8月13日(火):
238ページ 所要時間6:40 ブックオフ105円
著者56歳(1951生まれ)静岡市生まれ。久留米大学医学部卒。名古屋大学医学部精神科、愛知県心身障害者コロニー中央病院精神科医長、静岡大学教育学部教授などを経て、現在はあいち小児保健医療総合センター保健センター長。日本小児精神神経学会常務理事、日本発達障害学会理事などを務める。専門は児童青年期精神医学。
3度目である。最初は図書館の本として、2度目は6年前ブックオフで買った本を読んだ。当時、すでに印象的だったが、今回必要もあって読み返した。意外と時間がかかった。理由は明らかで、内容的に非常に意欲的で盛りだくさんであり、かつ著者の臨床例をたくさん載せてくれているからだ。
ただ本書の内容について、きちんとマスター、習得できたかと言われれば、これは怪しくなる。理由は前記したことに加えて、発達障害の症例を説明する用語が非常に難しく長いのと、多岐にわたり、複雑であるということだ。さらに、その複雑多岐な用語が、定着し切れず流動化している現状もわかりにくさに拍車をかけている。現に、本書で一章を設けている<アスペルガー>という用語は、その症例がなくなったわけではないが、今はASD(自閉症スペクトラム)と呼ばれることが多いようだ。
本書をテキストとしてきちんと読み切れば、発達障害に関する概略はわかる建て前になってはいるが、実際には頭のなかで抽象的概念がぶつかり合って実像を結ばないまま途方に暮れそうになる。しかし、逆に気になる子どもや人物を理解するために「この子は、あの人はどのタイプだろう」と具体的な対象を思い浮かべながら本書を読むと、途端に本書の記述は生き生きとしたイメージを伴なって読者を教え導いてくれるようになる。
その意味では、本書はまさに臨床に基づく説得力のある本である。理屈を闘わすだけの空中戦のために読めば空回りするだけかもしれないが、具体的目的・目標をもって本書を読むと相当レベルの説得力で唸らせてくれる本だと考える。
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非高機能、高機能を問わず広汎性発達障害に共通の対人関係の発達について触れておきたいが、略。同じ自閉症という診断でも、ずいぶん様子が異なる。略、対人関係で自閉症を孤立型、受動型、積極奇異型の三つに分けている。略。孤立型の自閉症とは、略。受動型とは、略。一般に、早期療育を行うと孤立型であった子どもも、徐々に受動型にタイプが変わっていくのが認められる。実は知的障害が若干あるくらいの受動型の自閉症は、一番仕事が出来るタイプでもあるのだ。積極奇異型とは人に積極的に、しかし奇異なやり方で接する自閉症である。知的な障害は軽いものが多いが、マイペースで、基盤に注意の障害を持っていて、多動であることが大きな特徴である。このグループも、小学校高学年になると多動が治まっててきて、人とのかかわりが進んでくると徐々に受動型に近いタイプに変化していく。89・90ページ
具体的な対象を思い浮かべながら読むと、あちこちの一節が深い味わいを持つ。また、世の中で出会ったり、起こっている様々な出来事や事件、いじめや校内暴力などを発達障害という視点から見れば、随分違って見えてくる。少なくとも印象は相当変わると言える。解決策も根本的に変わることになる。正直、ちょっときつい内容だなと思える部分もあった気がする。本書は理屈もしっかりしているが、より現実的な対応や取り組みを求める内容の書だと思う。
【目次】第1章 発達障害は治るのか/第2章 「生まれつき」か「環境」か/第3章 精神遅滞と境界知能/第4章 自閉症という文化/第5章 アスペルガー問題/第6章 ADHDと学習障害/第7章 子ども虐待という発達障害/第8章 発達障害の早期療育/第9章 どのクラスで学ぶかー特別支援教育を考える/第10章 薬は必要か
【内容情報】
言葉が幼い、落ち着きがない、情緒が不安定。そだちの遅れが見られる子に、どのように治療や養護を進めるか。長年にわたって子どもと向き合ってきた第一人者がやさしく教える。
6年前の記事を載せておく。
0053 杉山登志郎「発達障害の子どもたち」(講談社現代新書;2007) 感想5
2013年04月07日 02時41分10秒 | 一日一冊読書開始
(2013年)4月6日(土):
238ページ 所要時間3:30 ブックオフ105円
著者56歳(1951生まれ)。精神科医。
「アスペ・エルデの会」(軽度発達障害の会)創設者の一人。
2007年は、特別支援教育の完全実施元年である。
※「特別支援教育とは通常教育で行う特殊教育のことと考えるべきである」212ページ
本書を読むのは、
2度目である。前回は図書館の本だったが、その後ブックオフで105円で購入してあった。
今回の読書は、体調不良と読書開始時間の夜遅さで、失敗読書だった。しかし、立花隆が、「読むのをやめたくなっても、とりあえず最後までページだけはめくり続けろ。意外な収穫があるものだ。」と書いているのを思い出して、何とかページをめくり、線を引き、ページの耳を折って最後まで行けた。最後まで読めて良かったと思える。
知識の定着という点では難があったが、展開されている話は、医療現場、医療政策、発達障害の子どもたちと保護者、学校現場に対して、実践に裏打ちされた地に足のついた論が展開されている。それが巷間流布されている思いこみ・俗説の間違いを指摘し、正しいあるべき理解に無理なく導いてくれている。恐らく
、本書は、「発達障害の子どもたち」に関する正しい理解と認知を広げる最もスタンダードなテキストになるべき良書だと推奨できる。
著者は、
発達障害の児童・生徒の置かれている通常学級や特別支援クラス、特別支援学校の事情に非常によく通じている。そして、思い込みや俗説に対して明確な指針を出してくれる。選択の基準は、あくまでも「障害を持つ子供自身にとってプラスなのか、マイナスなのか」に尽きる。そしてその答えは、その時点の目先のニーズではなく、子どもたちが成人後にどういう結果になるかから逆算して今の選択を考えるべきだと説く。
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一般に小児科医は通常学級が好きであるが、これは成人になるまで子どもたちをフォローアップしていないからであると思う。これまで述べてきたように、成人に達した状態から逆に、今、何が必要かを考えたとき、通常学級に固執することは意味をなさない。201ページ
※一世を風靡したスウェーデンなどの
インテグラル教育(統合教育)も、古い考え方になってしまった感がある、ように感じたが…、その理解でよいのか。
本書が、発達障害者に対する<排除の論理>につながるのは、著者の本意ではない、と思う。統合教育との整合性を整理して欲しい。
【目次】*コピペです。
第1章──発達障害は治るのか
第2章──「生まれつき」か「環境」か
第3章──精神遅滞と境界知能
第4章──自閉症という文化
第5章──アスペルガー問題
第6章──ADHDと学習障害
第7章──子ども虐待という発達障害
第8章──発達障害の早期療育
第9章──どのクラスで学ぶか―特別支援教育を考える
第10章─薬は必要か