goo blog サービス終了のお知らせ 

ブログ小説 過去の鳥

淡々と進む時間は、真っ青な心を飲み込む

後藤を待ちながら3 赤福伝説

2007-10-20 17:33:26 | 戯曲
赤福、再出荷時に翌日の刻印 偽装が常態化(朝日新聞) - goo ニュース

 尊敬し敬愛し神と崇めるノーベル文学賞劇作家サミュエル・ベケット大先生の名作「ゴドーを待ちながら」を下敷きとした第3弾の6回目。
 赤福編。

 長いベンチがあり、その背後に3個の風船が浮かんでいる。
 赤、青、黄色の信号色の風船。
 それに枯れ木が1本。
 
 ホームレスの浦路と絵栖の二人は、ベンチの両端に腰を下ろしている。
 浦路は先日同様に新聞を読んでいる。

絵栖「また新聞を読んでいるのか」
浦路「ああ」
「よく飽きないなあ。たいした記事があるわけではないだろう」
「つまらない記事ばかりだ」
「記事では腹の足しにもならないしな」
「腹の足しにはならないが、腹の立つ記事はあるぜ」
「ほう、どんな記事?」
「赤福の餅が、作った時期を偽装していた。それで販売が禁止になっている」
「赤福って、あのあんこをまぶした餅?」
「おまえ、食べたことがあるのか?」
「あるさ。子供の頃。あれはおいしかった。お袋が勝ってきてくれた。そういやあんこの餅なんて、ずっと食べたことがない。コンビニのごみ箱にはないし」
「赤福は期限が切れた餅は回収して、もう一度リニューアルして店に出すんだって」
「ああ、それで、餡の入った餅はごみ箱に捨てないのか」
「あんこは腐らないからな」
「あんこは腐らない? 本当か」
「ああ、砂糖をいっぱい使っていると腐らない。飴もチョコレートも腐らない」
「だから、白い恋人とか、不二家とか、お菓子はいろいろ怪しいことをしていたのか?」
「まあ、多かれ少なかれ、菓子の業界ではやってるらしい」
「腐らないものに賞味期限をつけるのか?」
「そういう決まりだ」
「あんこは腐らないのに、うんこは腐るのか」
「何でうんこの話を持ち出す。うんことあんこはまったく次元が違う問題だ」
「あんこを食べると、おなかの中でうんこにはならないのか」
「そりゃなるさ」
「じゃあ、あんこもうんこも似たようなものだろう」
「あんこは食べられるが、うんこは食べられない。まったく違う」
「どうして? うんこを食べちゃいけないのか」
「大体臭いだろう。うんこは、もう身体の中で腐っているものなんだ」
「えええっ、うんこは腐っているのか。俺たちは腐ったものを身体の中に入れているのか」
「いや、腐っているから、外へ出すんだ」
「あんこは、人間の身体の中に入ると腐るのか?」
「まあそういうことだ」
「じゃあ、どの辺で腐るんだろう。この辺か、それともこの辺?」
 絵栖は手で腹部を示す。
「そんなのどうでも良い」
「どうでも良い? それはよくない。あんことうんこはまるで違うだろう。あんこはおいしいけど、うんこはオエッとなる。根本的に異なるんだけど、どっかで中間の時期があったはずだ。子どもと大人には思春期がある。昼と夜には夕暮れがある。当然あんことうんこに中間があっていいはずだ。あうんこ、とか」
「だからどうしたと言うんだ?」
「だからどうした、とはどうした」
「どうしたと言うことは、胴の下か、うんこの出るのは?」
「汚い話はよそう」

 間

「赤福、食べたいな」
「ああ、食べたい」
「別に賞味期限も製造日も関係ないんだけどな」
「ああ、めったに腐らないものな」
「砂糖や塩には賞味期限はないんだぜ」
「砂糖にないのか?」
「ああ、砂糖にはない。砂糖は腐らないから。砂糖たっぷりの赤福も腐らない。赤福が消えて腐るのは消費者と会社だけ」
「でも、どっちかいうと腐りかけがうまいけどな。幕の内弁当も、期限が切れて、少し匂い始めた頃のものがおいしい」
「ちょっと糸を引きはじめたご飯もおいしいな。カビを横によけて食べたり」
「そうさ、人はめったなことで腹を壊したりしないからな」
「ああ、食べたいな、赤福」
「売れなくなった赤福、どうするんだろう」
「捨てるのじゃないか」
「それはないよ。もったいない。俺は食べたい」
「俺も食べたい」
「捨ててくれれば拾うんだけど」
「でも三重県だぜ」
「遠いなあ。この近辺でも、どこかで捨てないかなあ、期限切れの大福」
「コンビニのごみ箱、探しに行くか?」
「ああ、行こうか」

