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毎週小説

一週間ペースで小説を進めて行きたいと思います

陶磁器探求 3

2007-02-11 20:24:02 | 手記
浜田庄司、島岡達三、この人間国宝二人を輩出した陶芸の里益子、やはり関東での一番手は益子焼ではないでしょうか。
元々生活用の雑器を地道に作っていた益子に、イギリスで個展を成功させた浜田庄司が移り住み、河井寛次郎、柳宗悦らと共に民芸運動を起こし、この地にも民芸益子という新風を吹かせました。
日常生活の中での美を追求した陶芸家といえると思います。
以前は肉厚でぽってりした物が代表的でしたが、近頃は多数の現代作家が個性溢れる作品を、作家物専門店に展開する等、大きく様変わりしています。
また4月から5月にかけての連休は、他の産地もそうですが、益子も年最大規模の陶器市が開催され、大変な賑わいを見せます。
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もう一つの春 32

2007-02-11 10:33:24 | 残雪
春子はされるがままに任せていた。寺井の指が時折きわどい部分に触れる事もあったが、やはり懐かしさが先にたって嬉しい気持ちが上回っていた。
タクシーが一台停まっているのが見えたのでそれに乗ったが、手をずっと握ったままで、景色を眺めるよりも気持ちが昂ぶり、体を寄せ合い、何も語らない分求め合う意識が強かった。
10分程乗るともう目的の旅館に近づいていた。
「女将さんはいま忙しいので、後で挨拶に来るから先に旅館に連れて行く様に頼まれたの」
春子はそう言って先に車を降り、森の中としか見えない雪の木立の間をどんどん歩いていく。
「すごい景色だね、本当にここ旅館なの?」
「そうよ、六千坪もあるんだから」
笑いながらとても楽しそうな彼女の歩く姿を、後ろから着いていく自分はどういう存在なのだろう、と寺井は訝った。
真ん中に池があり、そこを囲むように古い木造の建物が離れ離れに建っている。
「ここはね、明治、大正、昭和各時代の建物が現存して、再現したものもあるけど、今も使われているのよ」
「この墨絵の世界によくあっているね」
「私、ここの景色を知って雪が好きになってきたの」
「君が別世界だ、って知らせてくれた意味が分かったよ」
この温泉地名の由来になった杉木立が旅館の周りを囲んでおり、きっと四季折々、人々の心に沁み入る景観を展開してくれるのだろう。
寺井の案内された建物は、昭和の間らしかった。
「古い方の建物は大人数用なのよ」
「そう、でも、此処もとても情緒があるよ」
「この旅館は二人以上の宿泊施設になっております」
「じゃあ、僕の場合はどうなるの?」
「あら、二人じゃない、私と」
「君と・・・」
「そういう風にして貰ったの」
そう言うと春子は、寺井の胸にしがみつく様な格好でもたれ掛かってきた。
庭園の雪景色を背景に、着物がとても艶かしい。
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並木の丘 7

2007-02-10 15:54:19 | 並木の丘
「私、余計な事を聞いちゃったかしら、ごめんなさい」
「ううん、いいのよ、女が独身で長く勤めているとあまりいい事がないから」
「そんなものなの、会社って」
「あなたの世代の人達は違うかもしれないわ、もっと割り切れるかもしれないからね」
久美子は、弥生には20才を過ぎたら話してもいいと考えていた。最もその前に気づかれてしまうかもしれないが、そのほうが楽でいいとも思っている。
入社当時から営業部に配属され、最初の5年間は事務仕事だけだったが、会社を訪れて来る得意先にお茶を出したり、接客の手伝いをしている内に、その美貌故なのだが、夜の接待に是非連れてきて欲しいとの希望が強く出され、困った上司から一度だけの約束で出席させられることになった。
お酒は結構飲める方でカラオケも上手い、忽ち夜の主役に踊り出て、本人の意志とは別に接待係を任される様になり、幾度となく配置転換を申し出たが、その都度給料が上がり、係長の肩書きも付くようになった。
こうなると諦めと割り切りの気持ちが出てきて、仕事に専念していたが、30才になった春、新しい営業本部長が就任してきた。
前澤義明、この会社前澤工業3代目で将来の経営者候補、一族のリーダーでもある彼が、修行と勉強の為大手銀行に勤めていたが、時期とみて自分の会社に戻ってきたのである。
中小企業の一族にありがちな尊大ぶったところは感じさせず、部下や役員に対しても一管理職として接してきたので、最初過敏な神経を使っていた女子社員達にも人気が高まっていった。
義明は久美子の存在も以前から聞いて知っていたらしく、最初から細かい用事を全部久美子に回してくるので、周りの社員も遠慮して、事実上義明の専属秘書になっていった。
出張も多く乗物の予約もよく頼まれるが、その内2枚ずつ購入する様になり、久美子が券を預かって朝待ち合わせるようになっていくのである。
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陶磁器探求 2

2007-02-09 20:32:15 | 手記
1楽 2萩 3唐津、この言葉の意味は京都の楽茶碗、萩焼、唐津焼の事で、格の上位順らしいのですが、それ位、萩焼も千家の隆盛と共に発展してきました。
萩焼は、焼物としては比較的低温で焼かれる為、水分が沁みこみやすく、貫入といわれる表面の細かいヒビの中にお茶等が入り、他の産地の陶器よりも色の変化が早いことから、萩の七化けと呼ばれ、使い続ける楽しさを今に伝えています。
釉薬は、透明と白が多く、色は果物の枇杷の色が代表的です。
淡い色合いの物が多く、上品な感じがします。
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並木の丘 6

