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ブログ小説 過去の鳥

淡々と進む時間は、真っ青な心を飲み込む

後藤を待ちながら  最終回

2006-12-16 08:33:27 | 戯曲
  ☆今日のひと言
    冬は寒いが心まで寒いとは限らない


  後藤を待ちながら  最終回

 絵栖と浦路は、ベンチで眠っている。
 ホリゾントが明るくなり、夜明け。
 風船は相変わらず浮かんでいる。

絵栖「朝だ」
浦路「また朝か」
「そう、朝だ」
「オネショウはしなかったか?」
「ああ、今日は大丈夫」
「それは良かった。匂うからな」
「それに冷える。健康に良くないからな」
「ああ、オネショウは良くない。で、どうする?」
「何を」
「今日さ。食事をしなければならない。弁当をどうするかだ」
「俺に取りに行けってのか」
「取りに行ってくれるか。おまえは集めるのが上手だし」
「ああ、いいよ。どんなものが食べたい?」
「寿司がいいなあ。マグロとウニを食いたい」
「贅沢言うな。あるものしかない。それが弁当ってモノさ。カラスやネコに先にやられているかもしれないしね」
「もちろんわかってるさ。あるものでいいよ」
「じゃあ、出かけてくる」

 絵栖は退場。
 浦路は一人残される。

「あああ、また今日が始まってしまった。どうして同じことを繰り返してしまうのか。ぼいぼい、かめかめ、ぐむぐむ。あああ」

 沈黙、15分。
 絵栖が弁当のパックを数個手に戻ってくる。

絵栖「手に入れて来たぜ」
浦路「寿司はあったか?」
「なかった。幕の内ばっかり。でも、おかずの種類はいろいろだぜ」
「ほんとだ。けっこうおいしそうじゃないか」
「消費期限も昨日の夜中までだから、新鮮そのものだね」
「昨日食ったやつはカビが生えていたからな」
「どれから行くかね」
「これがいいな。しゃけが美味しそうだ」
「しゃけは良い魚だ」
「ああ、良い魚だ。でも、あれは川魚なのかね、海の魚なのかね」
「どっちでも良い魚だろう。蝙蝠だって、鳥でも哺乳類でも良いわけで」
「蝙蝠はやっぱり、哺乳類だろう」
「蝙蝠は卵を生むのじゃないのか」
「洞窟の天井につかまって卵を産んだら、地面に落ちるじゃないか。そんな馬鹿なことはしないよ」
「そうか、じゃあ、俺は豆の入った幕の内」

 2人は幕の内弁当を開き食べはじめる。

「どうだ、美味しいかい?」
「ああ、けっこう美味しい」
「もう少し遅い時間だと、トラックが来て持って行っちまう。ひどい話だ。これを廃棄するんだからな」
「燃すのか?」
「さあ、豚の餌にするのかも」
「豚は、幕の内弁当が好きなのかい?」
「豚は何でも食うさ。人のウンチだって食うって話だぜ」
「それはすごいなあ。この玉子焼き、美味しいね」
「これだって、一生懸命作った人がいるんだもの、廃棄するなんて言語道断だよな」
「ああ、人でなしだよ。モノを粗末にしちゃいけない」
「ああ、そのうちバチが当たる」
「バチが当たって、無一文になるかもな。俺たちみたいに」
「俺たちはモノを粗末にしていないのに、無一文だ。これって、どういうことだ?」
「そりゃ、運が悪かったってことかな」
「でも、今はいい暮らしだぜ」
「まあ、悪い暮らしではない。しかし、良い暮らしでもない。良い暮らしは、やはり家庭を持たねば」
「家庭を持つとよい暮らしになるのか?」
「まあ、悪い暮らしではないな。家に帰ると、妻や子どもが待っている」
「考えたことがなかったな」
「温かい味噌汁が待っているんだ。子どもが肩たたきもしてくれる。かみさんが風呂で背中を流してくれる」
「いい話だ。俺たちも家庭を持つべきか」
「でも、仕事をしなきゃ、お金が手に入らない」
「面倒だな。働くなんて」
「それじゃ、家庭を持てない」
「それならいいよ、家庭なんて」