 二人、動こうとしない。



死刑自動化時代 後藤を待ちながら

2007-09-29 06:58:12 | 戯曲
鳩山法相、亀井静香氏の批判に反論 死刑「自動化」提言(朝日新聞) - goo ニュース

撮影中の長井さん、至近距離から狙い撃ちか(読売新聞) - goo ニュース

 尊敬し敬愛し神と崇めるノーベル文学賞劇作家サミュエル・ベケット大先生の名作「ゴドーを待ちながら」を下敷きとした第3弾の5回目。
 死刑制度の中のホームレス。

 舞台はいつもの公園。
 長いベンチがあり、その背後に3個の風船が浮かんでいる。
 赤、青、黄色の信号色の風船。
 それに枯れ木が1本。
 
 浦路と絵栖の二人は、ベンチの両端に腰を下ろしている。
 浦路は先日同様に新聞を読んでいる。

絵栖「また新聞、読んでいるのか?」
浦路「ああ、見ての通りさ」
「今日はどんな記事が書いてある?」
「いろいろな記事さ」
「例えばどんな」
「17歳の相撲取りが、よってたかって暴力を受け、殺された」
「17歳か、まだ若いじゃないか。71歳なら死んでも仕方ないが、17歳じゃ、まだまだだ」
「親方が、ビール瓶で頭を殴ったそうだ。弟子たちは金属バットで殴って殺してしまった。それを、親には隠して、親方が火葬にしてしまおうとした」
「そんなの、全員死刑だな」
「全員死刑?」
「そうさ、人を殺したんなら、死刑だ。可哀想に、17歳の夢も希望も奪ったんだぜ。殺された親の気持ちを考えたら、死刑以外にない」
「しかし、殺すつもりはなかったと思うぜ」
「ビール瓶や金属バットで殴って、殺すつもりがないなんて信じられない。明らかな殺意さ」
「でも、みんなでやったことだ。10人でやれば、その責任は10分の1になると思うが」
「人の命は、何人だろうと変わりないさ。ああ、嫌な事件だ。ほかにはどんな記事が載っている?」
「ミャンマーで、日本人のジャーナリストが、銃で撃たれて殺された」
「何か悪いことでもしてたのか?」
「いや、ミャンマーの僧侶のデモを取材していた。そしたら突然、軍隊が至近距離からジャーナリストの胸に向けて発砲した」
「なんという。そんな軍人は死刑だ」
「軍人が死刑?」
「当然だ。罪もないジャーナリストを撃ち殺すなんて、人間じゃない。そんな奴は死刑に決まっている」
「ジャーナリストは、軍の行動を撮影していた。軍にとっては都合が悪かったんだろう。それで、迷惑なジャーナリストに発砲したのじゃないか」
「なんだ、おまえは人殺しの肩を持つ気か?」
「いや、そうじゃない」
「そうだよ。人を殺す奴は、問答無用で死刑。理由なんて聞く必要はない。一人一人理由なんて聞いてたら、殺されたものはどうなるんだ。そう、殺人者にいいわけは無用。ぽんぽん死刑にしてしまえばいいんだ、自動的に」
「死刑のことで、鳩と亀の言い争いの記事も載っている。死刑を自動化すべきかどうかなんてことで」
「鳩と亀? ウサギと亀じゃないのか」
「鳩山法務大臣と、死刑反対論者の亀井静香という議員だ」
「死刑を反対の議員もいるのか。変な女だ」
「亀井静香は女じゃない」
「男か?」
「ああ、男だ」
「静香は女の名前だろう。工藤静香は女だぜ」
「いいや、れっきとした男だよ。あの顔で女だったらオバケだ」
「おまえ、知ってるのか、その女みたいな男の顔」
「新聞には写真が載っている。この亀は、死刑に反対で、鳩はドンドン死刑を自動化すべきと言ってるんだ」
「それは、鳩が正しい。殺されたら殺し返す。それでアイコだ。そうでなきゃ、被害者が浮かばれない。殺され損でおしまい。相撲部屋の連中も、ミャンマーの軍人も死刑だ。だって言うだろう、目には目を、歯には歯を、殺人者には死刑をって」
「しかしこうも言う。罪を憎んで人を憎まずって。人には様々な事情がある。ふと殺人を犯すこともある。それですべて死刑だなんて」
「殺された者の人権はどうなるんだ。おれは、相撲部屋の連中が死刑にならなかったらおかしいと思う。親の気持ちになってみろ。少なくとも、ビール瓶で殴った親方は、問答無用で死刑だ」
「おまえは極論だ」
「なにが極論だ。17歳の夢を奪ってのうのうと生きているなんておかしいぜ。おれが親なら、親方を殺しに行く」
「ああ、そんな言葉、新聞に前に書いてあった」
「誰の言葉だ」
「九州で、酔っ払い運転の男のために、三人の子どもを失った母親。それに光市で妻子を殺された男の言葉。でも本当に殺せるだろうか。江戸時代は仇討ちがあった。仇討ちをしなきゃ、家族じゃないと言う社会だった。それが幸福だったのかどうか」
「愛する家族が殺されたら殺し返す。そりゃ、当たり前のことさ。この手で、首を絞めて、どんなに泣き叫ぼうと、許しを請って土下座しようと知ったこっちゃねえ。殺人者には復讐し、血祭りにあげるのが健全な社会だよ。あのなぶり殺しにあった17歳の相撲取りは、どんなに怖かったことだろう。おまえが新聞で教えてくれた光市とかの母子を殺した事件があったろう。あの元少年が死刑になるなら、相撲部屋の親方も確実に死刑さ。17歳の少年を保護しなきゃならない立場で惨殺をしたわけだろう。これで死刑にならなきゃ不公平さ」
「で、親方を死刑にすれば気が済むのか」
「もちろんさ。人を殺すのはいい気分だ。スカッとする。ごめんなさいと謝ろうがが土下座を使用が、殺された者の身になって見ろ、といえばいいんだ。それが正義さ。家族のために、死刑の地獄に追い詰めていくんだ」
「でも、おまえには愛する家族なんていないだろう」
「ああ、いない。おまえだっていないじゃないか」
「いないよ。おれが殺されたら、おまえ、悲しむか?」
「いや、たぶん、さっぱりする。おまえはどうなんだ、おれが殺されたら」
「おれもさっぱりするかもしれない」
「けど、家族は別さ、たぶん」
「家族か。いいな」
「ああ、家族はいい。あったかい家族」
「おれだって、母親に抱っこされていたことがあった」
「今じゃ、公園で一人ぼっち」
「一人ぼっちじゃないだろう。おれがいる」
「でも、家族じゃない」
「ああ、家族じゃないけど、よかったら抱っこしてやろうか」
「いや、いい、気持ち悪いさ」
「そうだな、おまえは臭いし」
「ああ、臭い。もう2年も風呂に入っていないし」