2007-02-05 20:25:27 | 並木の丘
昼食まで一緒に居ようということになり、駅ビルB館8階のレストラン街に入った。
健康をテーマにしたビュッフェスタイルのレストランがあり、好きなものを選びに動けるので弥生には気が楽だった。
1時間程で食事が終わり、久美子と弥生は皆と別れ、新宿へ買い物に出かけた。
早速、約束のバッグを探す為である。
「あー気が疲れた、長かったわ」
「でも弥生ちゃん、割と感じは良かったんじゃないの?」
「まだ分からないわ、猫かぶっているだけかもよ」
「あの男の子ちょっと変ってるわね」
「うん、そうね」
準特急だったが30分も掛からず新宿駅に着いた。
東口を右方向に出た近くの店で、G社のハンドバッグが並べられていたので、弥生は気に入った形の物をかなり迷いながら探して買って貰った。
「叔母さん、有難う、私こんなにいいバッグ持ったの初めてよ」
「よく似合うわ、あなたは顔もスタイルもいいから得ね」
「そんな、もう少し大人にならないと合わないんじゃないかしら」
「そんなことないわ、皆とうまくやっていくのよ」
「まだ自信ない」
二人はその先のデパートに向かっていた。次は久美子の買い物に付き合う番である。
久美子は春物の服を試着して次々に買っている。弥生は不思議に思った。
叔母は現在仕事をしていない、昔両親は工場を経営していた、と母に聞いたことはあるが、遺産を沢山相続したのだろうか、でもそれだったら母だってもっとリッチな生活をしていた筈だが、極めて質素だった。趣味に凝る訳でもなく、友達と出かけたのも見たことがない。
買い物疲れでデパート内の喫茶店に入り、弥生はフルーツパフェを頼んだ。こういう時しか食べるチャンスがない。
「叔母さん、いまは会社に行ってないんでしょう、普段は何をしているの?」
「会社を辞めてから3年経つわ、色々あってね」
急に重い雰囲気になってきた。
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もう一つの春 31

2007-02-03 18:20:52 | 残雪
新幹線で国境のトンネルをすぐ通り抜け、越後湯沢に到着したが、やはりこちら側は雪だった。
最初に春子と会ったのもこの湯沢だった。高架線路下のトンネルで、雨よけの為足止めされていた姿が可愛かった。あの時から自分も惚れていたのだろう、家庭に見いだせない何かを、自分の努力が足りないのも確かだが、彼女の中に見つけたい願望が日を追う毎に強くなり、今は更に遠い新潟市のもっと先まで会いにいくのだ。
春子の住んでいる五頭温泉郷は、弘法大師が湧出させた新潟最古の温泉地と言い伝えられている。
温泉街の始まりは寺湯だそうで、湯治の為寺に温泉を引き、その周りを囲む様に宿ができ、やがて温泉も寺以外にできて来て、いまの形になったそうである。
寺を囲む様に宿が点在する風景、それがこの温泉地に残っていて、温泉街の原型を見る事ができる。
寺井が自分で集めた資料や写真を見ている内に新潟駅に着き、在来線に乗り換えて3,40分も経っただろうか、こじんまりとした水原駅に着いた。
成る程、ここなら白鳥が来るのにふさわしい所だな、と感心する程ひっそりしていた。
雪は想像していたよりずっと少なく、その残雪の輝きの中に、あじさいの様な春子が立っていた。
そういう着物を着て待っていた。
目の前に来ても何も言おうとしなかったが、瞳は潤んでいる様に感じられ、あの人をじっと見つめる癖は相変わらずだが、着物のせいかとても大人びて、ちょっとした芸者姿の風情がある。
「元気そうだね」
「急がせてしまって・・・お仕事、大丈夫なんですか?」
「いいんだよ、君に会うのが大事なんだから」
「ええ、でも何か申し訳なくて」
春子がそう言いかけた時、寺井は思わず彼女を強く抱きしめた。人の気配はなかったが、まだ14時過ぎである。でも寺井はどうでもよかった、周りのこと等、会社を休んだ段階で意のままに行動するしかなくなっていた。
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陶磁器探求 1

2007-02-03 11:07:43 | 手記
5,6年前から陶磁器にとても興味を覚え、毎日使う湯のみを中心に、マグカップや色々な器を探し歩く様になりました。
それまでは、割れてしまう器にお金を掛ける気はなく、殆ど千円以下の物ばかり使っていました。
最初に三千円の湯のみを買う時は、一ヶ月程も迷ったものです。
今回の写真は備前焼なのですが、釉薬を一切使わず、一、二週間もかけて、松の割り木を燃やし続ける、基本的には千年前と同じ手法で現在まで途絶える事なく作り続けられている、これが備前焼最大の魅力だと思います。
使い続けることによって色つやが良くなり、外見も変化してくるのが陶器の楽しみ方で、湯のみに拘るのはそのあたりにあります。
表面に何も掛けず、焼いた時の灰や、炎の変化だけで作られていく、陶器は土と炎の芸術とよく言われますが、備前焼はその筆頭だと個人的には思っています。
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