カルテは誰のもの?

2018-01-30 20:21:22 | Weblog

大部分の人が、自分のカルテは自分や医師の物と考えている。https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/178587/

前田まゆみ 著 「診療録の法的考察」  医学教育 2005 36:153

https://www.jstage.jst.go.jp/article/mededjapan1970/36/3/36_3_153/_pdf

 

世界医師会 「リスボン宣言」 によると

患者の健康状態についてのあらゆる情報は全て秘密として守られなければならない。そして、その情報は、患者の同意か、法律の明確な規定がある場合に限り開示できる。

https://www.wma.net/policies-post/wma-declaration-of-lisbon-on-the-rights-of-the-patient/

 

ところが医療機関に対して、厚生労働省が行う個別指導(健康保険法73条)では、一度に最大20人分のカルテを全て検査させるようお願いされ、協力を求められる(個人情報保護法 第234項 下参照)。 個別指導でカルテ検査を行うことは法律に明確な規定がないから、と断ったらどうなるか? すると、その場合、個別指導を中断するとの内規があり、いつでも再開できるHOTな状態に宙吊りとなってしまう。(トップ画像)

 厚生支局は、いつでも指導に用いる20人分の直近のレセプトを調査し、呼び出しをかけることができる。 冠婚葬祭や病気以外で欠席すると、監査の対象となる。 監査の実態は家宅捜索に近い。 カルテも押収されてしまう。

監査を断わるには、

憲法35条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利

令状により、これを行ふ。

を主張するか、保険医療機関の登録を抹消するかしかない。

 

 だから、医療機関としては、「リスボン宣言」はどうなるのだ! と思っても、協力したことにして、患者に無断でカルテ開示して、特別監視対象になることを避けたい。

これが現状だ。

患者団体などが、プライバシーを侵された、との訴訟を起こせば通るかもしれないが、最高裁までかかるだろう(下の参考法・判例参照)。

 そもそも、保険診療では、医療機関が保険者へ金を請求し、紙1枚程度の情報で、支払いをしてもらえる。 不正の温床とならないよう、チェック機能がないと、国民医療費が割高になってしまう(万引きの分、物の値段が高くなってしまうのと同じ)。 

国民は割高な医療保険料に耐えるか、行政によるプライバシーの侵害に耐えるかの2者択一を迫られることになる。

では現在の制度を抜本的に改革して、新しい法律で新しい制度を作っては、と考える人もいるだろう。

  でも、国会賛成多数で、そこに待っているのは、おそらく、アメリカのような制度、自由の国アメリカとしては信じがたい制度である。

テロ対策のため、令状なしで、オンラインでカルテ検査可能、しかも、情報開示したことを患者本人にも伝えることは禁止である。 オンラインカルテは行政機関のみならず、審査を委託した民間業者にも開示される。こうして医療費は効率的に、大幅に圧縮可能となる。

 

Kathryn Watson “No, Your Medical Records Are Not Private”

The Daily Caller 10:12 PM 10/19/2015

http://dailycaller.com/2015/10/19/no-your-medical-records-are-not-private/

 

American Civil Liberties Union, ”FAQ on Government Access to Medical Records”

ACLU、直訳で「アメリカ市民自由連合」)

https://www.aclu.org/other/faq-government-access-medical-records

 

だから、医療機関は、指導で使う、患者リストが通知され次第(指導の1w前)、患者に以上の事情を説明し、了承してもらった上で、個別指導に臨み、了承してもらえなかった分については、その事情を担当官に伝えることが望ましい。

 

 参考法、判例;

個人情報保護法 第234項 法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合、 例外的に本人の同意を得ないで、個人データを提供できる。

コメント:協力の必要性の是非をめぐり、医師・患者間で紛争が起きる可能性がある。

 

広島高裁岡山支部 H20.6.26 判決 H19(ネ)204号

個別指導は一般の行政指導と違い、国民の医療負担の適正化を目的として、特別法で定められた指導である。

その目的を達成するため、指導の方法は行う者の裁量で定めることができる。

コメント:これを否定するには、最高裁まで行く覚悟が必要

 

http://kraft.cside3.jp/verwaltungsrecht15-6.htm

最高裁判決 最二小判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁(Ⅱ-160) 

いわゆる国民皆保険制度が採用されている我が国においては、健康保険、国民健康保険等を利用しないで病院で受診する者はほとんどなく、保険医療機関の指定を受けずに診療行為を行う病院がほとんど存在しないことは公知の事実であるから、保険医療機関の指定を受けることができない場合には、実際上病院の開設自体を断念せざるを得ないことになる。

コメント:厚生支局による個別指導の保険医療機関の指定に及ぼす効果及び病院経営における保険医療機関の指定の持つ意義を併せ考えると、この個別指導は、行政事件訴訟法3条2項にいう『行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為』に当たる との判決を引き出せる可能性がある。

 

参考資料;

保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について - 厚生労働省

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/dl/shidou_kansa_11.pdf

 

指導編など開示請求で明らかになった文書は

保険医・保険医療機関への誰でもできる個別指導対策マニュアル http://siennet.jp/sidou_taisaku/

 

世界医師会 「リスボン宣言」  日本医師会和訳を参考に 由太郎が和訳を改正

8.守秘義務に対する権利

患者の健康状態、症状、診断、予後および治療について個人を特定しうるあらゆる情報、ならびにその他個人の情報は全て秘密として守られなければならない。患者の死後も守られなければならない。ただし、患者の子孫には、自らの健康上のリスクに関わる情報を得る権利もありうる。

b. 上記の秘密情報は、患者が明確な同意を与えるか、あるいは法律に明確に規定されている場合に限り開示することができる。情報は、患者が明らかに同意を与えていない場合は、厳密に「知る必要性」 に基づいてのみ、他の医療提供者に開示することができる。

 

原文:

https://www.wma.net/policies-post/wma-declaration-of-lisbon-on-the-rights-of-the-patient/

All identifiable information about a patient’s health status, medical condition, diagnosis, prognosis and treatment and all other information of a personal kind must be kept confidential, even after death. Exceptionally, descendants may have a right of access to information that would inform them of their health risks.

Confidential information can only be disclosed if the patient gives explicit consent or if expressly provided for in the law.


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