  間

「で、飯はどうする?」
「そろそろ飯の時間か。午前7時の時間切れ弁当、コンビニにいただきに行くか」
「そうだな。また幕の内か」

台風は去ってホームレスは流されて

2007-09-07 17:57:05 | 戯曲
台風9号、8日朝には北海道に 2人死亡、7人行方不明(朝日新聞) - goo ニュース

 尊敬し敬愛し神と崇めるノーベル文学賞劇作家サミュエル・ベケット大先生の名作「ゴドーを待ちながら」を下敷きとした第3弾の4回目。
 台風が去った翌日の公園。

 長いベンチがあり、その背後に3個の風船が浮かんでいる。
 赤、青、黄色の信号色の風船。
 それに枯れ木が1本。
 
 浦路と絵栖の二人は、ベンチの両端に腰を下ろしている。
 浦路は先日同様に新聞を読んでいる。

絵栖「 昨日はひどい風だった。それに雨。あの公衆トイレがなかったら、今頃ずぶぬれで風邪を引いているところだった」
浦路「便所は臭いが、安全な場所だ」
「臭さは慣れるが、ずぶぬれは体温を奪うだけ」
「そのあげくが肺炎で死んでしまったり」
「で、もう新聞に、台風のことが載っているのか」
「ああ、載っている」
「死人は出たのか」
「ああ、出た」
「そうだろうな。あれだけひどい風だと、吹っ飛んでいったやつもいたろうな。栄養失調の連中は、吹っ飛んで木に引っ掛かったり」
「北朝鮮では、栄養失調の連中が、よく空を飛んでいるってはなしだもんな」
「多摩川では、それだけじゃない。川で流された奴がいる」
「流された?」
「川に住んでた連中だ」
「おまえも、前は川に住んでたのじゃないか」
「ああ、河原に小屋を建てて住んでいた。いい暮らしだった。畑では茄子や胡瓜も取れたし」
「川ではウナギも釣れたんだろう」
「鯉やウグイも取れた。しかし危険だった。大水が出れば流される心配がある」
「心配が現実になったわけか」
「そうだな。新聞では行方不明7人と書いてあるが、きっともっといる。たくさん住んでいたからな。数なんていい加減なものさ」
「おれたちは、世間では数に入っていないんだろうな」
「人口の統計からは外されているかもしれない」
「人間だとは思われていないんだ。たぶん」
「人間のくずと思われているかもしれない」
「おれたちはクズか」
「まあ、宝とはいえないだろう。どちらかといえばクズに近い」
「クズだから、流されたってしょうがないと言うことか」
「まあ、そうだな。役人たちは、川に住む連中を虫していた。台風が来ても危険だと連絡しなかった。増水したのは夜中だ。寝込んでいるときに川が増水すればしょうがない」
「しょうがないのか」
「増水した水に流されようが、原爆を落とされようがしょうがない。そういうものさ」
「そういうものか。人の命というものは」
「命にはピンからキリまである。大切な命と、やや大切な命、あまり大切でない命、どうでも良い命」
「おれたちは」
「もちろん、どうでもよい命」

  沈黙2分

「おれたちって、死んでもどうでもいいのか」
「まあな。川で行方不明になった連中も、名前なんて呼ばれない。河川敷に小屋を構えていた連中。その程度。名前なんてどうでもよい存在なんだ」
「川に流されても、だれも悲しんだりしない。それも哀しいな」
「生き延びたほかの連中も、ブルーシートの小屋は流され、路頭に迷っている。幸いだったのは、今が夏だったこと」

