黒猫のつぶやき

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内部統制制度の行方は?

2007-07-14 21:30:50 | 時事
 7月12日、日弁連主催の内部統制制度に関する研修会に行って来ました。
 講師は青山大学大学院教授・企業会計審議会内部統制部会部会長の八田進二先生ですが、何とも歯に衣着せぬ物言いが印象的な先生でしたね。研修会に参加しなかった人でも、後日研修会の内容をビデオで観ることも出来るそうなので、興味のある先生方は、一度観られることをお勧めします。

 もっとも、日本の現行法における内部統制制度は、会社法の規定により大会社や委員会設置会社に義務づけられる内部統制制度と、金融商品取引法の規定により義務づけられる内部統制制度の2種類があり、研修会での内容は専ら後者に関するものです。
 内部統制に関しては、そもそも一体何をやればいいのか理解しづらいというのも原因の1つでしょうが、書店に行くとうんざりするほど内部統制関係の本がずらりと並んでいて、一体どの本を信用したらよいのかと悩んでしまいます。
 ただ、そもそも内部統制というのは、業務の有効性や効率性を確保する、財務諸表の信頼性を確保する、法令違反などが生じないようにする、企業資産を適切に保全するといった目的を達成するために、企業内部で必要な体制を構築・運用していくことであり、必要な体制は組織の環境や事業の特性等によって大きく異なりますから、一律に「これをやればいい」と言えるようなものではありません。
 八田教授も、内部統制は本来法律による議論にはなじまないものであり、法律によって義務づけられる内部統制はミニマム・スタンダードに過ぎないという趣旨のことを発言されていました。
 ところが、先にSOX法と呼ばれる法律で内部統制を義務化したアメリカでは、すべての上場企業に対し画一的な重装備の内部統制システム構築を要求したため、企業はやみくもに業務マニュアルなどの書面化を要求されるなど、内部統制のために大変なコストをかけることを余儀なくされており、そのためアメリカの内部統制制度は大変評判が悪く、上場会社が市場から撤退したりイギリスの金融市場に流れたりしているそうです。
 一方、金融商品取引法の内部統制については、実施基準を作成した企業会計審議会の関係者もこういった事情は十分熟知していて、アメリカの二の舞にならないような制度設計をきちんとやっている、というのが八田教授の講演の主題でした。
 話の内容は良かったのですが、日本の内部統制制度が八田教授の考えているとおりの方向に進むかという点については、講演の内容を前提としても若干疑問符がつくと思います。その理由は次のとおりです。

1 実際に監査をする公認会計士が、アメリカ式の考え方に流されてしまう
 内部統制システムが適正であるかについては、財務諸表と同様に公認会計士・監査法人の監査を受けることになるわけですが、大手の監査法人では、日本には内部統制監査の基準が無いからと言って、アメリカの基準を日本語に翻訳したものを独自の基準として使用しているところがあるそうです。
 八田教授はこれを評して、「たしかに日本の実施基準には、ここまでのことをやれば免責されるといった小学生でも分かるような基準は設けていないが、評価項目や判断指針についてはちゃんと具体的な基準を設けている」といった説明をされていました。
 要するに、ある程度プロセスのあり方については例示しつつも、内部統制の具体的アプローチについては、経営者による自主的な取り組みを尊重するというのが制度の趣旨なのでしょうが、日本の公認会計士は社会の各方面から袋叩きにされ、会社法で株主代表訴訟の対象にされ、さらに今年成立した改正公認会計士法では粉飾決算に荷担した監査法人に対する課徴金制度まで設けられていますから、実際に監査をする公認会計士の立場からすれば、どうすれば自分たちに対する責任追及を逃れられるかという問題で頭がいっぱいになってしまい、内部統制システムに関する各企業の自主性を尊重する余裕など無いのではないかという気がします。
 それに、公認会計士はそもそも会計の専門家ではあっても、経営管理の専門家ではありませんから、各企業がその実情に応じて取り組む様々なタイプの内部統制について、その内容が適正であるかを合理的に判断することが本当にできるのかという疑問もあります。
 監査をする公認会計士に判断をする能力がなければ、結局「何をやれば免責されるか小学生でもわかる」アメリカ式の内部統制システムを企業に押しつけて、これでやってもらわなければ監査しないといった対応になってしまい、まさしくアメリカの二の舞になってしまうのが落ちでしょう。