  2人、食事を終える。

「で、どうする?」
「一眠りしようか」
「ああ、しようか」
「いつまで、こんなふうにしているんだ?」
「さあ、終わるまでだろう」
「そうか、終わるまでか」
「で、いつ終わるんだ?」
「さあ、いつかは終わるだろう」
「いつかか」

        暗転

  ということで、最終回の幕を引かせていただきます。
  最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
  また、新たな小説等で、と考えているのですが。

後藤を待ちながら  6

2006-12-15 05:48:54 | 戯曲

  ☆今日のひと言
    リンゴは赤いがバナナは黄色い
    リンゴには種があるがバナナには種がない


  後藤を待ちながら  6

絵栖「どうした?」
浦路「何もしていない」
「何も?」
「ああ、何も」
「どうして何もしないんだ。あくびをするとか、居眠りするとか」
「居眠りはしたよ。ただうつらうつら、ぼんやりと。それだけさ」
「海へ出かける決心は?」
「もう、海の話はやめよう。山の話はどうだ。富士山に登る、なんて話は」
「富士山か。一度上ってみたかったなあ」
「高いぞ。日本で一番の山だ」
「登って見たかったけど、俺は高所恐怖症だ。ちょっと怖いなあ。おまえは平気か?」
「いや、平気なものか。小学校のジャングルジムでさえ、上には登れなかった」
「富士山は、ジャングルジムよりも高いぞ」
「もちろん知ってるさ。東京タワーよりもずっと高い」
「すごいものさ」
「立派なものだ。でも、どうやって登るんだ?」
「もちろん歩いてだよ」
「ここから歩いて?」
「ちょっと遠いな」
「かなり遠いさ。麓にもたどりつけないぞ」
「途中で道に迷うからな、きっと」
「おまえは迷うさ。方向音痴だから」
「おまえこそ味音痴のくせに」
「味音痴? そうなんだ。困ったこと。リンゴとバナナの区別がつかない」
「ほんとかい、リンゴとバナナが?」
「まあね。豆腐とコンニャクも」
「嘘だろう。リンゴは丸くてバナナは細長い。リンゴはシャリシャリ、バナナはグニュ。明らかに違うぜ」
「それが口の中では同じに感じるのが、味音痴のすごいところさ」
「どうも信じられない。そこまで分からないなんて」
「ああ、嘘さ。今のは撤回」
「嘘はいけない。学校で教わった」
「学校は嘘つきなのに、ひどいことを教えるものだ」
「正直でないと、心が腐る」
「心が腐っていても、金持ちならいいだろう。心は、金さえあれば豊かになる」
「そんなものかね」
「さあ、金持ちになったことがないからよく分からないが、たぶんそうだ」
「で、富士山には行くのかい?」
「面倒だよ。ここでいい。おまえ一人で行けば?」
「おまえが行かないならやめる。一人旅は良くない。心がいじけてくるものさ」

   沈黙2分。

「風は吹かないなあ。どうしたんだろう」
「台風の季節じゃないからな」
「台風じゃなくても、風ぐらい吹くさ」
「雨が降ると困るが」
「そうだ、バナナには種がないってこと知ってたか?」
「ああ、種がない」
「果実のくせに種がない」
「種無しブドウもあるぜ」
「でもブドウには普通は種がある。バナナは全部、種がないんだ」
「だから、どうだってんだ?」
「どうもしない。変だと思ったから」
「例外はいっぱいあるさ。世の中例外だらけ」
「たとえば?」
「たとえば(詰まる)。すぐには思いつかない」
「あまりたくさんはないんだろう?」
「蝙蝠は、鳥でもないのに空を飛ぶ」
「蝙蝠は取りじゃないのか?」
「ああ、哺乳類だ」
「確かめたのか?」
「学校で習った」
「学校は嘘つきだぜ」
「そうだな。やはり蝙蝠は鳥か」
「イルカは魚だし、ミミズは蛇さ」
「世の中、紛らわしいことが多すぎるんだ。嘘つきも多いし」
「で、どうする?」
「何を?」
「これからさ」
「どうもしない」
「何もしないのか?
「ああ、してもしかたないからな」
「困ったことだ」