 こうして川では無名の命が消えていく。
 誰も悲しんでくれる人はいない。
 孤独な命。

後藤を待ちながら3 白い恋人

2007-08-17 09:52:22 | 戯曲
改ざんは10年、社長も把握 「白い恋人」の賞味期限(共同通信) - goo ニュース

 尊敬し敬愛し神と崇めるノーベル文学賞劇作家サミュエル・ベケット大先生の名作「ゴドーを待ちながら」を下敷きとした第3弾の3回目。
 白い恋人の幕。

 舞台はいつもの公園。
 長いベンチがあり、その背後に3個の風船が浮かんでいる。
 赤、青、黄色の信号色の風船。
 それに枯れ木が1本。
 
 浦路と絵栖の二人は、ベンチの両端に腰を下ろしている。
 浦路は先日同様に新聞を読んでいる。

絵栖「また読んでいるのか?」
浦路「ああ、見ての通りさ」
「いい話は書いてあるのか?」
「いや、悪い話ばかりだ」
「悪い話は、いい話じゃないか。人が不幸になれば、俺たちは相対的に幸福になる」
「相対的な幸福は、簡単に絶対的な不幸に落ち込んでいくさ。アメリカでは橋が崩れ、中国でも橋が崩れ、たくさん死んだ。日本だって、いつ橋が崩れるか分かったものじゃない」
「橋って、崩れるものなのか?」
「そりゃ崩れるだろう、いつかは」
「俺は、崩れないと思うけどなあ」
「なんだって、作られたものは壊れる。北海道では、白い恋人が崩れた」
「白い恋人? なんだ、それ」
「食べたこと無いのか?」
「ああ、ない。おまえは食べたのか?」
「ない」
「じゃあ、関係ないだろう」
「まあな。でも新聞に書いてある。賞味期限を偽って売っていたそうだ」
「じゃあ、腐ったものを売っていたのか?」
「そこまでひどくはない。チョコレートだから、そんなに簡単に腐らないし」
「なんだ。腐りかけって、美味しいのにな」
「ああ、鯛は腐りかけに限る。弁当のご飯も、腐りかかって、少し糸を引くようになったものが美味しいのに」
「そう、腐りかかって、ちょっと酸っぱくなった弁当は、食道楽にはたまらない味なんだけどな。で、白い恋人はどうしたんだ」
「すべての菓子を回収したらしい」
「で、また賞味期限を書きかえて店に出すのか?」
「それはどうだか」
「もったいないぜ、まさか捨てるのじゃないだろうな。食べるものを粗末に扱うのはいけない。俺なんか食いたいけど。捨てるんだったら分けてくれないのかなあ」
「分けてくれるにしても、北海道だぜ」
「北海道って、ヒグマがいるんだろう」
「ああ、シャケもいる」
「ヒグマはヤバイ。ツキノワグマより強暴だぜ。北海道には行きたくないな」
「北海道には、どこにでも熊がいると思っているのか」
「もちろんいると思うさ。オーストラリアにはカンガルーがどこにでもいるし、ケニアにはライオンがいっぱいいる。そういうものさ」
「北海道の札幌は都会だぜ」
「札幌にはヒグマはいないのか」
「いないさ。いてたまるか」
「一匹もいないのか」
「ああ、いない」
「動物園にもいないのか」
「動物園は街じゃない」
「じゃあ、札幌には動物園も無いのか」
「無いさ」
「動物園が無いようでは都会といえないぜ。やっぱり札幌は田舎じゃないか。ヒグマがいても当然だろう」
「ああ、ヒグマはいるよ。それでいいんだろ」
「ヒグマは甘いものが好きだろう」
「さあ、どうだか」
「だって、熊は蜂蜜が大好きなんだぜ。チョコレートも好きなはずさ。白い恋人を分けてやれば喜ぶぜ」
「それもそうだ。無駄に捨てるより有効利用すべきさ」
「熊が白い恋人を食うと、身体も白くなって、ホッキョクグマになってしまわないかな」
「まさか」
「でも、まさかということがおきているのが現実だぜ」
「そうだよな。俺なんか、まさかこんな暮らしをするなんて考えてもみなかった」
「ほんとに、一寸先は闇だよ。けど、そんなものだよ、人生は。どう転んでも、結局は三蔵法師の手の中から逃れられない孫悟空さ」
「それにしても暑いなあ」
「ああ、暑い」
「水浴びに行くか?」
「どこへ」
「噴水さ」
「中学生がいるかもしれないぜ。奴らは石をぶつけてくる」
「そうだな。あああ、白い恋人、一度食ってみたいな」
「ああ、食って見たい」

 今日も絵栖と浦路は、ベンチに腰を下ろしたまま一日を過ごす。
 

後藤を待ちながら3 その2回

2007-08-04 19:32:15 | 戯曲
万引き男、路上で自殺 客が追跡、追いつめられ 渋谷(産経新聞) - goo ニュース

 尊敬し敬愛し神と崇めるノーベル文学賞劇作家サミュエル・ベケット大先生の名作「ゴドーを待ちながら」を下敷きとした第3弾の二回目。

 舞台はいつもの公園。
 長いベンチがあり、その背後に3個の風船が浮かんでいる。
 赤、青、黄色の信号色の風船。
 それに枯れ木が1本。
 
 浦路と絵栖の二人は、ベンチの両端に腰を下ろしている。
 浦路は先日同様に新聞を読んでいる。

絵栖「また新聞読んでるのか?」
浦路「ああ、字を読まなきゃ馬鹿になる」
「俺は字を読まないぜ」
「だから馬鹿なんだ」
「俺は馬鹿なのか?」
「かしこくは無いだろう。賢ければホームレスなんてしてないよ」
「おまえは新聞を読んでいながらホームレスをしているじゃないか」
「そういうものさ」
「どういう?」
「こういうこと」
「よく分からないが、そう言うことなのか」
「ああ、いい加減なものさ、世の中なんて」
「で、今日はどんなことが書いてあるんだ?」
「おにぎりを万引きした男が自殺した」
「なんだ。おにぎりで自殺?」
「見つかって、追いかけられて、逃げて、持ってたナイフで自分の胸を刺したんだって」
「バカな男だ。おにぎりを食べたかったのか」
「そうだろう、ひもじかったんだ、きっと」
「でも、死ぬことはないだろう」
「まあ、餓死するのを待てなかったのだろう。餓死は辛いぜ。ひもじさがじわじわ責めて来て、骨と皮だけにやせこけていく」
「スーパーやコンビニのごみ箱にいけば、期限切れの弁当が落ちているのに」
「ああ、おにぎりなんていわずに、幕の内もしゃけ弁当もあるのにな」
「この前はうな丼も食べた。あれは中国産だったかもしれないな」
「中国産でもいいじゃないか。餓死することを考えりゃ、食えるうちが華だ」
「おにぎりで、命間でとは、かわいそうに。世間知らずなんだ」

 沈黙1分

「で、どうする?」
「何を?」
「あれさ」
「あれか」
「ああ、あれ」
「あれはどうしようもない」
「そうか、じゃあ、あきらめるか」
「今回はな」

 沈黙2分

「蝉が鳴いてるぜ」
「蝉ぐらい鳴くさ。夏なんだから」
「ああ、そうか、夏か。道理で暑いと思ったよ」
「おまえ、まだコートを着ているのか」
「ああ、去年からずっと着てる」
「いくら着替えが無いと言っても、夏冬兼用のコートは健康によくないぜ」
「しかし、これしかないからな、着るものは」
「困ったな。それに臭くないか?」
「まあ、臭いのだろうな。自分では分からないが」
「そういうものさ。自分の非は見えない。見えるのは他人のアラだけ。だから世の中はうまくいくし、悪く転ぶこともある」
「哀しい話だな」
「そうさ、哀しい。人生は悲劇さ。三角形の悲劇。ちっともいいことはない。悪いことはいっぱい。おにぎりを万引きした男は、本当に食べたかった。死ぬほど食べたかった。で、食べられない現実を悟ると、自殺するしかなかったんだ。それが人生さ」
「人生を真剣に生きてきたんだね」
「ああ、俺たちのようにいい加減じゃない。イラクではドンドン自爆テロで若い連中が死んでいるし」
「万引き自爆か。ちょっと切ないなあ」
「しかし、日本でも人間魚雷や神風特攻隊というのもあった。飛び立ったら二度と戻って着陸できない飛行機。片道専用飛行機。その絶望を正当化するのは、聖なる戦いということだけ。でも所詮戦争は、どう正当化しようと殺人に過ぎない」
「戦争になると、命は軽くなるんだね」
「軽い軽い、赤紙一枚の命。原爆で死んでもしょうがない、と日本の大臣も言ってたけど、そういう吹けば飛ぶほど軽い命になってしまう」
「ふーん、新聞読んでるだけあって、むずかしいこと言うな。でもさ、どうして戦争するんだ?」
「それは新聞は書いてないよ。どちらかの言い分は書いてあるけど、真実は書けないものさ」
「俺にはついていけない話だな。さあ、そろそろ、弁当を仕入れに行くか」
「ああ、今日はテンプラを食いたいなあ」
「テンプラはむずかしいぜ。幕の内ならいっぱい捨ててあると思うけど」

