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《7》南京大虐殺・疑わしい殺人事件

2015年07月19日 | 南京大虐殺
最終更新:2018.10.17



「南京安全地帯の記録」に収録された殺人事件の中に、日本兵の犯行であるかどうか疑わしい事案があるので列挙し、考察する。




《記録された殺人事件の一覧》

下表は収録された全ての殺人事件である。犠牲者の総数は53人。


・第1部、第2部の区分については前記事参照
・事件番号の重複があるのは、ひとつの記述の中に複数の事件が含まれているからである
・夫、主人とあるのは妻である女性への強姦事件に関連している
・娘、婦人とあるのは強姦事件に関連している




《疑わしい殺人事件》

もし以下の事件が「日本兵による殺人事件」ではないならば、日本兵の犯行とされうる市民殺害の犠牲者数は39人に減ることになる。



次の事件は読めばわかるように、「適法な処刑については抗議しないが、給水源を汚染するのはやめてくれ」と苦情を言っているのであって、記録者自身も市民殺害事件とは認識していない。

(事件番号185)
一月九日の朝、クレーガー氏とハッツ氏は、安全地帯内にある山西路の池で、その池はちょうど中央庚款大廈の真東にあるのだが、日本兵の将校と兵士が市民の服装をした哀れな男を処刑するところを目撃した。クレーガー氏とハッツ氏が現場に着いた時、男は氷が割れて揺れ動いている池の中で腰まで浸かって立っていた。将校が命令すると、兵士は砂嚢の後ろに体を伏せ、男に向かって発砲した。弾は男の肩に当たった。二度目を発砲したが外れ、三度目の発砲で男は死んだ。(クレーガー、ハッツ)
(注)我々は日本軍による適法な処刑について抗議する権利はないが、これは確かに非能率で残酷な方法で行われている。また、このような処刑方法は、我々がこれまで日本大使館員達との個人的なやりとりで、何度も言ってきたような問題を引き起こすのである。つまり、安全地帯内の池で人を殺すのは、池の水を汚染し、そのため地帯内の住民への給水源が深刻に減少をきたすのである。このところの長期にわたる日照り続きと市による水の供給が遅れている際に非常に深刻な問題である。


次の事件は一週間前の事件の伝聞の伝聞という形式であるため、犯人が日本兵であるかの確定が難しい。

(事件番号198)
一月十九日、現在フォースターや私と同居している尼僧の報告によると、六十五歳になる彼女の叔父、朱氏という男が日本側に指定されたとある場所に米を買いに行ったところ、まず、路上で日本兵に強奪され、それから、刺殺されたとの話を、昨日聞いた。この事件が起きたのは約一週間前のことで、叔父は米を買いに出かけたが戻ってこず、彼らは叔父の身に何が起こったのか知らなかったのである。(マギー)


夏淑琴さん事件(事件番号219)については次項に詳述。


また、次の事件も殺害方法が通州事件を連想させ、日本兵の犯行かどうか疑わしい。また、文責者の記載も犠牲者名の記載もないので、事件の実在性も疑われる。
(傾向として、第2部の事件は被害者名が記載されている場合が多い)

(事件番号303)
一月三十一日、四象橋で六十過ぎの老婆がまず強姦され、次に銃剣で膣を刺されて殺された。





《夏淑琴さん事件》

これは有名な夏淑琴さん事件である。一般的には、陥落時に城内になだれ込んだ日本兵の犯行とされている。

(事件番号219)
ジョン・マギー氏が聞いた話によれば、十二月十三日から十四日にかけて、南市のある家族十三人のうち十一人が日本兵に殺され、女達は強姦されて手足を切断された。二人の小さな子供が生き残りこの話を語った。(マギー)


しかし、以下のような事実がある。

1)文責者のマギーは東京裁判で次のように述べている。つまり、陥落直後に聞いた話ではない。

「1月の終り頃になりまして、私は南市の方へ参りまして沢山の街で色々な事件が起ったのを承知したのでありますが、其の中で特に私の申し上げようと思いますのは、新開路六番地の家で起った事件であります」


2)この事件番号219が収録された文書は、1938年1月31日付けの「第五十六号 現在の情勢に関する覚え書き」である。(ちなみにそのひとつ前の第五十五号は前日1月30日付)

3)国際委員会のラーベ委員長は1月29日の日記にこう書いている。

「マギーが八歳と四歳の少女を見つけた。親族は11人だったというが、残らず残忍な殺され方をしていた。近所の人々に助け出されるまでの14日間、母親の亡骸のそばにいたという話だ。姉娘が家に残っていたわずかな米を炊いて、どうにか食いつないでいたという」


