原左都子エッセイ集

時事等の社会問題から何気ない日常の出来事まで幅広くテーマを取り上げ、自己のオピニオンを綴り公開します。

秘境大歩危・西祖谷タクシーの旅 (Part 1)

2013年09月02日 | 旅行・グルメ
 (写真は、徳島県三好市西祖谷のJR土讃線大歩危駅前の立食処にて撮影したもの。 参考のため、大歩危駅と隣の土佐岩原駅との間が徳島県と高知県の県境。)


 今回の私と娘の夏の終わりの旅は、徳島県と高知県の県境に位置する秘境大歩危・西祖谷方面を訪れる事を主たる目的としていた。

 私自身は徳島県北東部の海に近い地に生まれ育っている。 そのため、県西部山岳地帯の西祖谷地方を訪れる機会は数える程であった。 思い起こすに、小中学校の遠足や高知への修学旅行の道中や、大学の合コン、あるいは上京後帰省した折に家族旅行で訪れた場面が記憶に蘇る。 その後30年程の年月を経ての当地再訪問である。
 片や娘は東京に生まれ育っているため、今回が初めての西祖谷観光だ。 生まれてこの方山らしい山がない関東平野で生を営んでいる娘に、山岳の絶景を一目見せたい思いで県境付近の旅に誘った。


 さて山岳地帯の秘境を旅するに当たり、如何なる交通手段で移動するかが一番のキーポイントである。
 マイカーあるいはレンタカーを利用して旅するのが一番手っ取り早いのは承知だが、原左都子の場合車の運転から距離を置いて既に10年足らずの年月が経過している。 もはや車の運転席に座る事自体に恐怖感を抱くのは元より、山岳地帯の厳しいルートを運転する行為こそが命取りだ。 (私はともかく、明るい未来が待っている娘を犬死させてはなるまい。)  ここは公的交通機関に頼る選択をするのがベストであろう。

 そこで出発前に入念なネット調査を施したところ、二案が浮上した。

 その一つは「ボンネットバス」利用による団体観光ツアーだ。
 これに乗車すれば、5時間に渡り西祖谷の各所名所に誘(いざな)ってくれそうだ! 早速予約の電話を入れたところ、思わぬ落とし穴に遭遇した。 予約担当者曰く、「ボンネットバスはクーラーがありません。 当地でも猛暑日には乗車客の皆さんが相当暑い思いをされるようです。それをご承知の上での予約をお願いしております。」  以下は我が印象だが、(そうだったんだ…。だとしたら猛暑日には普通のクーラー装備観光バスを代替してくれたらいいのになあ~。) そう思いつつもまさかそんなことを提案できる訳もない。 結局、熱中症予防のため「ボンネットバスツアー」案は却下した。

 次なる候補は「タクシーツアー」である。
 こちらに関しては、前回郷里を訪れた際にその情報パンフレットを入手していた。
 航空便にて徳島到着後、上記パンフレット内に記載されている販売指定場所であるJRターミナル駅の“みどりの窓口”で上記タクシーチケットを入手しようとしたところ、係員氏がおっしゃるには「このタクシーチケットを取り扱うのは初めてです。」との事だ。  多少驚かされたものの、係員氏はパソコン画面をいじくりつつ何とか発券してくれた。  
 (このタクシー券、ほんとに現地で使えるのかなあ…)なる不安感を煽られつつも「これを大歩危駅でタクシー運転手に見せたらいいのですね?」と尋ねる私に、駅員氏は我が不安感の上塗りをする…  「もしかしたら、タクシー運転手自身が『タクシーツアー』の存在を知らない恐れもありますので、その際はお客様から手持ちのパンフレットを見せて説明して下さい。」

 地方の田舎って、そうだからこそ旅の醍醐味だよなあ。
 などと善意に解釈しつつ、徳島到着の次の日に我々親子はJR線を利用して西祖谷の旅へと向かった。

 
 JR鈍行便を利用して大歩危駅に到着したのがちょうど昼過ぎ。 
 予想以上に大歩危の地とは何もない田舎だったのと平行して、元々ネットで調査済みだった「蕎麦屋」を訪ねようとしたところ、その姿すらない…

 無人駅である大歩危駅の窓の掃除をしていた女性に、私は尋ねた。
 「この辺に、昼の食事ができる処はありますか?」 そうしたところ返ってきた答えに驚いた。 「手前味噌ですが、私が関与している店舗で立食をしているのでよろしければ訪問下さい。すぐそこです。」  その親切な言葉につられて行ったのが、上記写真の立食処である。
 これが感激なのだ!
 何処から来たかも知れぬ我が親子に、従業員の皆さんが懇切丁寧に対応して下さる。 そもそも立食処であるにもかかわらず我々二人に軽椅子を提供して、我々が見ている直前で“一食わずか350円”の「祖谷そば」を作って下さるのだ! しかもお茶は無料との事で、祖谷で取れ立てのお茶を臼で引いて何倍もお替りを勧めて下さる。
 極めつけは、目の前で作られた「祖谷そば」の何とも美味だったこと…  その味の感想を述べるならば、徳島出身の私ならではの特異性を承知の上で、我が母が過去に作ってくれた「うどん」の風味と共通項があり、薄味でまろやかだったことが実に印象深い…

 
 何はともあれ、大歩危駅到着直後に今回の我が旅行のプランにはない想定外の駅前地元の人々の人情に触れる事が叶った我々母娘の西祖谷方面旅行談は、次回に続きます。