☆今日のひと言
冬は寒いが心まで寒いとは限らない
後藤を待ちながら 最終回
絵栖と浦路は、ベンチで眠っている。
ホリゾントが明るくなり、夜明け。
風船は相変わらず浮かんでいる。
絵栖「朝だ」
浦路「また朝か」
「そう、朝だ」
「オネショウはしなかったか?」
「ああ、今日は大丈夫」
「それは良かった。匂うからな」
「それに冷える。健康に良くないからな」
「ああ、オネショウは良くない。で、どうする?」
「何を」
「今日さ。食事をしなければならない。弁当をどうするかだ」
「俺に取りに行けってのか」
「取りに行ってくれるか。おまえは集めるのが上手だし」
「ああ、いいよ。どんなものが食べたい?」
「寿司がいいなあ。マグロとウニを食いたい」
「贅沢言うな。あるものしかない。それが弁当ってモノさ。カラスやネコに先にやられているかもしれないしね」
「もちろんわかってるさ。あるものでいいよ」
「じゃあ、出かけてくる」
絵栖は退場。
浦路は一人残される。
「あああ、また今日が始まってしまった。どうして同じことを繰り返してしまうのか。ぼいぼい、かめかめ、ぐむぐむ。あああ」
沈黙、15分。
絵栖が弁当のパックを数個手に戻ってくる。
絵栖「手に入れて来たぜ」
浦路「寿司はあったか?」
「なかった。幕の内ばっかり。でも、おかずの種類はいろいろだぜ」
「ほんとだ。けっこうおいしそうじゃないか」
「消費期限も昨日の夜中までだから、新鮮そのものだね」
「昨日食ったやつはカビが生えていたからな」
「どれから行くかね」
「これがいいな。しゃけが美味しそうだ」
「しゃけは良い魚だ」
「ああ、良い魚だ。でも、あれは川魚なのかね、海の魚なのかね」
「どっちでも良い魚だろう。蝙蝠だって、鳥でも哺乳類でも良いわけで」
「蝙蝠はやっぱり、哺乳類だろう」
「蝙蝠は卵を生むのじゃないのか」
「洞窟の天井につかまって卵を産んだら、地面に落ちるじゃないか。そんな馬鹿なことはしないよ」
「そうか、じゃあ、俺は豆の入った幕の内」
2人は幕の内弁当を開き食べはじめる。
「どうだ、美味しいかい?」
「ああ、けっこう美味しい」
「もう少し遅い時間だと、トラックが来て持って行っちまう。ひどい話だ。これを廃棄するんだからな」
「燃すのか?」
「さあ、豚の餌にするのかも」
「豚は、幕の内弁当が好きなのかい?」
「豚は何でも食うさ。人のウンチだって食うって話だぜ」
「それはすごいなあ。この玉子焼き、美味しいね」
「これだって、一生懸命作った人がいるんだもの、廃棄するなんて言語道断だよな」
「ああ、人でなしだよ。モノを粗末にしちゃいけない」
「ああ、そのうちバチが当たる」
「バチが当たって、無一文になるかもな。俺たちみたいに」
「俺たちはモノを粗末にしていないのに、無一文だ。これって、どういうことだ?」
「そりゃ、運が悪かったってことかな」
「でも、今はいい暮らしだぜ」
「まあ、悪い暮らしではない。しかし、良い暮らしでもない。良い暮らしは、やはり家庭を持たねば」
「家庭を持つとよい暮らしになるのか?」
「まあ、悪い暮らしではないな。家に帰ると、妻や子どもが待っている」
「考えたことがなかったな」
「温かい味噌汁が待っているんだ。子どもが肩たたきもしてくれる。かみさんが風呂で背中を流してくれる」
「いい話だ。俺たちも家庭を持つべきか」
「でも、仕事をしなきゃ、お金が手に入らない」
「面倒だな。働くなんて」
「それじゃ、家庭を持てない」
「それならいいよ、家庭なんて」
2人、食事を終える。
「で、どうする?」
「一眠りしようか」
「ああ、しようか」
「いつまで、こんなふうにしているんだ?」
「さあ、終わるまでだろう」
「そうか、終わるまでか」
「で、いつ終わるんだ?」
「さあ、いつかは終わるだろう」
「いつかか」
暗転
ということで、最終回の幕を引かせていただきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
また、新たな小説等で、と考えているのですが。
