大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2017年05月15日 | 植物

<1964> 大和の花 (219) コバノミツバツツジ (小葉の三葉躑躅)                      ツツジ科 ツツジ属

                   

 今回からは花芽と葉芽が混在する冬芽(混芽)を有し、葉が枝先に3個から5個輪生するミツバツツジ亜属のツツジを紹介したいと思う。葉が枝先に3個輪生するミツバツツジの類は地域的変異が著しく、判別し難い個体もあるが、各種の特徴をうかがえば見分けられる。まずは大和(奈良県)に多く見られるポピュラーなコバノミツバツツジ(小葉の三葉躑躅)から紹介したい。

 コバノミツバツツジは海岸地から丘陵地、または低山帯を主に領域とし、日当たりのよいところによく見られる落葉低木のツツジで、高さは大きいもので4メートルほどになる。冬芽(混芽の花芽)は1センチほどの楕円形で、褐色の伏毛に被われ、時が来ると葉芽が現れる。枝先に3個輪生する葉は広卵形乃至は菱状卵形で、ミツバツツジよりも少し小さいのでこの名がある。

  花期は3月下旬から4月ごろで、葉の展開前に紅紫色の漏斗状の花を咲かせる。花は枝先に1個から3個つき、5裂する花冠は直径4センチ前後で、雄しべが5個のミツバツツジより多く、10個に及ぶ。花糸と花柱は無毛。子房には白い長毛が見られる。萼や花柄にも白い毛が密生する。実は蒴果で、初秋のころ裂開する。

  本州の静岡県西部、長野県南部以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では全域に見られ、二次林の雑木林やその林縁に多く、冬色が残る景色の中で明るく艶やかに春を告げる。コバノミツバツツジには3つのタイプが見られ、長野県南部から紀伊半島、中国地方、四国、九州に見られるものは実に真っ直ぐな剛毛が生え、狭義にはアラゲコバノミツバツツジと言われる。

 なお、 『万葉集』の高橋虫麻呂の長歌(巻6-971)に詠まれている龍田道(奈良県三郷町付近)の丘辺の丹つつじは桜花(ヤマザクラ)と同時に見られる花として詠まれているところからヤマザクラと花期を同じくするコバノミツバツツジではないかと考えられる。 写真はコバノミツバツツジ。左から奈良市東部の大和高原、矢田丘陵、生駒市の郊外での撮影)。  個々にある花は命の存在でそれぞれ未来を指して咲きゐる

<1965> 大和の花 (220) トサノミツバツツジ (土佐の三葉躑躅)      ツツジ科 ツツジ属

        

  ミツバツツジ亜属の落葉低木で、高さは2、3メートルになり、冬芽は長楕円形で1.5センチほど。枝先に葉身の長さが4センチから8センチの広菱形の葉を3個輪生する。花期は4月から6月ごろで、葉の展開前に紅紫色の漏斗状花を咲かせる。花冠は5裂し、直径3センチほどで、枝先に2、3個つく。雄しべは普通10個。花糸の下部には粒状突起がまばらにつき、花柱は無毛。子房には腺状突起があり、毛はないか、まばらにつく。実は蒴果で、秋に裂開する。

  本州の岐阜県西部、滋賀県東部、紀伊半島、四国の徳島、高知両県に分布する日本の固有種で、高知県の産地に因み、和名には旧国名の土佐が冠せられた。大和(奈良県)では襲速紀要素系の分布域に当たる吉野川流域の南側に集中して見られ、低地から標高の高い山岳の尾根筋まで自生している。大和(奈良県)に分布するものは、雄しべが「5~10本の間で変異し、7~9本であることが多い」(森本範正著『奈良県樹木分布誌』)という報告がある。 写真はトサノミツバツツジ(左から護摩壇山1300メートル付近、釈迦ヶ岳1650メートル付近、天川村700メートル付近)。コバノミツバツツジよりも花が密な印象を受ける。  黒揚羽意志まっしぐら渓を越ゆ

<1966> 大和の花 (221) オンツツジ (雄躑躅)                                        ツツジ科 ツツジ属

        

