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武蔵野物語 29

2008-03-24 20:19:36 | 武蔵野物語
所長の滝沢は、ゆりこと食事を共にしてからは、細かい事を決めるのに一々ゆりこを頼って聞きに来た。
私はあなたの秘書ではありません、と余っ程言ってしまおうかと思ったが、仕事に対しての一途さからと理解はしていたので、手伝う様になっていった。
そうなると、周りは何かとゆりこに気を使い顔色を窺うので、面倒に思うことも度々だったが、仕事自体はやり易くなった。

この頃、誠二からの連絡が少なくなっている。会うのも週一回がやっとで、以前みたいに何でも相談してくれず、距離を置いているのは、それだけ難しい時期なのだろう。
でもそう思うとよけい気になり、連絡が来なかった日曜日、黙って敦子の入院している病院に向かっていた。
入り口で名前を記入してバッジを受け取るのだが、病棟に訪れている人は少なく、書きながら上の行を見ると、滝沢道也、の名前があった。
所長の名前だ、身内の人でも入院しているのだろうか。
敦子と同じ階を記入してある。個室の並んでいる一角だが、ゆりこは気配を窺いながら敦子の病室に近づいていった。
すると、その敦子の病室の前からこちらに戻ってくる滝沢が見えたので、慌てて近くのトイレに入り、やり過ごした。
来た時間も見ていたのだが、10分程しか経っていないので、個室には入らず確認しただけなのだろうか。ゆりこは滝沢の後を離れてついて行き、停留所に立ち止まるの見届けて戻った。三鷹駅に向かう様だ。
思いがけない人が居たので、敦子よりもそちらの方が気になり、病院を出て滝沢と反対側の調布駅から帰る事にした。
途中誠二に何度かメールを送ったが、すぐに返事はこなかった。
18時過ぎにようやく返信が送られてきて、きょうは休日出勤になりました、と打ってある。火曜日に代休が取れるそうなので、ゆりこの会社の昼休みに近くまで来て貰う約束をした。
国立の,早咲きのさくらがもう咲いている。