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北朝鮮ミサイルのコース

2017年08月29日 | 安保・国益
改版履歴:
2017.09.15 9月15日午前7時頃発射のミサイルについて追記。
2017.09.16 一部を変更して《Jアラートの“誤報”が免れない理由》を新設。
2017.09.18 《発令時に日本着弾判定が困難な理由(技術編)》を追記。



北朝鮮がミサイルを連射している。今後も続く可能性があるので、コース選定の背景と、各飛翔コースの簡単な解析を行った。




《北朝鮮が威嚇でミサイルを撃てそうなエリア》

北朝鮮が威嚇としてミサイルを撃てそうなエリアを考察した。




条件は次の通り。

1)米国、ロシア、中国の本土上空を通過させない。
2)米国領島嶼の上空通過と近海着弾を避ける。
3)米軍基地のある沖縄上空通過を避ける。
4)日本近海への着弾は避ける。(ただし、日本列島上空通過は許容)

理由はいうまでもなく、米軍からの本気の即応的な反撃を回避し、ロシアや中国との深刻な対立を招かないようにするため。

※2016年2月7日に北朝鮮は沖縄越えのミサイルまたはロケットを打ち上げているが、その際には北朝鮮自身は「地球観測衛星光明星4号のロケット打ち上げ」と称し、打ち上げ予定時期と落下予想区域を事前発表するなど、軍事攻撃と勘違いされないような“配慮”をしていた。




《コース選定の考察》

A)北海道越えなら飛距離の性能限界とされる10000kmを試せる。
B)東北越えの場合、ハワイ、その手前にミッドウェー島があるので誤解されないためには飛距離が出せない。
C)関東越えはウェーク島があるのでさらに距離が出せないが、そもそも関東地方には首都東京と、米軍基地も多いのでハイリスク。
D)グアム西側の海域は、沖縄攻撃と誤解されないためにはエリアがかなり狭い。また、フィリピン海は商船の密度も高いと思われる。さらには、このコースだと韓国の方向に撃つことになるため第二次朝鮮戦争勃発のリスクがある。

従って、本気で開戦しないようにしつつ、ハワイへの威嚇と飛距離性能の誇示を狙う場合は、今後も今回(8月29日)と同様に津軽海峡越え、あるいは北海道南部越えのコースを狙ってくる可能性が高いと考える。

※1998年の北朝鮮によるミサイル発射実験でも、発射されたテポドン1号は津軽海峡付近から日本列島を越えるコースを飛行し、第一段目は日本海に、第二段目は太平洋に落下した。




《日本への配慮コース》

8月29日の飛行コースは、ミサイルにトラブルがあっても日本への被害が出にくいように津軽海峡を通るコースを選んだのではないかとの観測も流れている。
もし、そうであれば北朝鮮領内での射点でコースを調整するしかないから、さらにエリアが狭まる。




※ミサイル発射時間帯が早朝なのも、付近を飛ぶ旅客機が最も少ない時刻を選んでいるからだ、という指摘もいただきました。

その“気配り”が有効なら、発射時間帯もある程度予測できる。

1)日本近海着弾:発射時刻5〜7時。
2)ハワイ付近着弾:ホノルル時間6時着弾、飛行所要時間30分、日本時間24時30分頃発射。





《2017年8月29日午前6時》

8月29日、北朝鮮が日本列島越えのミサイルを発射した。今回は襟裳岬の東方約1180キロの太平洋上に落下したとのこと。

【北ミサイル発射】北朝鮮が弾道ミサイルを発射 日本上空を通過 菅官房長官「これまでにない深刻かつ重大な脅威」 - 産経ニュース
http://www.sankei.com/politics/news/170829/plt1708290006-n1.html


東北と北海道を中心にJアラートが鳴った。これについて一部から「着弾位置が遠かったのにJアラートが鳴る範囲が広すぎる」との批判があったが、それに対する識者の説明を絵にした。
なるほど、それほど早い段階で鳴らすのなら範囲が広くなっても当然。




こういう予測は非常に難しい。特に多段式エンジンのミサイルだと一旦失速してもまた再加速するし。だから、着弾予想範囲を絞り込もうとすれば観測時間を長く取る必要があるが、そうすると残された避難時間がなくなる。かと言って、打ち上がった直後に躊躇なく鳴らせば狼少年状態になってしまう。現状で、ほどよいバランスだと思う。

なお、私の手元にある情報では、以下のように6:02の避難指示の後に、6:14にミサイル通過の続報が来ていた。

【発表時間】2017年08月29日 6時02分 政府発表
【内容】ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射された模様です。頑丈な建物や地下に避難して下さい。
【対象地域】北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、新潟県、長野県

【発表時間】2017年08月29日 6時14分 政府発表
【内容】ミサイル通過。ミサイル通過。先程、この地域の上空をミサイルが通過した模様です。不審な物を発見した場合には、決して近寄らず、直ちに警察や消防などに連絡して下さい。
【対象地域】北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、新潟県、長野県





