陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「召しませ、絶愛!」(十六)

2022-04-19 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女

「どうやって…?」
「大丈夫よ、姫子。強力な助っ人を用意してあるの」

千歌音がひと呼吸おいて、その名を呼ぶ。片手をすっと上にあげて、召喚のポーズ。念のため申し上げておくが、ダイミダラーかむひあ!ではない、あしからず。

「お願い、来栖守さん! 来てちょうだい!」
「え? くるす? まさか、あの千歌ねえちゃんと姫子ちゃんを呼んであるの?」

ぱっと顔輝かせて、姫子が驚き声をあげたその直後──。
扉が開かれて飛び込んできたのは、おなじ乙橘学園の制服らしきものに身を包んだ姫子のそっくりさん。腕に指無し黒手袋をはめ、ロザリオを宙にかざす。面ざし甘いが、潔癖症な感じの声だった。

「謎の魔者たちよ、おとなしくしなさい! 私、神鍵・エレキシュガル・来瑠守が退治します!」

のんびり屋の来栖川姫子が、ぽかーんとした顔をする。え、わたしと同じ制服? わたしと同じ顔で? でも、なんだかあの子はきちんとしてそうだな。黄金律の星のもとにって、なんだか厨二な設定なんだけど、高校生なのかな。学校があるのに、さらにお仕事してるなんて大変なんだな。わたしだったら、すうすうお昼寝しときたいぐらいなのに。でも、見た目可愛いのに強そうだし、カッコいいかも。

「聖十字(セントクルス)!! 闇の住人たちよ、懺悔なさいッ!!」
「私はゆいいつ無二の創生王になる!! 闇の世界の次期女王の座は冥桜・アザトース・きらはのもの。来瑠守には渡さないわ!!」
「きらはちゃん、もう、そんなことはやめて!!」
「貴女がいけないのよ。従者の大神にこころを寄せるなんて。だから、私がすべてを奪うことにしたの!」

千歌音似の少女──かと思いきや。黒づくめの禍々しいコートを羽織った悪女然とした風貌に変身する。そのコートを脱ぎ棄てれば、あらわれたのは、乙橘学園の制服を邪悪にしたような剣呑な黒。それにしても、これまた厨二病な台詞である。仮面ライダーブラックって、もう昭和人しか知らないでしょ、あーた。しかも、従者の男に恋したらいけないって、乙女の永遠のバイブル『ベルサイユのばら』を百万回読みなおしてこい、と。

しかし、問題はもはやそこではない。
やはりの、やはりで、ひとりの姫子を召喚すれば、さらに別の千歌音がもれなくついてくる、らしい。何なのもう、この世界のしくみ。何遍回しても同じカードぞろいのガチャみたいである。

姫宮千歌音はこみかみに手を当てている。また、ため息がふえる。
どうして、こうも、ああも、どれも。私たちのニセモノ、いや別世界のあなたがたは、私のこころをざわつかせるような言動をするのか。姫宮千歌音、自分が犯したあれやこれやの所業を棚に上げて、ひとり愚痴る。この悪魔めいた少女きらはすらも、おのれの盛大なブーメランなのだが、月の社封印で都合よくいろいろ忘れてしまえる宮様なのでした(読者の声)。

時ならぬ斬撃、砲撃、光の応酬で、めちゃめちゃになる部屋。
聖なる少女来栖守が十字の剣で薙ぎ払い、狂熱のうちに紅蓮の剣をふるうきらはに近づいて──浄化の口づけを施す。「弱き心につけ入る悪しき魂よ!! 自らの罪を認め、懺悔なさい!」──姫子らしき凛とした声が響き、千歌音らしき少女は明るい親友に戻り──そして今日から、みんな、きれいに元通り、めでたしめでたし──…にはならないわけで。戦いは終わらない。

前世の姫子と千歌音はあいかわらず褥(しとね)でよろしくやっているし。
あの女神様ときたら、姫宮邸のメイドを脅して(というか、千歌音のふりをして)、大浴場でバスタイムということだった。ドリフターズの鼻歌を口ずさみながら、のんびり湯につかっていることだろう。千歌音はがっくり両膝ついて座り込む。

神よ、こんなの、私たちの知っている世界じゃありません。
どうして、いつもいつも、私たちをこんな運命に遭わせるのですか。出会っては別れをくりかえし、ぎこちない笑顔で触れあい、悲しさを投げあう。ささいなことで傷つけては怯え、愛する人に殺されるのさえ幸せだと思いなし、涙で胸あわせたときには、またはじまりを迎えるような刹那のなかで、こんなに儚い私たちを生まれ落とすことが──!!
そう、文句を言ってやりたい女神が、あのザマなのでどうしようもないではないか。

うなだれた千歌音の側に座って、床についた手に手を重ねたのは──来栖川姫子だった。
神様がどこかへ消えたせいか、晴れ晴れとした表情で、もうこの成り行きにも得心いったというふうで。いつのまにか着替えたのか、千歌音のお古の制服を着て、学生鞄までそろえている。こんな非常事態なのに、きちんと一日をはじめるつもりがあるらしい。姫子はやっぱりどの世界にいても、本質がのんびり屋の姫子なのだ。

「あ~あ。千歌音ちゃんと、わたしが、また増えたね…。ふふ、きょうも賑やかになるなぁ」

また、例のカップ焼きそば現象は今日も今日とて終わらない。
姫子がすかさずカメラを構える。昨日は忘れていたけれども、いろんな私たちの絵があったっていい。目前のこのふたりは、戦い合ってはいるけれど、なんだかとても嬉しそうだった。刃先を交わすうちだけ本気の言葉が言えるのならば、それを続けるしかないんじゃないかな。そんな好きのかたちもあるのかもしれない。ちょっと、いびつかもしれなくて、真似したくはないけれど。

落としたかばんの中身が散らばり、コミックスの表紙がみえる。
姫子がつぶやいた──「あ、そっか…。レーコ先生の新作のひとだ…。来栖守の姫子ちゃんが持ってたコミックスは、あんな人じゃなくて…。制服が違ってた…。これが、あの漫画の続きなんだ…」


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【目次】神無月の巫女×姫神の巫女二次創作小説「召しませ、絶愛!」






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