 二人退場
 暗転


 

後藤を待ちながら3

2007-07-31 19:16:31 | 戯曲
「困窮者、はよ死ねってことか」 孤独死男性日記に残す(朝日新聞) - goo ニュース

 尊敬し敬愛し神と崇めるノーベル文学賞劇作家サミュエル・ベケット大先生の名作「ゴドーを待ちながら」を下敷きとした第3弾を、皆様の目に。
 前2回の「後藤を待ちながら」には、極めてしらけた反応しかありませんでしたが、今回も懲りずにどっちらけ爆裂戯曲で、皆さんの度肝をしらけさせたいと考えております。
 これもまた気分で途中打ち切りがあるかもしれませんが、それもブログ小説ならではの妙味(?)とあきらめていただきとうございます。

 さて、舞台はいつもの公園。
 長いベンチがあり、その背後に3個の風船が浮かんでいる。
 赤、青、黄色の信号色の風船。
 それに枯れ木が1本。
 
 浦路と絵栖の二人は、ベンチの両端に腰を下ろしている。
 浦路は新聞を読んでいる。

絵栖「また新聞読んでるのか?」
浦路「ああ、おまえとは違う。知識が俺には必要なんだ」
「いい話が書いてあるのか」
「いい話もよくない話も書いてある」
「そうか」
「ああ、そうだ」

 沈黙
絵栖「なにが書いてあるのか聞かないのか」
浦路「聞いて欲しいのか」
「まあ、聞いてくれた方が張り合いってものがある」
「張り合いが欲しいのか」
「張り合いは大切だ。人生には大切なものとどうでも良いものがあるが、張り合いは知識の次に大切だ。張り合いがなければ、あの風船だってしぼんでしまう」
「そんなに大切なのか」
「計り知れないほどだ。そういうものさ。風船は無限の宇宙の大きさ」
「じゃあ、新聞にはどんな張り合いが書いてあるんだ」
「おにぎりを食べられなくて死んだ男の話」
「なんだ、胃の調子が悪かったのか? つまらない話」
「いや、生活保護を打ち切られたのだって」
「生活保護って、打ち切られると胃を悪くするのか。やわな胃だな」
「いや、お金がなくておにぎりを買えなくなったそうだ。それで餓死したのさ」
「冗談だろう。俺なんか、ここ何年かお金を触ったことないけど、まだ餓死してない。お金がなくて買えないってことは分かるが、おにぎりくらいだったら買えなくったって手にはいるだろう」
「俺たちはな。コンビニにひいきにしてもらってるからすぐ手に入る。昨日だってうな丼が手にはいったし」
「あれはうまかった。消費期限が半日しか過ぎてなかったからな。新鮮で味もよかった。冷えていたのはちょっと難だが」
「あれは、中国産のウナギかも知れない」
「中国だろうとサウジアラビアだろうと、ウナギに変わりはないよ」
「それが素人だってこと。中国産は防腐剤やら添加物やら有毒なものがごっそり入っているって事だぜ。新聞に書いてあった」
「新聞にはそんなことが書いてあるのか」
「ああ、何でも書いてある」
「ちゃんと調べて書いてあるのかな」
「調べたかどうかは問題ではない。書いてあることが重要なんだ」
「嘘でもいいのか」
「もちろんさ。中国産のウナギを叩くくせに、日本のタバコは問題になっていない」
「タバコは毒だぜ」
「そうさ、タバコなんて、その猛毒で毎年何万人と死者が出てるのに、いまだに堂々と売っている」
「ひどいものだな」
「そういうものさ。国やら市役所やらの連中は、国民が死ぬことを待っているのさ。国は大きな借金を抱えているから、働かない連中はドンドン死んで欲しいと思っている」
「俺に死ねって言うのか」
「だから関わりを避けてんだ」
「おにぎり一個で偉そうにされてもたまらんものな」
「ああ、たまらん。一生懸命働いても金は貯まらん。本当にたまらん世の中、貯めるのをあきらめると、楽なものさ」
「今はいいが、また冬が来るぜ。餓死はしないが、凍死は気をつけねば」
「まあ、冬まで生きていればな」


 と、珍しく浦路と絵栖の会話がはずむ。
 で、妻からメールが入り、夕食の仕度をしておいてくれとのこと。
 まあ、脳みそがふやけてきたので、投稿させていただく。
 気が向いたら明日に続きを。

 過去の「後藤を待ちながら」もよろしく。 






後藤を待ちながらⅡ  4

2007-03-03 07:05:57 | 戯曲
 しばらく停滞していた「後藤を待ちながら」
 過去を読みたい皆さんは、戯曲のカテゴリーから読み返していただきたい。