  沈黙。次第に日が暮れていく。
  というより、舞台ではかなり早い調子で夜へ。
  闇の中の2人にかすかな星明かりが差し込んでいる。

「夜だぜ。眠るか?」
「いや、いい。昼間に結構寝たから」
「じゃあ、お休み。俺は寝る。何かあったら起こしてくれ」

  絵栖は横になる。浦路はベンチから立ち上がり、屈伸運動をする。
  が、すぐに厭き、ベンチに腰を下ろす。
  また沈黙が続く。

 (ということで、次回に話は、進む、とは言いにくい停滞気味ではあるのだが)



後藤を待ちながら  5

2006-12-14 07:05:14 | 戯曲
  ☆ひと言
    TMは汚らしい国ニホンの官僚の本質露呈
    国家は嘘つきであり、信用してはいけない。
    ということを肝に銘じておくべき。

 後藤を待ちながら  5

  相変わらずガラスの動物園にある木製のベンチ。
  浦路と絵栖。

浦路「どうだ?」
絵栖「何が?」
「いろんなことさ」
「ああ、よくない」
「良くないか、やはり」
「ああ、駄目だ。いけない」
「ちっともよくならないな」
「で、どうする?」
「さあ」
「ニンジンのこと、知ってるか?」
「ニンジン? なんのこと?」
「なぜ赤いかってこと?」
「知らない」
「じゃあ、ダイコンが白いのは?」
「知らない。おまえ、知ってるのか?」
「いや、知らないから聞いているんだ」
「俺がそんなこと知っているように思うか?」
「そりゃ、わからんさ。俺の知らないこと、おまえはたくさん知ってるだろう」
「どんなこと?」
「わからんさ。たとえばの話さ」
「何をたとえばと言うんだ?」

  1分間の沈黙。

「その話はよそう」
「ああ、よした方がいい。病気の話葉どうだ?」
「病気? おまえ、病気なのか?」
「いや、病気になったら困るって話さ」
「そりゃ困る。治るか、死ぬしかないものな」
「ずーっと病気のままで入ることも出来るぜ」
「でも、結局は死ぬ」
「ああ、死ぬ」
「いつかはな、間違いない」
「問題は、どこで死ぬかだ」
「それに、いつ死ぬかも問題だ」
「おれとおまえ、どっちが先かな?」
「どっちでもいいさ。もういい加減飽きてきているし」
「死にたいのか?」
「いや、取り立てて死にたいとは思わないが、生きていたいとも思わない。突然誰かが俺を襲って、殺すって言うのなら、それもいいのか、と納得してしまうね」
「しかし、死んだら終わってしまうぜ」
「でも、生きていていいことがあるかい?」
「そう言われると困るが、まあ、人生とはこんなものだと思うし」
「こんなものって、どんなもの?」
「こんなものさ。ずっとベンチに座って、ただぼんやり」
「ぼんやりして、時間が過ぎていく、ってのが人生ってこと?」
「たとえばの話さ。俺の頭はむずかしいことを考えるのに向いてないからな」
「俺だって、自慢じゃないが、頭はよくない」
「頭が良くない人間は、生きていちゃいけない、なんて思う事もあるけど」
「じゃあ、俺は死んだ方がいいのか」
「でもなあ、ひょっとしたら事態が好転するかも知れないんだぜ。たとえば、ここを金持ちが通りかかり、俺たちに一億円ずつくれたとしよう。もう人生はすっかり変わってしまう」
「そんなこと、あるわけないだろう」
「そりゃ分からんさ。人生なんて、先は見えない。だから、人は悪いことをするし、いいこともする」
「俺たちは何もしてねえ」

