事訴訟法の専任教員が欠けていたと判断されたことにあります。
 この判断に対し,久留米大学法科大学院は当該教員について次のような理由を挙げて,専任教員の資格はあると主張しました。
「当該教員は,2001年9月福岡高裁部総括判事退官に至る37年有余の間,地裁,高裁における民事実務を主とする裁判実務を経験した後,同年10月から本学法学部において,民法を中心とする授業を担当し,本法科大学院が開設された2004年4月から実務基礎科目を中心とする科目を担当し,2007年4月から現在まで,民事訴訟法も併せて担当し,この間の2002年4月から2009年4月までは,家事調停委員として,難解な民事法律問題を含む遺産分割調停を専門的に担当してきた者である。」
 以下は認証評価基準の解釈論の話になるので詳細は省略しますが,要するにこのように経験豊富な実務家教員について,最近の研究業績が不足しているというのみの理由で不適格とするのは誤りである,と主張したわけです。
 これに対する財団の回答は,要するに法科大学院で民事訴訟法担当の専任教員となるには,原則として最近5年以内に民事訴訟法に関する研究業績が必要であるところ,当該教員は2006年9月を最後に民事訴訟法についての研究業績を発表しておらず,また当該教員は,2011年度中に満75歳となっており,以前の研究業績やこれまでの教育方法に関しても特に顕著な業績がないことをみても,例外的に専任教員資格を認めるべき事情は見出せないというものでした。
 改めて評価報告書を読み直すと,久留米大学法科大学院の専任教員は,不適格とされた上記1名を含めた14名中11名が50歳以上,5名が60歳以上となっており,教員の「超高齢化」が進んでいることが分かります。なお,久留米大学法科大学院では,不適格とされた教員に代わる民事訴訟法の教員を探していたものの,2012年度中にその補充はできなかったそうです。

 久留米大学に限らず,地方の法科大学院や司法試験の合格実績が低い法科大学院では,教員の大半が50代ないし60代といったところも珍しくないのですが,これには構造的な理由もあります。
 すなわち,法科大学院の専任教員資格は,研究者ないし実務家としての実績が重視される結果,ある程度のベテランでないと要件を満たせないのですが,文部科学省は法科大学院の質を高める方策として,専任教員の資格をさらに厳しくしたのです。法科大学院設立当初は,研究者教員の不足に配慮して,法科大学院専任教員と法学部専任教員の兼任(いわゆるダブルカウント)と認めていたのですが,2013年度まで認められていたこの特例は延長しないものとされ,各法科大学院はできるだけ早期にダブルカウントを解消すべきものとされました。
 その結果,専任教員の補充を必要とする都心部の大学は,地方大学に勤務する(有能で比較的若い)教員を引き抜いて教員を補充するようになり,たたでさえ規模が小さく経営も苦しい地方の大学は,ますます教員の確保が困難になり,都心部の大学からは見向きもされない高齢者の教員ばかりで占められる状況になってしまったわけです。今年になって東北学院大学法科大学院が2014年度からの学生募集停止を決定するなど,地方の法科大学院は入学希望者の減少に苦しんでいる様が窺われますが,実際には学生不足だけではなく教員不足にも苦しんでいるのです。

 「法科大学院なんかさっさと潰れてしまえ」という立場からは,教員の年齢構成など特段配慮すべき問題ではないと思われるかも知れませんが,法科大学院の研究者教員と法学部教員の資格には共通性が見られるので,地方の大学では法科大学院のみならず法学部についても,このような教員の「超高齢化」が進んでいる可能性はあります。
 各大学の法学部は,ただでさえ人気低下の傾向がみられますが,既に破綻が叫ばれて久しい法科大学院制度が今後も中途半端に存続し,都心部の有名大学が地方の大学から教員を引き抜く構造がこのまま長期化すると,地方大学の法学部はのきなみ空洞化してしまう危険があるのです。
 法曹養成制度検討会議の第8回会議では,谷川文部科学副大臣が「ロースクールの拡大によって田舎の大学の先生が引き抜かれて非常に困っている」と発言しているなど,自民党の国会議員はこの問題にも関心を示しているようですが,研究者教員を養成する大学院の博士課程も近年志望者が減少しており,若手研究者の増加による問題解消は当面望めないほか,文部科学省でこの問題に対処しようとする動きは特にみられません。
 このような問題を解消するには,早期に法科大学院制度を廃止して法学部教育を再建するしかないのですが,その現実に自民党の国会議員たちが気付くのは,一体いつの話になるのでしょうか。

6 コメント

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研究業績 (さくさく)
2013-03-10 22:57:02
高裁の部総括判事を経験した実務家であるにもかかわらず、研究業績が足りないという理由で不適合という財団の指摘が的外れだと思います。発表した論文の数のような形式的なことで審査しているだけで、妥当な教育を行っているかという観点で審査を行っていないように見受けられます。大体、研究業績を強調するので、ロースクールの教員はマニアックな人が多くなるんじゃないでしょうか。実務家を養成するための教育機関ですから、研究業績よりも教育の能力を重視した評価をすべきです。
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Unknown (Unknown)
2013-03-11 09:04:21
法科大学院自体が資格商法詐欺であり、法科大学院の中で、適合不適合を論じる意味があるようには見受けられません。
論文の数よりも適切な教育内容で言うなら、井上正仁、佐藤幸治など、どうやって補助金にぶら下がり続けるかという発想しかないのでしょうから、不適合です。
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Unknown (Unknown)
2013-03-11 21:01:01
彼らは、大学という組織の栄華のために日夜戦っている英雄です。けっして、院生や受験生、ましてや法曹界の未来ためではないのであしからず。
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Unknown (Unknown)
2013-03-13 05:12:17
●東大、推薦入試導入へ=創立以来初、筆記なし
後期日程2次、5年後めど試行
ttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130312-00000172-jij-soci

●京大入試で制度改革を検討 「学ぶ姿勢」など考慮
筆記試験だけでない新たな選抜方法
ttp://www.kyoto-np.co.jp/education/article/20120622000026
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Unknown (ひとこと)
2013-03-14 04:38:28
最近20年間の首相の卒業大学

安部晋三  成蹊大
野田佳彦  早稲田
菅直人    東工大
鳩山由紀夫 東大
麻生太郎  学習院
福田康夫  早稲田
安部晋三  成蹊大
小泉純一郎 慶応大
森喜朗   早稲田
小渕恵三  早稲田
橋本龍太郎 慶応大
村山富市 明治大(専門部)
羽田孜  成城大
細川護熙 上智大
宮澤喜一 東大(東京帝国大学)

東大2人、京大ゼロ。

学力入試をやっている限り、おそらくこの傾向は今後も大きく変わらない。
東大や京大が、何とかしなきゃと考えるのもよく分かる。
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Unknown (75歳は)
2013-03-14 22:48:56
引退だよ
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