 やはり、公園のベンチで浦路と絵栖は相変わらずぼんやり。
 浦路のかたわらには新聞。

浦路「また、朝が来てしまった」
絵栖「ああ、来ちまった」
「どうしようもないな」
「生きているかぎり、朝が来る。かと言って、死んでからのことはわからないが」
「死んでも、朝が来るかも知れないぜ。世の中には謎が多いからな」
「死んでからの世界は、あの世だぜ。謎の多い世の中は、この世だろう」
「どっちでもいいさ」
「よくないさ。この世は、あの世とは全く違うんだぜ」
「あの世のことを知ってるのか?」
「よくわからないが、違うのは確かさ。この世からあの世に行けるけど、あの世からこの世には来れない」
「そんなことわからないさ。この世に戻ってきている連中も、けっこういるかも知れないぜ。途中で、記憶を消去されているのかも知れない」
「で、腹は減らないかい?」
「少し減ってきた。弁当を調達に行くか?」
「もうとってきてある。おまえの分も」
「いつ仕入れてきたんだ」
「おまえが寝ている間だ。今日も幕の内弁当だが」
「いいよ、十分だ。幕の内は栄養のバランスもいい」
「しかし、野菜が不足するよ。これはどうだ」
 と、取れたてのドロつきダイコンを見せる。
「おお、ダイコンではないか? どうしたんだ」
「畑に生えていた。それを失敬してきた。丸かじりにすればうまいぜ」
「ドロがついたままだぜ」
「かまうものか。ドロにも栄養があるんだ。だって、植物はドロから取った栄養で成長しているんだぜ」
「なるほど。じゃあ、ドロを食えば、野菜を食ったことにもなるわけだ」
「まあ、そうだな。齧って見るぜ」
 ダイコンを丸齧りする。
「どうだい」
「まあ、ダイコンの味がする。うまいものだ。ドロのシャリシャリ感も悪くはない。おまえも食うか?」
「ああ」
 と、手渡されたダイコンを食う。
「うん、ダイコンの味だ。なかなか美味しい」
「新鮮だしな」
「野菜は、採れたてがいちばんだ」
「八百屋のダイコンなんて、古くて食えねえな」
「八百屋でダイコンを買う奴は、貧しい連中さ。豊かな連中は、畑で取れたばかりのダイコンを食うものさ」
「俺たちは豊かなのか? 金など、最近はずっと持ったことがないぜ」
「金がなくても、心が豊かということさ」
「心も豊かとは思えないが」
「そんなことないさ。俺たちはあくせくしていない。それだけで十分さ。庭だって、こんなに広いし」
「ものは考えようだな」
「いや、無理やり考えているのではない。本当のほんと。俺たちは豊かなんだよ」
「そんなことは、俺にはわからない。しかし、ダイコンはうまいなあ」
「今度、キャベツも仕入れてくるよ」
「お百姓さんに、怒られないか?」
「見つかれば怒られる。見つからなきゃ平気さ」
「それって、悪いことじゃないのか」
「まあね。でも、今のお百姓さんは、みんな大金持ちなんだ。ダイコンの1本やキャベツの一個なんぞ、屁でもない」
「でも、悪いよ。なにか恩返しをしなきゃ」
「俺は、抜いたあとに糞をしてきた。糞は肥料になる。まあ、恩返しになるさ」
「おまえの糞が、畑に? これ、生で食べてんだぞ」
「糞をしたのは、抜いたあとだ」
「そうか。じゃあ、清潔なんだな」

 沈黙しながら食う。

「ご馳走様」
「うまかったな」
「ああ、うまかった」
「どうする?」
「なにを?」
「これからさ」
「さあ、どうにかなるだろう」
「じゃあ、居眠りでもするか」

  と、また居眠りが始まる。

後藤を待ちながらⅡ  3

2007-02-09 07:58:18 | 戯曲
 やはり、公園のベンチで浦路と絵栖は相変わらずぼんやり。
 浦路のかたわらには新聞。

絵栖「どうだい、様子は?」
浦路「変わらない」
「ちっとも?」
「ああ、とっとも」
「どうする?」
「もう一度新聞でも読む」
「何か読み忘れでもあるのか?」
「読んだ内容を忘れてしまった。だからもう一度」

  浦路は新聞を読む。
  3分して飽きたように新聞から目を離し、叫ぶ。

「あああ」
「どうしたんだ、急に大きな声を」
「どうもしない」
「突拍子もない声だったぜ」
「ちょっと叫んでみたかっただけさ」
「で、どうする?」
「なにを」
「メシさ」
「さっき食ったばかりじゃないか」
「でも、腹が減ってくる。もう少し経てば。その前に食料を調達しておかねば」
「じゃあ、またコンビニ弁当でいい」
「幕の内でいいかい?」
「寿司を食べたいが」
「それは贅沢だ。贅沢は貧乏人の敵だ。貧乏人は金持ちの敵だ」
「俺たちは金持ちの敵か?」
「味方ではないだろう」
「まあそうだ。でも、俺は金持ちをそんなに悪い奴らだとは思っていない」