  2分間の沈黙。

「そうだ、海に行かないかい?」
「海? 泳ぎにか?」
「いや、眺めにだ。俺は泳げない」
「俺は泳げる。底なしに泳げる」
「底なし? 底なしと泳ぎでも言うのか?」
「言うだろう。意味は分かればいい」
「ああ、意味は分かる。海は底なしだし」
「いや、海はそこがあるよ。底がなかったら、水を溜めておくことができねえ」
「そうか、海の水が抜けてしまえば、魚が干上がってしまうな」
「鯨も干上がる。困った話だ」
「でも、海の水は底が抜けたらどこへ行くんだ? 地球は丸いんだぜ」
「本当に丸いのか?」
「ああ、丸い」
「見たのか?」
「地球儀を見た。あれは丸い」
「地球儀は地球とは違うぜ。地球はもっと大きい。丸いかどうか分からないほど大きい」
「でも丸い。そういうものさ」
「海へ行くか」
「ああ、遠いけどね」
「遠いのか」
「ああ、遠い。歩くと3時間はかかる」
「そんなにかかるか?」
「途中で腹が減るかもな」
「足も痛くなる。面倒だな」
「面倒ではあるが、ここにいるよりいいかも知れない」
「ここもいいぜ。座りやすいベンチがある」
「ベンチぐらい、ほかの場所にもあるさ」
「そうか、出かけるか」
「一億円をくれる人と、出会うかもしれない」
「それはありえないだろう」
「希望を捨てちゃいけない」
「希望か。なんか照れくさい言葉だなあ」
「言葉は照れくさいものさ。愛、だとか、夢、だとかね」
「ほんとだ、照れくさい」
「で、どうする?」
「何を?」
「海へ出かけるのか?」
「少し考えてみる」

  沈黙モードへ。

  (まだしつこく続くのであるが)

後藤を待ちながら  4

2006-12-12 07:37:34 | 戯曲
 
  ☆少し休んだ「後藤を待ちながら」の復活。 

  相変わらずガラスの動物園にある木製のベンチ。
  ホリゾントに風船が3個浮かんだまま。
  電信柱が1本、下手に立っている。
  ホームレス風の男2人。
  浦路と絵栖。

浦路「大丈夫か?」
絵栖「ああ、どうやら。えっ、何が?」
「腹の具合さ」
「むろん、なんともない」
「で、どうする?」
「さあ。わからない。おまえは?」
「困ったものだ」
「ああ、困ったものだ」
「また、歌を歌うか?」
「いや、いい。おまえの歌は下手すぎる」
「そうか、じゃあ、魚の話をしようか」
「前に聞いたよ」
「別の魚の話さ。ウナギの話」
「ウナギは魚かい?」
「もちろん魚さ」
「蛇かと思った」
「ウナギが蛇なら、ミミズも蛇になる」
「ミミズも蛇ではないのか?」
「もちろん、ミミズはミミズさ。蛇は爬虫類」
「ミミズは何類なんだ」
「ミミズ? 知らないよ」
「ミミズも爬虫類だとまずいのか?」
「ああ、ミミズには骨がない。爬虫類には骨がある」
「ウナギだって、骨があるだろう。だったらウナギは爬虫類じゃないか」
「いや、ウナギは魚類さ。水の中に暮らしているからね」
「じゃあ、亀やワニも魚類なんだね」
「おまえ、俺に喧嘩を売る気か?」
「喧嘩なんて売ってないよ。ただ素朴な疑問を投げかけているだけじゃないか」
「ウナギの話はよそう」
「なんだ、自分から切り出しておいて。ウナギを釣るのに、ミミズを使うんだぜ」
「それがどうした」
「ああ、蒲焼食いてえな。おまえ、食ったことがあるかい?」
「ウナギの蒲焼か。もう、ずっと食ってねえな」
「ああ、あれは金持ちが食うものさ。俺たちにも金があれば食えるが」
「金なんてないさ。まったくない」
「金が欲しくないかい?」
「ああ、欲しい。でも、働かなきゃ手にはいらないぜ」
「もちろんさ。俺だって、働いていたことはある。背広を着て、ネクタイ締めて」
「ネクタイを締めていたのか?」
「ポケットには定期入れや財布もあった」
「財布を持っていたのか」
「お金を入れてたんだぜ」
「今じゃ考えられない」
「給料ももらっていた。仕事もしていた」
「どんな仕事?」
「忘れちまった」
「いいことだ。忘れなきゃ記憶でパンクするからな。脳みそってやつは」
「で、どうする?」
「何を?」
「これからさ」
「何もしないよ。おまえは」
「何もしない。何も出来ないし」