4)マギーは撮影した写真の解説にこう書いている。

「12月13日、約30人の兵士が南京の東南部の新路口五のシナ人の家にきて、中に入れるよう要求した。玄関を、マアという名のイスラム教徒の家主が開けた。すると、ただちに彼らはマアを拳銃で殺し(中略)その八歳の少女は傷を負った後、母の死体のある隣の部屋に這って行った。無傷で逃げおおせた四歳の妹と一緒に、この子はここに十四日間居残った」


5)そして、次のような指摘がある。

夏淑琴さん家族の同居の家主がイスラム教徒だったならば、イスラム教徒は旧暦を使うので、そうであれば少女(夏淑琴さん)が証言した12月13日という事件発生日とは、実は翌年の1月14日になる。


そうすると、発見されたのが1月29日頃、事件発生が1月14日頃で、八歳の少女(夏淑琴さん)の「14日間居残った」という証言と一致する。この頃にはもう中国人による南京自治委員会も立ち上がり、多くの日本軍も各地に転進し、該当地区には第33連隊がいただけである。

つまり、事件を近所の人が発見してからマギーに伝わるまでに一ヶ月かかったという解釈よりは、証言が旧暦のために誤解があるものの近所の人が発見してから直ちにマギーに伝わった、と解釈する方が自然。なにしろ、「安全地帯の記録」の中で最多の犠牲者を出した殺人事件である。発覚後に現場付近でも大騒ぎになり、たちどころに国際委員会まで伝わったと考える方が話の整合性を感じる。

また、1月中旬ともなれば安全区に避難していた住民が元の住居へ帰還した時期である事実とも符合する。さらに、「手足を切断」という殺害方法が通州事件を連想させる。

ちなみに、東京裁判で南京事件について証言した「黄俊瑯」氏が「旧暦」で証言しているのを見つけた。彼は敗残兵として安全区に潜伏しながら、幸運にも生き延びた人物である。「旧暦での証言なんてありえない」という反論への反論。




なお、民国17年(1928年)当時の地図によると、夏淑琴さん事件があったとされている「新路口」とは下図の場所となる。南京城南側の中華門の近く。






《強姦殺人事件全般について》

殺人事件の半数近くは強姦絡みである。どの事件が怪しいとは特定しないが、特に夜間の犯行については夜間外出禁止令が出ていた日本兵の犯行かどうか怪しいこと、さらには次の記事にあるように中国人による強姦・暴行事件も多発していたことから、全てを日本兵の犯行と看做すのは適切ではない。

「皇軍の南京入城以来、わが将兵が種々の暴行を行なつているとの事実無根の誣説(ぶせつ)が一部外国に伝わっているので、在南京憲兵隊ではその出所を究明すべく苦心探査中のところ、このほど漸くその根源を突き止めることが出来た。この不逞極まる支那人は、日本語に巧みな呉堯邦以下十一名で、皇軍入城後日本人を装ひ、わが通訳の腕章を偽造してこれをつけ、…三ヶ所を根城に、皇軍の目を眩ましては南京区内に跳梁し、強盗の被害は総額五万元、暴行にいたつては無数。…襲はれた無辜(むこ)の支那人らは、いずれも一味を日本人と信じきつていたため、発覚が遅れたものであるが、憲兵隊の山本政雄軍曹、村辺繁一通訳の活躍で検挙を見たものである」(大阪朝日新聞1938年2月17日付)





《敗残兵の摘出と処断》

敗残兵の処断は、市民殺害とは区別すべきである。次の事件(62)は敗残兵摘出の場面のトラブルだと思われるが、「老女一名」は市民殺害としても、「男性一名(二十五歳)」は敗残兵である可能性がある。

(事件番号62)
十二月十八日、陸軍大学難民収容所の報告。十六日に二百名の男子が連行され、たった五人しか帰らなかった。十七日に二十六人の男子が連行された。十八日に三十人が連行された。掠奪されたもの、お金、カバン、一袋の米、四百枚以上の病院のシーツ。さらに男性一名(二十五歳)が殺され、老女一名突き倒されて二十分後に死亡す。






主要参考文献:

南京事件の核心―データベースによる事件の解明(冨沢 繁信)
http://www.amazon.co.jp/dp/4886562361

「南京安全地帯の記録」完訳と研究(冨沢 繁信)
http://www.amazon.co.jp/dp/4886562515



《関連記事》

「南京大虐殺の真相」
http://blog.goo.ne.jp/zf-phantom/e/eaacb2fee7e20c9adc4799020776c9d1






改版履歴:
2017.02.26 夏淑琴さん事件について追記。
2017.03.03 夏淑琴さん事件の現場?を追記。
2018.10.17 夏淑琴さん事件の現場を修正。

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