陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日曜写真館 十七枚目「白い恋人」

2009-04-09 | 芸術・文化・科学・歴史



あたし、ねこ。
十六歳。

え?
なまえはないのか、って。
だから言ったじゃない。
ねこ、だって。

ねこはなまえじゃないって?
知らない。
だって、あたしのご主人がそう呼んでくるから。

なまえつけるの、めんどくさかったみたい。
それで、とりあえずねこって呼んでたら、それがあたしになった。

ペットにさ、
アニメとかドラマとかの好きなきゃらのなまえつけたりするじゃない?
あれ、やなんだよね。

ご主人もまえ、と、そのまえに飼ってたやつにそうしたらしいけど。
とくべつななまえ、つけたやつにかぎってさ、
すぐいなくなっちゃうの。
だから、もうやめたんだってさ。

あたしがすぐに消えちゃっても
想い出がのこらないようにって。
そこらの石ころみたいなのとおなじかんじで、呼ぶの。

むなしくないかって?
べつに。

だって、あたしだって
あいつらのなまえ
知らなんだもん。


十六歳って、若い?
あ、でも。
じっさいは七〇はこえてるって。
おい、いま。
いやな顔したな?
化け猫で、わるいか。

べつに頼んじゃわけじゃないんだけどさ。
あたしには、家族もいて。

いっぴきは、すぐちかくの犬小屋にすんでた
まぬけな顔のじーさん。
夏場はあんまりちかづいてほしくなかったな

春になったら、勘違いして
アピールしてくるし
おことわりだっての

でも、こんなやつでも
いなくなったらさびしいもんだね
去年の冬の朝にぽっくり。

近所の若夫婦が
かってにあたえてたバナナチップが
原因じゃないかって
あたし、思ってたけど。

食い意地はった
節操なしも困りモンだね

で。
あといっぴきは、犬のぎゃる。
血統書つきらしいけど、
これがまた、あたまのわるい娘でさ。
なにかっちゃ、
きゃんきゃんほえて、うるさいっての。
しかも、かってにあたしの食事うばいにくるし。

で。
いま、なにしてるかって?
毎日まいにち、おなじ。
食事して、
出して、
食事して、
からだ舐めて。
寝て。
起きて。
また、食事して。
小娘と闘って。
寝て。

いつも眺めてるのはおなじ白い天井。
寝そべってるのは狭いかごのなか。
ドアのちかくで、夏はあついし、冬は風が吹くし。
タイルは冷たくて固くて。

ご主人のママがきれい好きすぎて
狂ったように
床に水まいたりするから、濡れちゃうの

ふつう、猫ってさ
もっと家で
ふかふかの布団にくるまって
だいじにされてない?
テレビでも、おいしそうな
缶づめの肉、食べてない?

あたし、そんなのぜんぜんないわ
いつもいつも、おなじキャットフード
ずっとずっと、紐でつながれっぱなしで
首がとどく半径一メートルかそこいらの範囲しか
動いたことない

ご主人たちも、
忙しいのか
めったに抱きにこない
あたし、嫌われてんの?

花とか木じゃないんだからさ
水だけやっときゃ
いいんじゃないっての。

たまにはブラッシングだってしてほしいし。
爪でやると傷ついちゃうんだから
目やにだってぬぐってほしいわ
ひそかに泣いてんの
知ってんの?

それでも、あたし
この家を出ていこうとは思わない。
たとえ、入口があけっぱなしで
首輪がはずれちゃったとしても。
あたしはもう
考えなしのはつかねずみみたいに
檻から抜けださずに
生活の輪をまわしつづけてるんだろうな

だれかの家族になるってそういうことだから

でも、家族になっても
従属はしない
それが犬とはちがう猫の生き方

庇護されてんのに
わがままなだけだって?
ま、そうかもね

大事にされてないけど
たまに思いだしたように
好きっていってくれる
だから
側にいる

だれかの家族になるってそういうことじゃない?

もちろん、猫だからの話。


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