  3分の沈黙。

「雨が降らないかなあ」
「降ったら濡れるぜ」
「傘がある」
「どうしたんだ?」
「拾った。どうだ、いい傘だろう」
  傘を開いてみせる。骨が折れて、ゆがんだ傘。
「いい傘だ。骨の折れ具合がなんともいえない」
「これなら、前の持ち主も納得だろう」
「何に納得するんだ?」
「俺が次のユーザーになること」
「ああ、ぴったりだ」
「せっかく傘があるんだ。雨が降れば、これが役に立つ」
「俺は傘がない。濡れるんだぜ」
「そういうものさ。人生なんて」
「どういう?」
「みんながみんな、うまくはいかないって事」
「そうか。でも、ウナギ、食いたいなあ」
「俺は天麩羅食いたい。熱々の揚げたて」
「天麩羅もいいなあ。すき焼きはどうだ」
「すき焼きもいい。マツタケも食いてえな」
「寿司もどうだ。トロにイクラにエンガワ」
「いいなあ、食いたいなあ」
「食いたいと思う分には、勝手だからな」
「誰も文句は言わない」
「文句のつけようがないな」
「食ったらがっかりするかもしれないしな」
「ああ、きっとがっかりする。で、どうする?」
「何を?」
「これからさ」
「何もしない。おまえは?」
「何もしない」

  また沈黙が始まる。

  ということで続くが、いったいどこまで続くのか。



後藤を待ちながら  3

2006-12-07 07:47:38 | 戯曲
  ☆今日のひと言
   収入激減 明日はわが身か ホームレス
   景気回復など まっかっかな嘘

 後藤を待ちながら  第3回


  浦路、突然小学校校歌を歌いだす。
  絵栖、両手で耳をふさぐ。
「朝霧の、消え行く峯を、振り仰ぎ
 今日もみなぎる、この力
 未来に向かって、夢ひらき
 手に手をとって、前進を
 ああ、われら、南海から飛び立とう」

  絵栖、両手を耳からどけて言う。

「ああ、いい歌だった」
「よく聞こえたかい?」
「よく聞こえなかった。だから良かった。まともに聞いていたら、俺の脳みそは腐ってしまう」
「そんなにひどい歌なのか?」
「歌詞もひどいし、声もひどい。顔もひどい」
「ひどい言い方だな。友だちとは思えない」
「おまえとは友だちなんかじゃない」
「また、俺をいじめるのか?」
「いじめてなんかいない。いじめるのは学校の先生のすること。おまえだって、ひどいことされたのじゃないか」
「ああ、先生はひどかった。田中先生。俺のことを、バカだと言った。マヌケとも言った。テイノウ、ヘンタイ、ドンクサ、いろいろ言われたものだ。そのたびに、俺はしょげ返っていた」
「先生はみんな多かれそんなものさ」
「預言者のように、おまえは大人になってもろくな人間にならないと言った」
「それは当たっていたな」
「そう、当たっていた。俺はろくな人間にはなっていない。けど、おまえだって」
「そうさ、ろくな人間ではないな。でも、まあ、これも人間さ」

  沈黙、2分。

「腹が減らないかい?」
「減ったような気がする」
「どうする?」
「弁当を食うか」
「それとも、新しい弁当を手に入れにいくか」
「動くのは面倒だ」
「じゃあ、昨日の弁当を」

  浦路、弁当を出す。絵栖にも渡す。
  絵栖は弁当を受け取り、目を落とす。

「おい、カビが生えているぜ」
「防カビの添加物が入っていないと言うことだ。カビをよければ食べられる」
「まあ、腹を壊してもたいしたことじゃないしな」
「ああ、たいしたことじゃない」
  食べはじめる。
「ちょっと、すっぱいような味がするね」
「腐りかかっているのだろう。防腐剤がはいっていないって事だ。健康にはいいよ」
「ヘルシーな弁当か。このコロッケも、なかなかいけるね」
「で、どうする?」
「何を?」
「食べたあとのこと」
「寝るか、散歩するか、話をするか、ぼんやりするか。選択肢はないさ。成り行きしか仕方ないだろう」
「毎日同じだね」
「ああ、同じだ」
「いつまで続くんだい?」
「そりゃ、終わるまで続く」
「いつ終わるのだい?」
「さあ、わかんないなあ」
「このご飯もすっぱいね」
「ねばねばしている。もうほとんど腐っているね。においもするし」
「じゃあ、新しいのを探しにいくか?」
「動くのは面倒だよ。それよりも、昔の栄光の話をしてくれないか。おまえには輝かしい過去があったのだろう」
「過去は輝かしいものさ。でも、もう終わった」
「結婚してたんだろう」
「ああ、してた」
「美人の女だったのか?」
「まあ、美人だった。いい女だった」
「背は高かったのか?」
「1メートル60センチ。まあ、普通だった」
「結婚してたなんてすごいなあ」
「ああ、でも離婚した。すごくはない」
「ひどい女だ。おまえを捨てるなんて」
「そうさ、いい女だけど、ひどい女。女って、そんなものさ。心が捻じ曲がっている」