  20秒の間

「むろん俺だって、みんな悪い奴だとは思っていない。しかし、悪いことをしてお金をもうけている連中が多いのも事実だ」
「詐欺師とか?」
「ああ、詐欺師が多い」
「例えば、県知事」
「エライ人の中には10人に一人が悪人だと言う。10人の役人がいれば、一人が賄賂をもらったりして私腹を肥やしているそうだ」
「新聞に書いてあるのか」
「いや、俺が適当に考えたこと」
「じゃあ、事実ではないわけ」
「事実も嘘も似たりよったりさ」
「いや、事実と嘘は違うだろう」
「昨日、俺は嘘をついた。明日は雨が降るって。見ろよ、この空。晴れているではないか」
「じゃあ、似たり寄ったりではないわけだ」
「そうか。考えるのは嫌だ。俺のしょうにはあわない」
「夢の話をしないか」
「また夢の話しか。もう飽きたよ」
「でも、夢はただで見ることができるんだぜ」
「それがどうした。現実だって、ただで見ることができる。つまらない現実でも、つまらないなりに、しっかりみることができる」
「しかし、夢はいいものだ。何しろ夢には夢がある」
「おまえにはどんな夢があるんだ」
「子どもを持つ夢。俺に子どもができるんだ」
「おまえに子どもなんてできるわけがない。相手がいるんだぜ。女はどうするんだ」
「どうにかなるさ。それが夢のいいところさ」
「で、どんな女が、おまえの子どもを産むんだ」
「吉永小百合」
「吉永小百合? もうおばあさんだぜ」
「なにを、吉永小百合はおばあさんになんかならない。絶対になってたまるか。あの人は永遠に25歳なんだ」
「それに、もう結婚しているんだ」
「それがどうした。こっちは夢なんだ。夢なら、誰に子どもを生ませようと勝手だろう」
「それはそうだが、よりによって吉永小百合とは。そんなことを世間で言ったら笑われるぞ」
「世間で言うわけがないだろう。これはおまえが知ってるだけだ。おまえと俺だけの秘密」
「で、子どもは何人作るんだ」
「二人だよ。健全な男は二人以上子どもを作るらしい。大臣が言ってた。新聞にはそう書いてある」
「吉永小百合は子どもを生んでいないぞ」
「そりゃ、まだ25歳だもの、これから産むんだよ。俺との子どもを」
「おまえの子どもをか。なんだか寒気がするぜ」
「俺と、吉永小百合の子ども。男の子と女の子。子どもを将来俳優にするんだ。俺たちに似て、きっと可愛い子どもだぜ」
「まあ、おまえのは夢でなく、悪い妄想だな。早く言えば病気」

  10秒の沈黙。

「わかってるさ。俺がもし、吉永小百合の目の前に立ったら、口なんてひと言もきけない。そんなものさ。俺は、女を相手にすると、興奮して、緊張して、おしっこを漏らしそうになる。公園の便所掃除に来るオバサンとさえ目をあわせられない。引っ込み思案。臆病者」
「でも、しょげるな。元気を出せ。いつかいいことがあるさ」
「いいことって、どんなこと?」
「そりゃ、簡単にはいえない。けど、悪くはないことだ」
「そうか、いいことか」
「待つことだな」
「でも、いつも同じ日が始まり、同じ日が終わるだけ」
「人生ってそんなものさ。大同小異。金持ちも貧乏人も」
「そうか。水虫が痒くても、痒くなくても」

 沈黙。

 ということで、まだ、二人の茫漠とした時間が続く。

後藤を待ちながらⅡ  2

2007-02-08 06:19:37 | 戯曲
 やはり、公園のベンチで浦路と絵栖はぼんやり。
 浦路のかたわらには新聞。

絵栖「もう、新聞は読んだのかい」
浦路「全部は読んでいない」
「どうして読まないんだ?」
「退屈した」
「もったいないだろう」
「ああ、もったいない。でも、読んでもおもしろくない記事ばかり」
「どんな記事だい?」
「読んでないからわからない」
「読まなきゃ、おもしろくないかどうかもわからないだろう?」
「どうせ拾った新聞だ。ただなんだからいいよ」
「ただだから無駄にすると言うのは良くない。例えば弁当。コンビニのごみ箱で拾ったものだけど、無駄にはしない。最後のご飯粒まで残さず食べる。それが、米を作ってくれたお百姓さんへの礼儀だ」
「ご飯は、体の栄養になる。だから無駄をしちゃいけない。でも新聞の文字は栄養にはならない」
「あれ、新聞はこころの栄養になるのじゃなかったのか?」
「ああ、さっきまではそう思っていた。だけど、字がこんなにいっぱいあると、目が疲れる」
「ほんとに多いな、新聞は。買っている人たちは、ほとんど呼んでいないんだろう、きっと」
「ああ、読んでいない」
「その新聞はどうするんだ?」
「風が吹くまで待っている」
「風?」
「風が、どこかへ運んでくれる」
「風に舞う新聞か。ロマンチックだなあ」
「どこが?」
「空を舞うってことだよ。だって、飛べるって夢があると思わないか?」
「思わない」
「どうして?」
「俺は高いところが嫌いだ。空を飛びたがる連中の気が知れない。上に上がれば必ず落ちるって言うのに」
「そうとは限らんさ。落ちるのは、日頃の心がけが悪いからだ。規則正しい生活をしてれば、簡単には落ちない」
「そんなものか」

 気まずい沈黙2分。

「そうそう、新聞に書いてあったけど、日本は美しい国になるんだって」
「へえ、美しい国か。で、どこが?」
「日本だよ」
「日本が美しくなるってことか?」
「そうらしい」
「その日本って、なんだ?」
「えっ? 俺たちが住んでる国だろう」
「この国のどこが日本なんだ?」
「まあ、土地とか、いろいろなんだろう。そんなことは新聞に書いてない」
「あれだけ字がいっぱいあって、日本とは何かが書いてないのか?」
「新聞とはそんなものさ」
「どんなもの?」
「不親切なもの」
「日本が美しくなると言うことは、汚かったと言うことか?」
「そうだろう」
「でも、きれいだと思うがね。この公園だって、清潔なものだ。ごみは落ちていないし」
「ほんとに美しい。でも、日本は汚いのだろう」
「どうして汚いんだ。ごみもないのに」
「政治家が汚いのだろう。嘘をついたり金をかき集めたり」
「そんな汚い連中がいるのか?」
「新聞には書いてある。知事が三人も談合で捕まった」
「知事って、県のえらいさん?」
「ああ、それでそのまんま東って、タレントが知事になった」
「なんだ、そのまんま東? 変な名前」
「タレントには変な名前がけっこうある。まあ、ポチとかシロのようないい加減な名前さ」
「なんで、知事になったのだい?」
「なりたかったからだろう」
「そうか。夢があったわけだな」
「夢なんて、考えられないなあ」
「ああ、考えられない。このままどうなるものやら」
「俺たちも日本の一部なのかな」
「まあ、そうだろう。だけど、俺たちは美しい日本には混ぜてもらえそうにないな」
「混ぜてくれって主張しなきゃ、きっと駄目だ。偉い人は冷たいからな」
「冷たい。氷のような連中だ」
「で、どうする?」
「なにを」
「これからのこと」
「まあ、様子を見よう」
「そうするか」