冬は寒いが心まで寒いとは限らない
後藤を待ちながら 最終回
絵栖と浦路は、ベンチで眠っている。
ホリゾントが明るくなり、夜明け。
風船は相変わらず浮かんでいる。
絵栖「朝だ」
浦路「また朝か」
「そう、朝だ」
「オネショウはしなかったか?」
「ああ、今日は大丈夫」
「それは良かった。匂うからな」
「それに冷える。健康に良くないからな」
「ああ、オネショウは良くない。で、どうする?」
「何を」
「今日さ。食事をしなければならない。弁当をどうするかだ」
「俺に取りに行けってのか」
「取りに行ってくれるか。おまえは集めるのが上手だし」
「ああ、いいよ。どんなものが食べたい?」
「寿司がいいなあ。マグロとウニを食いたい」
「贅沢言うな。あるものしかない。それが弁当ってモノさ。カラスやネコに先にやられているかもしれないしね」
「もちろんわかってるさ。あるものでいいよ」
「じゃあ、出かけてくる」
絵栖は退場。
浦路は一人残される。
「あああ、また今日が始まってしまった。どうして同じことを繰り返してしまうのか。ぼいぼい、かめかめ、ぐむぐむ。あああ」
沈黙、15分。
絵栖が弁当のパックを数個手に戻ってくる。
絵栖「手に入れて来たぜ」
浦路「寿司はあったか?」
「なかった。幕の内ばっかり。でも、おかずの種類はいろいろだぜ」
「ほんとだ。けっこうおいしそうじゃないか」
「消費期限も昨日の夜中までだから、新鮮そのものだね」
「昨日食ったやつはカビが生えていたからな」
「どれから行くかね」
「これがいいな。しゃけが美味しそうだ」
「しゃけは良い魚だ」
「ああ、良い魚だ。でも、あれは川魚なのかね、海の魚なのかね」
「どっちでも良い魚だろう。蝙蝠だって、鳥でも哺乳類でも良いわけで」
「蝙蝠はやっぱり、哺乳類だろう」
「蝙蝠は卵を生むのじゃないのか」
「洞窟の天井につかまって卵を産んだら、地面に落ちるじゃないか。そんな馬鹿なことはしないよ」
「そうか、じゃあ、俺は豆の入った幕の内」
2人は幕の内弁当を開き食べはじめる。
「どうだ、美味しいかい?」
「ああ、けっこう美味しい」
「もう少し遅い時間だと、トラックが来て持って行っちまう。ひどい話だ。これを廃棄するんだからな」
「燃すのか?」
「さあ、豚の餌にするのかも」
「豚は、幕の内弁当が好きなのかい?」
「豚は何でも食うさ。人のウンチだって食うって話だぜ」
「それはすごいなあ。この玉子焼き、美味しいね」
「これだって、一生懸命作った人がいるんだもの、廃棄するなんて言語道断だよな」
「ああ、人でなしだよ。モノを粗末にしちゃいけない」
「ああ、そのうちバチが当たる」
「バチが当たって、無一文になるかもな。俺たちみたいに」
「俺たちはモノを粗末にしていないのに、無一文だ。これって、どういうことだ?」
「そりゃ、運が悪かったってことかな」
「でも、今はいい暮らしだぜ」
「まあ、悪い暮らしではない。しかし、良い暮らしでもない。良い暮らしは、やはり家庭を持たねば」
「家庭を持つとよい暮らしになるのか?」
「まあ、悪い暮らしではないな。家に帰ると、妻や子どもが待っている」
「考えたことがなかったな」
「温かい味噌汁が待っているんだ。子どもが肩たたきもしてくれる。かみさんが風呂で背中を流してくれる」
「いい話だ。俺たちも家庭を持つべきか」
「でも、仕事をしなきゃ、お金が手に入らない」
「面倒だな。働くなんて」
「それじゃ、家庭を持てない」
「それならいいよ、家庭なんて」
2人、食事を終える。
「で、どうする?」
「一眠りしようか」
「ああ、しようか」
「いつまで、こんなふうにしているんだ?」
「さあ、終わるまでだろう」
「そうか、終わるまでか」
「で、いつ終わるんだ?」
「さあ、いつかは終わるだろう」
「いつかか」
暗転
ということで、最終回の幕を引かせていただきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
また、新たな小説等で、と考えているのですが。