   沈黙、3分。

  (さて、まだ続くのだが)

後藤を待ちながら  2

2006-12-06 05:47:37 | 戯曲
 
 ☆蛇足 今日のひと言
 会津、紀州、日向に天の声響く
  砂糖たっぷり木村屋パン店の餡ドーナツ
  脇の甘さで食中毒による失職
 

 後藤を待ちながら  その2

   眠っていた浦路、急に起きる。
「わっ」
「どうした?」
「夢を見た」
「どんな夢」
「ライオンに食べられる夢」
「で、食べられたのかい?」
「いや、食べられる前に目が覚めた」
「そりゃ、残念な」
「俺が、食べられた方が良いと言うのかい?」
「どうせ夢さ」
「嫌な夢」
「夢って嫌なものさ。いい夢なんて見ない」
「で、どうする?」
「何を?」
「これからさ」
「どうもしない」
「そうか、でも、腹が減るぜ」
「なんとかなる。昨日の弁当がまだあるし」
「カビは生えていないかい」
「よけて食べればいいよ」
「そうだな」

  沈黙、3分。

「夢の中のライオンって、オスだったのかい」
「忘れた」
「さっき見たばかりじゃないのかい」
「でも、忘れてしまった」
「健忘症なのか」
「そうらしい」
「見たのは、きっとオスだよ。メスはネコみたいで、人を襲ったりしない」
「コンビニ弁当はもう飽きたな」
「ああ、飽きた。明日は出かけないか?」
「どこへ?」
「遠くへ」
「面倒だよ」
「退屈しないかい」
「退屈だ」
「ジャンケンしようか」
「嫌だ」
「どうして」
「負けたりかったりする」
「いいじゃないか」
「負けると悔しいし、勝てば病み付きになる。ジャンケンは麻薬さ」
「リンゴを食べたくないかい」
「ジャンケンは、リンゴと違うだろう」
「もちろんさ。リンゴはグーと違う。グーは石さ」
「石はいろいろだな」
「ああ、いろいろ。ダイヤモンドだって石だぜ」
「ダイヤモンドって、見たことがあるのか?」
「ないさ。あってたまるか。そんなもの、金持ちが持つものだよ」
「貧乏だと駄目なのか」
「貧乏人は、そこらの石ころで十分」
  絵栖は石ころを拾う。
「これ、ダイヤには見えないよね」
「見えないけど、ダイヤでないとは断言できないね。だって、ダイヤを見たことがないんだ」
「これが、ダイヤかも知れないってことか」
「本物だとすごいぜ、これ一個で、家が建つかもしれない」
「どうする。家をほんとに建てるのか?」
「ああ、建てる。犬も飼う。バナナも房で買う」
「バナナか。いつも、黒くなったやつしか食ってないな」
「バナナは黒くなりかけが旨いんだよ」
「あの旨いバナナを、コンビにやらスーパーでは捨ててるんだからね。もったいない」

  沈黙2分。

「で、何をしてる?
「何もしてない。おまえは?」
「何もしてない」
「歌を歌わないかい?」
「歌? 俺は音痴だ。遠慮する」
「じゃあ、俺が歌ってやる。いい歌だ。俺の小学校の校歌」
「前にも聞いた事があるぜ」
「また歌ってやる」
「いいよ。聞きたくない」
「冷たいなあ」
「冷たい?」
「ああ、俺とおまえの仲だろう。歌ぐらい聞いてくれたって」
「じゃあ、歌いな。耳をふさいでおくから」