 と、まただらだらと日常が続く。

後藤を待ちながらⅡ  1

2007-02-06 08:36:57 | 戯曲

 尊敬し敬愛し神と崇めるノーベル文学賞劇作家サミュエル・ベケット大先生の名作「ゴドーを待ちながら」を下敷きとした第二弾を、皆様の目に。
 前回の「後藤を待ちながら」には、極めてしらけた反応しかありませんでしたが、今回もどっちらけ爆裂戯曲で、皆さんの度肝をしらけさせたいと考えております。これもまた気分で途中打ち切りがあるかもしれませんが、それもブログ小説ならではの妙味(?)とあきらめていただきとうございます。

 さて、舞台は公園。
 長いベンチがあり、その背後に3個の風船が浮かんでいる。
 赤、青、黄色の信号色の風船。
 それに枯れ木が1本。
 
 浦路と絵栖の二人は、ベンチの両端に腰を下ろしている。
 浦路は新聞を読んでいる。


絵栖「腹、減らないか?」
浦路「いや」
「昨日から何も食ってないぞ」
「今、忙しいんだ」
「何も用事はないだろう」
「新聞を読んでいる」
「どうして新聞なんか。世間のことなんか、どうでもいいだろう」
「そうはいかない。せっかく拾った新聞だ。読まなきゃもったいない」
「じゃあ、読みな」

 沈黙3分。

「何か、いいこと書いてあるのか」
「いいや」
「悪いことが書いてあるのか」
「いいや」
「じゃあ、なにが書いてあるんだ」
「イラクで自爆テロ」
「自爆テロ? なんだそれ」
「爆弾を持って、自爆するんだ、人ごみで」
「ふうん、で、どうなるんだ」
「巻き添えで、135人が死んだ」
「爆弾を爆発させた奴も死んだんだろう?」
「そうだろう、たぶん」
「じゃあ、そいつは巻き添えではないわけだ」
「まあ、そうだ」
「だとすると、巻き添えは134人ではないか。それとも、自爆は別で、136人が死んだのか?」
「さあ、そこまでは詳しく書いてない」
「新聞は不親切だ」
「でも134人も、135人も、大きく変わらない」
「大きく変わるさ。その一人にとって、生きるか死ぬかの問題だぜ」
「しかし、それは新聞の話であって」
「だから、新聞は嫌いなんだ。いい加減で、だいいち字がいっぱいすぎる。目が痛くなる」
「おまえは新聞を読まないから、世間から取り残されていくんだ」
「じゃあ、おまえは取り残されていないのか?」
「ああ、俺は世間を知っている。だから取り残されてはいない」
「仕事も、金も、家もないのに?」
「そんなものがあっても、心が貧しければ何にもならない」
「おまえは、心が豊かなのか」
「もちろんだ。新聞を読むと、心が豊かになる」
「新聞は、こころの栄養なのか」
「まあ、そうだ」

 気まずい沈黙2分。

「で、他にはなにが書いてある?」
「大臣が、女は子どもを産む機械だと言っている」
「ほう、女は機械か? じゃあ、男は?」
「とくに書いてない」
「男はなんだろう。機械を操作する役目、かな」
「偉い人の言うことはむずかしい」
「むずかしいことを言うからエライ人に思えるのかも」
「世の中、いろいろあるんだ。昨日はカラスがたくさん鳴いていたし」
「そういや、今日はカラスが静かだな」
「誰かが捕まえて食ったのかもしれない」
「カラスを食うのか?」
「そりゃ、鳥だもの毒はないだろう」
「焼き鳥にして食うのかな?」
「さあ、どうだか。鍋もいいかもしれないな。からす鍋。どす黒い汁の中に、カラスの頭が浮かんでいる、なんて、なかなか不気味だぜ」
「やみ鍋の一種か。美味しそうだな。よだれがでてきた」
「鍋は、長く食ってないなあ」
「ああ、食ってない」
「いつもコンビニ弁当じゃ、飽きてくるし」
「もう辟易。しかし、腹が減らないか?」
「ああ、そろそろ。何かあるのか」
「相変わらずコンビニ弁当。昨日仕入れたのがまだ残っている」
「また幕の内か」

 袋から弁当を取り出す。

「メシを食っていかなきゃ、死ぬ。これって面倒だな」
「まあな。イラクだったら、突然横で爆弾が炸裂して死ねるかも」
「日本では無理か」
「ああ、無理だ」
「北朝鮮では、コンビニ弁当がごみ箱に入っていたりしないから、家のない連中は大変だそうだ」
「そんなこと言ってたな。餓死する連中が多いって」
「餓死できるってことさ。それは、俺たちのような境遇には望ましいことかもしれないぞ」
「俺たちのような境遇ってなんだ?」
「仕事も、家も、金もない」
「そんな奴は死ねってことか」
「まあ、そうだ」

  沈黙1分。

「おまえ、死にたいか?」
「なにを藪から棒に」
「聞いてみただけだ」
「変なこと聞くな。ライオンだって、動物園の檻で元気に生きているんだ」
「そうだったな。昨日はカラスが鳴いていたし」
「カラスは鳴くのが仕事だ」
「で、どうする?」
「新聞を読んでいる」
「求人広告はないか?」
「あるが、履歴書がないと仕事はできない。住所がなかったら、履歴書は書けない」
「そうだな。俺たちには仕事は死語ということか」
「シャレか?」
「気付いたか?」
「まあね。おもしろくねえな」

  と、また沈黙が続く。で、次回へ。