大河ドラマ「義経」 覚え書き 第十三話 下

【「鳥羽殿」の読みは『とばでん』か『とばどの』か?!】

江戸中期の俳人与謝蕪村(1716-1783)の句に、

 「鳥羽殿へ五六騎急ぐ野分かな」

というのがある。これをひらがなで表記すれば、

 「とばどのへ ごろくきいそぐ のわきかな」となる。

この句は、蕪村が、京都の伏見鳥羽にあった鳥羽殿(とばどの)あるいは鳥羽離宮と呼ばれる土地に行った際、鳥羽法皇(1103-1156)の死後、崇徳上皇(1119-1164)と当時の後白河天皇(1127-1192)という兄弟の対立が激してついには保元の乱(1156)が起こった史実を思い出して詠んだものと思われる。

季語はもちろん「野分」で秋に吹き荒れる暴風や台風を指す。「野分」が吹き荒れる伏見の鳥羽離宮近くに立った蕪村は、その強風の中に保元の乱の武者の幻影を見たのであろうか。単なる写生を越えた劇的な雰囲気もつ名句である。

周知のように、保元の乱は、崇徳上皇派の藤原頼長、源為義、源為朝、平忠正と後白河天皇派の藤原忠通、平清盛と源義朝らが、兄弟血族入り乱れて争った事件である。結局上皇は破れ、讃岐に流されて不遇のうちに亡くなった。この事件の結果、武家である平清盛の中央政界進出への見通しが一気に開けたと思われる。

第十三話においては、この鳥羽殿(とばどの)を、「とばでん」と確か三度ほど耳にした。一度は冒頭での義経の口から、2度目は、白石加代子のナレーションであった。もう一度は、秀衡であったと思ったが忘れた。

ともかくこれは「大河」という歴史ドラマの最高峰を任じるの任じる番組としては、初歩的ながら、致命的なミスで、恥ずかしいことである。人名を間違えた時には、訂正を入れて誤るのであるから、次回にはテロップでも入れて、「とばでん」の発音は、正式には「とばどの」です。「訂正してお詫び申し上げます」と頭を下げるべきであろう。

問題は、チェック機能が働いていないことにある。台本のレベルで、発音ミスがチェック洩れがあるとしたら、次には撮影ビデオ段階でチェックすべきで、これも洩れたとしたら、いったいどこに問題があるのか。早急にシステムの不備を糺すべきであろう。せっかく歴史学の奥富敬之先生などが「時代考証」として参加しているのに、これでは先生の名誉に傷が付くというものである。
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コメント
 
 
 
漢語か やまとことばか (COBO)
2005-04-08 11:37:46
飛鳥奈良時代以降 大極殿、清涼殿、或いは湯殿など 建物の場合は「でん」を使いますね。

後世になると、人名の場合は「どの」を使いますね。

俳句は江戸時代の物ですし、やまとことばに異常に傾倒した向きもあります。蕪村の句にしても「でん」と読まないという根拠は何でしょう。上の文章を書かれた方は最初から「でん」はおかしいと書かれていますが、理由が書かれていませんね。

思いこみだけでなく根拠があれば示して下さい。

又読ませて頂きます。
 
 
 
Unknown (佐藤)
2005-04-08 14:09:57
COBOさん

初めまして。

「鳥羽殿」の読みに関してですが、固有名詞ですから、一般論で、建物は「でん」で人名は「どの」だから、「とばでん」と読む読み方もあったのでは?という推論はあたりませんね。人名の場合も、個人名について、例えば「小川」という名を、その家が伝統的に「こかわ」と読ませていたならば、「おがわ」ではなく、「こかわ」ですね。根拠と言われれば、平家物語は平曲ですから、そこで「とばどの」と読ませていますから、これ以上の根拠はないわけです。もしもかりに与謝蕪村くらいの文化人が、歴史的な固有名詞である「鳥羽殿」を「とばでん」と考えていたとしたら、それは蕪村が単に歴史を知らないということになるわけで、そのようなことは絶対にないと思います。古語辞典で、引いても、この名句については、「とばどの」と表記しています。
 
 
 
建物か人名か (COBO)
2005-04-11 14:10:01
お返事ありがとうございます。

私は歴史の専門でもなく、平家や源氏のフリークでもないです。

「との」は人に、「でん」は建物(地名もあり?)にと言うのは通例だと思います。

土地の名前を執った苗字は山ほどあります。

確かに「とばでん」という読み方は聞いたことがないですね。

もう一つ分からないのは、平安の末期敬称が「との」が最上級だったのでしょうか?

義経や秀衡まして平曲や義経記の作者が鳥羽上皇に「との」づけで読んでもいい様な時代だったのでしょうか。その辺りをお教え願えませんでしょうか。例えば一文字分名前の上を開けるだの行を変えるだの筆記する場合はあったのでしょうが、「かしこくも」(低頭)とかが入るのでしょうか?

先日TVで役者が違うバージョンの水戸黄門を3本時間連続で見たものですから混乱してます。



本HPの趣旨に反している様にお感じでしたら削除方願います。
 
 
 
鳥羽殿は「とばどの」という建物です!! (佐藤)
2005-04-11 16:46:22


COBOさん こんにちわ。



繰り返しになりますが、鳥羽殿(とばでん)は、鳥羽上皇のことではありません。あくまでも鳥羽離宮という建物を指しています。あなた様の書き込みでは後白河院の前の鳥羽院という人物を指していたのではというようなニュアンスにも聞こえますが、鳥羽院の天皇在位は「1107-1123」で、退位後1129年から崇徳・近衛・後白河天皇の三代に渡って院政を行いました。崇徳上皇と対立し、1156年に鳥羽院が亡くなると、保元の乱が起きますが、これによって清盛の政界進出が開け、その平氏政権の横暴が際立って、ドラマで登場する「鳥羽殿」が舞台となるわけです。以仁王が令旨を書くのは1180年のことですから、「鳥羽殿」が鳥羽院その人を指すことは絶対にあり得ないことになります。広辞苑でも、鳥羽殿は「とばどの」で、「京都伏見区鳥羽辺にあった白河・鳥羽上皇の離宮」と説明し、平家物語の「法皇をば鳥羽殿へ押しこめ参らせうど候が」と引用しています。



COBOさん、

これ以上、この問題についての書き込みは、ご容赦願います。

 
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