《Jアラート発令範囲の詳細》

8月29日にJアラートが発令された都道府県から、自衛隊が発令の時点(6:01のデータ)で予測したであろう着弾範囲を逆算するとこうなる。
ポイントは、長野、群馬、栃木、茨城が含まれて、石川、富山、埼玉が外れてるところ。飛翔方向はきっちり読めていたと仮定して。




ただし、実際の運用では「ミサイルの予想進路を基に、あらかじめ九つに分類したエリアの中から地域を選び送信される」とのこと。

Jアラート:ミサイル予想進路を分類 - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20170916/k00/00m/040/157000c




《もし着弾コースだったら?》

もし8月29日のミサイルが日本着弾コースだったとしたら、次のような計算が成り立つ。

最高高度が函館上空付近で6:06頃だったので、それを着弾時刻と仮定すると、、、やはりA=6:01の時刻のデータで判断して、6:02にJアラート発令し、国民の避難時間は残り4分。
Jアラートの内容を理解するのに1分要すれば、避難に使える時間は残り3分。このくらいの配分になるだろう。







《Jアラートの“誤報”が免れない理由》2017.09.18改版

「発射時点で日本列島を飛び越えるとわかってるのだからJアラートを発令するな」という声が意外に多いので、考察してみる。

まず最初に、「弾道ミサイルの発射」は「砲弾の射出」とは全く違うということを理解する必要がある。
砲弾の場合は、初速と方向で着弾地点はおおよそ算出できる。ところが、弾道ミサイルの動きはそれとは異なる。概略は次の通り。

(1) 垂直に打ち上げる(=発射)
(2) 徐々に目標方向に軌道を傾けて加速しながら高度を上げていく(=加速工程)
(3) 弾頭を切り離して自由落下状態に入る(=自由落下工程)


問題は、(2)の加速工程がいつまで続くかは外部からの観察ではわからないこと。レーダー等で監視しているだけでは、それが1段式ロケットエンジンなのか2段なのか3段なのか、あるいは燃料の残量はあとどの程度なのかなど、わかるはずもない。

(3)の自由落下工程に入れば、それは砲弾や野球ボールの動きと同じだから着弾予測は容易になる。




Jアラートの発令判断に1分〜1分半程度要するとされている。監視データからの演算や人の判断、操作などにその程度の時間を要するということだろう。そして、Jアラートを聞いた国民の避難猶予時間も必要。地理的制約(=北朝鮮との距離)もあるが、可能なら2分以上は欲しいところ。合計3〜4分以上必要。

そうすると、ほぼ自動的に「国民のために残された発令判断リミット(A)」というのを設定できる。このリミットを割ってしまうと、国民の避難猶予時間がなくなるということである。

発射されたミサイルがロフテッド軌道であれば、「発令判断リミット(A)」を自由落下工程に入った状態で、上から下に抜けてくる。この場合は、精度の高い落下地点の予測が可能なので、“誤報”になりにくい。

しかし、日本列島に着弾あるいは超えてくるコースの場合は予測が難しい。

すなわち、「発令判断リミット(A)」を下から上に抜けてくるので、どこに着弾するかはロケットエンジンの推力がいつまで続くかにかかっている。ただちに推力が失われれば(不慮の故障や爆発なども含む)日本に着弾するだろうし、そのまま加速していってくれれば日本列島を超えていくかもしれない。

もし、確実に日本に着弾することが判明した時点(=自由落下工程)でJアラートを発令しようとすると、地域によっては避難が間に合わない。なぜなら、着弾の3〜4分前には発令判断(=A)したいところだが、北朝鮮からの飛翔時間自体が地域によって4分弱〜8分程度であり、自由落下工程はその半分程度の2分弱〜4分弱くらいしかないから。

従って、Jアラートの発令判断(=A)はミサイルの上昇中にならざるを得ず、現実的にはJアラートの“誤報”の可能性は免れない。

理論上の話としては地域限定で着弾確定アラートは出せるはず。例えば、東京ならミサイル飛翔時間は約7分と想定されるから、着弾3分前なら自由落下工程に入っていると思われるので、避難猶予時間を1〜2分残して着弾確定アラートを出せる(はず)。
ただし、それが可能なのは、東京を含む東日本の太平洋岸、北海道、沖縄などの地域限定になると思われる。また、それを実現するために人、モノ、カネを投資するかどうかは別の話だし、避難猶予時間が1〜2分でいいのかどうかもまた別の話。


※より技術的な説明を求める方向けに、この記事の末尾に《発令時に日本着弾判定が困難な理由(技術編)》を掲載しました。




《2017年9月15日午前7時》

また、北朝鮮が同様のコースにミサイルを発射した。

北朝鮮がミサイル発射 襟裳岬の東2000キロに着水 - 産経ニュース
http://www.sankei.com/world/news/170915/wor1709150006-n1.html