   (と言うことで、また次回へ)

後藤を待ちながら

2006-12-05 04:27:10 | 戯曲
 
  前書き

 尊敬し敬愛し神と崇めるノーベル文学賞劇作家サミュエル・ベケット大先生の名作「ゴドーを待ちながら」は、何度読んでも、またなんど芝居を見ても感動の雨嵐、拍手喝さいの日々にひび割れ50メートルなのでございマスダの明美さん。
 ということで、もちろん、タイトルをいただき、若干粉飾決算気味に書いた戯曲で有馬温泉。まあ、途中で嫌になったら読むのをおやめいただいて結構コケコッコーでございますが、我慢して読めるところまでどうぞ。ぜひご一読を。

 なお「走れ西瓜」は今後も続くが、ちょっとだれてきたので中休み。いつ復活するか未定だが、近々の予定。


  1

  ガラスの動物園にある木製のベンチ。
  ホリゾントに風船が3個浮かんでいる。
  電信柱が1本、下手に立っている。
  ホームレス風の男2人。浦路と絵栖。
  配置は演出家がご自由に。

浦路「何をしてるんだ?」
絵栖「何もしてない」
 (以下浦路、絵栖を略)
「何も?」
「ああ、何も」
「退屈じゃないかい?」
「ああ、退屈だ」
「何かしないか?」
「でも、面倒だよ」
「そうだな、面倒だけど、何もしないよりはいいだろう」
「ああ、でも、何をする?」
「考えるのはどうだ?」
「じゃあ、何もしない方がいいか?」
「ああ、何もしない」
 
  30分間の沈黙
   ~観客の耐えうる時間でもかまわない。

「あれから、何もしていないのか?」
「ああ、してない」
「おしっこもしてないのか?」
「おしっこは、たぶんした」
「どこで?」
「ここで」
「ああ、それで臭いのか?」
「匂うかい?」
「ああ、匂う。濡れてるだろう」
「びっしょり」
「おむつじゃなかったのか?」
「ああ」

  5分間の沈黙

「まだ匂うかい?」
「ああ、少し」
「いい話をしようか」
「いや、いい」
「聞きたくないのか?」
「いい話なら聞きたいが、おまえの話はいい話はひとつもない。だから、いい」「今度はいい話だ。どうせ、ヒマなんだろう」
「おまえの話を聞くほど暇じゃない」
「忙しいのか?」
「忙しそうに見えるか?」
「いや、ヒマそうだ」
「人が思うほどヒマじゃない」
「ヒマそうじゃないか。さっきからずっとそこにいて、ぼんやりしていた」
「ぼんやりするのに忙しいんだ」
「そうか、忙しいなら無理に引き止めても。でも、話したいな。じゃあ、話してしまおう。こんな話だ。昔、万福寺という大層大きなお寺が、山の中にあったそうだ。万福寺の入り口には、仁王門があって、大きな仁王さまがおったそうだ。その仁王さん、夜になると村へ出て、村人の家の中を覗く悪い趣味を持っておったそうだ。で、一軒のあばら家。そこには、婆さんがひとりで暮らしておったんだが、仁王は時おりそこも覗いておった。変な上にさらに変な趣味が、この仁王にはあったんだね。で、戸の隙間から覗いていると、婆さんはプーッと大きなおならをしたんだ。仁王は思わずウッと生唾を飲み込んだ。と、婆さんは戸の外の気配を感じ顔を向けた。そして、こういったんだと、『匂うかい?』って。仁王は、正体を見透かされていると思いびっくり」
「その話、もう三回目だよ」
「そうか、前も話していたか」

  また沈黙。今度は少し。

「で、どうするんだ?」
「何を?」
「人生さ」
「人生?」
「ああ、おまえの人生」
「さあ、考えたことがない」
「どうして?」
「それも考えたことがない」
「どうして考えないんだ」
「だって、面倒じゃないか」
「腹は減らないかい?」
「さあ。どうだろう。減ってるような、減ってないような」
「雨はふらないかな」
「昨日飛んでいたカラスは、たぶんメスだね」
「一眠りするか」
「また怖い夢を見るぜ」


   (と、続くのであるが)