2 監査方法の違い
 内部統制に関する報告制度については、日本でもアメリカでも、経営者が内部統制報告書を提出し、これに公認会計士が監査証明をするという形式になっていますが、実際に公認会計士が行う監査の内容は異なります。
 アメリカの場合、経営者が提出した報告書の内容が適正であるかを監査するだけでなく、実際に運用されている内部統制システムが適正であるかどうかを、公認会計士が直接監査すること(ダイレクト・レポーティング)も義務づけられており、今後の制度改革の方向性としては直接監査に一本化される見込みのようです。
 これに対し、日本の内部統制監査については、経営者の提出した報告書の内容が適正であるかを監査すればよく、いわゆるダイレクト・レポーティングの制度は採用しないこととされています。
 その理由としては、監査コストを節約できるというもののほか、日本ではアメリカと異なり監査役が業務監査を行うので、公認会計士が業務監査にあたるダイレクト・レポーティングを行う必要はないといったものがあったようですが、日本の監査役は資格制度もなく、伝統的に企業内での立場も極めて弱いといわれている中で、そもそも監査役の行う業務監査を信頼してよいのかという疑問があります。
 実際、最近話題になったライブドアの粉飾決算事件でも、違法性の疑いのある取引について監査役である弁護士が違法ではないという意見書を出し、結局監査役が粉飾決算にお墨付きを与えていたような報道がされていましたしね。
 八田教授自身、監査役による業務監査が現状において信頼できるとは言っておらず、むしろ日本の監査役による監査が信頼されるものになるよう最後のエールを送っているなどと発言していましたが、そのように現状において信頼できるとはいえないものを前提とした監査について、特に諸外国から実効性のある監査であるという評価を得るのは非常に難しいのではないかという気がします。

 また、アメリカと日本で内部統制監査のやり方が異なるということになると、日本の金融商品取引法による内部統制監査の結果はアメリカでは通用せず、同様にアメリカのSOX法による監査も日本では通用せず、その結果日米にまたがって事業をしている会社は両方の監査を受けなければならない、という事態になることも考えられます。そうなれば、監査コストの軽減どころか、むしろ無用な増大につながりかねません。

 結論としては、日本の内部統制報告制度は理念としては立派だと思うが、実務が理念通りに動くかどうかは大いに疑問だなということです。内部統制に関しては、今後もしばらくは混乱や試行錯誤の段階が続くように思われます。

2 コメント

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Unknown (通りすがり)
2007-07-15 01:09:33
はじめまして。
少し誤解をされているようです。
公認会計士は「会計」だけをやっているわけではありません。内部統制という分野は公認会計士の得意分野なのです。これまでも、財務諸表監査の一環として、企業の内部統制の有効性の程度を確かめ、その有効性の程度にあわせて実証的監査手続の計画を立てています。また、株式公開準備会社は公開審査上内部統制の整備が必要ですが、その内部統制整備の指導をしているのも公認会計士です。
まともな公認会計士が、内部統制の有効性を合理的に判断できない、ということはありえないと思いますよ。

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 それに、公認会計士はそもそも会計の専門家では
あっても、経営管理の専門家ではありませんから、各企業がその実情に応じて取り組む様々なタイプの内部統制について、その内容が適正であるかを合理的に判断することが本当にできるのかという疑問もあります。
Unknown (zzz)
2007-07-16 09:12:07
 会計監査についてはそうかもしれないけど、業務監査についてはどうなの?