  ミツバツツジ亜属の落葉低木もしくは小高木で、大きいものでは高さが8メートルほどになる。花芽は1.6センチ前後の楕円形で、軟毛と腺毛が生える芽鱗は花後も残る。葉は菱状円形もしくは卵円形で、葉身は大小見られるが、大きいもので長さが8センチほどになる。先は尖り、紙質で光沢がなく、枝先に3個が輪生する。

  花期は4月下旬から6月ごろで、葉の展開前か同時にヤマツツジに似た朱赤色の漏斗状の花を咲かせる。花冠は5裂し、直径5、6センチで、上裂片に濃い斑点が見られ、枝先に1個から3個つく。花がヤマツツジに似るので間違われやすいが、葉の展開があれば、違いは容易にわかる。

  近畿地方南部から四国、九州に分布する日本の固有種で、普通海岸近くの山地に自生する。海に面しない大和(奈良県)では最南部の下北山村や十津川村の河川や渓谷沿いでわずかに自生しているのがうかがえる稀産種である。大和(奈良県)における分布はウンゼンツツジ(雲仙躑躅)に似るが、ウンゼンツツジとは自生場所を異にしている。どちらの領域にもモチツツジが見られ、モチツツジの勢力圏が思われる。

  オンツツジ(雄躑躅)の名は雄雌のおんとめんからもたらされたもので、フジ色を思わせる小柄な花を咲かせるフジツツジ(藤躑躅)のメンツツジ(雌躑躅)に対してつけられたもの。オンツツジはその名の通り、花がひと回り大きい印象を受ける。ツクシアカツツジ(筑紫赤躑躅)はオンツツジの別名で、メンツツジの別名ヒュウガツツジ(日向躑躅)の名からは筑紫美男と日向美女が想像され、その名への思い入れが伝わって来る。 写真は下北山村の渓谷沿いに稀産するオンツツジとその花。  若葉とは萌ゆるべくある存在感まさに日差しを浴びて輝く

<1967> 大和の花 (222) シロヤシオ (白八汐)                                          ツツジ科 ツツジ属

         

 山地の疎林内やブナ林下、あるいは岩場に自生するミツバツツジ亜属の仲間で、落葉低木乃至は落葉高木で、大きいもでは高さが8メートル以上に及ぶ。古木になると幹の樹皮が細かくひび割れマツ(松)に似るので、マツハダ(松肌)の別名がある。また、枝先に卵状菱形の葉が5個輪生することから、ゴヨウツツジ(五葉躑躅)とも呼ばれる。ゴヨウツツジは敬宮愛子さまのお印で知られる名である。

 花期は5月中旬から6月ごろで、葉の展開とほぼ同時に白い漏斗状の花を枝先に1個から3個つける。花冠は5裂し、上裂片に緑色の斑点が入るものと入らないものがある。雄しべは10個、葯は黄色、花糸の基部以外は無毛で、爽やかな印象の花である。シロヤシオ(白八汐)の名はこの白い花によるもので、アカヤシオ(赤八汐)と対の名として知られ、八潮染めに由来する。

 本州の岩手県以南の太平洋側と四国に分布する日本の固有種で、大和(奈良県)では吉野川流域以南の主に山岳に見られ、標高1200メートル以上の大台ヶ原山の一帯や大峰山脈の尾根筋に多く自生している。この花が咲き始めると大和の山岳は夏を迎える。

 なお、御杖村の三峰山(みうねやま・1235メートル)ではシロツツジの名で呼ばれ、花期には花を目的に訪れる人も多い。大台ヶ原山の一角では白い花に淡紅色の太い条が入る個体が点在して見られ、私はオトメツツジ(乙女躑躅)と名づけて呼んでいるが、花の時期に紅色系のヤマツツジ(山躑躅)やアケボノツツジ(曙躑躅)がすぐ近くでほぼ同時に花を咲かせるので、自然交配した可能性も考えられる。

                                            

 上段の左3枚の写真はシロヤシオの花(天川村の大峯奥駈道、標高1400メートル付近)。上段の右端の写真は花冠の裂片に淡紅色の太い条が見える花。登山道の傍で3本ほど見られる(大台ヶ原山)。下段の写真は近接して花を咲かせるシロヤシオとアケボノツツジ(2017年6月10日、大台ヶ原山石楠花回廊付近)   大峰の夏の扉を開くごと五葉躑躅の白妙の花