書評 「源義経」 角川源義、高田実著 講談社学術文庫

この本は簡単に言えば、巷で「義経博士」と呼ばれたい人のトラの巻のような本ということになろうか。

この本は当初、1966年に角川新書として刊行されたものだ。その後絶版となっていたが、2005年講談社学術文庫として再刊されたものである。著者である角川源義氏の語り口や視点がユニークで少しも古さを感じさせない。さすが角川氏は、日本民俗学のふたりの祖である柳田国男や折口信夫の薫陶(くんとう)を受けた人物である。源義経という人物が伝説化してゆく過程が様々な切り口で説明されている。特に「大和盲僧座」の論考や弁慶伝説の成立、腰越状の分析あたりは出色だ。

この本のユニークな点は、当時気鋭の中世史研究者だった高田実氏という人物が、著者として伝説や伝承などの虚飾に彩られた義経のイメージについて歴史学という学問的評価を加えていて説得力が増していることだ。

私はこの本を歴史学の渡辺保氏の人物叢書「源義経」(吉川弘文館)と双璧をなす現代の古典と思う。今回の文庫版において、新書版に挿入されていた写真などがかなりカットされているが、それでも日本中の義経ゆかりの地の写真は歴史的にも大変貴重なものが多く、しかも美しい。例えば義経最期の地とされる平泉高館の写真は、かつて松尾芭蕉が勇んで駆け上がった石を並べたでこぼこの階段が写っている。その他に、古地図や想定図、絵画などもふんだんに盛られていて、さしずめ源義経大博覧会の様相である。

源義経

講談社

このアイテムの詳細を見る
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 藤沢の伝源義... 平泉の弁慶の... »


 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
コメントをするにはログインが必要になります

ログイン   新規登録