前回(8/29)と比較しての、今回の特徴は次の通り。

1)自衛隊・政府が、Jアラート発令判定を発射後2分まで縮めてきた。(前回は3分)
2)Jアラート“通過”発令も早い。前回は着水後だったが、今回は領空通過後に直ちに“通過”発令をした様子。
3)ミサイルの上昇速度が速い。前回は、上昇と降下の所要時間が3:2だったのに、今回はほぼ同じ。前回と同じ機種のミサイルであったとするならば、積荷がほとんど空っぽだったなどの差異が考えられる。

【発表時間】2017年09月15日 7時00分 政府発表
【内容】ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射された模様です。建物の中、又は地下に避難して下さい。
【対象地域】北海道 青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県 茨城県 栃木県 群馬県 新潟県 長野県

【発表時間】2017年09月15日 7時07分 政府発表
【内容】ミサイル通過。ミサイル通過。先程のミサイルは、北海道地方から太平洋へ通過した模様です。不審な物を発見した場合には、決して近寄らず、直ちに警察や消防などに連絡して下さい。
【対象地域】北海道 青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県 茨城県 栃木県 群馬県 新潟県 長野県





《着弾記録》

おおよその着弾点の記録。






《実戦を想定した避難猶予時間》2017.09.15改版

開戦の可能性が高まっている雰囲気も感じられるので、実戦を想定した避難猶予時間の試算を行った。

9月15日の北海道越えの飛翔データ(=発射から函館上空までの到達時間=1,300km/8分)を元に、全国主要都市と最寄りの北朝鮮領内までの距離の比で算出してある。
諸々の条件(ミサイル機種、弾頭重量、軌道、Jアラート判定所要時間など)によって変わるので精密な見積もりはできないが、参考にはなるはず。


8月29日に比べると、9月15日は自衛隊・政府がJアラート発令判定を発射後3分から2分まで縮めてきたので、全国ほぼどこでも数十秒以上の避難時間が確保できそう。
ただし、表には含めていないが、島根県の隠岐諸島(520km)で+10秒、長崎県の対馬(450km)では残念ながら−10秒。



弾道ミサイル落下時の行動について(内閣官房 国民保護ポータルサイト)
http://www.kokuminhogo.go.jp/kokuminaction/index.html






《核の実弾威嚇射撃の可能性》2017.09.14追記

金正恩は米国が本気の軍事的反撃に出ないギリギリを探ってきている。今回の安保理の新たな制裁決議(安保理決議2375号)に対してさらに挑発をエスカレートさせるなら、核の実弾威嚇射撃の可能性が考えられる。大気圏内核実験と先制核攻撃の中間。

考えられるコースと着弾位置は冒頭の図の通り。このエリアなら、米軍が威嚇と判断して迎撃しないであろうから。もちろん、海上ではあっても核の実弾射撃であれば付近の航空機や船舶は蒸発したり被害が出る可能性がある。金正恩が、そこを最後の交渉ポイントと決断する可能性。

ただし、これは可能性のほぼ上限であり、核の実弾威嚇射撃の可能性が高いと言いたいわけではない。


(2017.09.22追記)

やはり、太平洋上での水爆実験を言い出した。事態の推移が早すぎるので、かなり危険な状況に思える。

北朝鮮外相、太平洋でかつてない規模の水爆実験示唆=聨合ニュース
https://jp.reuters.com/article/northkorea-thermonuclear-test-idJPKCN1BX058








《発令時に日本着弾判定が困難な理由(技術編)》2017.09.18追記

Jアラート発令判断時点で日本着弾判定が困難な理由を事例を用いて説明する。

下図は識者による北朝鮮の銀河3号のシミュレーション結果を拝借し、模写した上で一部加筆したもの。オリジナルはこちら




考察1:
[A]で、第2段エンジンに点火したかどうかはδAの判別に依存するが、差分が10%程度しかなさそうなので、観測誤差を考えると断定は難しそう。もし、[A]が3分未満ならほぼ不可。実際に、9月15日には[A]を発射後2分まで前倒ししている。

考察2:
[B]では、δBが2倍もあり、さらに高度もかなり違うので、国内着弾の有無は確実にわかるだろうし、迎撃する場合の軌道の割り出しも正確にできそう。自衛隊としては、おそらく[A]と[B]の間のどこかで確度の高いデータを得ているものと推測する。

結論:
上記は、銀河3号という個別事例による考察だが、いざ発射された時点でミサイルの機種やスペックが判然としない状況では、[A]の時点(発射2〜3分後)に日本着弾判定は極めて困難、あるいは不可能であることがわかる。






以上。




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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2017-09-16 19:43:03
要点がマトメられていて、非常に分かりやすいです!

しかし、本当に北朝鮮と日本は近すぎます。
北朝鮮について危惧するのは、「滅びるなら日本も巻き込む」という破れかぶれの弾道弾攻撃だと思います。

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